これが令和の賢人の石!握り石Dharma(ダーマ)

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文/山縣基与志

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モノ雑誌の編集者として数多くの名品に触れてきた山縣基与志さんによる連載。前回の記事では、ストレスから解放されるための握り石「観音笑窪」を紹介しました。

おかげさまで多くの方に読んでいただき、記事を読んだ方から「触ってみたいです」「もう売っていないんですね」と声をかけていただくことも。

そんな声を知ってか知らずか、山縣さんは……なんと銀無垢で作ってしまいました。

信頼できる職人と作り上げる『握り石Dharma(ダーマ)』

「お〜凄い!来た、来た!こいつは堪らない〜」と手にした瞬間につい絶叫してまった。そう、待ちに待った銀無垢でオーダーした『握り石Dharma(ダーマ)』が、ついについに完成したのだ! 

前号で紹介した30年来の相棒である『観音笑窪』をさらに職人の手によって文字通り、磨きをかけて完成したのが、今回の『握り石Dharma(ダーマ)』である。素材は質感や感触、美しさを最重視し、比重や完成時の重さ、磨き易さ、コストパフォーマンスなどなど、吟味に吟味を重ねて銀無垢をセレクト。

何度も打ち合わせや制作途中でのチェックを重ねて、3ヶ月以上かかってようやく完成へと漕ぎ着けた。

MuuseoSquareイメージ

30年使って来た、セラミックとアルミ製の観音笑窪も素晴らしかった。だが30年間、筆記用具や車、カメラ、オーディオなどたくさんの優れたモノに触れ、さまざまな職人の話を聞いてくると、さらに心地良さを極めたくなる。そして何より、職人仕事が大好きな私は、信頼する職人と一緒にモノを創りたくなってしまったのだ。

このプロジェクトは友人でもあるジュエリー職人の今井吾郎さんと観音笑窪を肴に酒場で飲んで盛り上がったことに端を発している。

青山にあるジュエリーアトリエ「ZORRO」で働く今井吾郎さん

青山にあるジュエリーアトリエ「ZORRO」で働く今井吾郎さん

鍛造製法で実現された、こだわりの造形美と手触り

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銀無垢といっても溶かした銀を型に流し込んで作る鋳造(ちゅうぞう)と、延べ板を叩いて整形していく鍛造(たんぞう)がある。

鋳造はどうしても気泡のような(ス)が入ってしまい、いくら磨いても小さな孔が生じて、滑らかにならない。もちろん迷わず鍛造を指定。ただしこれが職人泣かせ。延べ板にも小さなスが入っており、これをひとつ一つ金槌で叩いて金属全体を締めて行く。叩くことで密度が高まり、質感もさらに向上していく。何日もかけて鍛造を繰り返し、成型しながらさらに叩き続ける。

私も何度か工房を訪れ、この叩く作業をやらせてもらったが、金床との隙間や角度がピタッと決まると叩いた時の何とも言えない金属との一体感。この快感は実際にやってみないとわからない。作業の工程を列記するとこんなにシンプルな『握り石Dharma(ダーマ)』にどれだけ手間をかけているかがわかる。

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『握り石Dharma(ダーマ)』製作工程

①地金発注→②ス消しのための鍛造・ヘラがけ→③厚み合わせ(削り)→④化粧槌目加工→⑤形状切り出し・削り出し・磨き→⑥ヒモ通し穴あけ・皿もみ・磨き→⑦窪み部分削り出し→⑧窪み部分磨き(カッター刃→砥石→#120→#180→#320→#400→#600→#800→#1000→#1200→#1500→#2500→#2500水ペーパー→ウイノール→青粉)→⑨コーナー角落とし・磨き→側面磨き
以上、大まかに10工程。時間をかけてじっくりと作業は進んで行く。

窪みの部分は微妙な曲面のアールを出すのに、さまざまな治具を探したり作ったりし、試行錯誤の末、最後はフランスのクリストフルのティースプーンにサンドペーパーを貼り付けて磨き込んだ。

窪みの仕上げは今回の『握り石Dharma(ダーマ)』のキモであり、この仕上がりが心地良くなければ意味がない。何度も磨いては指で感触を確認することを繰り返し、サンドペーパーの番手を少しずつ上げて行き、時間をかけて徹底的に磨きに磨き上げた。

こだわりは窪み部分だけではない。窪みの回りと裏面は槌目仕上げ。側面は鏡面仕上げ。面によって仕上げを変えることで、さまざまな感触が堪能できる。ピカピカの鏡面仕上げの滑らかな感触と槌目仕上げのわずかに抵抗感のある感触、それぞれをとことん楽しめるようにした。

窪みを擦ると得られる、銀無垢の代えがたい心地良さ

完成品を最初に手にした時の衝撃的な快感から毎日手に転がしてまだ1週間だが、快感は衰えるどころか日に日に増して行く。30年来のアルミ製が50グラム。セラミック製が70グラム。そしてこの銀無垢は175グラムとかなり重くなったものの、銀無垢のぐっと凝縮された質感と感触、そして快感は想像していた以上の出来映え。すでに何物にも代えがたい存在となった。

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手にするとまずはひんやりした感触。そして目をつぶり親指を窪みに当てて動かすと指先に感じる何の抵抗もない滑らかなヌラヌラした感覚。まるで硯で墨を擦ったり、刃物を研いでいる時の快感にも似て、すぐに心が晴れやかになり、無心になれる。

窪みだけではなく、裏面の槌目や側面の鏡面を撫でながら手で転がしていると次第に手の熱が伝わり、人肌となり、心地よさがじわじわと高まってくる。そもそも『観音笑窪』を世に生み出したオルファの創業者である岡田良男さんの思いと銀無垢を手間暇かけて叩き、磨き上げてくれた今井吾郎さんの作り手の思い、そして私の長年の使い手としての思い入れが結晶した私にとっては一生モンの傑作と言ってもいい。

人と人とが繋がるモノづくり

モノ作りはつくづく面白い。

想像し創造する喜び。形になって行く喜び、ワクワクと出来上がるまで待つ喜び、完成した喜び、使う喜び、持って眺める喜び、使い続ける喜びなどなど、既製品をパッと買うのとはひと味もふた味も満足感が違う。昔のモノ作りは基本的には誂えであった。工業製品ももちろん素晴らしい傑作もある。しかし自分だけのマスターピースを誂える贅沢に優る喜びはないだろう。

完成した日の夜はもちろん、制作してくれた吾郎さんとこのマスターピースを手に酒場談義。戦友ともいえる30年ものの観音笑窪2つと引き合わせて、取っ替え引っ替え手にしては微妙な感触の違いを堪能しながら、杯を重ねる。

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これぞ至福の時だ!モノとの邂逅が人と人とを繋げ、さらに新たな、より良いモノが作られ、美酒に酔う。こんなに幸せなことはない。また酒の肴になるモノが一つ人生に加わった。紐は正絹の組紐で作りたいなあ、ケースは京都の木具師の友人に頼もうか?はたまたイタリア製のタンニン鞣しの革で誂えるか?思いは限りなく広がる。

銀無垢の『握り石Dharma(ダーマ)』を手に転がしながら、たっぷりと時間をかけて考えよう。

ーおわりー

ZORROが手がけた『握り石Dharma(ダーマ)』はMuuseo Factoryのオンラインショップで販売しています。
くわしくはこちらからどうぞ。

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公開日:2019年12月6日

更新日:2021年7月14日

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山縣 基与志

人、モノ、旅をこよなく愛し、文筆業、民俗学者、プランナーとして活動中。日本全国の伝統芸能と伝統工芸を再構築するさまざまな仕掛けを展開している。

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