Mac34年の歴史を見つめてきたジャーナリストが語る「私がMacintoshに魅了され続けるわけ」。

取材日: 2017年9月4日

文・写真/ミューゼオ・スクエア編集部 撮影協力:多摩美術大学 メディアセンター

Mac34年の歴史を見つめてきたジャーナリストが語る「私がMacintoshに魅了され続けるわけ」。_image

1984年に初号機が発売され、姿を変えながら30年以上クリエイターの創作を支え続けてきたMacintosh。

Macの可能性にいち早く目をつけ、文章を通じ魅力を伝え続けてきたのがテクノロジーライターの大谷さんだ。多摩美術大学にご協力いただき、収蔵している歴代の機器を見せていただきつつ大谷さんがMacを愛用している理由を伺った。

コレクション・ダイバー【Collection Diver】とは、広大なモノ世界(ワールド)の奥深くに潜っていき、独自の愛をもってモノを採集する人間(ヒト)を指す。この連載は、モノに魅せられたダイバーたちをピックアップし、彼ら独自の味わいそして楽しみ方を語ってもらう。

30年以上クリエイターの創作を支えてきたコンピュータ「Macintosh」

ゲーム会社アタリのエンジニアとして働いていたスティーブ・ジョブズが、ヒューレット・パッカードでの社員だったスティーブ・ウォズニアックが開発したコンピュータ「Apple I」のビジネス化を思い立ったのは1976年。

現在ではハードウェアにとどまらず、音楽のストリーミング、映画、アプリなど多岐に渡るサービスをAppleは提供している。2018年1月時点では、iPhoneシリーズなどの影響もあり世界初の時価総額1兆ドルが見えてきた。

そのApple製品の中でもとりわけ長く製造され、数多くのクリエイティブを支えてきたのがMacintosh(マッキントッシュ)だ。

「Macの魅力を広めようとライターになりました」。そう語るのは、Mac専門誌などで執筆を行なっているテクノロジーライターの大谷さん。コンピュータ黎明期の1984年にMacと出会って以降、34年に渡って愛用している理由をたずねた。

Macはコンピュータの本来の姿を示した

ーー大谷さんはMacに注目しはじめて何年になるのでしょうか。

最初に触れたのは1984年なので、34年です。Appleも潰れる危機がたびたびありましたけれども、乗り越えて世界トップクラスの企業になってしまいましたね。昔は考えられなかったですよ。

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ーーまずMacintoshとの出会いから教えてください。

アメリカ留学から戻って、知人と設立したCG制作会社で仕事をしていました。その時、会社ではソニーのSMC-777というコンピュータを使っていたんです。

そのマシンを使って第一興商さんのアートカラオケシリーズの画面処理を受注し、モンキーパンチさんや東郷青児さんの絵を処理していたのですが、一般の高級印刷の画集でも原画に忠実な色合いが求められるのに、SMC-777は4096色から16色しか同時発色できません。

そこでアルバイトとして芸大や美大の学生さんを雇って細かな調整を行い、ほとんどフルカラーに見えるクオリティを実現し、クライアントにも満足していただけました。

そんなコンピューターの黎明期に試行錯誤しながら仕事をしているうちに、Macintoshが出まして。触った時に「これがコンピューターの本来の姿」だと思いました。

初代Macintoshはポストのような可愛らしいデザイン

初代Macintoshはポストのような可愛らしいデザイン

ーーどういった部分がMacintoshの特徴だったのでしょうか。

それまで操作のためのコマンドを覚えて打ち込まなくてはいけなかった部分が、マウスでメニューを選んでクリックすれば作業を進められるようになっていました。それだけならば前例もありましたが、画期的だったのはユーザーインターフェースのガイドライン、いわばアプリケーションの使い方に関する作法を作ったことですね。

例えば、純正のMacPaintというグラフィックツールは、ペンや消しゴムのアイコンをピックアップして画面上で動かせば思い通りの絵が作成できました。この基本的な使い方は、他社製のグラフィックツールでもまったく等しいので、迷うことがありません。それだけでなく、よく使うメニュー内のコマンド名や上からの順番も統一されていたため、どのアプリケーションも同じ感覚で使えたのです。

内部には開発者のサインが金型で刻まれている

内部には開発者のサインが金型で刻まれている

また当時のコンピュータは、プログラムで数学的に正しい円を描いても画面上では円にならないことが普通でした。ディスプレイと本体が別々に開発されているので歪むんですね。

仕方がないので、プログラムに補正値を入れて真円が表示されるようにするのですが、製品ごとに異なる補正値を見つけて入れ替えないとなりません。さらに、プリンターメーカーも独自に作ってますから、印刷時にはまた別の補正値が必要になるという具合です。

ところがMacintoshでは、正円を描くプログラムを1度書くだけで、画面上でも正円、プリンタからの出力結果も正円なんです。これによって一般の人々が絵や印刷物を作れる素地が出来上がりました。

当時のコンピュータは横長で幅を取る製品が多かった中、Macintoshは背が高く幅が狭いポストのような可愛らしいトールボーイデザインでした。本体とディスプレイが分離していないので、買ってきて電源を繋いだらすぐに使えるという点も、Easy to useを意識したデザインといえます。

ただ、当時のMacintoshは、画面がカラーではなく白黒2値のモノクロなのに価格的に高めだったため、一般にはなかなか普及しませんでした。

ーーそこからMacはどのようにブラッシュアップされていったのでしょうか。

スティーブ・ジョブズが1985年にアップルを辞めたあとも、彼が契約していたデザインファームのフロッグデザインや、その後を引き継いだ社内のデザインチームが意欲的な製品開発を行っていました。しかし、4代目CEOのマイケル・スピンドラーが製造コストを抑えた板金ボディのMac開発を推進した頃から輝きを失い始め、業績も低迷。それが、1996年末のジョブズの復帰まで続きました。

デザイン開発には時間がかかるため、実際に製品面で復活したといえるのは1998年の初代iMacです。その流れを、いくつかの製品をピックアップして俯瞰してみましょう。

僕も自分が使っていたMacを実家のほうに色々と置いていたのですが、火災にあって消失したので、デザイン教育の資料として多くのMacを収蔵されている多摩美術大学さんの協力を得て、撮影させていただきました。

Macintosh Plus(1986年)

デザイン的には初代Macintoshのマイナーチェンジ版といえるMacintosh Plus(写真では、初代Macのコンパクトなキーボードと、Plusの後の世代の外付けフロッピーディスクドライブが組み合わされている)

デザイン的には初代Macintoshのマイナーチェンジ版といえるMacintosh Plus(写真では、初代Macのコンパクトなキーボードと、Plusの後の世代の外付けフロッピーディスクドライブが組み合わされている)

1986年に発売されたMacintosh Plusは、初めてApple純正環境で日本語化されたMacです。搭載メモリも1MBと初代の4倍となり、当時は、Macのスタンダード的存在でした。

Macintosh Portable(1989年)とPowerBook 100(1991年)

Macintosh Portable(左)のトラックボールは10キーと交換可能で、利き腕に合わせてキーボードと左右を入れ替えることもできる。トラックボールがセンター配置のPowerBook 100は、その後のノートPCデザインの原型となった。

Macintosh Portable(左)のトラックボールは10キーと交換可能で、利き腕に合わせてキーボードと左右を入れ替えることもできる。トラックボールがセンター配置のPowerBook 100は、その後のノートPCデザインの原型となった。

1989年に発売されたMacintosh Portableは、視認性の高いTFT液晶を世界で初めて採用したノートPCです。当時の技術で連続12時間の使用を可能とするために、バッテリーは豆腐のような大きさと形でした。それに比例して筐体も大きく、重量は7.5kgほどあります。

MuuseoSquareイメージ

Macintosh Portableの2年後の1991年に発売されたノートMacが、PowerBook 100です。

この製品は、手前にパームレスト(キーボードを打つとき手のひらを置く場所)があり、その中央に、マウスの代わりにマウスポインタを操作するためのトラックボールを配しています。

当時の他のノートPCは、液晶モニターを開くと手前側にキーボードがありましたが、これ以降、こぞってこのレイアウトが採用されるようになりました。その意味で、現在のノートPCの原型を定義したモデルです。

PowerBook Duo 230(1992年)

グレーの筐体のコンピュータがPowerbook Duo230。

グレーの筐体のコンピュータがPowerbook Duo230。

1992年に発売されたのが、PowerBook Duo 230。テープデッキのようなDuo Dockに挿入すると、デスクトップマシンとして使えます。通常は本体後部に設けられている入出力をポートを外付けユニットに移すことで、当時としては驚くほど薄くて軽い筐体を実現しました。

PowerBook 1400c(1996年)とPowerBook G3(1997年)

筐体外側の上面カバーが交換可能でカスタマイズできたPowerBook 1400c(左)と、樹脂とラバー系素材を組み合わせたボディ外板が特徴だったPowerBook G3。

筐体外側の上面カバーが交換可能でカスタマイズできたPowerBook 1400c(左)と、樹脂とラバー系素材を組み合わせたボディ外板が特徴だったPowerBook G3。

PowerBook 1400cは低迷期の製品で、内部設計は台湾メーカーの汎用のものですが、ユーザーがカスタマイズできる上面カバーによって個性を出していました。

PowerBook G3はボディ外板に異素材を使うというコンセプトで開発されたモデルです。左右の拡張ベイにバッテリーユニットや光ディスクドライブを搭載できたのですが、その交換レバーのデザインや動き方にAppleらしさが出ていました。

iMac(1998年)

ボンダイブルーとアイスホワイトという特徴的なツートーンカラーをレトロフューチャー的なフォルムと組み合わせた初代iMac。

ボンダイブルーとアイスホワイトという特徴的なツートーンカラーをレトロフューチャー的なフォルムと組み合わせた初代iMac。

MuuseoSquareイメージ

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1998年、スティーブ・ジョブズがAppleに戻ってきて約1年半後に、満を持して発表された新世代のMacintoshがiMacです。

現AppleのCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)であるジョナサン・アイブが、Appleを復活させるために、あえて大胆にデザインした製品で、カラフルな筐体に単色のAppleロゴを組み合わせています。それまでのレインボーカラーのAppleロゴでは、そこだけ違和感が出てしまうので、その後の製品展開のことも考えて、どんなカラーリングのマシンでも合うように単色化したんです。

浮遊感のあるデザインには、あくまでもユーザーが主体で、コンピューターが家の中の好きな場所に移動して使える存在であるというメッセージが込められています。実際には、そこそこ重くて動かすのに力が要るのですが、視覚や意識の上で軽い存在を目指したんですね。

Macを使い続ける理由。それはオリジナルを作ってきたため

ーー大谷さんが変わらずMacを使い続けているのはなぜですか?

「そうそう、これが欲しかったんだ!」と思わせる、ユーザーのニーズをとらえたモノ作りをAppleがしてきたからです。

Macで言えば、大ヒットしたApple IIやそのライバルを含めてパーソナルコンピュータはすでにたくさん存在していたものの、自社の技術的に可能な範囲で、とりあえず作って売る企業が多く、本当に誰もが使える製品の姿を突き詰めて考えられていたわけではありませんでした。

けれども、ジョブズはコンピュータの未来を語り、具体的なプロダクトをきちんと出してきました。MacもiPodもiPhoneも、他のメーカーは真似せざるを得ないわけです。
それは、真似をしないと次世代の標準に追いつくことができないからなんですね。

ーーオリジナルを作る精神がAppleに息づいていると。

デザインで言うと、素材や製造工程まで踏み込んだ開発をしています。

例えばユニボディ(アルミの塊から切削して作られた筐体)を使用しているMacBookシリーズも、最初に発表された時にはみんな「製造にコストと時間がかかりすぎて現実的ではない」と言われました。金属切削でコンシューマー向けのコンピュータ製品を作るなんてありえない、と。

しかし、MacBook Airがベストセラーとなったりして、今では他社も似たようなデザインのノートPCを出していますが、製造方法ではAppleに追いついていません。

ーー最後に、今後どうやってMacと付き合っていきたいかを教えてください。

ジョブズがよく言っていた言葉は、「ファーストではなくベストを作る」。そのジャンルでベストなものを作っていくというのが、彼の基本ポリシーなんですね。そのポリシーに共感しているので、もしAppleを超えるようなメーカーが出てくれば、Macにこだわらずそのメーカーの製品を使います。

ただ、これだけAppleが手本を示しているのに、新しいものを定義しているメーカーはあまり見当たりません。ジョブズと同じ時代に生きていてよかったと思います。ジョブズがいなければ、世界がこんなに面白くなっていたか怪しいですね。


ーおわりー

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Macintosh名機図鑑 (エイムック 1512)

「Macintosh」はその先進性と便利さで、パソコンの世界を常にリードしてきました。また、プロダクトデザインという面でも、時代時代で特筆すべき製品を輩出してきたと言えます。初代から現行まで、Macintoshの主なモデルを並べれば、激動するパソコン界、変遷するデザインセンス、マーケット戦略など、さまざまなものが見えてきます。本書では、歴代Macintoshの中から約50台を厳選し、それぞれのカタチの理由や目的、そしてそこに宿る作り手たちの情熱や才能を解き明かしていきます。

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