ポケットチーフの手引き 歴史・選び方・飾り方

ポケットチーフの手引き 歴史・選び方・飾り方_image

文/飯野 高広
写真/新澤 遥

アクセサリーは日本語で「装身具」「付属品」と訳されます。あってもなくてもそこまで変わらないものだからこそ、時には権威の象徴として、時には大切な記念を刻む媒介として、言葉を超えてメッセージを伝えるもう一つの自分として用いられてきたのではないでしょうか。

ポケットチーフはスーツやジャケットという主役を引き立たせます。それと同時に、指輪やペンダントなどのアクセサリーと同様にメッセージを含みます。

指輪やペンダントは単体でメッセージを含むことが多いのに対し、ポケットチーフはジャケットやスーツ、ネクタイとの組み合わせによってメッセージを含みます。「組み合わせ」と聞くと少し身構えてしまいそうになりますが、言い換えれば歴史や選び方の基本的なところをおさえておけばメッセージに合わせて着る人自身で応用ができるということです。

この記事では、ポケットチーフの手引きとして歴史や使い方などを紹介します。教えてくださるのは服飾ジャーナリストの飯野高広さんです。

スーツの普及とリンクしたポケットチーフの歴史

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そもそもの祖先であるハンカチにまで言及するとそれこそ古代エジプトやギリシャにまで遡れるものの、ジャケットの胸元を飾るポケットチーフとして限定をすると、今日的なものの起源は意外に新しく、19世紀末期から20世紀初頭に登場したものだ。実はこのタイミング、スーツなどのジャケットに胸ポケットが付くようになったのと一致している。

19世紀中盤に英国で登場したスーツが、それから半世紀強を掛け室内着(登場時の呼称が「ラウンジ」スーツだった点に注目したい)→屋外着→ビジネスウェアと徐々に世間に認知され地位を高めていく中、手を拭いたり鼻をかんだり(ティッシュペーパーは欧米では第一次大戦後に普及したものだ)で今日より遥かに多用したハンカチを収納する胸ポケットの設置は、その実用的改良の典型。今となってはウソのようだが、モーニングや燕尾服などの礼装であっても、この時代より前のものには胸ポケットは付いていないことからも、それは証明できる。それにハンカチをどう入れるか? 登場時から自然に試行錯誤が行われた結果、後述する今日見られるポケットチーフの様々な挿し方に繋がった訳である。

では、ポケットチーフが実用品から装飾性の高いアイテムに進化したのは? と言うと、それは1920年代中盤以降のこと。このタイミングは前述した、安くて取り扱いも容易なティッシュペーパーの登場・普及とほぼリンクする。ジャケットの胸ポケットにはもう、汚れ物を隠す実用のハンカチが不要になった代わりに、純粋なファッションアイテムとしてポケットチーフがそこに収まることになったのだ。因みにこの時代は、ジャケットに胸ダーツが加わりトラウザーズにプリーツが入るなど、スーツ自体の装飾性が一気に増していったのとも見事なまでに重なっている。それ以降、若干の浮き沈みこそあったものの、ポケットチーフは胸元のお洒落として結構な役割を果たし続けている。

どう選ぶか? 2つの考えがキーになる

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このような歴史的経緯があるためか、ポケットチーフに関しては
A:実用品としての考え方
B:ファッションアイテムとしての考え方
の双方が今日でも併存しており、その違いが顕著に出るのが素材選びだろう。Aを重視する場合は要するにハンカチの延長であるため、それと同様にリネンやコットンのような洗濯に耐えられるものが求められる。それに対しBの場合はタイと同様に、光沢があり発色も良いシルクやレーヨンなどで作られがちだ。また、今日の礼装でホワイトリネンのポケットチーフを用いる理由も、これで大方説明が付く。単純に「白」という色の印象だけではなく、実用品としての歴史のほうが古いからだ。

それを踏まえて、ポケットチーフをどのように選ぶか? であるが、まず、これまで用いたことがなくトライするにも多少の気恥ずかしさを覚える方には、過去の例に従い普段使っているハンカチをそのまま活用することから始めるのをお勧めしたい。流石にタオルハンカチの類では無理が生じるものの、例えば白無地やブルー無地のリネンやコットンの、ごく普通のポプリン地やピンポイントオックスフォード地ものからで全く構わない。と言うかこれこそ最も自然で、飽きの来ない選択ではないだろうか。やがて雰囲気に慣れて来るに従い、柄物のハンカチも挿すようになり、「胸元専用の」ポケットチーフも間違いなく購入するだろうから!

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とは言え無地であれ柄物であれ、ポケットチーフをどのようにコーディネートしたら良いのか……と悩む方もいらっしゃるだろう。実はこれ、まずは以下の2つの方法を覚えておけば殊の外簡単に解決する。より鉄板なのは、
①シャツの襟の色に、ポケットチーフの色を合わせる。
例えば白無地のシャツに白無地のポケットチーフ。これこそ最も簡単かつ違和感を伴わない選び方だろう。シャツ本体ではなく「襟の色」に合わせるのが肝心で、そうすることでジャケット胸周り全体に自然な繋がりが出てくるからだ。また、これにはかつてのドレスシャツでは当たり前だった「デタッチャブルカラー」との関連もあるかもしれない。ポケットチーフもそれも、「清潔感の維持」が登場の原点にある発想だからだ。
②タイと似た色柄のポケットチーフを合わせる。
これも全体的な親和性が高い。ただし、あくまで「似た」であって、タイの色柄と全く同じものを持ってくるのは野暮とされている。見え方が平板になるからだ。

この2つで慣れてしまえば、例えば
③シャツのストライプや格子の色に、ポケットチーフの色を合わせる。

④タイやジャケットなどに使われている色のうち地の色ではない色と、ポケットチーフの色とを合わせる。
更には
⑤タイやジャケットなどのメインカラーと補色の関係にある色のポケットチーフを合わせる。
⑥2枚・3枚のポケットチーフを組み合わせて同時に用いる。
などなど、様々な応用が可能になって、ポケットチーフを集める楽しさも倍増するだろう。

お洒落以上に「ことば」として活用しよう!

なお、ポケットチーフの挿し方については、以下の図表をご覧いただきたい。

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個人的には、その形状の持つイメージに従い、
・慶事の礼装:必ずホワイトリネン無地でスリーピーク
・仕事の時:スクエア
・遊びの時:クラッシュド
と使い分けているが、この辺りも各人で異なっていて全く構わないと思う。だだし、弔事の場合に限っては、日本ではポケットチーフを挿さないのがお約束なのは知っておいて損はしない。

カジュアル化の進展で、従来に比べタイの着用度合いが明らかに低下していることもあり、ポケットチーフは今後、胸元のお洒落として重要度が増すアイテムになるかもしれない。単なる飾りではなく、自らの気分を代弁する「ことば」として、皆さんもどうか積極的に活用して頂きたい!

ーおわりー

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BESPOKEMANの金子さんが一つひとつ縫うポケットチーフを販売中!

BESPOKEMANの金子さんが一つひとつ縫うポケットチーフをMUUSEO FACTORYにて販売しています。

この企画は金子さんが一緒に仕事をしていた職人の方が、落ちていたスーツの裏地のはぎれを処理しポケットチーフにしていたところに端を発します。

そのアイデアをもとに、ビスポークテーラーの手縫いの技術を楽しめるよう、改良を重ねました。

エッジがやや波打ちながら膨らんでいるように仕上げられたのは、ひとえに金子さんの技術によるものです。

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公開日:2020年12月25日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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飯野 高広

ファッションジャーナリスト。大手鉄鋼メーカーで11年勤務した後、2002年に独立。紳士ファッション全般に詳しいが、靴への深い造詣と情熱が2015年民放テレビの番組でフィーチャーされ注目される。趣味は他に万年筆などの筆記具の書き味やデザインを比較分類すること。

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