真夏の週末に開催された第25回日本テディベアコンベンション。なんと世界有数、アジアでは最大規模を誇る、テディベアが主役の大イベント。かわいくてメルヘンな雰囲気だけかと思ったら大間違い。実は大人達の熱い思いが込められていた。
今年のテーマは「テディベアにできること」。子どもから大人までを魅了して止まないテディべア。そんな彼らには一体何ができるのだろうか。
年に一度、日本全国、世界各地からテディベアが集結!
7月15日(土)・16日(日)に東京国際フォーラムで開催された、「第25回日本テディベア with Friends コンベンション 〜テディベアにできること〜」。国内外からテディベア作家が集まり、その場でテディベアの販売もしている。テディベア好きなら見逃せない、年に一度のテディベアの祭典である。
テディベアのかわいらしく平和的な雰囲気とは裏腹に、会場は熱気に溢れ、一言でいうと、圧倒された。けれど、熱心なコレクターでなくても気軽に楽しめる雰囲気でもあった。
私自身も子供のときはテディベアが好きで、ずっと隣にいるような存在だった。しかし、大人も楽しめるテディベアが主人公のイベントがあるとは、この取材に行くまで知らなかった。実際、この記事を読んで初めてテディベアコンベンションの存在を知った人も多いのではないだろうか。テディベアが大好きな人たちは全国にたくさんいるのだ。
いまや身近な存在となり、多くの人の心を掴んで離さないテディベア。しかし、どうしてテディベアが誕生したのかはあまり知られていない。ということで、熱い会場の様子を伝える前に、テディベアの名前の由来を軽く紹介したい。
時は1902年。アメリカでは当時、セオドア・ルーズベルトが第26代大統領として就任していた。彼は政治家としてだけでなく、探検家や自然主義者としても名声高かった。そんな彼はある秋の日に、趣味である熊狩りに出かけ、そのときに瀕死状態の熊に出会った。狩猟のチャンスであるものの、ルーズベルト大統領は「スポーツマンシップに欠ける」と言い、その熊を撃ち殺さず、助けたという。
その出来事がのちにワシントンポスト紙で美談として語られ、それを見たお菓子屋さんがクマのぬいぐるみを作り、ルーズベルト大統領のニックネームである「テディ」を使い、「テディベア」と名付けたことが始まりと言われている。
詳しくはテディベアが誕生した歴史。100年以上愛されつづけるテディベアの魅力とは?から。
会場の前では、ビッグサイズな動物のぬいぐるみたちが出迎えてくれた。小学生くらいの子供とパンダが同じくらいの大きさである。
ベア販売だけじゃない!イベントも盛りだくさん。
コンベンションでは、展示だけではなく、チャリティーラッフルやコンテスト等さまざまなイベントも時間ごとに行われていた。
まず会場に着いたときにちょうどやっていたのが、オークション。この熱気がまたすごい。
会場内に設置されたステージの上で司会者が「ここ、浅草の仲見世でやってるわけじゃなくてね、どこかの倉庫に眠っていたのを出してきたとかじゃなくて、ひとつひとつ手作りされてるものですからね、みなさんもう少し気を入れて…」と言ってしまうくらい、雰囲気はどこかの卸市場だった。
最初はやはり安い値段から始まるが、どんどん高額になるにつれて、微妙な駆け引きも垣間見られ、本格的なオークションだった。このオークションは誰でも参加できるので、たくさんの人が楽しんでいた。
オークションの他にはチャリティーラッフルも行われていた。チャリティーラッフルとは、寄付をして、その引き換えに抽選券がもらえる。もしも当たれば商品がもらえるという、お楽しみ募金である。この場合の商品とは、もちろん手作りのベアである。
1000円で3枚綴りの券を買うことができ、自分の好きなベアに投票していく、という形式だ。「もうこの子しかない!」と思ったら、3枚とも同じベアに投票してもよし、もしくは、1枚ずつ別々のベアに投票してもよしの抽選会だ。
ひととき、会場内の人が少し減ったな、と思ったら、そのときは抽選の発表時だったようで、会場内に設置されたステージのまわりにたくさんの人が集まって、自分の番号が呼ばれないかと待っていた。
テディベアコンベンションでは、ベアの販売だけでなく、テディベア製作のための材料も手に入れることができる。「ジャパンテディベア株式会社」のブースは、テディベアを作るための材料を手に入れるためのお客さんで賑わっていた。
店員さんに話を聞くと生地(毛)は本物のモヘアやアルパカで、合成のものはほぼないそうだ。やはりテディベアは手触りが大事なので、手作りする際に生地には特にこだわるようだ。やはり買い手の多くは女の人だが、年齢層は幅広いらしく、ここでもテディベアの大衆受けの良さを感じた。
テディベア作家・企業に聞く、その生活、ベア作りのいろいろ
イギリス・メリーソート社、サラ・ホームズ来日!
そして今年のコンベンションではなんと、イギリスの老舗テディベアメーカー「メリーソート社」4代目社長のサラ・ホームズが来場していた。
メリーソート社の定番ベアであるチーキーベアを購入すると、彼女からその場でサインがもらえるというファンにはうれしいイベントだった。
今回、幸運にも、独占取材という形でサラ・ホームズから直接話を聞くことができた。
彼女がこの業界に入ったきっかけを聞いたところ、メリーソート社は彼女の家族が経営していた会社であり、「社長になる前からずっと関わってきて、いわば生活の一部だった」ようで、会社に入ったきっかけ、というのはこれといってあまりないんだそう。彼女の父であるオリバー・ホームズが亡くなって、2011年に受け継いだ。
趣味としてテディベアを作っている個人作家がたくさんいるなか、会社としてテディベアを売ることで何かが失われそう、と思っていたが、会社といってもメリーソート社は小さな会社で、工場では、職人がひとつひとつ作っているので、何体も並んでいたチーキーベアたちもそれぞれ違う顔をしていた。
日本のテディベアファンとイギリスのファンとの違いを聞いてみると、興味深い回答を聞くことができた。
「日本人はこのチーキーベアのように、明るい色で、目が大きい子が好きだけど、イギリスでは、もっと濃い茶色で、伝統的なテディベアが好まれている」とのこと。
日本で人気のチーキーベア
イギリスで好まれる伝統的なロンドンゴールド
確かに、日本で見る人気のキャラクターなどはみんな目が大きくて、かわいい!という感じだけど、今回海外のテディベア作家の作品を見ると、海外出身のベアたちはもっと素朴な顔の子達が多いな、という印象を受けた。
会場を回りながら、気になるベアたちを見て、たくさんのテディベア作家の話を聞くこともできた。
趣味で始めたテディベア作りから25年。Apricot House ♥ I
「Apricot House ♥ I」 の岩﨑夫佐子さんは、25年ほど前に子育てが落ち着き、何かやるものがほしいと思いテディベア製作を始めた。新潟県の田舎町に住んでいるので、はじめは本屋で手に入れた趣味本の中にあったテディベアの型紙を使って作り始めたようだ。
25年経った今では、テディベアの毛のカットは慣れたものの、靴などの小物や、耳のつけ方は難しいと言う。テディベアのかわいい耳の絶妙なバランスは努力の賜物なのだ。
テディベア作りが本業!ROSE BEAR
以前にもミューゼオ・スクエアで紹介したことがある、ROSE BEARの吉川照美さん。彼女は数少ないテディベアを仕事としている人の一人である。もうテディベアを作り続けて30年という吉川さんだが、作っていて辛いということは「これが商売だから」あまりないんだそう。
テディベア作りが本業の吉川さんは、1日に2体はテディベアを作っている。手作りだからこそのあたたかみを届けたい、そして「目が合った運命の子を見つけて欲しい」という思いで作り続けているそうだ。
自分だけのスタイルを。アトリエ PEENATS
左右の色が違うオッドアイなこの目はイギリス製で、たまに配達時に割れてしまっているそう(笑)
こちらの「アトリエ PEENATS」の梶川勝さんのブースでは、犬や猫の人形が目立っていた。話を聞くと、あまりテディベアは作っていないらしい(笑)。ご自身で飼っていたこともあり、犬や猫のほうが身近だし、他の人があまりやっていないことをやろうと思い、犬猫の人形を作っているそうだ。
海外遠征こそテディベア作りの醍醐味。ニュージランドから来た、D’Lyell Bears
今度はニュージーランドからやってきた「D’Lyell Bears」のHeather LyellさんとRoy Watkinsさんのブースで足を止めた。
そんな二人はぬいぐるみ作りを商売としてやっている。仕事だが、とても楽しいと言っていた。この仕事をしていて一番いいことは、海外のコンベンションなどに参加できるから、海外によく行けることだそうだ。
ニュージーランドから一番近い外国であるオーストラリアでさえ3時間かかるというのだから、ニュージーランドに住んでいて海外が身近な存在であるということは旅行好きにとってはとてもラッキーである。
2体のはりねずみがくっついて丸くなっている。振ったりしてもまったく離れない。あるステップを踏まないと、この形にはならないし、解体の手順に沿わないと離れない。なんでくっつくかは秘密だそうだ。
ユニークなベアたちを発見!
ここから私が会場で出会った個性派ベアたちをいくつか紹介したい。
新品なのにアンティーク?Takuto
Takuto すがわらさん作のテディベア。まだ誰の手にも渡っていないはずなのに漂う「どこかに眠っていた」感。
それもそのはず、Takutoさんはアンティークフェアが好きで、10年以上前にアンティークベアが好きだけど高いので、自分で作り始めた。なので、何年も経っているような風合いを出したくて、わざと擦ったり、ほつれを作ったりしている。
Takutoさんのブースには渋かわいいベアの絵も置いてあり、「最初は絵から始めたけど売れなかったからベア作りにした」と言っていたが、私はいくつか集めて置いておきたいと思うくらい、色合いが独特で素敵だった。
わざと表面を擦って、アンティークベアのような風合いを出している
手前中央にあるのが、Takutoさんの絵
娘の七五三を思い出して。Natural Bear
こちらは「Natural Bear」の潮恵子さんの作品。明るい色の着物を着ているのがかわいい。
ご自身の娘さんが七五三のときに着た被布をモデルにしている。元々は自分がテディベアコレクターだったが、それが高じて自分好みのものを作りたいと思い、テディベアを作り始めたという。自分の娘の七五三を思い出すような、懐かしい、と思ってもらえるテディベアを作り続けている。
背景から靴まで、他にはない世界観を完全に表現。Marchee Bear
この独特な世界観に包まれたベアは、「MarcheeBear」のBon Bon ま〜ちぃさんの作品。ガンダルフのイメージで作ったというこのベアは、よく見ると歯をくいしばっていたり、旅人のガンダルフということもあって、手作りの革靴も履いていて、あらゆるところにこだわりがみられる。
それだけ手が込んでいるとあって、作るのにもかなり時間がかかったようで、型紙を3~4回も作り直したそうだ。背景もイメージに合わせて選び、ここだけ他とは違う雰囲気を感じることができた。
多くのテディベア作家に共通して言えることが、どの方もテディベアを本物の生き物のように扱っている、ということである。「このテディベアはもう売れてしまった」とは言わず、「この子は行くお家が決まった」という表現をする人が多い。とても大事にしているのがよくわかる。
テディベアは一生の友達。
今回のテディベアコンベンションのテーマは「テディベアにできること」だった。
答えは一つではないが、メリーソート社社長のサラ・ホームズがこんな答えをくれた。
「テディベアは一生の友達となってくれる。辛い時もうれしい時も、あなたのそばにいてくれる、そんな存在」
私の小さいころから一番のお気に入りのぬいぐるみも、目があったあの時からずっと一緒。そんな子に再び出会うために、そしてまたテディベアのぬくもりに触れたくて、人々は運命のテディベアを探しに、このコンベンションにきっと来るのだろう。
ーおわりー
終わりに
誰もが一度は持ったことがあるであろうテディベア。大衆的人気があるのは知っていたけど、まさか、こんな大々的なイベントがあるとは…会場内は「かわいい!」が溢れていて、いるだけで幸せな気持ちになった。気になったベアの作家さんたちといろいろお話しできるので、見つけたベアにとても愛着が湧いて、ずっと大切にしたくなりそう!私も、いつでもぎゅっとできる存在が必要になったら、手作りのテディベアに助けてもらうことにしよう。