英国の伝統、スターリングシルバーとは?
スターリングシルバーとは、含まれる銀の割合が92.5%の銀合金のことを指す。
銀の性質上、純度100%の状態は柔らかく、加工や形状維持が難しいため、そこに銅や他の金属を混ぜている。スターリングシルバーの場合、7.5%の銅や他の金属が含まれる。
純銀以外の7.5%未満の含有率の金属を「割り金(わりがね)」と呼ぶ。この割り金によりスターリングシルバーには純銀と異なる、落ち着きのある光沢感に加えやわらかく温かい雰囲気が生まれる。
なお、銀合金に対して純度100%のシルバーは「純銀」と呼ばれる。
合金が入っているから純銀製品とは呼べないのではないか。決してそんなことはない。イギリスの法定では、92.5%以上銀が含まれている製品は純銀として扱うように決められている。ただ、日本では「純銀」という場合、混じり気のない銀のことを指すことが多いようだ。
なお、イギリス製の銀製品ーには、ホールマークと呼ばれる刻印が押されている。
写真:ミューゼオ・スクエア編集部
スタンダードマーク:純銀刻印
歩くライオン刻印
1544年に制定された。スターリングシルバー(純度92.5%の銀)であることの証明で、英国全土で共通の刻印。ちなみに、欧米の銀製品にはライオンの刻印の代わりに"SV925"、"925"、"STERLING"、"SILVER925"などのバリエーションがある。
ブリタニア刻印
古代ローマの昔から英国を象徴する女神ブリタニカを表す。ブリタニアスタンダード(純度95.84%以上の銀)を素材にしていることを表している。
アセイマーク:産地刻印
ロンドンのアセイマーク
ロンドン、シェフィールド、バーミンガムの3都市のアセイマークが主であるが、エディンバラ、グラスゴー、ニューキャッスルなど、他にも珍しい町のマークに出会うこともあるだろう(上の写真のアセイマークはシェフィールドのもの)。
デイトレター:年号刻印
検査が行われた年を表す刻印。枠の中のアルファベット1文字で、その銀製品が検査された年号を示す。一般的には、この年号をもって「製造年」としている。なぜ26文字しかないアルファベットで何百年もの年号を表示できるのかというと、書体を変える、大文字小文字を使い分ける、枠の形を変えるなどの工夫がされているからだ。その膨大なパターンを見分けるための年号一覧表が各種出版されていて、ホールマークブックと呼ばれている。
メーカーズマーク:製作者刻印もしくは工房刻印
原則としてフリーマン(親方)の名前のイニシャル2文字を図案化したもの。この刻印が存在するおかげで、時間と労力さえ惜しまなければ、その銀製品を作った職人(工房)の名前、刻印登録の年、その工房の所在地など、きちんと調べることができる。
こちらもメーカーズマークの一例。レイアウトや形状など、趣向を凝らしたものも多い。強力なギルドが残してくれた歴史的な遺産であり、英国銀製品の美点の一つだ。
デューティーマーク:徴税確認刻印
ジョージアン
贅沢品である銀製品は、昔から格好の課税対象とされてきた。1784年から1890年までの間に作られた銀製品にも課税され、この時は税支払いの確認の刻印が押された。
ヴィクトリアン
ジョージ3世と4世の時代には国王の横顔のシルエットが、ヴィクトリア時代になると、女王様の横顔が刻印された。
シルバープレートとスターリングシルバー。何が違う?
シルバープレートは、銅または真鍮などの金属に銀メッキを施したものを指す。純銀による銀製品の代替品として中世から作られてきた。
19世紀ごろまでは、シルバープレートは純銀を薄いシート状に伸ばし銅の本体に巻きつけるなどの方法で作られていた。1850年ごろには電気を使った画期的なメッキの方法が確立される。それが、「Electro Plated Nickel Silver」通称「EPNS」だ。
EPNSのベースはニッケル。その上に電気を使って銀メッキをかけてシルバープレートにしている。現在のメッキ銀器も、基本的には同じ技法で作られている。
使わなくなったシルバーアクセサリーや製造の過程でうまれる銀の削り屑は、精製して再び銀として生まれ変わる。銀メッキは銀部分が薄く、精製コストをかけて銀を換金することはほとんどない。
銀とスターリングシルバーの歴史
銀は金と同じく紀元前3000年ごろには人間に用いられていた。
ただ、当時は金よりも銀の方が圧倒的に高価だった。金は産出したあとそのまま加工できたが、銀はそのまま加工できる自然銀をみつけることが難しく、精錬が必要だったためだ。
紀元前3000年ごろのエジプトでは金に銀のメッキを施していたと言われている。ただ、精錬の技術が上がるに伴い、産出量の多い銀の価値は金と比べて落ち着いていく。
スターリングシルバーの起源を遡ると銀貨にたどり着く。760年頃から、のちの銀貨の基礎となる「銀ペニー」がイギリスで使用されるようになった。 その後、ノルマン朝初代の王、ウィリアム1世(在位1066~1087年)がこのペニーを継承。純度925/1000の銀を本位として採用した。
スターリングシルバーの「スターリング」の由来は、銀貨を鋳造していた「スターリング家」が元だといわれている。
すぐに実践!スターリングシルバーの黒ずみ落としの方法
シルバーの黒ずみの原因は硫化反応にある。シルバーには硫化ガス(硫黄ガス)と化学反応を起こし硫化銀の皮膜を作る性質があり、この硫化銀の皮膜が厚くなるにつれて黄色~茶褐色~黒への変色がみられる。
例えば、硫黄が含まれる温泉に指輪をつけて入ると、黒くなって出てくる。その性質を逆手にとり、硫化を活かして一部分を燻したアクセサリーも現在では作られている。
なお、シルバーは硫化により真っ黒に変色してしまったとしても、通常は内部まで硫化反応は起こらない。そのため、シルバー専用のクリーナー等でメンテナンスを行うことで、輝きを取り戻すことができる。
シルバーを手入れする製品は、液体タイプ、クロス(布)、ローション、スプレータイプなどがある。
汚れや黒ずみを簡単に取るには、浸けるだけの液体タイプのシルバー磨きが便利だ。
例えば、CNNOISSEURSのジュエリークリーナーは、10秒ほどシルバーをつけておき、洗い流すだけで黒ずみをとることができる。
ただ、シルバーについている傷を落としているわけではないので、小傷が入ったシルバーは光が乱反射して白っぽく見える。その場合、傷を消すために、研磨剤が塗り込まれた磨き布で磨くことで輝き始める。
それでも落ちないような傷が入っている場合、ウィノールなどの研磨剤をウエスにつけ磨く。すると、銀が削れてきてきれいな状態に戻すことができる。
磨き方にも注意点がある。まず、細かい擦り傷が付かないよう柔らかい布を使用する。磨くということは、銀を削りとって形を変えていることと同じことなので、磨きすぎには注意が必要だ。特にホールマークの部分や繊細な細工が施されている部分は消さないように気をつけたい。
スターリングシルバーの保管方法
シルバー製品が黒ずむのは空気中の硫黄と反応するため。スターリングシルバーは純銀と比べて黒ずみの進行が遅いとはいえ、少なからず黒ずんでくる。
空気を遮断し完全密封して保存しておくなど、できるだけ進まないようにすることは可能だ。また、シルバー製品同士を同じ袋に詰め込んでしまうとお互いがこすれ合って傷をつけてしまうので注意が必要。
100年も200年も前に作られ、大切に使われてきたスターリングシルバーは手入れをしっかりとすれば使って楽しむことができる。
1本のスターリングシルバーを手にしながら、それが作られた背景や使われてきた悠久の時に思いを馳せれば、より素敵な時間を過ごせるだろう。
ーおわりー
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