イラストで紐解くメンズスーツ&ジャケットヒストリー! 時代が変わればスタイルもここまで変わる!

取材日: 2017年5月2日

文/飯野 高広
イラスト/Tomoe Tago

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普段何気なく着ているスーツのデザインも、衿、袖の形や着丈も、現代に至るまで歴史の移り変わりとともに大きく変化を遂げてきた。1920年代から現代まで服飾ジャーナリスト・飯野高広さんがイラストとともに解説する。

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日々袖を通す服には、一人一人の着用者の「ことば」が宿ると共に、その時代時代に各自が共有していた「ことば」も宿るもの。世相やとうとばれた価値観、そして政治や経済状況などが、それにはっきりプリントされてしまうからだ。

特に同じアイテムを時系列に比較すると、より深く認識できるというもの。メンズウエアでそれを最も簡単に示せるのは、やはり紳士服=スーツではないだろうか。

何せ20世紀のほぼ全体を通じ、ビジネスウェアの主役を張ってきたのだから。ということで今回は、20世紀の各時代を象徴するようなスーツのスタイルをピックアップ。特徴と共にその背景にあるものについても、少しだけのぞいてみたい。

今日のスーツの原点、1920年代前半のスーツ

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19世紀半ばの原型の登場から地位が少しずつ向上し、ビジネスウェアとしての認識が世界的にしばらく定着した頃のスーツスタイルがこちら。簡単に言えば、まだ全体的なシルエットに強い抑揚がなく、非常に素朴な印象である。

ジャケットには胸ダーツがまだなく、肩パットもあくまで補強の役割で申し訳程度にしか入っていない。また、この当時まではシングルブレステッド(俗に言うスーツのシングル)であっても一番下の胸ボタンを閉じてもマナー違反とは限らなかった。フロントカットの曲線に対し胸ボタンの位置がまだ高めだったので、それを閉じても変な皺が寄らなかったからだ。
実際、その意匠を有した「パドックジャケット」なるものも、当時のヨーロッパでは流行している。なお、トラウザーズに折り目(クリース)が付き、裾の処理に折り返し(ダブルカフス)のものが頻出するようになったのは、この少し前の時代からである。

美しく、しかも凛々しい1930年代前半のスーツ

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前の時代に「基礎」が完成したスーツに、構造上の進化や「美しさ」の観点が本格的に採り入れられてくるのがこの時代。

ジャケットでは胸ダーツが付き始めるのはこの頃から。もともとは胴周りのダブつきの解消と、肩以外への重量分散を狙った着心地改善のための技術的な採用だったが、その結果、胴周りのくびれと胸周りの立体感とのコントラストがきれいに表現されるように。また、コンケーブショルダーやビルドアップスリーブなど、肩パットの形状・厚み・処理の工夫を通じ肩周りにも「表情」がつくようになる。

トラウザーズでは前身頃にプリーツ(タック)が付いたものが本格的に登場。こちらも本来は歩きやすさと下腹部の出っ張りを隠すのを期待した意匠のようだが、折り目を美しく出しやすいこと、そしてジャケットの抑揚あるシルエットとの連続性を出しやすいことから急速に普及した。大まかに言えば洒落っ気全開、華やかでかつ精悍な印象を有するスーツスタイルであり、生地がダークカラーであってもきらびやかな印象を与える。

いかつい印象の強い1940年代中盤のスーツ

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第二次大戦中並びにその後しばらくの期間のスーツは、20世紀の中で最も構築的なシルエットを有し、「力強さ」が全面に出ているのが特徴。

ジャケットは肩パッドを非常に厚く盛るのを通じ、怒り肩的な大きな肩周りに仕上げた逆三角形型シルエットを有し、前の時代の主流だったアワーグラス型のシルエットとは似て非なるものとなった。また襟幅も非常に太い。またトラウザーズも股上が深く全体的に太い。

国の違いに関係なく物資不足が深刻なこの時代に、生地を多く用いることを余儀なくされるこのようなスーツが流行るのには矛盾を覚えがち。しかし、厳しい状況の中でも何とか頑張って生き抜きたい姿勢がシルエットで表現されているのだと気付けば納得が行く。

ただその皺寄せは、細かなパーツにははっきりと表れていた。生地や裏地は簡素で質感の粗いものが多く、また明るい色味のものでも印象が暗くくすんでいるものが圧倒的に多かった。ウェストコートも生地の無駄使いとみなされ、この頃辺りから省略がジワジワ広まり始める。

中庸で落ち着いた1950年代後半のスーツ

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第二次大戦の混乱を抜け出し、心理的な落ち着きを取り戻した時代らしいスーツスタイルがこちら。全体的なシルエットも20世紀のスーツ史の中では最も中庸で、良い意味で尖った印象が少ない。肩周りもそれほど強調されなくなり、肩パッドの形状や厚みも中庸。襟幅も胴回りのくびれも、そしてトラウザーズの太さも平均そのものだ。

ただ、この時代はさまざまな面でスーツが近代化されたのも隠れた事実。第二次大戦中に普及し始めたウェストコートなしでの着用形がそのまま定着し、主流となったのがその典型だ。アメリカのスーツでは19世紀末からから当たり前に付いていた後身頃のヴェントが、ヨーロッパのビジネススーツにも、この時代からしばらく付き始める(欧州では乗馬用などカントリーユースのジャケットにしかそれまでヴェントを付けなかった)。

また、トラウザーズの固定にブレーシス(サスペンダー)よりもベルトがより多く用いられるようになり、前立てもボタンフロントよりジップフロントが一気に主流に。

若さを細さで示した1960年代前半のスーツ

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前の時代に見られたスリム化の傾向が一層強まったのがこの時代のスーツ。ジャケットのシルエットは細身のボックス型で、肩周りはコンパクトで襟幅も細い。また、Vゾーンが狭く胸ボタンの位置も比較的高い。トラウザーズも股上も浅めで、全体的に細めに仕上げるのがお約束だ。

欧米の先進国で人口に占める若い世代の割合が一気に増したこの時代に、お洒落の主導権も上の世代から奪い去るべく、彼らの身体的な優位性、すなわち贅肉がまだ付かず細身であることを、スーツに限らず服を通じあからさまに強調した訳だ。アメリカ発のアイビーやイギリス発のモッズなど、これらの特徴を有する当時のファッションムーブメントが、半世紀以上を経た今日でも未だにある程度の影響力を有していることでも、その「破壊力」が証明できよう。

また、ナイロンやポリエステル等の合成繊維が生地や副資材に本格的に使われ始め、染料の進化で色出しが鮮やかになるなど、スーツに科学技術の進化が直接的な影響を与えるようになった時代でもある。

派手でメリハリ最重視の1970年代前半のスーツ

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「抑揚の激しさ」がこの時代のスーツの一大特徴。ジャケットは極端なコンケーブショルダーを有し、肩周りがタイトな割に襟幅は非常に太く、くびれの激しい胴周りから裾へと末広がりになる、言わばヒトデ型のシルエット。それに合わせるかのようにトラウザーズも、股上は浅めで腰周りから膝にかけてはタイトながら、そこから裾へは一気に広がるフレアードシルエットが主流。要は端部を装飾し強調するのを通じ、生身の身体をマスクする効果を狙った訳だ。

生地も冴えた発色で柄も大きなものが好まれ、これら全てに、ピーコック革命やサイケデリックそれにヒッピーやウーマンリブ運動など、当時全盛だったさまざまなカウンターカルチャーの影響が感じ取れる。

また、サンローランなどこれまで婦人服をメインに手掛けてきたパリの著名なデザイナー達が、この動きに敏感に反応できた点も見逃せない。メンズのスーツには従来無縁と思われていたレディスのデザインの要素が、着る側の意識の変化に伴い巧みに活かせるようになったのだ。

丸さに優しさを表現した1980年代中後半のスーツ

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様々な分野で不定形的なアプローチが積極的に試みられたこの時代らしく、全体のシルエットに「ぼんやりとした丸み」を感じ、重心の低さを強調したものがこちら。

イタリア発のいわゆる「ソフトスーツ」や、日本のデザイナーブランドによるスーツがその典型で、成熟した大人の余裕や包容力を表現したかのようだ。ジャケットの肩周りは厚く広いものの、肩パッドは敢えて婦人服のそれと同様の柔らかいものを用いることで丸みを演出。

ゴージラインや胸ボタンの位置も極端に低い。トラウザーズも股上は深く、プリーツを多く入れ裾へと次第に絞り込まれるペッグトップ型が主流だ。スーツの持つ構築性や拘束的な固定観念に対する素朴な疑問が原点であるためか、本来より2サイズ程度大きく作りフワッと着せるのが良しとされた時代である。

そして生地も、婦人服のものと同様にソフトなものや淡く微妙な色合いのものが多かった。更にはヨーロッパでのここ200年近くの価値観では日常着としては禁じ手だった黒無地の積極的活用も見逃せない。

では、これからスーツはどう変わっていくのか

オフィスウェアのカジュアル化の進展に伴い、スーツは今日、確かにビジネスウェアの唯一の選択肢ではなくなってしまったかもしれない。ただし、社会的な拘束性からは開放された分、着用者個人の「ことば」を素直に表現できる服としては、むしろ活用できる場が広まったのではないだろうか? だからこそ、単に義務的にとか流行に乗っかって選ぶのではなく、自らの性格や体形、そしてシーンに基づいてそのスタイルを吟味できるようになりたい。今回の比較がそんな探求への一助になっていただければ幸いである。

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