国産万年筆ブランド3社比較!セーラー、プラチナ、パイロットの個性はここにある

取材日: 2017年2月28日

文/飯野高広
写真/佐々木孝憲

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日本が誇る万年筆ブランド、セーラー、プラチナ、パイロット。「機能そして使用面において優秀極まりない!」と絶賛するのは、服飾ジャーナリストであり万年筆愛好家・飯野高広さん。今回は日本国内3大ブランドを比較!ブランドの個性について、熱くそして時にマニアックに語ります。

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黒ボディ×金トリムの万年筆 (通称:仏壇万年筆)の話を以前書いた際、読者の方からこんなご質問が寄せられた。
「飯野は日本メーカー製の万年筆は使っていないの?」あ、確かにあの時紹介したのは海外メーカーのものばかりだ……。

もちろん日本のブランドのものも、各モデルの個性を自分なりに見極めた上で同様に使い込んでおりますぞ!
筆記途中の窒息(突然インクが出なくなる状態のこと)や携行中のキャップへのインク漏れなどは絶対に起こらないなど、基本性能は海外のものより明らかに高い。

軸のデザインはもっと洗練させて欲しい(これこそ唯一かつ決定的な課題)とか思いつつ、私にとっては実用最重視の頼れる道具的な存在である。用途をはっきり絞り込んだ上で購入しているのは、どちらかと言えば気分や雰囲気で選びがちな海外メーカーのものとは対照的だ。

今回はそのような中から、私の思い入れの深い6本をチョイスしてみた。なお、そのうち4本はまたしても、仏壇(爆)。

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隙のない抜群の安定感、Pilot(パイロット)

2018年で創業100周年を迎えるパイロットは、国産万年筆メーカーの中では会社の規模が最大。精緻な品質は早くから海外に知れ渡り、戦前の段階でイギリスのDunhill(ダンヒル)が軸に漆塗りの蒔絵を施したものをここに委託生産させていたほどだ。

Hermès(エルメス)が2014年に出した万年筆・Nautilus(ノーチラス。小説「海底二万マイル」に登場するノーチラス号をイメージして作成)も、デザインはともかく製造はパイロットで、ここが1960年代に開発した「ペン先をボールペンのように出し入れする」=キャップレスの応用編。

通常の自社ブランドのものも当然ながら品質に隙がなく、その意味では車に例えるとToyota(トヨタ)車のような存在だ。

ペン先に金を使った万年筆を初めて購入するなら、絶対間違いのないメーカーだと思う。ただ、だからこそだが「私情」の入る余白はあまり感じられず、正直使っていて私的には気分がグンと盛り上がることは少ないかも。それが敢えて不満と言えば不満か。

宛名書きに最適。Custom743 Cニブ

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パイロットのメイン商品であるCustomシリーズは、エントリー編のCustom74から最近出た大型の漆塗りモデル=Custom URUSHI(カスタム 漆)まで多様なバリエーションを誇る。

因みに後ろに付く数字は、上2桁が創業何年目に販売を始めたか、下1桁は価格帯を示し(例外も多いが)、つまりこれは3万円バージョン。

ペン先の「C」はCoarseの略でFine(細い)の反対=極太を意味する。この価格帯の他の商品に比べ、ペン先全体がボディに対して大きめなので、書くときにどこに筆を運んでいるか確認しやすい。また、持った時のバランスも個人的には好みである。例えば正確に読み易い大きな字で封筒に宛名書きをキッチリ要する際には、このペンと同社のブルーブラックの組み合わせしかあり得ない!

パイロットらしからぬ洗練の美! Custom Legance(旧モデル) Mニブ

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今から6年ほど前、銀座の中古カメラ店・レモン社をフラッと覗いた際、軸の美しさで衝動買いした一本。

Customシリーズの中でLegance(レガンス)は軸にマーブル模様の樹脂を用いたものの呼称で、これにはイタリア製の樹脂が使われている。

とにかく飽きずボーっと見ていられるほどの綺麗さなのだが、どうもこの樹脂、残念ながら強度に問題があったようで、現行品では国産の樹脂に変更され、軸の形状も変わってしまった。

改善を常に的確に行ってくれるのは国産メーカー、ことさらパイロットの素晴らしさでもあるのだが、美しさは現行品より断然、こっちなんだよなぁ……。色が色なので、夏場の出番が多くなりがちだ。

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広島出身らしい「熱さ」を感じるSailor(セーラー)

3社の中では最も歴史が古い1911年創業のセーラー。長男的な存在でありながら、世の中の空気を察し、失敗を恐れず手早くチャレンジする姿勢が旺盛で、「石橋を叩いて渡る」パイロットとは正に好対照である。

定番品の軸色を変え数量限定で生産する各地の文房具店向けのオリジナル万年筆や、もはや予約制になるほどの盛況と化したインクのパーソナルオーダー「インク工房」など、最初に個別性に活路を見出したのもここ。

ペン先でも他社では絶対に考えつかないユニークなものをこれまで数多く生み出し、「そこまでマニアックに攻めなくても……」と笑いを越して、ついつい心配になってしまうほどだ。

ノリと言うか波と言うか、一気呵成の熱さを感じさせてくれる点では、日本車では同郷のMazda(マツダ)の車と相通ずるところがあるかもしれない。

縦書きには絶対コレ! Profit21 長刀(なぎなた)Mニブ

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名前の通りペン先に14金でも18金でもなく21金を使ったこのモデルは、中字のペン先ながらその先端に「長刀研ぎ」と言う特殊な研磨が施されているのが一大特徴。

漢字文化圏特有の「縦書き」との相性が抜群で、21金特有のややソフトな感触とも相まって、その際の「ハネ」や「ハライ」がリズミカルに決まり、使っていていつもニヤけてしまう。

ただし長刀研ぎ系のペン先は、評判は国内はもとより海外、特に中国語圏の万年筆ファンに広く知れ渡ってしまったようで、近年大量のバックオーダーを抱え込んだ結果、当分の間流通在庫品のみの販売となってしまった。

日頃縦書きメインの方なら、見付けたら即買い!

最近はこれでサイン書いてます(笑)甲州印傳万年筆・鞘形 長刀ふでDEまんねんニブ

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ズバリ、今回ご紹介する中では一番の特殊系。

軸は真鍮に甲州の伝統工芸・印傳の鹿革を巻いたもので、紳士靴が守備範囲の書き手として絶対持っておくべしとの思いで購入した。フワッと温もりのある感触がタマラナイ……。軸の形状、そして重量の前後バランスも国産万年筆の中ではダントツに私の好みだ。

また、「ふでDEまんねん」なる冗談のような名前を持つ反り返ったペン先もユニーク極まりない。持つ角度で中字から超々極太字まで多彩な線が描けるので、万年筆をあまり知らない人に使わせてあげると必ず喜んでくれる。

なおこのペン先も目下販売は流通在庫品のみ。早急な復活を期待せずにはいられない。
(飯野註:この万年筆は本来ならニブは「MF(中細)」しか購入時には選択不可能。私が持つペン先に互換性のある他のセーラーのものから付け替えて使っている。)

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こんなのまだ序の口。セーラーの特殊ペン先

写真上から、①通常のMニブ(一世代前のもの)②長刀Mニブ③長刀ふでDEまんねんニブを並べてみた。

①通常のMニブ

①通常のMニブ

②長刀Mニブ

②長刀Mニブ

③長刀ふでDEまんねん

③長刀ふでDEまんねん

①に比べ②はペン先の最先端(ペンポイント)が弓状に尖っているのがお解りいただけよう。この前のめりな形状のお陰で、「縦書き」がより快適になる訳だ。

③のエビ反り状態は欠陥でもトラブルでもなく、加減が分かるととても重宝する。

なお、セーラーはペン先の下にある櫛状の「ペン芯」の、インクを供給し保持する性能も世界最強レベル。②③のようなペン先の性能を最大限に引き出す影の立役者だろう。

特殊ペン先は他にも色々とあるのだが、目下全て販売は流通在庫品のみ。早く帰って来てくれー!

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手堅く、しかもアグレッシブなPlatinum(プラチナ)

3社の中では最も若い、と言っても1919年創業のプラチナは、数年前まではこの中では最も地味で燻し銀的な立ち位置だった。

工芸性の強いものはともかく、通常の樹脂を軸に用いたノーマルな大型仏壇万年筆が未発売だからかもしれない。

ところが社長が3代目に変わって以降、常に話題を生み出し続けるメーカーへと一気に変貌! 切り込み隊長になったのは、長期的に使わなくてもインクが固化しにくいよう、キャップの内部に新機構を搭載した万年筆・3776Centuryだ。

つい先日も、今日ほとんど見なくなった「元来のブルーブラックの原理」を応用したインクを敢えて6色も発表し、大人買いを続出させている。

ファミリービジネスならではの分を弁えたメリハリある製品作りとマーケティングで、自動車メーカーのSuzuki(スズキ)のような存在になりつつある。

校正用に重宝する President UEFニブ

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価格と性能のバランスに優れた3776Centuryの登場で影が薄くなってしまったが、それより少し大きなPresidentも、シャキッとした筆さばきが味わえるこのメーカーらしい良品。

ペン先はUEF=Ultra Extra Fineつまり極細より更に細い超極細。このレベルの細さのペン先を定番として製品化できるのは、世界でも今回ご紹介する日本の3社のみ。

各社毎に面白い工夫があるのだが、個人的にはこれが最も素直な書き味に感じ、購入に至った。細かいところにチマチマ書く、と言えば私の場合は専ら原稿の朱入れであり、本来なら赤系のインクを用いるべきなのだろうが、ついついブルーブラック系のものを入れてしまいがち。

カッコイイ字が書ける! 3776(旧モデル) Musicニブ

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超極細系と並び、事実上国産3社の独占場なのがこのミュージックニブで、プラチナとパイロットのものはインクの出るスリットが2本ある構造が特徴だ(セーラーのものは1本)。本来は読んで字の如く楽譜を書く際に最適化させたペン先だが、カリグラフィー的な文字や縦太横細の明朝体的な文字が簡単に書けることもあり、隠れファンが多い。このペン先もプラチナのものが個人的には一番相性が良く、趣のある太字を書きたい時に活用している。因みにこれは一世代前の3776で、現行の3776Centuryの仏壇モデルでもこのニブが付いたものがあるはずなのだが、流石に製造数が限られているようでなかなか見つからない。

縦書きが気持ち良く書けるのはセーラー⁉︎ 国産万年筆6本で縦書きのしやすさを比較。

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さて恒例のマトリックスだが、せっかくの国産万年筆だし、日本語特有の「文字を書き進める向き」で考えてみた。いずれの6本も、海外メーカーのものに比べれば明らかに縦書きは得意なのだが、この中ではやはりセーラーの長刀研ぎ系がその際に最も心地よく感じる。なお、これはあくまで個人的な相性であり、ペン先やペンそのものの優劣を示すものではないので、くれぐれもご注意いただきたい。

優秀極まりないパイロット、セーラー、プラチナの万年筆。さらに欲を言うならば…。

国産の3社の万年筆は、とにかく道具としては個体差も少なく優秀極まりない。1万円台でも必要十分なものが買えてしまうのは何しろありがたいし、メーカー側の努力と探求心には本当に頭が下がる。

だからこそ、前述したHermèsのNautilus(オーストラリアのマーク・ニューソンによるデザイン)やドイツのLamy 2000(ドイツのゲルト・アルフレッド・ミュラーによるデザイン)のような、軸の造形にもっと独創的かつ普遍的なものがあると一層、ファンになれるのだが……..。

厳しい言い方になるが、そういうものが生み出せないのは作り手だけではなく、実は我々・使い手の側にも原因があるのかも?

-おわり-

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