美味しい料理をつくる人にはきっと、とっておきの調理道具があるに違いない。そんな期待を胸に今回お話を伺ったのは料理家の副島モウさん。食の分野で幅広く活躍している副島さんに、家族から譲り受けたフライパンや旅先で出会った木べらなど、彼にとって思い入れ深い道具を見せてもらった。
“男の料理”を作る料理家が選んだ、こだわりの調理器具。
鎌倉の海が目の前に見渡せる一軒家、一匹の人懐っこい猫とともに、窓から暖かな光が差し込む気持ちの良い空間で、今回の取材をさせてもらった。
副島さんは多岐に渡って活躍をする料理家だが、その料理は大胆で独創的。それはダイナミックでオシャレな“男の料理”と言われてイメージする料理そのものと言っても良い。
例えば、冷蔵庫の中にあったもので作った「チャーハン」や、撮影で余った紫キャベツを使った「コールスロー」など、誰もが家で作れるような料理でありながらも、副島さんの作る料理は人の目を引く華やかさがある。
それは、テーブルに出されればいつも歓声が上がるような洒落た小技が、料理の随所に散りばめられているからだ。組み合わされる食材や、お鍋から勢い良くざっと皿にのせられた盛りつけ方、最後に散らされるハーブなど、そこかしこに彼のセンスが溢れ出ている。
副島さんの料理のセンスは、子どもの頃から「食べものに執着していた」と自らが言うように、食に対する執着から磨かれたものなのかもしれない。
おしゃべり好きの副島さん。テーブル映えする料理は、ゲストとの会話を自分も楽しむために、手間は少なめだ。それでいて、出来立ての湯気を交えて活気ある食卓を囲める演出は、副島さんの愛嬌あるサービス精神から生まれている。
そんな副島さんこだわりの道具は、年季の入った厚い鉄のフライパンから、新しいマルチクイックと多種多様。
ピーラー、木べら、ふきんなど基本のアイテムも「いろいろ使ってみたけれど、ここにあるものが一番使いやすい」と、それぞれに思い出があったり、カタチが気に入って使い続けたものであったりと、選び抜かれた先鋭たちだ。
「使った食器や道具を、ふきんでちゃんと拭き上げまでしてこそ、料理」
そう言い切る彼の、洗練された格好良さを体現しているような道具たちだった。
副島モウさんのこだわり調理道具
上京の際に母から譲り受けたフライパン
17年前、上京する際に、料理好きのお母さんから譲り受けたというフライパン。「テフロン製のフライパンはすぐにダメになるけれど、鉄のフライパンは油を敷いてちゃんと手入れをしていれば長く保つ」大事にしているという厚い鉄のフライパンは、熱伝導が良いため使いやすく、普段の料理からよく使っているという。
切ったり分けたりまとめたり、万能なドレッジ2枚
パン生地を切り分けたり、まな板の上の食材をまとめたりと便利なドレッジ。副島さんが愛用しているのはこの2枚。白のドレッジは世界一の料理大学と称されるカリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ(通称CIA)のもの。アメリカ人講師のアシスタントをしていた時代にもらったそうだ。黄色のドレッジは、フランスパリでお気に入りの老舗道具屋で手に入れた品。
料理研究家パトリス・ジュリアン氏にもらったOPINELのナイフ
「1本を必ず懐に忍ばせている」という、OPINEL(オピネル)の折りたたみ式のナイフ。元々は登山用のナイフだというが、旅先でちょっと果物の皮をむきたい時や食べ物を切り分けたい時などに便利で活躍するという。このナイフは副島さんの料理の師匠である料理研究家のパトリスジュリアン氏にもらったもの。持ち手の木の感じが手に馴染み、色味もカタチも可愛いので長年愛用しているそうだ。
きちんと拭き上げまでして「料理」。拭き残しのない完璧なふきん
「料理だけして終わりだと思っている人に、拭き上げまでして料理だと伝えたい」という副島さん愛用の日東紡のふきんがこちら。シンプルなデザインで大判で吸水がとても良く、このふきんを使えば拭き残しなし。持っていないと不安になるというほど愛用している日東紡のふきんは、撮影やケータリングでも常備、副島さんのこだわりの一品だ。
料理家としての格好良さを引き出してくれるせいろ
「これで三代目」というせいろは、横浜中華街の照宝のもの。調理で使い続けるうちに鍋に触れる部分が割れてしまったり焦げてしまったりするため、下の部分を買い換えているというが、同じメーカーのせいろを愛用中。「照宝のせいろを使っていると格好がつく」と副島さんは語る。このせいろで蒸せば、レンジで温めると固くなってしまう肉まんやしゅうまいなども、木の香りがほんのりついてふんわり、もっちりとした食感が蘇る。
おもてなしでも好評なカンタンに作れる一品
豚の塩釜焼き
今回、副島さんが作ってくれたのは、おもてなし料理としても好評だという「豚の塩釜焼き」。レモンを絞り、マスタードソースをつけて食べる豚肉は、しっとりと柔らかで絶品! 普通の塩釜焼きだと塩辛くなりやすいところを、竹の葉でくるんで焼くという工夫で、塩加減も絶妙。「下準備をしたらオーブンに入れるだけ。焼いている間に、客人と話していることもできる」というシンプルな作り方のレシピは、見た目も華やか。
キッチンツールを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
料理道具への概念が覆り、店に駆け込みたくなること請け合いの一冊
人生が変わる料理道具[雑誌] エイムック
大正元年に浅草・かっぱ橋で創業した老舗料理道具店『飯田屋』。市場の低迷により窮地に陥ったこの店の経営を再建させたのが、若干35歳の6代目・飯田結太さんだ。
「万人にフィットする道具はないが、あなただけに合う道具は必ずうちの店にある」と謳うように、膨大な在庫を持つからこそできる提案型の対面販売を信条としている。店主・飯田さんの料理道具への愛と卓越した知識はメディアからも注目を集めています。
本書はそんな“超”料理道具専門店『飯田屋』の完全監修により、買えば人生が潤う169点の料理道具を豊富なビジュアルとともにご紹介します。
台所道具好きな人、長く使い続けられる優れた道具を探している人のための本。
使いやすい台所道具には理由がある: 数多くの道具を試してきたプロがすすめる逸品!
老舗メーカーのロングセラー商品や、今注目の人気の台所道具には、長く支持される理由や人気の理由が必ずある。
手になじむように細部に工夫が凝らされていたり、無駄のないシンプルなデザインだったり、使うことが楽しくなるような遊びごころがあったり、収納しやすさが追求されていたり……。
いろんな道具があれど、使いやすくて手になじむ道具は、なぜか必ず美しいもの。
台所道具こそ、道具の機能美をもっとも実感できるものなのだ。
台所仕事はとても細かい手作業なので、道具のささいな違いが使いやすさを左右する。
素人にはそのささいな違いわからず、買ってみたものの、使いづらくてお蔵入りするという失敗が多い。
この本では、人一倍多くの台所道具を試してきたフードスタイリストが、台所道具の逸品を厳選紹介。
憧れのあの道具がなぜ使いやすいのか、人気のあの商品はどんあ工夫がされているのか、写真と文章でわかりやすく伝える。
その道具の特性を生かした料理を写真とレシピで併せて掲載しているので、道具の使い方が具体的にイメージでき、道具の使い方・生かし方が手にとるようにわかるのも本書の特長。
終わりに
副島さんの扱うこだわりの調理道具を取材させてもらい、鎌倉の海を見ながら歩く帰り道、聞いたお話を脳内で反芻しては「料理家って職人だなぁ」と、しみじみ感じていました。副島さんが扱う道具ひとつひとつに、いろいろなストーリーや思い入れが詰められているからこそ、それを使って作られた料理には、一層深みが増すのかもしれません。