イギリスの鉄道模型ならではの魅力。同じ島国でありながら、日本と異なる鉄道事情に惹かれて

取材日: 2017年7月4日

取材・文・写真/篠原 章公

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人々を、乗せ世界中を走る列車。国や地域ごとの特色豊かな鉄道文化を反映するように、また鉄道模型の世界も奥が深い。今回は日本でも数少ないイギリスの鉄道模型の愛好家、上原さんにその魅力を語っていただいた。

コレクション・ダイバー【Collection Diver】とは、広大なモノ世界(ワールド)の奥深くに潜っていき、独自の愛をもってモノを採集する人間(ヒト)を指す。この連載は、モノに魅せられたダイバーたちをピックアップし、彼ら独自の味わいそして楽しみ方を語ってもらう。

“迷”列車「APT-P」との出会いが、英国の鉄道へ魅せられるきっかけに。

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上原さんは少年のころからの鉄道愛好家。しかし、英国の鉄道に特別な想いを感じるようになったのは、ここ数年のことだという。

「興味をもったのは2~3年前に、ネット上でアマチュアの方がつくった英国列車の紹介動画を観たことから。元々国内の車両を中心に多くの鉄道模型を所有していたのですが、近年はラインナップも多く、これはキリがないなと感じたことから、かなりのコレクションを整理して半ば引退状態の時のことでした」

関連する洋書にあたり、その歴史を学ぶほど熱中。「APT-P」は上原さんにとって特別な列車だ。

関連する洋書にあたり、その歴史を学ぶほど熱中。「APT-P」は上原さんにとって特別な列車だ。

「その動画では1970年代末に登場した「APT-P」という車両が紹介されていたのですが、これは英国国鉄が開発していた、先進旅客列車の試作車にあたります。日本でいう特急列車、都市間を結ぶ高速列車になりますね。振り子の原理を使って速度を落とさずカーブを曲がるなど、当時としては実験的な技術を盛り込んだこの車両は、試験運用までこぎつけるもトラブルが頻発。結局日の目を見ることはありませんでした」

「しかし、その後特許の売却があり、他国でその技術が活かされるなど、「APT-P」は後の列車に少なからず影響を与えています。実際に人を乗せて活躍した列車ではありませんが、現在に至るまでの数々のエピソードを知るうちに感動を覚え、この列車に惹かれていきました」

解説:英国鉄道模型とは?

英国は世界で初めて蒸気機関車の運用に成功した国であり、その普及とともに鉄道模型も制作されるようになった。1921年に1/76縮尺のOOゲージが発売され、これは現在でも英国で最も普及している規格である。日本においては愛好家に馴染み深いNゲージのものも多数輸入販売されており、日本の車両同様、走行させ楽しむことができる。

希少なデッドストックを皮切りに、多くの車両を収集。

模型の購入も、やはり「APT-P」が最初の車両だった。

「2015年に行われた鉄道模型の祭典「JAM国際鉄道模型コンベンション」で印象的な出会いがありました。HORNBYの代理店である「メディカル・アート」ブースに、1984年に製造された「APT-P」のデッドストック(未使用品)が並んでいたのです」


「その場では購入に踏み切れず、もうないものと思って1ヶ月後に店舗を訪れると、まだそこに現品がありました。熟慮の末購入し、それからはまた新しく鉄道模型を始めるような心持ちで、少しずつ車両を収集しています」

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上原さんが最初に購入した英国鉄道模型1984年製HORNBY「APT-P」。振り子の原理を用いてカーブを曲がる様も再現されている。

「NゲージとOOゲージのものを合わせると、現在所有しているのは30種類程度。あまり枝葉を広げすぎないように、興味を持った客車列車を中心に購入しています」

上原さん所有の英国鉄道模型をご紹介

RAPIDO TRAINS製 locomotion「APT-E」

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英国王立博物館の名を冠した、RAPIDO TRAINS製の「APT-E」。2016年に2000セット限定で販売された。「APT-E」はガスタービン式で、1970年代前半から中ごろにかけて試験走行を重ねた。環境基準をクリアできないなどの理由から、試作車としての役割を終えた後は、この後登場する「APT-P」へとその役目を引き継いでいる。

BACHMANN TRAINS製 “Scott Tracy” Virgin Trains「Class57」

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電化されている区間、されていない区間が入り混じった英国特有の鉄道事情の中、非電化区間を走行したディーゼル車両。現在、このカラーでは走行していない。

HORNBY製 BR INTERCITY 125 HST「Class43」

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東海岸本線などを走る高速列車、HSTの運行開始40周年を記念してリリースされた1000台限定モデル。「125」は最高時速125マイル(約200km/h)を表しており、これは無煙・非電化車両では当時最速であった。現在も非電化区間を中心に現役で運行している。

GRAHAM FARISH製 「MIDLAND PULLMAN」

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60年代を中心に都市間輸送列車として走行した「MIDLAND PULLMAN」。上原さん所有のものはスペシャルコレクターズエディションの名でリリース、トレインクルーや当時食堂車で使われたメニューなど、細かな仕様にこだわった豪華版。

英国特有の鉄道事情から生まれた、数々の列車に触れて。

愛好家の多い鉄道模型の世界でも、英国に限って収集する方はごく少数なのだそうだ。

「愛好家同士で話していると、「えっ、イギリス⁉」と驚かれることも。製品がリリースされていること自体を知らない方もいらっしゃいますし、日本ではそれだけ少数派になるのかなと思います。私自身、ネットだけでは情報が少ないので、洋書を読むなどして勉強しながらコレクションを充実させている最中になりますね」

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ここで、改めて英国鉄道模型の魅力について語っていただいた。
「英国は2度の大戦で鉄道インフラが破壊されなかったことや、国鉄が長らく低予算でやってきたことから、日本などとは違い未だに電化されていない区間が多くあります。また、海岸線を走る車両は覆いかぶさる波に負けない耐久性があるなど、運行する車両の背景事情はいかにも特徴的。日本と同じ島国でありながら、全く違う系譜を辿って進化してきたというのが、私はとても魅力的に感じます」

上原さんは数ある車両の中でも、特に高速列車に魅力を感じているという。
「英国の鉄道模型に惹かれる発端が「APT-P」だったというのもありますが、「APT」「HST」といった高速列車の系譜を充実させていきたいと思っています。英国は懐古主義な一面が強く、引退した車両も数多くリリースされているので、勉強しながら手に入れていきたいですね。2018年からは日立製のハイブリッド車両も運行がはじまりますので、最新事情もチェックしていきたいです」

鉄道模型を通して、その国の地理的な事情や、車両が開発された経緯が見えてくる。
異国の地に想いを馳せながら、車両に潜んだドラマとともに模型を愛でるのは楽しいひとときに違いない。

―おわり―

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