照明デザイナー遠藤道明さん「太古から存在するオレンジ色の光が人を癒すんです」 連載:あかりと暮らす#01

照明デザイナー遠藤道明さん「太古から存在するオレンジ色の光が人を癒すんです」 連載:あかりと暮らす#01_image

イラスト/うえすぎりほ
文/ミューゼオ・スクエア編集部

時にはドラマチックに、時にはロマンチックに。椅子と同じくらい、もしくはそれ以上に照明は空間を変える可能性を秘めています。

照明をメインとしたデザインカンパニー「ディクラッセ」代表の遠藤道明さんは、光の色や光の陰影を大切にして照明などをデザインしています。例えば、木漏れ日のモチーフに影をデザインした照明「Foresti」、シェードに反射した光が天井に向かって広がる「onda」。

家電量販店に電球や照明を買いに行った際、目がチカチカした経験はありませんか?遠藤さんが作る照明はまったくそんなことはなく、むしろ光に包まれるような感覚を覚えます。それはたくさんの照明が吊り下がっているディクラッセのショールームでも変わりません。なにが違うのでしょう。

照明との付き合い方を考えるべく、連載「あかりと暮らす」では遠藤さんがインスピレーションを受けたという欧米のあかりを取り上げます。

第一回はイントロダクションとして、遠藤さんが照明をなりわいにしようと思った最初の一灯、日本の照明文化などについてお話を伺いました。癒しの光はワット数を下げれば作れる、というわけではなさそうです。

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頭の中に入り込んできたのはイタリアのモダンなデザイン

——遠藤さんは輸入販売をしていた時期を含めると30年の間、照明に携わっています。最初に扱った照明のことを覚えていますか。

遠藤道明(以下、遠藤):30歳の時です。多摩美術大学を卒業したあと、デザイン事務所に入り住宅やロゴなどの設計を手掛けました。その後独立し、事業をスタートする前にアメリカとイタリアを2か月間かけて旅をしたんです。アメリカを西から東まで横断し、イタリアのローマ、フィレンツェ、ミラノと回りました。その時、ミラノサローネで見たガラス照明メーカー「Foscarini社」の照明に感銘を受け、輸入販売をする事にしました。

Foscarini社のベネチアンガラスの照明は、スイッチを入れると焦点が合わないブルーの不思議な光を放つんです。そのころはアルフレックスの白い照明が流行っていました。いわゆる近未来デザインというものです。そのような時世だったからか、カラーの照明はとても新鮮にうつりました。

僕が訪れたイタリアのムラーノ島のショップは面白かったです。お店に入ると、ベルベットのカーテンを開けて奥に誘われる。買わないと来た側のカーテンを閉めて、その先のカーテンを開ける。ヴェネチアンガラスを買わないとどんどん先に連れていかれるんです(笑)。

遠藤さんが感銘を受けたFoscarini社の照明

遠藤さんが感銘を受けたFoscarini社の照明

——北欧ではなく、最初に訪れたのはアメリカとイタリアだったのですね。

遠藤:多摩美の学生だったころ、倉俣史朗さんのデザインに憧れていました。日本人らしい考え方でデザインされている上に、詩的なネーミングもいい。

ある日、AXIS(注:雑誌)で「ポストモダニズム」というジャンルがあることを知ったんです。当時は大きくわけてカントリー、モダン、アンティークの3つの分類がありました。そこに「ポストモダン」というジャンルが足される、と。エットレ・ソットサスさん率いる、ポストモダンの代表的なデザインプロジェクト「メンフィス」に倉俣さんは参加されていたこともあって、ぜひポストモダン的なものを見てみたいとアメリカとイタリアに向かったんです。

でも、イタリアではどこのインテリアメーカーに行っても誰もポストモダンなんて知らないんです。「ポストモダン的なものを探しにきたんだよね」と伝えても反応がない(笑)。結局、イタリアのモダンなものが僕の頭の中に入り込んできたんです。

なぜ日本の照明は明るくなったのか

木漏れ日をモチーフにした照明「Foresti」。初めてForestiを買ってくれたのはフランス人のマダムだったそう。

木漏れ日をモチーフにした照明「Foresti」。初めてForestiを買ってくれたのはフランス人のマダムだったそう。

——「Foresti」をはじめ、遠藤さんが作る照明からはどこか自然の光を感じます。ギャラリーも自然の色を忠実に、湖の中にいるような色を再現したそうですね。

遠藤:イタリアに行って帰ってくると青白い眩しい東京の夜の光に頭が痛くなりました。イタリアの家では照明のセンスが良くてリラックスできました。これはどういう事だろうかと後から考察すると、東京のマンションの窓越しから見える光の色は青白色。イタリアでは全てオレンジ色の光だったのです。

——オレンジの光の方が青白色の光より目に優しい、と。オフィスビルの照明は蛍光灯が多く用いられています。

遠藤:どうやらメラトニンが関連しているようです。メラトニンとは簡単に言えば睡眠中に出る分泌ホルモンのことです。人間の免疫力なるホルモンを体内に分泌する役割を果たします。白熱灯と蛍光灯の下で1日生活をして翌日尿検査をすると、白熱灯の下で寝ていた方がメラトニン分泌量が明らかに増えます。逆に蛍光灯の下で寝ていた方は毎日メラトニン分泌量が減少していたのです。

白い光は約70〜80年前、蛍光灯の使用からスタートしました。その前、明治時代ごろまで日本人はろうそくや行灯で夜を過ごしていました。夕陽を見て焚き火をして寝る。太古から存在するオレンジ色の光の方がメラトニン分泌量が増えるんです。

日本家屋は副交感神経が活性化するような生活ができる住居といえます。庭の光が部屋の中へ入り、屏風で逆反射されて光を抑えて、薄暗い光に変えて空間を作ってくれます。自然を上手に取り入れる工夫がされているところが日本家屋の素晴らしいところです。

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——本来、日本人は繊細な光を感じる暮らしをしていたのですね。天付の青白い光がここまで普及したのはどうしてだと思いますか。

遠藤:日本人はシンプルな照明を好むので、照明器具メーカーの売上の多くは直付けスポットライトが占めています。また、和室でも洋間でも使える照明が求められたりと制約が多いことも、吊り下げ式の照明が根付きづらかった理由の一つだと思います。

私がディクラッセをはじめたころ、お客様の9割はインテリアショップで「1番明るい照明をください」と言っていたので、照明はどんどん明るくなっていったのではないでしょうか。それは何もインテリアに限らず車のライトも一緒です。イギリス車、例えばジャガーと比べると日本車は強い光を放ちます。戦争によって薄暗い=敗戦=嫌な記憶として認識されたのかもしれません。

海外で見つけた人を癒す光

——遠藤さんが訪れた国で印象に残っている光、照明の使われ方はありますか?

遠藤:2007年に行ったニューヨークのレストランではテーブルから40cmの高さに照明が吊り下げられていました。ニューヨークに住んでいる知人は「テーブルに光を当てた反射の光を利用すると女性が綺麗に見えるのよ。直接的な光は顔のシワとか、化粧のノリ具合とか見られてしまうから嫌でしょ?」と言っていました。確かに、他のレストランにいっても同じくらいの高さに吊り下げられていました。一回どこかに当てた光が反射すると間接照明になり柔らかい光になるのです。非常に勉強になりました。

米国方面に旅行をした時に立ち寄ったレストラン。光は白いテーブルクロスに当たり、反射したやわらかな光の中で落ち着いて食事がとれる。

米国方面に旅行をした時に立ち寄ったレストラン。光は白いテーブルクロスに当たり、反射したやわらかな光の中で落ち着いて食事がとれる。

遠藤:2016年にはデンマークに行きました。デザインミュージアム・デンマークで「ラーニングフロムジャパン」という企画展をやっていたので覗いてみたんです。すると、1870年頃からデンマークは日本の影響を受け始め、1900年頃にはデンマークの手工芸品に明らかに広まったと記されていました。食器、椅子も日本から学んだと。衝撃でした。なぜなら、僕が学生のころは「日本のデザインなんてだめだ」と教えられたからです。

デザインミュージアム・デンマークで「ラーニングフロムジャパン」の展示

デザインミュージアム・デンマークで「ラーニングフロムジャパン」の展示

デザインミュージアム・デンマークで「ラーニングフロムジャパン」の展示

デザインミュージアム・デンマークで「ラーニングフロムジャパン」の展示

デザインミュージアム・デンマークで「ラーニングフロムジャパン」の展示

デザインミュージアム・デンマークで「ラーニングフロムジャパン」の展示

デザインミュージアム・デンマークで「ラーニングフロムジャパン」の展示

デザインミュージアム・デンマークで「ラーニングフロムジャパン」の展示

遠藤:美術館で日本のエッセンスを取り入れたインテリアをまじまじと見て、「日本文化を見直すべきだ」と思い直すとともに、北欧をどう学んでいくかが一つのテーマになりました。

これは今後の連載でもお話をしますが、デンマークにはヒュッゲという癒しの合図があります。キャンドルをつけて、オレンジ色の光を部屋中に取り入れることが毎日の日課になっているのです。照明をデザインするにあたり、最近は形より影と色の淡さに注目しています。いまは人を癒すための光を作るべきかなと思っているからです。

ーおわりー

遠藤さんは照明をデザインする時、まずスケッチからはじめるそうです。「仕事が終わり、ベランダに出て星を見ながら考えるとディテールが思い浮かぶんです」

遠藤さんは照明をデザインする時、まずスケッチからはじめるそうです。「仕事が終わり、ベランダに出て星を見ながら考えるとディテールが思い浮かぶんです」

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公開日:2020年10月30日

更新日:2020年11月13日

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ミューゼオ・スクエア編集部

モノが大好きなミューゼオ・スクエア編集部。革靴を300足所有する編集長を筆頭に、それぞれがモノへのこだわりを強く持っています。趣味の扉を開ける足がかりとなる初級者向けの記事から、「誰が読むの?」というようなマニアックな記事まで。好奇心をもとに、モノが持つ魅力を余すところなく伝えられるような記事を作成していきます。

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