「ネクタイを締めたい!」そんな気持ちにさせるネクタイブランド「giraffe」

取材・写真/山川 譲

昔から映画や音楽、バイクが好き。でも、「なぜ?」と聞かれると困ったもので。気付いたら考えていたので「好き」、「なぜ好きか」は考えたことがない。本連載では、僕が好きなモノの作り手さんにお話しを聴いて、「なぜ好きか」に迫り、モノが持つ魅力を見つけていきます。今回は、ネクタイブランド「giraffe」を展開する株式会社スマイルズの須永紀裕さんにgiraffeのこだわりを聞いてみました。

MuuseoSquareイメージ

giraffeとの出会いは、羽田空港に行ったとき。雑貨屋に並んでいたネクタイを手に取り、一緒にいた人が「それいいね」と言ったのがきっかけでした。ネクタイを締めるのは好きでも、ネクタイ自体には興味がなかったのですが、羽田空港で見つけた一本が二十本に増えました。最近では各地にお店ができたので、近くを通る度に一本増えるのが悩みです…

自ら自分のスタイルを「選んで」欲しい

山川:スマイルズは「Soup Stock Tokyo」も運営していますよね。ネクタイを手がけるようになったきっかけは?

須永さん(以下、敬称略):飲食とネクタイ、あと「PASS THE BATON」というセレクトリサイクルショップも運営しています。giraffeは代表が常々思っていた「日本のサラリーマンの胸元をもっとかっこよくし、自信を持って元気になってほしい」という想いから始まりました。

山川:スーツスタイルは“仕事着”の印象が強くて“お洒落”は難しいなぁと僕自身も思っていました。

須永:ビジネスシーンのスタイル自体は変化しているんです。上下同じ生地、色のセットアップのスーツだけではなく、いわゆる「ジャケパンスタイル」など、上下が異なるスタイルもビジネスシーンで受け入れて貰えるようになりました。でも、ネクタイにはあまり変化がなかったんです。素材はシルクで、ペイズリー柄やストライプ、ドットなどシンプルなものばかりでした。

山川:ネクタイの選択肢が少ないと、ジャケパンスタイルもネクタイに引っ張られてお洒落の範囲が狭くなっちゃいますね。

須永:giraffeのコンセプトは『人に首を締められるのではなく、自らの首をぎゅっと締め上げ、キリンのように高い視点で遠くを見つめれば、それぞれがそうすれば、世の中も良くなるだろう』何かに縛られる、引っ張られるのではなく、自ら自分のスタイルを「選んで欲しい」と考えています。

山川:そう考えたきっかけは?

須永:代表がよく「サラリーマン一揆」というキーワードを使っています。先ほど話した「日本のサラリーマンの胸元をもっとかっこよくし、自信を持って元気になってほしい」、giraffeはそんな想いをカタチにしたブランドなんです。

さまざまな素材感のネクタイが揃う

さまざまな素材感のネクタイが揃う

蝶ネクタイやロゼットなどのアイテムも数多くラインナップ

蝶ネクタイやロゼットなどのアイテムも数多くラインナップ

女性が男性の胸元を変えている

山川:僕が会社員をやっていたとき、飲み会で「ネクタイをとれ」と言われるのが嫌だったんです。スーツなのにネクタイをとったらかっこわるいじゃないですか。

須永:それは山川さんが自分から「締めよう」と“選んで”いたからじゃないですか。なかなかスーツもネクタイも仕事以外で自分から「着よう」「締めよう」って思えないですよね。私服と比べてとても窮屈ですし。

山川:僕が自分から締めようと思ったきっかけは何だったんだろう…

須永:実はネクタイ売り場は圧倒的に“女性”が多い売り場なんです。旦那さんや彼へのプレゼントまたは「買ってきてくれない?」と頼まれて買いに来ることが多い。いままでは普段のスーツや好きな色を考えて同じような色、柄の微妙な違いから「これでいいのかな…」って悩みながら選んでいたようです。プレゼントされた男性も「これがいいのかな」って思いながら締めていたのかもしれません。女性のお客様から「giraffeは感性で選べる」という声をいただきます。「これでいいのかな…」ではなく、「このネクタイを旦那、彼に締めて欲しい!」で選べるみたいです。好みを探るのではなく、形や色柄に特徴があるので提案できるネクタイと考えていただいているようですね。

山川:そういえば、当時よく締めていたネクタイは妻にプレゼントして貰ったものでした。カッコいいデザインだったので、自慢したいって気持ちもあったのかもしれません。

須永:私たちはサラリーマンの胸元を変えたい!と思っているのですが、giraffeもギフト時期はお店によっては、女性のお客様が8割になります。そこから男性にも広がり最近では男性のお客様もどんどん増えてきています。もしかしたらギフトのタイミングは、男性にとって、「これでいいや」では無く「これがいい!」に変わったタイミングなのかもしれません。そう思うと男性の胸元を変えているのは女性なのかもしれませんね。

僕は最初にプレゼントして貰ったネクタイで自発的に「ネクタイを締める」ようになり、giraffeを知って「ネクタイを選ぶ」ようになったんでしょうね。ネクタイを「楽しむ」「選ぶ」下地があったから、giraffeの「提案」を受けやすかったように思いました。

2015年9月にオープンした千駄ヶ谷のWORK TO SHOPでは職人井口さんの仕事も見られる

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いつも笑顔で迎えてくれるWORK TO SHOP店長の阿久津拓也さん。実は共通の友人がいました

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ちょうど狙っていた新作が絶賛製作されていました。「つなぎ目でズレがないように慎重に作っていますよ」(井口さん)

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giraffeマークが全面に印刷され、インパクトのある買い物袋

giraffeマークが全面に印刷され、インパクトのある買い物袋

須永:飲み会で「ネクタイをとれ」という人にとってネクタイは邪魔なもの。でもネクタイが周りから「いいね!」と言われれば、邪魔なものではなくなります。大切な人が「合う」「締めて欲しい」と選んだネクタイが、自分から意思を持ってネクタイを締めようって男性の気持ちを変えるんでしょうね。

山川:実はgiraffeさんのネクタイを買ったあと、「いい!」って思ったけれど「どこが?」がわからなかったので福袋を買ったんです。どれがいいか自分でもわからないから、もうgiraffeさんに任せてしまえと。入っていたものに、腕時計や靴を合わせていくようにして自分の好みを見つけていきました。

須永:先ほど話したコンセプトの「自らの首をギュっと締めて」とはまさにそういうことです。自分で好みを探って“選んで”いく。直接仕事に関係はないかもしれませんが、自分の好きなもの、選んだものを身に着けていれば気持ちに余裕ができますよね。H TOKYOさんの記事を拝見しましたが、自分の好きなアイテムを「選んで身につける」ことで心に余裕ができます。心の余裕は仕事や周りの評価にも影響が出ると思います。

giraffeで「一歩前に踏み出す」、“いま”から突き抜けて欲しい

山川:giraffeさんのネクタイは奇抜なものからオーソドックスなものまで幅広いですが、どういった意図があるんですか?

須永:giraffeのネクタイは、人間の体温で分けています。36℃は平熱、仕事や家族とのシーンに違和感なく溶け込むネクタイだけれどきれいな色柄のもの。そして、38℃はちょっとテンション高め。デザインに特徴があったり、シルク以外のウールやコットンなど素材で遊んでいたりするものが多い。40℃はサッカーボールのタイピンや下半分が芝生になっているような「ネクタイですかコレ?」と言われてしまうようなものを揃えています。ネクタイなのに芝生って面白いですよね(笑)。

山川:34℃は平熱をよりクールにした感じですか?

須永:34℃は、ナロータイなどモードの要素や「東京っぽい」という言葉が合うようなクールなゾーン。34℃と40℃はパーティーシーンなどに合うアクセサリー要素が強いイメージです。すべてデザイナーや職人さんがこだわりを持って作っています。

WORK TO SHOPでは刺繍などに対応するほか、クリーニングも受け付けてくれる

WORK TO SHOPでは刺繍などに対応するほか、クリーニングも受け付けてくれる

山川:giraffeのこだわりがあるシリーズはあるんですか?

須永:敢えて言えば、38℃をサラリーマンに身に着けて欲しいと思っています。38℃はちょっとテンション高めでユニークな要素が含まれていて、中にはクスッと笑ってしまうようなデザインもあるなど、通常のネクタイにはない様々な素材や柄で表現されているネクタイ。会社に34℃や40℃をしていったら上司に怒られてしまうかもしれませんが、38℃なら良い意味で「違和感」が出ると思っています。

山川:36℃も「ちょっとした違和感」がありますが、38℃ならより強い違和感が出ますね。

須永:違和感があれば、目立って印象に残りますよね。好きなネクタイをして、仕事もちゃんとやれば「あの派手なネクタイのやつやるじゃん!」って印象にもなります。38℃を含め、giraffeのネクタイで“いま”から一歩踏み出す自信、自分自身で「選ぶ楽しさ」を見つけて貰えれば嬉しいです。

ーおわりー

File

giraffe

2006年、株式会社スマイルズの代表の「日本のサラリーマンの胸元をもっとかっこよくし、自信を持って元気になってほしい!」という想いから有限会社ジラフとして設立。
その後、株式会社スマイルズの事業部に。普段のビジネスシーンに溶け込むようなネクタイから、がらりと印象を変えてしまうようなネクタイまで、「ひと味違う」ネクタイ、蝶ネクタイ、アクセサリーなど豊富にラインナップしている。

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公開日:2016年2月12日

更新日:2022年4月15日

Contributor Profile

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山川 譲

シンクタンク、ウェブメディア記者、雑誌編集を経て、コピーライターとして活動。ランチ代、定期代もすべてCDにつぎ込んでいた高校時代以降、CDと本を中心に様々なモノをコレクションしている。現在はロシアンウォッチ、カメラレンズ、眼鏡、ネクタイをコレクション。モットーは「保存はしない、実用」。

終わりに

山川 譲_image

須永さんは「お客様を説得するのではなく、納得して選んで貰いたい」と語っていました。提案はするけれど、最後はお客様が自分から選んだネクタイを締めて欲しい。「お客様はこれが好きでしょう」ではなく、「これは面白い!」をカタチにしてお客様にも「これが好きだ!」と思って選んで貰う。giraffeのこだわりは、そんなお客様に提案しながら最後の決断をお客様に委ねて、自分たちも「“いま”から突き抜けていく」って気持ちを持っているところなのかもしれません。

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