対談「究極の触り心地を求めて」山縣基与志×今井吾郎

文/ミューゼオ・スクエア編集部

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日本文化を世界にプロデュースしているジャパノロジー・ミュージアム代表の山縣基与志さんと、ジュエリーデザイナー集団ZORROで働く今井吾郎さん。二人のコラボレーションによって握り石「Dharma」は生まれました。

ある作戦会議のこと。2時間の打ち合わせのうち、Dharmaが机の上に置かれている時間は10分にも満たなかったんです。誰かが机の上に置くと他の人が手にとる。その繰り返し。

山縣さんはオーダーだからこそこの触り心地ができたと言います。「触り心地」という感覚的な目標に向かって、どのようにものづくりを進めたのでしょうか?山縣さんと今井さんがじっくり話します。

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左:今井吾郎 右:山縣基与志

左:今井吾郎 右:山縣基与志

究極の触り心地をつくるために

山縣基与志(以下、山縣):既製品は企画者だけでなく、色々な人が意思決定に加わります。オーダーは頼んだ方がOK出さないと駄目じゃない。そういう意味では、本当に企画者の思いが完全に遂げられるのはオーダーじゃないとできないでしょう。今回大事にしたのは触り心地なんですが、その感覚的な要望に対して期待以上のものが返ってくる。そこが吾郎さんらしさですね。

今井吾郎(以下、今井):「やっぱりオーダーして良かった」と思っていただくために、ひたすら目の前にある仕事にベストを尽くすよう心がけているので、そう言っていただけると嬉しいです。普段オーダーいただいたジュエリーをデザインしたり製作する時は、自分を表現する事はありません。芸術作品を作っているわけではないので。あくまでお客さんが主役です。お客さんを中心にデザインし製作しますので、同じようなものを作るにしても作り方はその都度考えています。

山縣:同じようなものを作る時も。

今井:そうですね。ジュエリーのオーダーやリフォームのご相談をいただく際、お客さんの求めるデザインが似るときもあるんです。でも、お客さんがお持ちの石の大きさや、指輪のサイズ、好みのディティールの感じ、どんなシーンで使いたいか人それぞれ異なるので、作り方やバランスは毎回一つひとつ考えてベストな答えを探すようにしています。今回は、普段扱わないくらい大きいサイズの地金から作ったので新鮮でした。懇意にしている地金屋さんもびっくりしていました。

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山縣:今回のDharmaは居酒屋から始まったんだよね。僕が日々愛用している握り石「観音笑窪」をポケットから出したら盛り上がったので、「プラチナで作れない?」って言ったんですよね。無謀にも。

今井:私の感覚ですが、プラチナはヌメッとして触り心地がいいんです。なので思わずおすすめしてしまったのですが、真剣に考えてみたらプラチナの重さはシルバーの約2倍。それに、プラチナは粘りがあるので磨いても傷が取れにくく、磨きに長い時間かけないといけない。重いし金額的にもすごい額になる。一気に酔いがさめました(笑)。

山縣:金に糸目は付けないと言ったけど、冷静に考えたら銀が妥当かなと。

今井:ジュエリーだと金銀プラチナの3種類がよく使われます。金とプラチナは高級なジュエリーによく用いられるんですけど、銀はカジュアルにもなるしフォーマルにもなります。銀は毒で色が変わるので、銀食器には「毒を入れていませんよ」というおもてなしの意味があるんです。それに磨いていないと黒ずんでしまうので、「ちゃんと手入れしていますよ」という意味もある。銀は実用品なんです。

どの素材も長い歴史の中でジュエリーや身の回りの品に適していると判断されてきた素材です。そこには使われ続けるそれなりの理由があるのだと思います。そういう意味でも、銀は今回のDharmaにとても適した素材だと思います。

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山縣:日本は銀山があって銀は手に入りやすかったよね。かんざしや絵付けは銀で作られていたし、通貨でも使われている。

今井:まだプラチナやアルミが出回っていない時代、白い金属と言ったら銀でしたから。意外と銀は身の回りにあります。写真だって、銀塩フィルムには銀が入っていましたもんね。

山縣:昔は現像液の廃液を業者に渡すとお金をくれたんですよ。今は逆にお金を取るけど。

今井:現像液から取れる銀はわずかですからね。カメラと言えば、僕は山縣さんの影響でライカを使っているんです。昔、父の60歳の還暦のパーティーのときに来てくださったときに山縣さんが持っていたのがステレオカメラで。レンズが横に二つ並んでいて立体に見えるやつ。会場は普通のレストランで明るくもないし、わさわさしているのにステレオカメラを持ってきて撮影しているから、本当にカメラが好きなんだと思いました。

山縣:普通の写真は誰かが撮るでしょうから(笑)。まだデジカメすらなかったんじゃなかったかな。QV-10が出たくらいかな。やっぱり使って初めてモノの良さはわかるよね。例えば万年筆は「60年代のモノがタッチが柔らかくていい」と言われています。「本当かよ」と思うじゃないですか。これが使ってみると本当にいい。

今井:Dharmaができて取りに来られたとき、その足で飲みに行ってお店のスタッフに触らせて「これ、今日出来たの。いいでしょ」って触らせまくっていましたもんね(笑)。

Dharmaは天然もののたい焼き

山縣:どうせ作るなら、究極の触り心地を目指そうと「ザラツ研磨でぴかぴかにしてほしい」とオーダーしました。

今井:基本的には觀音笑窪をベースにしています。計測した時に観音笑窪を作った方たちのこだわりをビシビシ感じたんです。なので、それを踏襲しながら細部に銀ならではの加工を施しました。

山縣:観音笑窪の完成度が高いんですよね。観音笑窪もそれぞれ形に個性があったので、形を全く同じにしないようサイズを少し大きくしたり、表面はつち目にして側面や笑窪部分の鏡面と質感を変えてみたり。あと、面取りも表と裏で変えてもらいました。作り方は刀と似ていますね。たたいて形を作って、研ぐ。

今井:そうですね。研ぎに関していうと、最終的には指で磨いています。それこそライカレンズの手磨きみたいなものです。今はもう当然機械だけど、レンズも昔は手で磨いて作っていた。手は敏感で、機械では測れないくらい微妙なゆがみも感じ取ることができるんです。

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山縣:ジュエリーをオーダーする時、まず頭に浮かぶのはデザインじゃないですか。Dharmaはデザインももちろん希望の一つなんだけど、一番大事にしたかったのは触り心地だから、作るのは難しかったと思います。

今井:最初は全て鏡面にする予定だったんです。ただ、試作を作った段階で見ていただいたときに、つち目をいれたほうが質感もよくなるかなと。つち目を入れるなら、表面はあまり面取りしないほうが鏡面仕上げとの違いを楽しめるかなと思い提案したんです。それに「キャストじゃダメ。鍛造(たんぞう)で作って」と言うんですから。

山縣:キャストと鍛造だと感触が全然違うでしょう。キャストは気泡のような(す)が入るからここまでつるつるにならない。コストダウンにはなるのかもしれないけど、なんかつまらないでしょう。

今井:ジュエリーの作り方として、鍛造と鋳造以外に箱物という方法もあります。箱物は中を空洞にすることで軽く仕上げられるんですが、今回はずっしりとした感触を大事にしたかったんです。重くはなってしまいますが、この手触りは中が詰まっているからこそだと思います。

山縣:Dharmaも中が空洞で軽かったら全然違うものになっちゃいます。これは隅々まであんこがぎっしり詰まったたい焼きですよ。

今井:ずっしり感がね。幸せな気持ちになりますよね。

山縣:たい焼きだって中がスカスカだとがっかりするでしょ。最近はたい焼きも養殖もの(一度に6匹~10匹以上を焼き上げることができる鉄板タイプの焼き型で作られたたい焼きのこと)が増えてきたでしょう。Dharmaは天然もの(一丁焼きの焼きごてのような鋳型で手焼きしたたい焼きのこと)ですから。

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今井:いざお渡しして手元になくなるとなんか寂しくて。最初は実用品としては重いかなと思っていたんですが、いま考えるとモノとしての重量感があっていいなと。

山縣:この重さは無用の用ですよ。こういう無駄なもので文化が成り立っているわけです。

今井:そうなんですよ。

山縣:何でも効率的に考えて「役割がどうの」と言っちゃあ駄目。こういう馬鹿なものを作るのがいいんです。

—おわり—

ZORROが手がけた握り石「Dharma」はMuuseo Factoryのオンラインショップで販売しています。
くわしくはこちらからどうぞ。

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公開日:2019年12月6日

更新日:2020年1月22日

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ミューゼオ・スクエア編集部

モノが大好きなミューゼオ・スクエア編集部。革靴を300足所有する編集長を筆頭に、それぞれがモノへのこだわりを強く持っています。趣味の扉を開ける足がかりとなる初級者向けの記事から、「誰が読むの?」というようなマニアックな記事まで。好奇心をもとに、モノが持つ魅力を余すところなく伝えられるような記事を作成していきます。

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