アーティストの世界観がアートワークとして反映されているバンドTシャツ。かつて、Tシャツをファン自ら作り出し、アーティストと一体となって楽しむというカルチャーが存在した。
今回は60~70年代を中心に活躍したロックバンド「グレイトフル・デッド」のファンが作り出したバンドTシャツカルチャーについて、湘南・江ノ島の古着屋「ACE GENERAL STORE」の店長YOTAさんに語っていただいた。
ライブが生活のすべてだった「デット・ヘッズ」のカルチャー
60年代から70年代にかけてやっていたグレイトフル・デッドのライブには、デッドヘッズが一緒について回っていた。
デッドヘッズはワーゲンバスとかに乗り込んで、集団生活をしながらグレイトフル・デッドのライブをずっと追いかけて生活している人たちのこと。
チケットを買ってライブを観に行く。言ってしまえばただのファンなんだけど、バンドの世界感や音楽観に感化されて、ずーっとついていってた。
デッドヘッズたちは勝手にグレイトフル・デッドのグッズを作り、ライブ会場前で売って生計を立てていた。今でこそ信じられないけど、グレイトフル・デッド側も受け入れていたんだよね。
むしろ、(グレイトフル・デッドの)メンバーも何か知りたい情報があったりすると、デッドヘッズたちに呼びかけて情報収集する仲間になっていた。バンドを軸とした色んなライフスタイル、経済圏が展開していった。
グレイトフル ・デッドとは
アメリカのロックバンド。グレイトフル・デッドは、1960年代から1970年代に巻き起こったヒッピカルチャーやサイケデリックカルチャーの象徴的な存在として、現代まで語り継がれている。創立メンバーでもあるギタリストのジェリー・ガルシアが永眠する1995年までは定期的にライブを開催し、結成50周年を迎えた2015年の記念ライブを最後に活動を終了した。
ヒッピーが作っていたということもあり、草木でタイダイ染めをおこない、その上にシルクスクリーンでアートワークをプリントする製法で作られているTシャツが多い。染めに関しては時代によって化学染料も入ってきていると思うけど、基本は自然だけの染料で染めているはず。
一枚一枚全部手作りで作られているし、しかもライブの移動中に作ったりしてるんだから、とんでもないと思う。
アーティストへのリスペクトからグレイトフル・デッドのTシャツが生まれた
グレイトフル・デッドのライブがはじまって時間を共にすれば、バンドメンバーもファンも「みんな仲間だ」という価値観で動いていた。
今では絶対あり得ない考え方だと思う。特に、商業ベースのイベントだったら客と演者が入り交じることなんて絶対にないよね。個人的には、現代の音楽シーンでも、(グレイトフル・デッドのように)アーティストとファンはもっともっと身近であるべきだと思う。
例えば、サチモスだったら「サチモヘッズ」みたいな感じでファンがついたら面白い。
日々の中で、最高に自分が好きな仕上がったジーンズと一緒に、最高に格好いいアートワークがのった自分が好きなバンドのTシャツを着る。気負わずに。
ただ、最近は着ているバンドTシャツに書かれているアーティストたちが、どんな曲を演奏しているのかすらも分かっていない人たちがいっぱいいる。
着ている人たちは単純にデザインに惹かれているんだろうけどね。Nirvanaとか凄い流行ってるみたいなんだけど、「Nirvanaってバンドなんですか?」って感じらしい。
やっぱりそれは無いよね。特にグレイトフル・デッドのTシャツのような60〜70年代に作られたモノに関しては、時間が経ち過ぎてよく分からないシンボリックな「モノ」になっているのかもしれない。
なぜそのモノが生まれたのか。背景を知ることができたら、視野がぐんと広がっていく。そんな面白いことは他に無いと思う。
60年代のカルチャーに魅力を感じるターンになった
1969年にはウッドストックフェスティバルという伝説的なフェスティバルが開催された。当時はベトナム戦争の真っ只中で、「すぐ先に戦争が待ってるんじゃないか」と目の前に立ち込めてる不穏な空気や雰囲気があったんだ。
そのこともあって、イベントを通して爆発的に人々の魂を解放させていたんだよね。今はベトナム戦争みたいなことが目の前で起こってるわけじゃないけど、カウンターカルチャーが生まれた時代に作られた音楽に、50年経ったいま魅力を感じる時代になったと思うんだよね。
ウッドストックフェスティバルとは
1969年に米国のニューヨークで開催されたロック・フェスティバル。当時はベトナム戦争の勃発や人種差別問題といった社会問題が浮上しており、カウンターカルチャー最盛期の中、ヒッピーカルチャーを象徴するイベントとして行われた。イベントは3日間行われ、40万人を超えるファンが集結した。グレイトフル・デッド、ザ・フー、ジミ・ヘンドリックス、スライ&ファミリー・ストーンなど、60年代ミュージックシーンを代表するアーティストたちが参加した。
カルチャーに敏感なやつらがベルボトム履き始めたり、60年代70年代のバンドのTシャツを着てたり洋服を扱ってたりするのには、かならずきっかけと理由があると思う。
あとはデッドヘッズみたいな、DIYをしながら好きなものに突き進むカルチャーはとても面白い。
デッドヘッズは本当にグレイトフル・デッドのことが好きだから、心から恰好いいものを作ろうとしていた。特別なアートワークがプラスされたものには、特別な存在価値を感じるんだよね。やっぱり学びになることがたくさん詰まってる。それこそお金では測れない何かがある。
演奏をしていたグレイトフル・デッド自身もそうだし、付いていってたファンも本気だったんだろう。普通に考えたらめんどくさいだけだよね。家にもずっと帰らずに、ライブについていく生活はハッキリ言って大変だよ。
でも最高に楽しくて最高な瞬間だったからバンドもファンもそういうスタイルを続けていた。もう最高の一言に尽きる。
ーおわりー
ワーク・ミリタリー・ストリートを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
ヴィンテージ・Tシャツを通して感じられる、時代を彩るカルチャーをたどる旅へようこそ
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音楽プロデューサー/DJの井出 靖が90年代後半から徐々に収集し始め、その時々に記録として撮影していたレア・Tシャツの画像約580点を納めた「VINTAGE MUSIC T-SHIRT SCRAP」。
3年前に発刊してロング・セラーを記録している「VINTAGE POSTER SCRAP」同様、所謂コレクター向きの内容ではなく、音楽プロデューサーならではの視点で集められたヴィンテージ・Tシャツの数々を12のカテゴリーに分けて紹介。
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Vintage T-shirtsは、あらゆる形態のTシャツへの強い愛と、それらが蘇らせるノスタルジックな記憶に敬意を表しています。取引されたり、恋人にあげたり、ボロボロになるまで着たり、カスタマイズしたり、切り刻んだりしたTシャツは、今日では子供からお年寄りまで誰もが着ることのできる、どこにでもある衣類のアイテムです。
この本では、音楽、テレビ、映画、広告、スケートやサーフィン、エンターテイメントなど、ポピュラーカルチャーの世界を視覚的に旅することで、Tシャツを長く愛される定番アイテムにしています。さらに、Tシャツファンやマニアのコレクションやバックストーリーを紹介する見開きのコレクタープロフィールも掲載されています。
ACE GENERAL STORE
江ノ島電鉄線、江ノ島駅から徒歩3分。賑わう商店街から1本入った場所にあるGENERAL STORE。リペイントが施された古着やデニムを中心に、陶器をはじめ雑貨なども取り扱う。商品は卸を通さず、基本的にオーナーのYOTAさんが買い付けしたモノを販売している。コーヒースタンドも併設されており、豆は同じ湘南に店を構えるi don't know coffee roasterのものをセレクト。日々その価値観に共感する仲間たちが集う。