エンジン車はどうなってしまうのか?「Renault ARKANA、PEUGEOT 308、Volkswagen Golf」

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取材・文/金子浩久、写真/金子浩久

2021-2022日本カー・オブ・ザ・イヤーで選考委員を務め、『10年10万キロストーリー』をはじめとするクルマに関する数々の著書を執筆、国内外のモータースポーツを1980年代後半から幅広く取材されている自動車ジャーナリストの金子浩久氏。当連載では、金子氏が「99%のクルマと、1%のクルマ」をテーマに、過去・現在・未来のクルマについて解説していきます。

今回は、Renault ARKANA(ルノー・アルカナ)、PEUGEOT 308(プジョー)、Volkswagen Golf(フォルクスワーゲン・ゴルフ)の3車を試乗し、これからのエンジン車について考えます。

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「99%のクルマと、1%のクルマ」とは?

そう遠くない将来、自動車は99%のクルマと1%のクルマに二極分化する。電動化と自動化とインターネットへの常時接続が備わった99%のクルマは高度な移動体と化し、事故を起こさず、クリーンで、人々と社会のための公共財となる。
その一方、メカニズムや機能は旧来のままである1%のクルマは愛玩の対象となり、趣味や楽しみとして生き延びていく。公道では人間が運転することを許されなくなっても、サーキットや貸し切られた峠道などで運転を楽しみ、同好のマニアたちと集い、美術館で美しさを愛で、博物館で歴史を堪能する。
そうした見立てのもとでクルマを見ていくと、少し違った姿が浮かび上がってくる。クルマに絶望してしまうのにはまだ早く、もっと面白くなる!

電動化の進み方はそれぞれのメーカーで異なる

これからのクルマがクッキリと二極分化していく中にあって、99%のクルマのパワートレインは電動化されていきます。

ただ、世界中のクルマが一気に電動化されることはなく、地域差や用途による違い、あるいは自動車メーカーの戦略の違いによっても、取り組み方や推移の緩急は異なってくるでしょう。

この連載も例外ではありませんが、電動化されたクルマについてメディアで取り上げられない日はありません。
テレビのニュースなどでは扇情的に「欧米では、2030年からは電動車しか買うことができなくなる。日本もそうなるのか!? タイヘンだ!」とばかりに騒がれることがあります。確かに、欧米では電動化の勢いは増すばかりです。

しかし、そのムーブメントの中にあっても、電動化に対して慎重な動きを示しているメーカーもあれば、独自のスタンスを以て臨んでいるメーカーもあるのです。

4月に発表されたルノーの新しいSUV「アルカナ」は、まさにそんな中の一台でした。 

ハイブリッドシステム「E-TECH HYBRID」を搭載したSUV「アルカナ」

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アルカナは、新たに開発された独自のハイブリッドシステム「E-TECH HYBRID」を搭載しています。1.6リッター4気筒ガソリンエンジンに2基のモーターが組み合わされ、前輪を駆動します。走行や充電の状況に合わせて、エンジンとモーターをどちらかだけ動かすこともあれば、両者を組み合わせながら同時に動かしてタイヤを駆動したり充電を繰り返します。このシステムはフルハイブリッドと呼ばれる形式で、コンセプトはプリウスやアクアに用いられているトヨタの「THS II」に近いものがあります。

以前から、欧米の自動車メーカーはトヨタの特許に触れるのを忌避するためもあって、フルハイブリッド形式を採らずに、もう一方のマイルドハイブリッド形式を採るか、よりEV(電気自動車)に近く、コンセントからの充電が可能なPHEV(プラグインハイブリッド車)を採用してきました。そうでなければ、一気にEVに取り組んでしまっているメーカーが多いのが現状です。だから、フルハイブリッド形式を採用している輸入車は現在アルカナのみで、注目の的となっているのです。

運転してみると、停止から40km/hまではつねにモーターだけで発進するので、静粛性の高さと滑らかな加速感が好印象を与えてくれます。

それ以上に速度を上げていったり、急加速を行ったりもしましたが、エンジンが回り出したのがほとんどわからなかったのも驚きでした。センターコンソールのモニター画面を切り替えてエネルギーフローを表示させてみて、エンジンが掛かったことを確認しても、ショックやノイズがほとんど感じ取れないのでわからないのです。トヨタのTHS IIと同等以上の静粛性と滑らかさです。

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新東名高速道路に上り、制限速度の120km/hで走り続けても、モニター画面を見るとモーターだけで走っていることもあって驚かされました。

アルカナのハイブリッドシステムが、エンジンとモーターを、どんなタイミングでそれぞれをどう働かせ、時には別々に、時には一緒に働かせるマネージメントがキメ細かく行われていることが良くわかりました。

「アルカナのハイブリッドシステムは、F1レースで培った技術を活用した電子制御ドッグクラッチマルチモードATでエンジンとモーターを連結させた、高効率で快適な走りを楽しめます」(ルノージャポン広報マネージャー氏)

それに加えて、アルカナのE-TECH HYBRIDが開発された主な目的はディーゼルの代替えだとのことです。ご承知の通り、ヨーロッパでは乗用車でのディーゼルエンジン使用がとても多い。国別で普及率に違いはありますが、フランスなどは70%を超えていたりしていました。ヨーロッパは日本と違って、ドライバーが一度に走る距離が長く、ディーゼルは燃費に優れるために求められています。しかし、ガソリンエンジンよりも排ガス規制値が厳しく設定され、次世代の「ユーロ7」という規制をパスするのは至難の技とも伝えられています。そこに多大な開発リソースを割くくらいならば電動化に振り分けようという判断が下され、電動化が加速していることは想像に難くありません。

「ルノーも電動化を促進し、EVも生産していますが、ディーゼルの代替えなども含めたアプローチは多様であり、他メーカーほどには急激ではないということです」(前出のマネージャー氏)

ディーゼルエンジンのプジョー新型「308」とフォルクスワーゲン「ゴルフ」

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その数日後に試乗したのは、ディーゼルエンジンを搭載するプジョーの新型308でした。先代308の面影を残しつつも、内外装は一新。搭載されるエンジンは1.5リッターディーゼルと1.2リッターガソリン、1.6リッターガソリン+モーターのPHEVの3本立て。ベーシックカーながら必要な装備は満たされています。運転支援機能も最新レベルのものが装備され、扱いやすい。ディーゼルの1.5リッター4気筒の排気量でも、山道での走りも申し分なし。プジョーらしい、カドが丸く柔らかな乗り心地が素晴らしい。

アルカナとは対照的に、特別に凝ったメカニズムを採用しているわけでもなく、先代308からの路線変更も行っていない。つまり、ユーザーを驚かせることはないけれども、期待を裏切らない完成度はしっかりと備えています。派手な存在ではないけれども、ヨーロッパでも日本でも大多数のユーザーの日常を支えているのは、実はこうした308のようなベーシックカーなのです。その308にも電動化の波は及んでいて、PHEV(プラグインハイブリッド)版が用意されています。

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比較のために、ディーゼル同志としてフォルクスワーゲン・ゴルフ TDI R-Lineにも乗ってみました。こちらは2.0リッターの排気量を持っているので、308よりも加速力が強く、山道でもさらに力強く登っていきます。スロットルレスポンスも鋭く、ガソリン版ゴルフと遜色のないレベルで驚かされます。

ディーゼルエンジンは、昔はノイズと振動が大きく、高回転域まで回らず、煙も臭いも出していました。しかし、回さなくても力が強く、燃費も良いことから特にヨーロッパでは重宝され、近年の“クリーンディーゼル”と呼ばれる新世代のものはデメリットが劇的に改善されています。

ゴルフの乗り心地は308と対照的で、やや硬質でフラットライド感が強目です。どちらもCセグメントと区分けされるサイズの2ボックス型の4ドア+ハッチバックボディを持つ、ヨーロッパのスタンダードです。どちらを選ぶかは内外デザインの好みと排気量による動力性能の違いですが、どちらを選んでも後悔はないと思います。

現実のモータリングライフを支えている実直なクルマたち

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世間の注目が、どうしても新奇で派手なEVに偏ってしまうのは半ば仕方のないことでしょう。しかし、世界の大多数の人々の現実のモータリングライフを支えているのは、308やゴルフのような過去からの延長線上にある実直なクルマたちです。それらが、今後、どこでどのようにして生き延びながら、やがては終焉を迎えていくのか? 

それとも、何か画期的な技術なり活用方法などが見出されて、これまで同様に“主役”を務め続けることになるのか?

次々と新型EVがリリースされるニュースを見ていると、すぐにでも内燃機関(エンジン)を持つクルマは消滅してしまいそうですが、3台を運転してみると、なかなかに魅力的で実力も侮り難いことを再確認することができました。

それでも、EVの異次元の静粛性とスムーズネスなどを知ってしまうと、少なくなったとはいえエンジン由来の振動や騒音、スロットルレスポンスの遅れなどは気になってしまうでしょう。

充電環境や航続距離など、EVにはクルマそのもの以外に購入を左右する条件が厳然としています。もっと言えば、その国の電力の由来も問われるので、日本も再生可能エネルギーによる発電の普及が求められます。

電動化の進行は決して一様ではなく、さまざまなかたちで進んでいくはずです。エンジン車も、今回の3台のように改良を受けながらしばらくは存在していくのでしょう。混沌としているようにも見えますが、今から何十年か後に振り返ってみると、果たしてどのように見えるのでしょうか?

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金子浩久さんがトークショーを開催!

<日時>
2022年6月11日(土)19:00〜21:00

<場所>
Books & Cafe ドレッドノート
(東京都江東区平野2-3-21)

<参加費>
3,500円/ワンドリンク(コーヒー)付き

※お申し込み・お問い合わせは店頭又は、suzukisyoukai0112@gmail.comまで。

金子浩久さんの著書はこちら

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ユーラシア横断1万5000キロ―練馬ナンバーで目指した西の果て

中古車のトヨタ・カルディナワゴンを駆って、ロシアから大陸を横断、ポルトガルを経て英国まで1万5000kmを走破した大旅行記。

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ニッポン・ミニ・ストーリー―日本人に最も愛されたイギリス車 (ラピタ・ブックス)

41年前に革新的小型車として英国で生まれたミニは、モータースポーツだけでなくファッションや流行の最先端でもあった。本国よりもファンが多い日本人たちの証言から、ミニがもつ「モノとしての魅力」を掘り下げる。

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公開日:2022年5月23日

更新日:2022年5月26日

Contributor Profile

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金子浩久

1961年、東京生まれ。大学卒業後、出版社勤務後、独立。自動車とモータースポーツをテーマに取材執筆活動を始める。主な著書に、『10年10万kmストーリー』『ユーラシア横断1万5000km』『セナと日本人』『ニッポン・ミニ・ストーリー』『レクサスのジレンマ』『地球自動車旅行』や『力説 自動車』(共著)などがある。 現在は、新車の試乗記や開発者インタビュー執筆などに加え、YouTube動画「金子浩久チャンネル」も開始。  「最近のEVの進化ぶりにはシビレっ放しで、遠くないうちに買うつもり。その一方で、最近取材した1989年から91年にかけて1000台だけ造られた、とあるクルマが急に魅力的に見えてきて仕方がない。同時代で接していた時は何も感じなかったのに、猛烈に欲しくなってきたのは、そのクルマが僕の中で“1%化”したからだろう」

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