テーラリングにはゴールがない。ビスポークテーラー「SHEETS」森田智が追求する、人と布との関係

取材・文/倉野路凡
写真/佐々木孝憲

テーラリングにはゴールがない。ビスポークテーラー「SHEETS」森田智が追求する、人と布との関係_image

服飾ジャーナリスト・倉野路凡さんによる連載「日本の実力派テーラーを訪ねる旅」では、倉野さんが今気になっているテーラーの方々の工房へお邪魔し、テーラーを目指したきっかけから立ち上げまでの流れを服作りのこだわりと共に伺っている。

今回は、ビスポークテーラー「SHEETS」森田智さん。

ふんわりと穏やかな空気を纏いながらも、ハングリー精神が見え隠れする。そんな森田さんの服作りについて探っていく。

「メンズのテーラリングにはゴールがない」森田さんがテーラーを目指した理由とは?

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久しぶりにテーラーの森田さんに会った。取材するのは今回が初めて。
先に森田智さんのプロフィールを簡単に説明しておこう。

1990年高知県に生まれ、イギリスのファッションデザイナーのアレキサンダー・マックイーンに憧れ、レディスのデザイナーになるため、文化服装学院へ入学。施設が充実していることもあり、この学校を選んだという。3年間にわたってデザインをはじめパターンや縫製などの基本的なテーラリングを習得し、メンズデザインコースを卒業。
最後の1年間でスリーピーススーツ1着を作ったそうだ。これは手先が器用じゃないとできない!

入学当初はレディスが目的だったが、学んでいくうちにメンズファッションにも興味が出始めたという。
メンズのスーツがどれも同じに見えてしまい、スーツを理解したい、技術をもっと学びたいという気持ちが高まってきて、その後はメンズスーツの世界にどっぷりという感じです。初めてスリーピースを仕上げた時は、こんな面倒なこと二度としたくないって思ったんですけど、なんだかんだ面白くなって(笑)。メンズのテーラリングはきりがないというか、ゴールがないんですよ」と森田さん。

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周りが就職先を探し始めた頃、夏休みを利用してロンドンに旅行する。目的はサヴィル・ロウだ。事前に調べて、まずは老舗のテーラーとして知られる「HUNTSMAN(ハンツマン)」に向かった。
「サイトに掲載されていたマネージャーの顔写真だけを頼りに行きました。コネクションもなければ英語も上手く喋れなかったのですが、『テーラーを勉強しています。こちらに入りたいです』と紙に書いて、声をかけさせてもらいました」
この時は、マネージャーと直接話すことができたものの、断られてしまったそうだ。他店にも回ったが、担当者が休暇中などで結果的に空振り。

帰国後、正面から入ることができないなら脇から攻めようと考えを変え、コネクションを作ることにした。日本で「リチャードジェームス」のトランクショーが行われることを知り、直接彼に懇願する。これがきっかけとなり卒業後に「Kilgour(キルガー)」の師匠のもとで働くことになったのだ。

キルガーは1882年に創業した老舗で、日本では百貨店を通してキルガーフレンチ&スタンバリーの名で知られていた。キルガーの有名な顧客を見ると、イギリスの俳優ケーリー・グラントやアメリカの俳優/歌手のフレッド・アステアといったウェルドレッサーから、ご存知ブラッド・ピットといった現在のハリウッドスターまで名を連ねている。後にテーラーを構えるエドワード・セクストンとトミー・ナッターがこのお店で働いていたのは有名な話だ。

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学校で基礎を習得していたので、キルガーではすぐにジャケットのハ刺し(はざし)を任されるなど、ジャケットを専門に修行した。

「修行時代は生活費を節約するために、ハウスシェアをして、グリーンピースばかり食べていました(笑)。無給で週6日間、縫っていましたね。その後、キルガーの師匠からご紹介いただき、『Stowers Bespork(ストアーズ・ビスポーク)』でも働きました」と森田さん。

帰国後に自らのブランド「SHEETS」を立ち上げ、「ブルーシアーズアカデミー久保田博さん主宰)」でジャケットコースの講師を務めながら、渋谷のアトリエの一角を借りて活動。2019年8月、平河町に自身のアトリエを持つ。

「意味が無いようである、そんな人と布との関係」SHEETSのビスポークスーツ

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老舗のテーラーだと内装が重厚な雰囲気の場合が多いが、SHEETSはシンプルで心地よい。これも森田さんの好みだ。アトリエは半地下にあり、日中は程よく自然光が入る。静かで落ち着ける空間だ。

SHEETSという屋号は、ルーブル美術館で見た石膏像からインスパイアされたんだそう。一瞬、ん?と疑問に思うかもしれないが、布一枚を身に付けた『ミロのヴィーナス』『サモトラケのニケ』などで有名な、あの石膏像だ。
「説明するのがちょっと難しいのですが、私が影響を受けたのはベッドに寝転がっているような格好をした石膏像です。裸にシーツがさらっとかけられているんですけど、そのシーツって意味があるような無いような……。でもシーツがないと、そのアートは完成されないんですよね。決してメインではないけれど、それがあることで完成される。そんな人と布との位置関係が、私が作りたいと思っているものとしっくりきてSHEETSにしました

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フルオーダー(ビスポーク)を中心に、パターンオーダー(メイドトゥメジャー)も展開。フルオーダーはツーピーススーツで30万円からとかなり抑えている。キルガーで修行したためか、ブリティッシュスーツ好きのお客さんが多いそうだ。

とはいえ、キルガーのテーラリングをそのまま継承しているわけではなく、さらに森田さん流に改善しているとのこと。
テーラーによってはハウスモデルを作り、それをベースにすることもあるが、SHEETSではハウスモデルを設けていない。お客さんの好みや用途を考え、できるだけそれに沿わすためだ。

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「お客様の好みや使用目的を把握するためにも、お客様との会話は大切にしています。ハウスモデルは作っていませんが、SHEETSのスーツには特徴があります。英国らしいウエストのシェイプはわかりやすい特徴ですね。表から見えないところでは芯を一から作り、縫製も手縫いの箇所が多いです。あと、カーブラインも強めに出しています

芯地は出来芯ではなく、お客さんの体型や用途、あるいは生地の種類に合わせて、最適な芯を森田さん自ら作っているのだ。また、ジャケットの裾やポケットのフラップが外ハネすることがないように、内側に巻き込むように工夫されている。胸ポケットの場合は、端をふっくらさせるなど、常に丸みや曲線を大切にしているのだ。

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森田さんが作るジャケットならではのぷくっとした胸ポケットの端、丸みのあるフラップに注目してほしい。

ハンガーに吊るしたときに目立つ背中の縦シワも印象的だった。これはデスクワークで常に腕を前に出す人のために、背中で可動域を大きくとり動きやすくしているのだ。より立体的に作られているという証でもある。このように、一人一人の要望をテーラリンングに反映させ、丁寧に作っているのがSHEETSのフルオーダースーツなのだ。

最後に、服作りの面白さについて伺った。「ブルーシアーズアカデミーで講師をしていた時、同じように教えて同じことをさせても、生徒さんそれぞれで全く違うものが出来上がるんですよね。当たり前ですけど、一針一針に性格が出るんです。それって“味”だなと思っていて。作ったスーツの細部に滲み出てくる、その味が面白いんだと思います

フルオーダーのジャケットは森田さん一人で作っているため、1着あたり40時間以上かかってしまう。仮縫いは最低でも2回行っているので、月に3着程度しか縫うことができない。

「スーツと向き合っている時は、いつも立ち漕ぎをしている感覚に似ていますね」

スーツ作りに真摯に向き合う森田さんは、学生時代から今もずっと全力疾走だ。

SHEETS森田さんおすすめの服地

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「秋冬の服地では、やはり英国製の肉感のある生地が好きですね。手でギュッと握ったときに弾力性があるものが好みです」

お気に入りは、リアブラウン&ダンスフォードのオイスター(写真・右)、マーリン&エヴァンス(左)。他にダグデール ブラザーズやフォックス ブラザーズハリソンズ・オブ・エジンバラもおすすめ。

まずはパターンオーダーから始めて、フルオーダーにステップアップしてもいい。英国スタイルのスーツが好きな人、丁寧に作ってくれるテーラーを探している人におすすめしたいテーラーだ。

ーおわりー

価格

●フルオーダー(ビスポーク)
ツーピーススーツ 30万円
ジャケット 20万円
オーバーコート 30万円

●パターンオーダー(メイドトゥメジャー)
ツーピーススーツ 11万5000円
ジャケット 7万円
トラウザーズ 4万5000円

File

SHEETS(シーツ)

2014年立ち上げ。サビル・ロウの老舗「Kilgour(キルガー)」「Stowers Bespork(ストアーズ・ビスポーク)」にて修行を経た、森田智さんによるテーラー。シンプルで落ち着いた内装には、お客様やご近所さんからもらった動物の置き物がちょこんと飾られており、ほっこりとした気持ちになる。

mail@sheets-studio.com
ご予約は氏名、ご希望日時を記入の上、メールアドレスまでご連絡ください。

東京都千代田区平河町2-11-4 平河町アクティビルB1

不定休

*お店に足を運ぶ前に、HomePageで最新の情報を確認することをお勧めします。

Shop
取材当日に着ていたベストは、森田さんご自身で仕立てたもの。色の深さと堀とマット感が気に入っているという水牛のボタンは、麹町の老舗ボタン屋で仕入れている。

取材当日に着ていたベストは、森田さんご自身で仕立てたもの。色の深さと堀とマット感が気に入っているという水牛のボタンは、麹町の老舗ボタン屋で仕入れている。

終始和やかな雰囲気のインタビューだったが、会話中にさらっと倉野さんのジャケットの服地ブランドを言い当てるという、あっと驚かされる一面も。SHEETSで作られるスーツの魅力だけでなく、森田さん自身の魅力にも引き込まれました。

終始和やかな雰囲気のインタビューだったが、会話中にさらっと倉野さんのジャケットの服地ブランドを言い当てるという、あっと驚かされる一面も。SHEETSで作られるスーツの魅力だけでなく、森田さん自身の魅力にも引き込まれました。

公開日:2020年1月24日

Writer Profile

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倉野路凡

ファッションライター。メンズファッション専門学校を卒業後、シャツブランドの企画、版下・写植屋で地図描き、フリーター、失業を経てフリーランスのファッションライターに。「ホットドッグ・プレス」でデビュー、「モノ・マガジン」でコラム連載デビュー。アンティークのシルバースプーンとシャンデリアのパーツ集め、詩を書くこと、絵を描くことが趣味。

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