「デンマークの長い夜が育んだ、開放的なあかり」 連載:あかりと暮らす#03

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イラスト/うえすぎりほ
文/ミューゼオ・スクエア編集部

時にはドラマチックに、時にはロマンチックに。椅子と同じくらい、もしくはそれ以上に照明は空間を変える可能性を秘めています。

照明をメインとしたデザインカンパニー「ディクラッセ」代表の遠藤道明さんは、光の色や光の陰影を大切にして照明などをデザインしています。例えば、木漏れ日のモチーフに影をデザインした照明「Foresti」、シェードに反射した光が天井に向かって広がる「onda」。

家電量販店に電球や照明を買いに行った際、目がチカチカした経験はありませんか?遠藤さんが作る照明はまったくそんなことはなく、むしろ光に包まれるような感覚を覚えます。それはたくさんの照明が吊り下がっているディクラッセのショールームでも変わりません。なにが違うのでしょう。

照明との付き合い方を考えるべく、連載「あかりと暮らす」では遠藤さんがインスピレーションを受けたという欧米のあかりを取り上げます。

第三回はデンマーク。気候的に恵まれているとはいえないデンマークでは、いきいきとしたあかりがたくさん見つかります。

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あかりの配置は自然に、色づかいは大胆に

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デンマークのホテルです。写真には写っていませんが、右側に大きな窓がついています。15時くらいになると、日が落ちて暗くなってきます。時期によっては、自然光で暮らす時間よりも照明を頼りに暮らす時間の方が長い。なるべく自然光をたくさん取り込むために窓を大きくしているのかもしれません。

夜になったらベットの下の照明とフロアスタンドを点けます。照明はその二つだけです。天井にはないのです。日中、太陽の光が強い時には光は目の上にあります。夕日が落ちてくると、オレンジ色になり、光源は目と水平にあります。暗くなり、焚き火をはじめたら光源は目の下にあります。オレンジ色の光が目に入るシチュエーション、つまり一日の活動を終えるような状況では、目線の水平か下に光源があるんです。ホテルをデザインした人が意識していたのか意識していないのかはわかりませんが、太古の時代から続く自然な光の取り入れ方です。

ベッドは黒で安定感があります。壁紙を見てください。濃い色を使っています。しかも紫と青の二色。日本ではこのような濃い色の壁はあまり馴染みがないかもしれません。マリメッコのデザイナーによると、濃い色の壁紙を使うとそれ以外の明るい色がきれいに見えるんだそうです。濃いものをバンっと入れて、光があたった時に陰影を出す。北欧らしい色使いだと思います。

空間にアクセントをつくる多灯照明

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デンマークでは小さめの照明をいくつか飾る多灯照明が主流です。理由は二つありまして、ボリュームを出しインテリアのアクセントにするため。そして目に優しい光を作るためだと思います。100ワットの照明を一つ点けるよりも、40ワットの照明を三つ点ける方が目に優しいんです。
そして、窓が大きくて開放感があります。イタリアの小さい窓とは対照的です。自然光が入ってくるのに照明をつけているのは、日中でもオレンジ色の光を取り入れるよう配慮しているのかもしれません。

カーテンを閉めずにあかりをおすそわけ

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大学生の時に見て1番感動した照明がルイスポールセンのアーティチョークです。現物が武蔵野美術大学にあって、大学の友人みんなで見に行きました。「電球がどこから見えるか実験してみよう」と色々試してみるけど、どこから見ても電球が見えない。

北欧のほとんどの家にはペンダントランプがあります。明るい色のシェードを使ってチャーミングな光を演出しています。

デンマークをはじめ、北欧では窓のカーテンを使わないんです。窓際にオブジェやろうそくなど色んなものを置いて、自分たちが楽しみつつ、外を歩いている人から見えるようにもなっている。生活している様子が外から見えるのが当たり前で「なんで隠す必要があるの?」という感覚なんです。デンマークの首都、コペンハーゲンではヒュッゲという癒しの合図があります。キャンドルをつけて、オレンジ色の光を部屋じゅうに取り入れるんです。そういった様子も外から眺めることができます。

それと、デンマークの人々は椅子やテーブルを代々大事にしています。もし椅子の数が足りないようであれば、その代々受け継いできた椅子に合った新しい椅子をチョイスしてくるんです。それも、気に入った椅子が見つかるまで数が足りない状態でそのまま。

「引っ越しをしました。椅子を何日に買って、納期はこの日で客人を招くときにはリビングの家具を全部揃えましょう」ではないんです。気に入ったものが出るまで構築中という考え方なんです。「過程を楽しみましょう」という意識が根付いているのだと思います。

ーおわりー

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公開日:2021年6月24日

更新日:2021年10月14日

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ミューゼオ・スクエア編集部

モノが大好きなミューゼオ・スクエア編集部。革靴を300足所有する編集長を筆頭に、それぞれがモノへのこだわりを強く持っています。趣味の扉を開ける足がかりとなる初級者向けの記事から、「誰が読むの?」というようなマニアックな記事まで。好奇心をもとに、モノが持つ魅力を余すところなく伝えられるような記事を作成していきます。

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