唯一無二の1960年代スタイルを愛する紳士にその魅力を聞く

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文/渡邉耕希

普段私たちが何気なく着ているスーツ。いつ頃誕生して、どのような道のりを歩んで来たのでしょうか。

スーツの祖先に当たる「サックスーツ or ラウンジスーツ 」が出現したのが19世紀後半のこと。田舎などで着用するカジュアルウェアという位置付けでした。20世紀に入ると急速にその地位を上げ、各時代を象徴するようなスーツのスタイルも生まれました。

本連載「紳士服タイムトラベル ー ヴィクトリア朝から1960sまで」ではスーツに焦点を当てながら、当時の服装を愛し、日常的に着用して生活している方々にお話を伺い、紳士服の歴史における代表的な時代を切り取ります。

本連載の最後となる今回は1960年代にタイムトラベルします。スーツの歴史の中でも唯一無二といえるほど特徴的な60年代のスタイル。今回は60年代の強烈な個性に魅せられたLee Morrison(リー・モリソン)さんにお話を伺います。

リーさんはミューゼオスクエアへの登場は2回目で、【共通項は実用性。Instagramで話題のヴィンテージコレクター「Lee Morrison」インタビュー】ではご自身の貴重な靴コレクションと靴への愛情を語って頂きました。前回のインタビュー記事でも触れましたが、リーさんはイギリスはノッティンガムでバーバーを経営され、ヴィンテージ・シューズやヴィンテージ・スーツに並々ならぬ情熱を注がれています。フォロワー2万人を超えるインスタグラムのアカウント(@bespokeaddict)を通してご自身のこだわりの詰まったコーディネートを披露されています。

本記事ではリーさんのアイコンともいえる60年代のスーツの特徴や魅力を語って頂きます。

前時代への反抗。1960年代のスーツスタイルを紐解く

MuuseoSquareイメージ

——コンサバティブな50年代のシルエットから大きな変化が訪れた60年代のスタイルですが、リーさんはこの変化をどう捉えられていますか?

前時代への反抗といってもいいでしょう。30年代頃から前時代の考え方を大切にしながら発展してきた、男らしく構築的なシルエットに大きなメスを入れたのが60年代のシルエットです。50年代のジャケットの半分あるかないかほどのラペル幅にノータックのトラウザーズ、スリムでスレンダーな印象は、当時の音楽やヘアスタイルなど文化的な背景を大きく反映しているといえます。またそのシルエット故に着る人の体型を選ぶようになったのもスーツの歴史では初めてではないでしょうか。

——60年代のスーツをアイテムごとに見ていきたいと思います。

まずジャケットは細いラペル、長めの着丈、絞られたウエストや小ぶり且つ高めにとられたアームホールに狭め目の袖幅など、先述のスリムなシルエットを作り出す要素に富んでいます。トラウザーズはノータックが普及したり、裾はシングルが流行したり、50年代までと相反する仕様です。ある意味、20年代以前のシルエットに回帰したといってもよいかもしれません。個人的にはこのトラウザーズのシルエットが自分には1番相性がよいと思っています。

ウエストコートには大きな変化は見られませんが、ビスポークスーツ以外で見かけることが非常に少なくなりました。また、この時代のスーツに用いられる生地が主張の強い柄のものが多くなったのも特筆すべき点でしょう。60年代が好き嫌いのわかれるのはこのような点あります。

サヴィル・ロウの名門テーラー、Hawkes & Co. (ホークス・アンド・コー)1961年製のスリーピーススーツ。Gieves & Co. (ギーブス・アンド・コー)との合併前の貴重な1着。細いラペルと絞りの効いたウエストなど60年代の特徴が色濃く出ている。

サヴィル・ロウの名門テーラー、Hawkes & Co. (ホークス・アンド・コー)1961年製のスリーピーススーツ。Gieves & Co. (ギーブス・アンド・コー)との合併前の貴重な1着。細いラペルと絞りの効いたウエストなど60年代の特徴が色濃く出ている。

靴だけじゃない。リーさんの服への情熱

——リーさんのヴィンテージ・ファッション遍歴について教えてください。

ファッションに関しては10代の頃から敏感で、理容師として収入を得るになってからは色々なハイブランドの服を買い求めるようになりました。今から10〜12年前ですが、何気なくセカンドハンドの服を店で見ているとヴィンテージ・ビスポークのスーツに出会いました。生地の質や縫製の技術の高さに感動を覚え、以来ヴィンテージ・スーツの虜です。

——リーさんの膨大な靴のコレクションは有名ですが、スーツも相当な数をお持ちですよね。

そうですね、ヴィンテージショップやオンラインで買い求めていたら、知らない間に結構な着数になっていました。

——靴や車など、なんでもご自身で修理されるのがリーさんの素晴らしいところですが、やはり服もご自分で直されるのですか?

服に関してはボタンの付け直しくらいしかやったことがありません。フィッティングのことなど、まだまだ勉強が必要なので。スーツやコートなどは、長年サヴィル・ロウのテーラーのアウトワーカーだった知人に依頼しています。

経営するバーバーショップ「Curtis & York (カーティス・アンド・ヨーク)」 にて。ヴィンテージ・シューズのステッチを修理するリーさん。

経営するバーバーショップ「Curtis & York (カーティス・アンド・ヨーク)」 にて。ヴィンテージ・シューズのステッチを修理するリーさん。

——60年代のスーツを着るうえで、どのようなことに気をつけるべきでしょうか?

先述した通り、60年代のスタイルは万人受けするわけではありませんし、似合う体型、似合わない体型など制約もあります。お手本としては、ショーン・コネリー扮する初代ジェームズ・ボンドのようにミニマルに纏めるといいでしょう。また私がそうですが、当時流行した主張の強い柄を活かして色で遊ぶのも楽しいものです。

スリムなトラウザーズが60年代らしい。港町ブライトンのビーチにて。

スリムなトラウザーズが60年代らしい。港町ブライトンのビーチにて。

リーさんにとってヴィンテージ・スーツを身に纏う喜びとは?

——リーさんにとって、ヴィンテージ・スーツを着る醍醐味や喜びをどのように感じますか?

毎日、といってよいと思います。「なんでそんなにドレスアップしているの?結婚式でもあるの?」と髪を切りにきたお客さんや道端でばったり会った友人たちに決まったように聞かれるのですが、確かに多くの方がドレスアップは「特別な日」にするものだと思われているでしょう。私は自分の愛するヴィンテージ・スーツに毎日身を包むことによって、毎日が「特別な日」になるのではないかと考えています。

ーおわりー

リー・モリソンさんの活動をチェック

クラシッククロージングを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

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Savile Row(サヴィル・ロウ)A Glimpse into the World of English Tailoring

世界で唯一無二「紳士服の聖地」とよばれるサヴィル・ロウ。そこで生み出されるのは世界最高レベルのテーラリング技術を持つ、熟練した職人たちの手によるビスポーク・スーツである。ファッションやトレンドを超越し、世界中の男たちを魅了してきた、永遠に生き続けるスタイルがそこには存在する。英国王室御用達に輝く老舗から、新進気鋭の新しいテーラーまで、時代の流れの中で大きく変貌を遂げるサヴィル・ロウの実像を、現地取材を通じて映し出した、日本初のヴィジュアルブック。

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[新版]男の服装術 スーツの着こなしから靴の手入れまで

著者の落合正勝氏は、雑誌・新聞連載と服飾関係の著書を多数もつ男性服飾評論の第一人者である。本書は、氏の著書の中でも男性ファッションの最も基本的な内容をわかりやすく解説したものであり、スーツ・シャツ・ネクタイ・靴・靴下・着こなしなど、お洒落についての知識とノウハウを総合的に解説した定番ともいえる一冊です。

公開日:2021年12月28日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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渡邉耕希

1992年生まれ。ロンドンへの留学中に身に着けた紳士服やヴィンテージアイテムの知識をもとにライターとして活動する傍ら、自身のYouTubeチャンネル「The Vintage Salon」にてヴィンテージを交えた英国的暮らしを発信している。

終わりに

渡邉耕希_image

靴のコレクションを取材させて頂いた時には膨大な数に圧倒されましたが、今回もビスポークの名品の数々に驚かされました。リーさんのヴィンテージへの情熱に改めて感銘を受けた取材でした。

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