所有本数100本以上。HANGER HOLIC安田 嗣がアンティークハンガーに見出した美しさとは?

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文/伊藤 太成 写真/伊藤 太成・安田 嗣

日々の生活に欠かせないハンガー。普段何気なく使っている道具にも、知れば知るほど奥深い文化や歴史が潜んでいることをご存知だろうか?今回はハンガーを100本以上所有し、その秘めたる魅力を「HANGER HOLIC」(ハンガー中毒者)として発信する安田 嗣さんにお話いただいた。

コレクション・ダイバー【Collection Diver】とは、広大なモノ世界(ワールド)の奥深くに潜っていき、独自の愛をもってモノを採集する人間(ヒト)を指す。この連載は、モノに魅せられたダイバーたちをピックアップし、彼ら独自の味わいそして楽しみ方を語ってもらう。

アンティークハンガーの博覧会、「HANGER HOLIC」

MuuseoSquareイメージ

安田さんが過去2回開催した「HANGER HOLIC」は、自身が集めた50点ものハンガーが展示される「ハンガーの博覧会」とも言えるイベントだ。

イベントには日本のみならず、アメリカ、フランス、ドイツ、イギリスなど世界中から集められたハンガーが展示された。見慣れた形から未知なるものまで、現代では見ることができないような珍しいハンガーも並んだ。

最初のイベントは鎌倉の古本屋「books moblo」で開催。文化の街とも言われる鎌倉との親和性が高かったこともあり、非常に好評だったという。

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「『見慣れたものが、未知なるものに』というテーマで開催しました。プラスチックのハンガーが普及した時代だからこそ、物珍しく感じられるアンティークハンガーが受け入れられたのではないかと思います」

ハンガーといえば、誰しも家に一つは持っている生活に密着した道具。安田さんはそんなハンガーのどこに惹かれたのだろうか。

きっかけは「木製ハンガー」

「もともと古いものが好きで古道具屋めぐりをしていたところ、あるお店で木製のハンガーが沢山並べられていたのを見つけたんです。木製ならではの経年変化の美しさや文化を感じられる見た目に惹かれました」

シンプルな木製のハンガーに魅力を感じ踏み込んだハンガーの世界。その先にあったのは予想以上に奥深いものだった。

「ハンガーに目を向けて古道具屋や蚤の市を見ていると、さまざまな素材や形のハンガーがあることに気づいたんです。木製だけでなく鉄や(とう)を使っているものなどがありますし、形もコンパクトなものから大きいものまで本当に多くの種類が存在しています」

ハンガーといえば三角形だというイメージを持っているかもしれない。安田さんも最初はその先入観を持つ一人だったが、知れば知るほどハンガーの持つ表情の豊かさに圧倒されたのだという。

「ハンガーは身近な存在であるが故に普段は見過ごしがちですか、改めて見ると理にかなった実用性や機能美が秘められています」

形や素材もさまざま。安田さんのアンティークハンガーコレクション

100年程前のものから現代まで約100本のハンガーを所有する安田さんに、いくつか代表的なものをご紹介いただいた。

クリーニング尾花の木製ハンガー

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安田さんがハンガーに興味をもつきっかけとなった木製ハンガー。「尾花」というかつて営業されていたと思われるクリーニング店の名前や住所から、そのハンガーが歩んできた歴史を見て取れる。

トラベルハンガー

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旅行用に作られた「トラベルハンガー」。時代は不明ではあるが、イギリスで作られたもののようだ。折りたたみ式のコンパクトなハンガーと、紳士の国イギリスらしくジャケットの手入れブラシがセットになっている。本体の素材はベークライトという、プラスチックが登場する前に使われていたもの。

ブラシ付きのスーツハンガー

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持ち手とブラシの素材が異なっているスーツハンガー。作られた時代の移り変わりを感じ取ることができるのも、ハンガーの魅力なのだという。

修道院でドレスをかける大型ハンガー(左)

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もはや武器にも見えてしまう大型のハンガー(左)は、かつて修道院のドレスをかけるために作られたもの。右側のハンガーと合わせて持つと、まるで矛と盾のよう。立派なヴィンテージテイストのインテリアとして飾ることができる面持ちを感じさせる。

素材や形状が異なるハンガーが生まれる理由

なぜここまで多様な形のハンガーが生まれたのだろう。ハンガーの歴史について安田さんに伺ってみると興味深い答えが返ってきた。

「日本でハンガーが使われ始めたのは、文明開化のころ。それまで日本人にとって、正装といえばきものが当たり前でした。きものは、平面で裁断されているので畳んで押入れで保管しますよね。一方、洋服は立体で作られています。型崩れしてしまうから、洋服は畳んで保管するわけにいかないんです。和服とはまったく異なったカルチャーを持っている洋服の保管のために、日本独自のハンガーが誕生することになります」

素材は日本的な「籐」であるが、 形は衣掛けのそれではなく、 ハンガーの形を成している。

素材は日本的な「籐」であるが、 形は衣掛けのそれではなく、 ハンガーの形を成している。

「同じようにドレスを着る文化がある地域にはドレス用のハンガーが。スーツを着る文化がある地域にはブラシ付きのハンガーが生まれました。国や時代によって、ハンガーの形もさまざまに変化しているんです」

伝えたいことは、視点の拡充

古今東西さまざまなハンガーを集めている安田さん。だが、あくまで収集が目的ではないそう。

「ハンガーを収集しているのは、古道具屋でハンガーを見た時に感じた『視野が広がって行く感覚』を伝えたいためです。さまざまな形、素材、仕組みのハンガーに触れることで、頭の中にあるハンガーのイメージが崩れる。ハンガーは三角形といった思い込みが無くなる。すると、身の回りにある他のモノを見ても今までとは違った価値や使い方に気づき、毎日がちょっと楽しく過ごせるのでは、と考えています」

人々の身近にあるハンガーだからこそ、伝えることができる歴史や文化がある。提供できる新たな視点がある。そう考える安田さんは、これまで展示イベント2回開催してきた。

MuuseoSquareイメージ

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新代田にあるコーヒースタンド「RR」で開催した時の様子

展示されているハンガーの横には、一つひとつに安田さんのコメントが添えられている

展示されているハンガーの横には、一つひとつに安田さんのコメントが添えられている

「HANGER HOLICに来場いただいた方々から『今までは服を掛けるためだけに使っていたハンガーが、見方を変えるだけでこんなに楽しくなるなんて!』『昔の人の服に対する想いを感じました』などコメントいただけたことが印象に残っています。ハンガーには道具そのものとしての魅力があると改めて実感しました」

「展示会に来てくれた人にとって、本展示が『好きなものを表現して他人に魅力を伝えていく』きっかけとなれば幸いです。また、世の中には独自の視点を持って変わったものを集めている人がいるので、そうした人たちともつながっていきたいですね」

残念ながら記事公開時点で、次回のイベントの開催は未定。まずは「HANGER HOLIC」のインスタグラムから、アンティークハンガーの魅力に触れてほしい。

ーおわりー

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公開日:2017年12月16日

更新日:2021年8月6日

Contributor Profile

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伊藤 太成

湘南在住のフリーライター兼ディレクター。日々の仕事や生活を通して、様々なカルチャーの魅力を伝える活動を行っている。特に旧車やヴィンテージカルチャーを愛しており、学生時代から空冷フォルクスワーゲンを乗り継いでいる。現在の愛車は74年式のフォルクスワーゲン TYPEⅡ・ワーゲンバス

終わりに

伊藤 太成_image

アンティークハンガー自体の魅力はもちろん、安田さんの活動や言葉に対して非常に心が揺れ動かされました。今回の取材を通して人は何のためにものを集めていくのか…その意義を改めて自分自身にも問いかける機会にもなりました。

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