自然に囲まれたテディベアの博物館は、半世紀以上を生き延びたテディベアにとっての安住の地だった
伊豆テディベア・ミュージアムを訪れたのは11月、秋晴れ。
自然に囲まれた博物館の第一印象は、「英国の田舎にありそうな邸宅」である。レンガ造りの外壁に大きな鉄の門、広々とした中庭には大きなお茶を楽しめるテーブルがある。(後から聞いた話であるが、外壁のレンガや内装のオーク材は、英国から取り寄せていた。)
敷地内の中央にある木造二階建ての建物が展示室になっている。私が訪れた時には、1階でテディベアの展示、2階でスタジオジブリとコラボレーションした「となりのトトロ ぬいぐるみ展」が実施されていた。
展示室を入ると、すぐにアンティークのテディベアが出迎えてくれる。1960年以前に作られたテディベアーが壁一面に並んでいるのだが、驚かされるのがその”状態の良さ”である。テディベアは、一般的には飾るものではなく子供が触って遊ぶものである。なので、アンティークのテディベアも、昔は誰かの所有物であり、傷がついたり汚れているのが普通である。そして、物によっては修復を繰り返し、何世代にも引き継がれていく。それなのに、ここまで良い状態でアンティーク・テディベアが保存されていることに驚くと同時に嬉しくなる。
1箇所に並んで展示されているので、「Steiff(シュタイフ社)」「J.K.ファーネル社」「チルターン社」などの会社の違いや、年代の違いなどで比較しながら眺めることが出来るのが嬉しい。
そして、アンティーク・テディベアの展示の最後に「テディーガール」がいる。シュタイフ社が1904年に製作したテディーガールは、110年以上の月日を過ごしてきたとは思えないほどの、綺麗な状態を保っている。その愛くるしい表情には、”あたたかみ”を感じるのである。
1904年に作られたとは思えないほど状態が良い「テディーガール」
TEDDY GIRL(テディーガール)の歴史
英国の故ボブ・ヘンダーソン英国陸軍大佐(1904〜1990)は、大のテディベア好きで有名。シュタイフ社が1904年に作った「テディーガール」を可愛がり、幼少期の頃からどこへ行くにも一緒だった。第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦の際にも連れて行ったという逸話があるほどだ。
時が経ち、1994年12月5日、ロンドンで世界的に有名なオークション・クリスティーズにて「テディーガール」が出品され、110,000ポンド(当時の円換算で約2000万円)の価格で伊豆テディベア・ミュージアムが落札したのだ。その価格は、現在もアンティーク・テディベアの分野で世界最高額として記録されている。
ミュージアム内は、全て写真撮影がOK。テディベアの可愛さを”シェア”したくなるミュージアム
伊豆テディベア・ミュージアムの展示を見ていて、いくつかの特徴に気づいたので紹介したい。
1:テディベアの展示に動きを取り入れている
ミュージアムには、3つの動く展示がある。遊園地を想像させる「TEDDY BEAR LAND」、列車旅の「TEDDY BEAR EXPRESS」、テディベアを作る工場の「TEDDY BEAR FACTORY」である。動きがあることで、テディベアの表情が変化して見えるから不思議だ。まるで、映画のワンシーンを見ているかのように、リアルな情景を想像できるのである。
中でも印象的なのが「TEDDY BEAR FACTORY」。工場の中では、X'masにサンタさんが世界中の子供たちにテディベアをプレゼントするという設定で、テディベアがテディベアを作っている。
テディベアの名前の由来である、第26代大統領セオドア・ルーズベルトの肖像画
2:テディベアの歴史が分かるようになっている
ミュージアムでは、テディベアを展示しているだけでなく、テディベアの歴史も学べるようになっている。「どうして”テディベア”という名前が付いているのか?」この疑問に応えるような形で、米国ルーズベルト大統領の紹介と、彼にまつわる品々も展示されている。
3:世界中のテディベア作家による個性的なテディベアを幅広く展示している
館内の構成は簡単に分類すると、「アンティーク・テディベア」、「動くテディベア」、そして、「テディベア作家のテディベア」が展示されている。テディベア作家の手作りの作品は、工場で作られるテディベアと異なり、一点、一点に個性が強く反映されており、手のひらサイズの小さなテディベアから、着物姿のテディベアなど日本をイメージしたものまで存在する。少し残念なのが、完成したテディベアのみ展示されていること。できれば、個性的なテディベアが作られるまでの過程を知りたいと思った。
4:館内の写真撮影が全てOKである
一般的な博物館は写真がNGなのだが、伊豆テディベア・ミュージアムでは館内の展示が全て写真撮影OKなのである。ここで強調したいのが、テディベアは「フォトジェニック(写真映えする)」なのだ。見た目の可愛らしさや、愛らしい表情を写真で撮影して、FacebookやInstagramなどでシェアすると、必ずと言っていいほど、「いいね!」がたくさん貰える。
ひょっとしたら、私の周りでSNSを利用している人は、料理の写真や夕焼けの写真に飽きて、テディベアの写真に癒されたいのかもしれない。。。
テディベアが100年以上、世界中で愛され続ける理由とは。
伊豆テディベア・ミュージアムの広報担当である宮下さん
宮下さんお気に入りの作品。細かい装飾品も全て手作り
伊豆テディベア・ミュージアムのユニークな展示方法に関して、広報担当の宮下さんに尋ねてみた。
「ミュージアムでは、”動き”を取り入れることで、大人だけでなく子供も楽しめる展示になっています。そして、館内には実際に触れるテディベアもあるので、その”ぬくもり”を実際に肌で感じてみてください。
そして、当館のシンボルである『テディガール』や、アンティークのベアをじっくりと観てもらいたいです。テディベアは女性が中心というイメージがありますが、男性の場合は、テディベアの歴史、例えばテディベアの名前の由来を知ることで興味が広がると思います。」
このように語る宮下さんは、この仕事に就くまではテディベアの存在を強く意識をしたことはないが、今ではテディベアの魅力である ”ぬくもり”、”あたたかみ”に心を惹きつけられ、テディベア文化をさらに発展させたいと尽力しているのである。
テディベアを利用した社会活動とは?
テディーガールの持ち主であった故ボブ・ヘンダーソンは、テディベアが人々の心を癒す能力があることに気づき「Good Bear of the World(グッドベア・オブ・ザ・ワールド)」という活動を始めた。これは、養護施設や病院、介護施設などで心のケアを必要している人に、テディベアを送る活動である。世界中で展開されているこの活動は、実際の効果も数多く報告されている。
ちなみに、伊豆テディベア・ミュージアムでは1995年のオープン以来、毎年、テディベアの日である10月27日(ルーズベルトの誕生日にちなんで制定された)に、近隣の養護学校、保育施設にテディベアを贈っている。
”ぬくもり”を求めてテディベアに会いに行くもよい。
”いいね!”を貰うために、テディベアの写真を撮りに行くもよい。
“疲れ”を癒しに、伊豆の温泉の帰り道に立ち寄るのもよい。
どのような目的でテディベア・ミュージアムを訪れても、そこには愛くるしいテディベアたちが笑顔で出迎えてくれるはずだ。
ーおわりー
伊豆テディベア・ミュージアム
1995年にオープンした日本初の本格的なテディベア・ミュージアム。
1960年以前に作られたアンティーク・テディベアや、世界中のテディベア作家が作った1点物のオリジナル・テディベアなどが数多く展示されている。また、館内では動くテディベアや、触れるテディベアもあるので、小さな子供から大人までが楽しめる。そして、館内は写真撮影が全てOKなのが嬉しい。
館内には、自然にたっぷりの中庭、休憩できるティールーム、テディベアが購入できるショップもあるので、ゆったりと時間をかけて楽しめるミュージアム。
終わりに
欧米では、生まれた子供にテディベアを送る習慣があるそうで、長い時間を一緒に過ごしたテディベアは、その人にとって兄弟であり親友になるそう(日本で言うと、ドラえもんのイメージかな?)。少子化になっている日本にとって、テディベアの重要性が高まるのではないでしょうか。僕も、子供の頃にテディベアと友達になりたかった。