MINAMI SHIRTS(南シャツ)が手がける体に寄り添うシャツづくり

MINAMI SHIRTS(南シャツ)が手がける体に寄り添うシャツづくり_image

取材・文/倉野路凡
写真/佐々木孝憲

東京都心から電車で約1時間。千葉県江戸川台の閑静な住宅街に有名テーラーも認めるオーダーメイドシャツのお店があるという。一見普通の民家にも見えるショップの中で、どのようなシャツ作りが行われているのでしょうか。服飾ジャーナリストの倉野路凡さんに解説していただきました。

型紙製作から縫製、仕上げまですべて手がけるMINAMI SHIRTSのオーダーシャツ

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シャツ好きの間で話題になっているシャツ屋さんを取材してきました。オーナーで職人でもある南祐太さんが主宰するMINAMI SHIRTS(以下 南シャツ)は、千葉県流山市の住宅街に店舗兼工房を構えている。

現在は3ヶ月に1度のペースで、大阪と東京でトランクショーを行うなど関西でも知名度が上がってきた南シャツだ。今後は名古屋や福岡でもトランクショーを行っていく予定とのこと。

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さて、南シャツの一番の特徴は、やはりビスポークシャツ専門店ということ。巷でオーダーシャツという言葉を耳にするが、たいていはパターンオーダーシャツと呼ばれるものだ。ビスポークシャツは注文者の体を細かく採寸し、その人のために型紙を製作。縫製もビスポークシャツ専門の職人が行っている。

一方のパターンオーダーシャツは型紙を作らず、首回りと裄丈を合わせる程度の簡易なもので、襟型やカフ(袖口)型もあらかじめ決められているものの中から選ぶシステムだ。縫製は縫製工場によるマシンメイドが一般的だ。価格はパターンオーダーシャツのほうが安い。共通しているのは好きな生地を選べるということくらいだ。

多くの衿型のサンプルがあるので参考にしたい。やはり人気はネクタイ有無にかかわらず、どちらにも対応できるワイドスプレッドカラーだ。

多くの衿型のサンプルがあるので参考にしたい。やはり人気はネクタイ有無にかかわらず、どちらにも対応できるワイドスプレッドカラーだ。

袖口の種類も豊富にあり、選ぶときの参考に。ドレッシーなダブルカフや、ボタン留めで折り返すミラノカフもある。

袖口の種類も豊富にあり、選ぶときの参考に。ドレッシーなダブルカフや、ボタン留めで折り返すミラノカフもある。

ビスポークシャツの新たな担い手、南祐太氏

現在、シャツ職人の数は少ない。シャツ専門の縫製工場は心配ないのだが、ビスポークシャツを手掛ける職人は年々少なくなっているのだ。というのも職人の高齢化が進み、後継者不足が原因だ。とくに若手のシャツ職人は数えるほどしかいない。そういう点でも南祐太さんの登場はビスポークシャツの希望なのである。

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南さんはもともと百貨店のオーダーシャツを受けている縫製工場で縫っていた技術者で、シャツ作りのプロだった。ビスポークシャツに関しては試行錯誤の末にハイレベルな技術を習得して、オリジナルのビスポークシャツを完成させた。

南氏が自ら採寸を行い、型紙を製作していく

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店舗のすぐ奥が工房になっていて、現在シャツ職人の数は南さんも含めて5人。この工房ではビスポークシャツの3ライン「マシンメイド」「ハーフハンド」「フルハンド」の製作を行っている。外部の下請け職人に出すこともしていない。

まず、3ラインに共通している製作手順を説明しておこう。店舗内でお客さんの要望をうかがい、生地や襟型、カフ型、ポケットの有無、ボタン種類、サイズ感などをじっくりと話し合う。それと並行してお客さんのサイズを採寸する。採寸箇所はかなり細かく、首、肩幅、裄丈、バスト、ウエスト、ヒップ、背丈、手首、袖ぐり(アームホール)の他に、肩の傾斜、前首、前肩、袖の付き具合も計測するのだ。

基本的な箇所だけではなく、左右の肩傾斜や前肩の状態、腕の付き方なども細かく採寸してくれる。採寸する人が縫製する職人というのも安心感がある。

基本的な箇所だけではなく、左右の肩傾斜や前肩の状態、腕の付き方なども細かく採寸してくれる。採寸する人が縫製する職人というのも安心感がある。

これらの採寸データをベースに型紙を作るのだが、職人が手で描くのではなくパソコンの中で行い、実寸大の型紙がプリントアウトされる。

その型紙を生地の上に乗せて裁断を行うのだが、ハサミではなく回転式の刃が付いたロータリーカッターと呼ばれるもので手際よく裁断していく。

ハサミだとカットするときに少し浮いてしまうため、南シャツでは回転式の刃が付いたローターリーカッターを使っている。

ハサミだとカットするときに少し浮いてしまうため、南シャツでは回転式の刃が付いたローターリーカッターを使っている。

衿部分をカットしているところ。ハサミに比べて誤差が出にくいのも特徴。ちなみに昔のシャツ職人は小さな包丁を使っていた。

衿部分をカットしているところ。ハサミに比べて誤差が出にくいのも特徴。ちなみに昔のシャツ職人は小さな包丁を使っていた。

軽やかに流れるようなギャザーに見惚れる

ビスポークシャツのなかで、もっとも手がかかっているのが「フルハンド」ラインだ。詳しく説明すると、ミシンを使わずに手で縫っている箇所が他の2ラインよりも多く、袖付けや襟、ヨーク(背の上部)などが手縫いだ。また背部とカフス付近にはプリーツではなくギャザーが施されている点もエレガント。ギャザーはプリーツに比べて手間がかかるため職人泣かせな仕様なのだ。

カフ付近の剣ボロには手縫いのカンヌキが入り、その裏側の処理も丁寧に行われている。「フルハンド」ラインは手縫いの箇所が多いため、柔らかな印象の仕上がりになっているのが特徴だ。

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ビスポークシャツの背中は背タックではなくギャザー仕上げを行っている。背タックに比べて職人の手間が大変かかるエレガントな仕上げだ。

ビスポークシャツの背中は背タックではなくギャザー仕上げを行っている。背タックに比べて職人の手間が大変かかるエレガントな仕上げだ。

袖口付近のボタン留め部をひっくり返すと、剣ボロの仕上げがとても丁寧。巷の市販のシャツだと生地が切りっぱなしだったり仕上げが雑なものが多い。

袖口付近のボタン留め部をひっくり返すと、剣ボロの仕上げがとても丁寧。巷の市販のシャツだと生地が切りっぱなしだったり仕上げが雑なものが多い。

オーダー初心者も、渾身の1着を求めている人も満足できるラインナップ

「マシンメイド」はすべてミシンによる仕上げで、「ハーフハンド」がその中間の仕上げになっている。価格は「フルハンド」「ハーフハンド」「マシンメイド」の順に高く設定されている。

価格の違いは縫製の手間であり、けっして優劣の差というわけではない。むしろ気軽にビジネス用のドレスシャツとして着用するなら、国産の生地を使った「マシンメイド」がおすすめだ。一方よりドレッシーな装いのときにはスイスやイタリアの高番手の高級生地を使って、柔らかく仕立てた「フルハンド」がいいだろう。要は用途に合わせて使い分けるのがポイントだ。

ビスポークシャツ価格表

・マシンメイドライン…価格1万8000円~。
・ハーフハンドライン…価格1万8000円+1万3000円~。
・フルハンドライン…価格1万8000円+2万8000円~。
1万8000円は国産の100番双糸の生地を使用した価格。すべて仮縫いはなし。納期は約2ヶ月。

さて、ビスポークシャツは3ライン共通して、袖付けがジャケットと同じように付けられている。身頃と袖を別々に作ってから縫い合わせる方法だ。注文するお客さんの腕の付き方(角度)に合わせて、袖を付ける位置を前側にするなど調整を行うことができる。実際に着用して腕を前方に持ち上げると、その着やすさを実感するはず。また、ボタンは3.5mm厚の白蝶貝ボタンが用意されている。

ジャケットの作り方と同様に、身頃と袖を別々に作り、縫合する方法を行っている。これにより腕を上げやすくなる効果がある。イタリアの高級シャツに多く見られる仕上げだ。

ジャケットの作り方と同様に、身頃と袖を別々に作り、縫合する方法を行っている。これにより腕を上げやすくなる効果がある。イタリアの高級シャツに多く見られる仕上げだ。

ミシンで行うことが多いイニシャルの刺繍も、職人の手によるもの。小さく仕上げることができるのも特徴。

ミシンで行うことが多いイニシャルの刺繍も、職人の手によるもの。小さく仕上げることができるのも特徴。

レディメイドも展開予定!

南シャツはビスポークシャツ専門店に変わりはないのだが、この秋からレディメイド(既製品)のシャツも展開していく予定だ。ただし、店舗ではあくまでのビスポークシャツを取り扱うため、取り扱い店での販売、南シャツのサイトでの販売を予定している。

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具体的にレディメイドを説明すると、縫製は千葉県にあるシャツ専門の縫製工場に依頼している。すべて縫製はマシンメイドである。

シルエットはタイトフィット気味で、袖付けはビスポークシャツと同様に袖部分を後から付けている。背中は背タックではなくギャザー仕上げ。フロントは裏前立て。ビスポークシャツとは異なり3mm厚の高瀬貝ボタンを使用(ネイビーの生地の場合は黒蝶貝)。ボタン付けもミシンで留めているのが特徴だ。

襟型はワイドスプレッドカラー、カフ型はラウンド感の強い大丸と呼ばれるものを使用。カラーステイを着脱できるタイプの襟なのでビジネス向きだ。襟とカフの芯地はセミソフトの硬さのものを選び、接着芯ではなく高級なシャツに多く見られるフラシ芯を使っている。さらに具体的に言うと、襟とカフの芯地はバイヤス(生地を斜めにして裁断し、伸縮性を確保する方法)にとっている。

バイヤスにとっていると洗濯して縮んでも霧吹きとアイロンで再び伸ばせるというメリットがあるのだ。市販の既製シャツの多くはバイヤスではとっていない。ちなみにレディメイドのシャツには専用のタグが用意されている。

ビスポークシャツはもちろんだが、レディメイドのシャツにも専用の箱が付く。ちょっとした贅沢感を味わえる。

ビスポークシャツはもちろんだが、レディメイドのシャツにも専用の箱が付く。ちょっとした贅沢感を味わえる。

価格は、100番双糸の白い生地を使ったシャツで1万2000円。柄物で1万3800円だ。作りのクオリティーから言えば、かなりコストパフォーマンスが高い。サイズ展開はS、M、Lの3サイズ。
S…ネック37/裄丈82cm
M…ネック39/裄丈84cm
L…ネック41/裄丈86cm

レディメイド以外にも今後はパターンオーダーシャツも展開予定とのこと。詳細は店舗で確認してほしい。

ビスポークシャツの良さを知ってほしい

スーツはビスポークでもシャツはパターンオーダーシャツで我慢してきた人も多いだろう。けっしてパターンオーダーシャツが劣っているわけではないのだが、スーツと同様にビスポークシャツの良さをぜひ知ってもらいたい。南シャツは店舗とシャツ職人の連携が優れているところも安心感があるのだ。

ーおわりー

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スイスコットンで知られるアルモ。量産品とは異なる丁寧な仕上げや柔らかなタッチは昔から人気が高い。イタリアのボンファンティのフラミンゴツイルは120番双糸で、実用的なドレスシャツ向きだ。いつかはオーダーしたいのがカルロリーバの生地だろう。これからの季節にぴったりな生地はリネンのオックスフォードとのこと。他にも国産生地、インポート生地が豊富に揃っているので、バンチブックをいろいろチェックしてほしい。

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MINAMI SHIRTS(南シャツ)

シャツの縫製工場で職人として働いていた経験をもつ南祐太氏が主宰するビスポークシャツのお店。千葉県の江戸川台に店舗を構えており、都心から約1時間ほどかかるが都内だけでなく遠方からも訪れる人も多い。定期的に国内各所でトランクショー(オーダー会)も開催している。

ショップに併設される形で工房があり、ビスポークシャツは5人の職人たちにより製作されている。採寸、型紙製作は南氏が行っており、身体のラインがきれいにでるようなシャツをオーダーできる。職人たちの手で作られる流れるような美しいギャザーが特徴的。

2017年9月からはビスポークシャツに加え、既製品も展開している。

公開日:2017年8月5日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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倉野路凡

ファッションライター。メンズファッション専門学校を卒業後、シャツブランドの企画、版下・写植屋で地図描き、フリーター、失業を経てフリーランスのファッションライターに。「ホットドッグ・プレス」でデビュー、「モノ・マガジン」でコラム連載デビュー。アンティークのシルバースプーンとシャンデリアのパーツ集め、詩を書くこと、絵を描くことが趣味。

終わりに

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1年ぶりの南シャツの取材だった。老舗シャツ店はシャツ職人の顏がわからないが、南シャツは採寸する南さん自身が職人という安心感がある。また、店舗のすぐ後ろに工房があり、お店とシャツ作りの現場が一体化しているところも無駄がない。以前より職人の数が少し増えたが、けっして量産という規模ではない。丁寧な仕事ぶりが伝わってくる取材は楽しいものだ。

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