編集部員Aがあれやこれやと挑戦し、違いの分かる女=目利きな淑女を目指す奮闘記。今回は、目利きか否かが試されるイベント(⁉︎)アンティークマーケットへ。ファッションライター・倉野路凡さんも一緒です。さあ、どんなアイテムと巡り合えるでしょうか。
東京にいながらパリジェンヌのような生活⁉︎街角で開催されるアンティーク市。
快晴が続くこの季節、せっかくならばこの連載取材もどこか屋外へ飛び出したい〜
ということで(安易な思いつきですが)、ストレートに目利きか否かが試されるであろう屋外のアンティークマーケットを調査してみることに。
関東圏を始め全国津々浦々で骨董市や蚤の市が開催されていますが、「いったいどんな物が売られているんだ」、「お宝って見つかるんだろうか」気になるところですよね。むかーし、一度だけ行ったことのある京都の蚤の市では、お寺の境内で高いのか安いのかわからない掛け軸や、夜中に話しかけてきそうな日本人形などなどちょっと近寄りがたい骨董品が広げられていた記憶が……。
ただ、何が価値のあるものなのか知見のない私。一人で行くのはちょっと心配(笑)。今回は骨董市や蚤の市に時々遊びに行くというファッションライター・倉野さんに同行させてもらいましたよ。(倉野さんの連載記事はこちら)倉野さんは特にアンティークシルバーやアンティークカフス、シャンデリアのパーツなどを市で探して見て回っているみたいです。
お邪魔したのは東京・青山で毎週土曜日に開催されている青山Weekly Antique Market。
開催場所は、青山にある青山学院大学の向かい国連大学の広場の一角。おしゃれで感度の高い人が行き交う青山表参道のエリアです(すごい一等地!)広場入り口エリアでは新鮮や野菜や食にまつわる雑貨を取り扱うファーマーズマーケットも同時開催。時折行き交う外国の方の姿も相まって「ここはパリのマルシェか⁉︎」と感じさせる賑やかで開放的な雰囲気が漂ってます。
最初にご挨拶したのは、青山Weekly Antique Marketの主催を務める塩見和彦さん。取材当日は塩見さんご自身もブースを出していらっしゃいました。
骨董市やアンティーク市は各地であっても、毎週必ず開催している市は日本でもここだけのようです。
塩見さん:「一般の方にもっとアンティーク雑貨を身近に感じてほしい、自分の生活が豊かになるようなものを見出して実際に使ってもらえたら思っています。マニアの人は市の開催を調べたりするけど、普通の人はしないですよね(笑)。毎週開催しているのは「今日は暇だからちょっと見てみよう」とか、「青山で買い物帰りや野菜市を見たついでにちょっと覗いてみよう」とかね。あまりアンティークに興味のない人にも気軽に立ち寄ってもらいやすい場にしたかったんです」
編集A:「なるほど。表参道で友達とお茶したついでに市をのぞくって、まさにこじゃれたパリジェンヌの生活っ!(そんなイメージ)」
塩見さん曰く、アンティークマーケットに出店してもらう店舗も「購入して今日から生活で使ってもらいやすい物や雑貨」を扱うお店に絞っているそうです。
倉野さん:「これはfiddle(フィドル)パターンのフォークですね! 僕もこの形のものが好きで買ったりするんですよ」
塩見さん:「シルバープレート(銀メッキ)のものです。これだけ状態良く本数が揃っているのは珍しいですよ」
早速、シルバー好きの倉野さんセンサーに引っかかったものがこちら。
柄の部分がぽってりと丸みを帯びたデザインが特徴的なfiddleパターンのフォーク。
◆fiddle(フィドル)パターンとは◆
ハンドル部分がバイオリン(英語でフィドル)のような形をしたもの。1800年代初期よりイギリス貴族階層に人気を集めた伝統的な型で、銀のカトラリーになどによくみられる。
バターを丸めてサーブするための道具、シューキーパー、チロリアンボタン、靴裏に取り付けて雪道で滑りにくくするためのアイゼン。
なるほど、ひとつひとつ見てみると今の生活にも取り入れられそうなものがありますね。
私も今日から使える素敵なアイテム見つけられたらいいなぁ。
さて、お店を見て回ってみましょうか……。
と、ここで同行する倉野さんの姿がないことに気づきまして……どこに行ったんだ⁉︎
倉野さんも釘付け。半畳程の空間に広げられた奥深いシルバーの世界。
周りを見渡して、遠くに倉野さんの後ろ姿を発見。
既にお店のアイテムを手にとって物色開始とはさすが。倉野さん慣れているせいか行動が早いですね(笑)。
倉野さんが一目散に覗きにいったお店はこちら、
上品なマダム、熊倉さんがブースを構えている「L'AMITIÉ」です。
なるほど、この白銀の輝きに倉野さんが目を奪われるのも納得ですね。
こちらではフランス1880年~1950年頃のシルバーやアクセサリーを中心に取り扱っている模様。
ひとつひとつ手にとって確かめたくなるような、緻密な装飾がほどこされたアイテムのラインナップです。
編集A:「倉野さん見てください、このシルバースプーン羊の顔が細かく掘られてますよ!なんとも言えない表情がシュールですね(でもかわいい!)」
倉野:「ほんとだ!すごく精巧だね。これはどこのブランドのものですか?」
熊倉さん:「こちらはフランスのHenri Soufflot(アンリ・スーフロ)のものです。
だいたい1900年ごろでしょうか。フランスのテーブルセッティングはフォークやスプーンの背の部分が見えるように配置されますので、後ろ側も優美に作られているものがありますね」
倉野:「こっちは、ピュイフォルカですね!」
熊倉さん:「はい。そのとおりですね。フォークをよくよくご覧いただくと純銀を証明するホールマークも刻まれています」
編集A:「ほんとだ! マークを見て判断するって謎解きみたいですね」
フォークにはごくごく小さくひし形のマークと八角形のマークが。
ひし形には銀細工師Emile Puiforcatのマーク「EP」が、八角形にはフランス製の純銀マーク「ミネルヴァの横顔」が。ミネルヴァとはローマ神話の女神。
◆Henri Soufflot(アンリ・スーフロ)とは◆
フランス・パリで1884〜1910年ごろ展開されていた銀製品ブランド。ブランド名は銀細工職人の名前が使われている。
◆PUIFORCAT(ピュイフォルカ)とは◆
フランス最上級とも謳われる銀製品ブランド。1820年に銀細工職人のエミール・ピュイフォルカによって設立される。 最高純度の銀を用い職人が丹念に仕上げたカトラリーは、 大統領官邸のエリゼ宮の晩餐会でも使われている。
銀器一点一点どれも素敵なものばかりで目を奪われますね。
倉野さんが食い入るように見たくなる気持ちが少しわかります。
お店は手にとって見つめたくなるようなロマンティックで優美なものが他にも。
まずは、店主の熊倉さんご自身も好きで集めているというシール(封筒の封にロウを垂らし、スタンプのように押し当てて封をするたいアイテム)。ペンダンドトップや懐中時計のチャームとして当時は身につけられていたそうです。
天然石に天使の姿が彫られたもの
フランス語の言葉と絵が刻まれたもの
月曜日から金曜日まで英語で刻まれたもの
ライオンの紋が刻まれたもの
左は、淑女のたしなみとして携帯されていたソーイングセット。19世紀末のもの。指ぬき、針通しなど今でも十分に使えそうなほど状態が良い。右は、アルミ製のロザリオケース。フランスのルルドの泉(カトリックの巡礼地のひとつ)に佇むマリアの姿がほどこされている。
一瞬、骨壷⁉︎ と思うこちらの壺は「ジンジャージャー」と言って、お菓子を入れておくものだそうですよ。手前のブラシはこんなふうに髪をとかすブラシのようです。(実際に髪には当てていないのでご安心ください!)年代がたっているせいなのか手触りが若干硬いですね。。。 状態はすごく良いので洋服ブラシとして使えそうです!
それにしても熊倉さん、とてもお詳しい。アンティーク商の方を見るといつも疑問に思ってしまうのが、どうやってその職業にたどりついたか。次から次へと解説してくれる知識は独学で培われた物なんでしょうか?
「もちろん独学の部分もありますが、もともとはアンティークアカデミーの講座で基本的な知識を勉強したんです」
もともとは教会の図像を見ることが好きだった熊倉さん。その図像に施されていた彫りの技法など調べていくうちに、その技法が使われているアンティークアイテムにも心惹かれていったとか。基礎的な知識を勉強した後、実際にフランスでの買い付けで経験を積みながら今に至るそうです。
意外な使い方をする道具だったり、どの時代に息づいていたものなのか熊倉さんの解説を聞きながら手にとって確かめて……。
結局、時間を忘れて2時間くらいお邪魔してしまいました(笑)。
並べられているのを見て美しいと鑑賞するのもいいですが、ひとつひとつのアイテムの背景を聞きながら手に取るとより距離が近づく感じがしますね。
アイテムと自分とをつなげてくれるオーナーさんの存在は大事!
このショーケースにこの店主あり!オーナーの個性が色濃く凝縮されたブースをご紹介。
ブースを見て回っていると、アイテムのセレクトにもオーナーさんたちの個性が反映されているのかなぁと感じさせられました。
このショーケースにこの店主あり!店主の審美眼で選びとられたアイテムも少しお見せしますね。
サングラスやカフス、カバンなどが並ぶ中に、帽子の名ブランド「
Borsalino(ボルサリーノ)」のハットも。
倉野さんも「これはお値打ちかも」と唸る、トータルスカーフのスカーフ。
Sirturday
もともとアメリカ・ボストンのヴィンテージ古着店で働いていた今井さん。現在は1950〜60年代のヨーロッパ各国のトラッドな物やワーク系のアイテムを中心に展開中。西はポルトガル、東は旧ユーゴスラビア圏、北はスコットランドや北欧、南はフランス、イタリアなど、旅しながら買い付けをしているそうです。「アンティークの知識は今もまだまだ勉強中。お客さんから教わることも多いんですよ」
Lisa Larson(リサ・ラーサン)の置物。帽子をかぶった坊やが店主に似ていると思うのは気のせい?
同じくリサ・ラーサンがデザインした、Ryttare(スウェーデン語で騎手)というタイトルのついた陶板。落ち着いた色味が特徴的。1967-86年製、スウェーデンのGUSTAVSBERG社のもの。
kara ten
60年代〜80年代の北欧雑貨を取り扱っているお店。日本でも人気の陶芸家リサ・ラーサンの陶器の置物も現在では販売されていないモデルにこだわってセレクトしているそう。「遠い異国でありながら、色使いや形にも日本の民芸に近いものを感じますね。昔のものでも古く感じさせないデザインが好きですね」
1930~60年代頃のクロコダイルレザーハンドバッグ。松本さんが発掘したときには、ダンヒルコンパクトも内部に入った状態だったそう。
ドイツSolingen シザー&レターオープナーのセット。真鍮ハンドルに、手彫りの模様が施された贅沢な仕上り。
C’est la vie ! Robin et B.R. Antiques?
「怪しいと思われるのも狙いのうち」というほど何だかただならぬ空気を放っていたブースがこちら。店主の松本さんは売れ筋のアイテムを扱うよりも、語りたくなるような物語をもっているものを紹介したいというこだわりがあるそう。
編集部Aが見つけた本日のお宝
全くの予備知識ゼロで訪れたアンティークマーケット。同行させてくれた倉野さんの知識や目の付け所に「まさに目利きの師匠」と崇めたくなりました。で、当の私はと言いますと店主の方々から聞くお話が新鮮でつい長い時間聞き入ってしまいました。もう少し予備知識があればさらに楽しめそうです。
そして、「わからないなりにも何か連れて帰りたい!」という欲望にかられまして、最後の最後に購入したのがこちら。イタリアの1970年代ごろのボタン。これ、木の土台から金属の枠を外したところに布や紙などの薄いものを挟み込めるようになっています。
本来は服地と共布で揃えるものだったのでは、ということですが、写真をはめ込んで使うこともできるとか。どんな(誰の?)写真を入れようかとイメージするだけでも楽しい気分になれる!
当時の生活スタイルや背景を感じられるモノを手元に連れて帰る、その感覚がアンティークマーケットの面白さなのかなぁと気づいた取材でした!
ーおわりー
終わりに
青山ウィークリーアンティークマーケットのレポートいかがでしたか? 毎週ごとに出店するお店も違うようです! つまり店主との出会い、アイテムの出合いも一期一会⁉︎ 外で過ごすことが気持ちよくなる季節、青山・表参道にお出かけの際はお買い物がてら是非覗いてみてください?