シルバーのティーセット。ひとりで姿勢を正し、紅茶を味わいたくなる相棒

シルバーのティーセット。ひとりで姿勢を正し、紅茶を味わいたくなる相棒_image

取材・文/廣瀬 文

Muuseo編集長・成松が自身の愛用品をひっそりと語るこの連載、今回は白銀に輝くティーセットについて。100年以上前に作られた銀器からは、背すじがスッと伸びるような歴史が感じられます。

ひとりの時間をより濃くするシルバーのティーポット

MuuseoSquareイメージ
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1日の始まりはミルクティから。コーヒーも好きでよく飲みますが、なくてはならないという意味では僕は紅茶党であります。

自宅には、紅茶のポットやカップなどいくつもの愛用品があるなかで、この銀器のティーセットは普段使いというより、ちょっと特別な存在。仕事漬けの日々にひと段落ついたとき、ちょっと嬉しい出来事があったとき。そんなタイミングでゆっくりとひとりの時間を過ごしたい場面で登場します。

だから飲む紅茶もちょっと特別。貴重なダージリンのファーストフラッシュ(一番摘みの茶葉)をその時だけはミルクも入れずにストレートで味わいます。

このティーセットではずせないポイントといえば、何よりもまず銀という素材にあります。シルバーならではの白銀の強い輝き、ずっと眺めていても飽きることはありません。

もちろんこの美しい輝きを保つためにはお手入れも大切です。ほったらかしにしているとすぐ曇ってしまいますが、ちゃんと手をかければ蘇ります。

クロスで磨いてだんだんと出てくる鏡面のような輝き。人によっては面倒くさいと感じるかもしれませんが、自分の手をかける楽しさはこの銀の素材ならではではないでしょうか。男というのはつくづく手のかかるものが好きなんだなぁ。なんだか前も同じようなことを言っていたような気もしますね(笑)。

このティーセットは英国製ですが、イギリスといえばティータイムの文化が根強く残るお茶の国、そしてはるか昔11世紀ごろから銀器の質を厳しく管理し保ってきた銀の国でもあります。

僕がここであれこれと語るのはおこがましいのですが、イギリスでは純度92.5%の銀を良質なものとし、スターリングシルバーと呼んでいます。それ以下でも以上でもスターリングシルバーとは認められません。その証は、”歩くライオン”のマークで銀器に刻印されています。銀の質だけではありません、年代や産地、メーカーにいたるまでが刻印から判別できてしまう。

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ちなみにこのティーポットの裏の部分には、

・歩くライオン(英国が保証するスターリングシルバー92.5%の証)
・豹の顔(産地がロンドン)
・f(文字の大小、フォントからおそらく1921年頃と予想)
・C&RC(メーカー名)

が施されています。この刻印から銀器のルーツを紐解くのも面白さのひとつですね。なぜイギリスが銀の国と言われるのか、歴史的背景などご興味のある方はぜひ文末でオススメする参考書籍をご覧ください。これ僕の銀器のテキストでもあります。

人生の先輩が教えてくれた、銀器の魅力

ティーセットとの出会いは僕が29歳の頃。当時よく通っていたカフェがあるのですが、そこには人生経験が豊富で独特の雰囲気をもつ年上の常連さんが何人もいました。

そのうちのひとりの方から「銀のティーセットで紅茶飲んだことある?全然違うんだよ」と言われたことが発端でした。一体何がどう違うのかという好奇心からすぐに確かめてみなくてはと思ったわけです。

銀器の展示会に足を運んで、いろいろと手にとって見ていた中でピンときたのがこのセットでした。

展示場には、アールヌーボー調のまろやかな曲線に豪華な装飾が施された品々が多く並んでいましたが、この一品は他とは又違った美しさを放っていたことが印象に残っています。

装飾が大げさすぎず程よく曲線を残したフォルム。僕が好きな銀そのものの輝きを堪能できるデザインだと感じました。木の素材が使われている持ち手と蓋は、デザインのアクセントでもあり経年変化による味わいもあります。1.5杯分ほどのお茶が飲めてひとりで楽しむのにちょうど良いサイズ感も決め手でした。

他のものよりは小ぶり、とはいえ純銀。それなりの金額。当時は清水の舞台からえいやっと飛び降りるような覚悟で購入したものですが、それから十数年以上の付き合いです。自分でもいい買い物をしたなと今しみじみ思っています。

このティーセットを手に入れるうえでイギリスの銀の国としての歴史や切り離せない英国の階級制度についてより深く知ることができました。

「時間をかけていつもより丁寧に、上質な茶葉で入れよう」。100年ほどもの時代を生き抜いてきたティーセットを前に、僕は姿勢を正して紅茶を味わいたくなるのです。そんな独特の佇まい、それが銀器を勧めてくれたひとが言う「違い」ではないかなと僕なりに解釈しています。

この夏、毎年の恒例行事にしている英国ひとり旅に出かけます。今回の旅行では、老舗のティーハウスを訪問し、骨董市での銀器探しもする予定です。それが今、何よりもの楽しみです。

ーおわりー

キッチンツールを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

銀器の刻印を判別するガイドブック

File

English Silver Hall-Marks

アンティークシルバーを購入するならば、ぜひ一冊は持っておきたいホールマーク辞典。作られた時代や場所を調べることでより銀器の世界を知ることができる。ポケットサイズのため、アンティークマーケットで持ち歩くのにも適している。

公開日:2015年7月4日

更新日:2021年11月25日

Contributor Profile

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廣瀬 文

オトナかわいい女性に憧れるアラサー編集部員。憧れの女史は、石田ゆり子さまと本上まなみさま。ずぼら脱却にお茶か日舞を習ってみようかと思案中。最近気になる被写体の組み合わせは「おじさんと犬」。

終わりに

廣瀬 文_image

編集長がこのティーセットでお茶をいれてくれたのですが、ひと口飲んで思わず出た言葉が「え、これ紅茶ですか?」。なんでも銀器で飲むときの特別茶葉はダージリンのファーストフラッシュ。発酵が浅く緑茶を思わせるようなみずみずしいフレッシュな味わい、そして薄みどり色(紅茶って茶褐色じゃないの⁉︎)。しかも50g 6,000円‼︎ このひと口がいくら分に相当するのか……とか下世話なことを考えてしまった私ですが、このティーセットで飲むひと時が編集長にとっていかに特別なものかを理解しました。編集長、今回の英国旅行ではティーハウスを巡ってアフタヌーンティーを満喫するそうです。私もお供してもいいですか〜?

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