朝からのリモート会議にも慣れてきて、慣れてきたからこそどこか気持ちがシャキッとしない、なんてことありませんか?この淡々とした日常のカンフル剤の一つとして、画面に写る限られた表現の一つとして、そして気兼ねなく誰かに会う未来があることをイメージしながら、「心にも体にもピタッとハマる心地いいスーツ」を考えてみませんか。
当連載では、ビスポークテーラー「SHEETS」森田智さんが、レディスのオーダースーツについて、テーラーの視点ならではの基本からマニアックに仕立てるコツまでを解説していきます。
初回では、クラシッククロージングの魅力やレディスオーダースーツの過去から現代の流れなどをお届けしました。第2回は、実際にオーダースーツを仕立てる前に知っておいてほしいことをご紹介。テーラー森田さんならではの、オーダーのコツや注意点を手順ごとに教えてもらいます。
オーダースーツには2種類ある。「ビスポーク」「メイドトゥメジャー」の違いとそれぞれの良さ
▼ビスポーク
「ビスポーク」とは、テーラーと相談して一から仕立てるフルオーダースーツのこと。採寸、型紙の書き起こし、生地選び、試着などの工程を経て作られるため、体型を補正したり、自分好みのスタイルに作ったりと自由度の高い仕上がりになることが最大の魅力。ただし受け取りまでに時間がかかること、試着などで何度か店舗に足を運ばなければならないことなど手間もある。
森田さん着用のスリーピースは「ビスポーク」。森田さんご自身で、一から手で作り上げたもの。
「他にはない自分だけの一着」が出来るのがビスポーク。当店では工程の多くを手縫いで仕上げているためご注文いただいてから完成まで4カ月以上のお時間をいただいていますが、その分お一人お一人に合わせた着用感やご希望のディテールなどを細かく調整することができます。
身体のラインが合っているだけで着心地が格段に良く、シルエットも綺麗。お客様それぞれの生活に合わせ、腕や肩、背中の可動域は限界まで動かしやすく調整しています。生地も一言でグレーやネイビーと言っても、厚み・織り・柄・彩度・風合いで全く違うんです。そこを話し合いながら選び、ディテールなどと組み合わせていく楽しさもありますよ。「仕上がりを待っている期間に愛着が増す」と話してくださるお客さまも多く、スーツやジェケットが好きな方にとっては究極のオーダースタイルですね。
▼メイドトゥメジャー
「メイドトゥメジャー」は、パターンオーダーとも呼ばれており、既製品とビスポークの中間的な位置付け。サンプルジャケットをベースにオリジナルのスーツに仕立てあげる。「ビスポークほどはこだわらないけれど、自分好みのスーツを仕立ててみたい」という初心者の方にオススメ。仕上がりが早く、価格もお手頃だ。気軽さと手軽さを兼ね備えたオーダー方法といえる。
ベストは森田さんの手作りで、トラウザーズはメイドトゥメジャー。
気軽にオーダースーツを楽しめるのが魅力で、特別なシーンだけでなく普段使いとしてラフに着用される方も多いですね。「夏用スーツは汗でトラウザーズが傷んで消耗してしまうから、下のみメイドトゥメジャーにして、ジャケットはビスポークにしよう」と使い分ける方もいらっしゃいます。
既製品に近いと思われがちですが、生地やデザイン、裏地などの細かな部分まで選べるポイントはたくさんあるので、お客様ならではのオリジナルのスーツに仕上がります。
オーダースーツが仕上がるまで。手順ごとにポイントを押さえて
1. 予約
事前予約が必要な店舗が多いので、ホームページなどを確認して予約をしましょう。
はじめはどういったお店を選べば良いのか悩まれると思いますが、できるだけ女性体型へのスーツ作りに慣れているテーラーをお勧めします。わかりにくい場合は過去例を問い合わせてみるのもいいかもしれません。
また、サイトやInstagramなどに掲載されている言葉や写真の選び方、光や色の加減にはテーラーの好みが反映されていることが多いので、「なんとなく雰囲気が自分の好みと近いな」と思えたら、それを頼りにするのもひとつです。これは本好きの方がタイトルで本を選ぶ時の感覚に似ているのかもしれません。作品全体の雰囲気や作者の大切にしているポイントは共通してそこに現れる、ということだと思います。
より良いものを作るためには、まずは理想のかたちを共有でき、思ったことを気兼ねなく言えるお店を選ぶことが大切ですね。
2. ヒアリング
テーラーにどんなスーツが欲しいのか、希望やイメージを伝えます。使用目的や着用時期、予算など、具体的な内容があると◎。スーツに詳しくなくても大丈夫です。ヒアリングではお客さまの雰囲気をつかみたいので、緊張せずに好みなどをお話しください。
3. 生地選び
着用する季節やシーンに合わせた生地サンプルから表地と裏地を選びます。見た目だけでなく、肌触り、厚み、重さなども重要になるので、遠慮せず触って選びましょう。
鏡を見ながら肌色に合ったコスメのカラーを選ぶような感覚で、ご自身と相性のいい色柄はどれだろう?と生地選びも楽しんでほしいです。例えば、茶色といっても赤みや黄みが強いもの、パキッと明るいもの、落ち着いたダークなものなど、何種類もありますよ。裏地は派手にしても意外と馴染み、とても可愛いです!
4. 採寸
設計図を作るためにメジャーで身体を測ります。ただ測るだけではなく、なで肩や左右のバランスなど、身体的特徴も把握します。
数値だけではなくお客さまの特徴を掴みたいので、軽く触れさせていただきながら把握していきます。姿勢を正してしまいがちですが、リラックスして普段の姿勢を心がけましょう。
5. デザイン選び
店内のサンプルをもとにお好みのデザインを選びます。ビスポークの場合は型紙から自由に作れるので、サンプルを参考にしながらディテールなど細かな部分を組み合わせて選んでいきます。
最近ではIラインが流行っているなど、女性のパターンにも型は色々とあります。試着しながら好みを探り「こういうラインがいい」と要望を伝えましょう。
6. お会計
ここまで決まったところでお会計。金額は店舗によっても異なりますが、参考価格は下記をご覧ください。
オーダースーツの納品までの期間とおよその費用
◉ ビスポークの場合、一般的にはハンドメイドで仕立てるため、受け取りまでに3ヶ月以上はかかるとみた方が良いでしょう。店舗によっては1年以上かかる場合もあります。価格は相場が30万円程度と大変高価です。
(SHEETSの場合は4ヶ月~/30万円~)
◉ メイドトゥメジャーはビスポークと比較するとお手頃です。1ヶ月前後で納品されることが多く、急ぎで仕立てたい場合にも良いでしょう。費用も10万円程度が相場となっています。
(SHEETSの場合は1ヶ月半~/10万円~)
7. 設計図の作成
採寸のデータとデザインをもとに、型紙を作成します。お客さまの体型に沿わせるだけではなく、ご希望に合わせた補正の役割も担うように設計していきます。
8. 縫製
まず仮縫いをし、イメージを作り上げます。その後、お客様に再度来店していただきフィッティングを行います。ここでシルエットやフィット感の確認をし、調整します。場合によっては複数回フィッティングを行うことも。型が決まったら本縫いへ。
仮縫いでは緊張せずに試着してください。腕を動かしたり歩いたりするなど、普段の姿勢や動作で確認することが窮屈感のない心地いいスーツへと繋がります。微調整を繰り返すので、当店では初めての方は2回以上のフィッティングをお願いしています。
9. 納品
ついに仕立て上がったスーツとご対面です。ここでも最終的なフィッティングで入念にチェックを。必要な場合はさらに微調整を行います。
スーツには必ず守らなければならない全体を支える基礎となる構造と、生活に合わせたデザインや仕様の自由がありますが、ビスポークスーツではその両方の兼ね合いを探りながら仮縫いで修正を加えられるところがポイントです。
「採寸」で身体的特徴を掴み、「仮縫い」で調整を行うので、この2つは非常に重要な工程となります。どちらの場合も無理に姿勢を正すのではなく、出来るだけ自然体で行うようにしましょう。
自分好みのテーラーを探すことは、理想のスーツを仕立てることに繋がる
テーラー選びはとっても大切です。同じスーツといえども、レディススーツは細部の仕立てが随分と異なるので、まずはレディスを作っているテーラーであるかを確認しましょう。さらに、スーツにはイギリス、アメリカ、イタリア、フランス、もちろん日本もそれぞれの国ならではのスタイルがあるので、どの特徴を持っているテーラーであるかを事前に調べてから行くのも良いかもしれません。(どんな特徴なのか、この辺りは次回詳しく説明します)。
それぞれのテーラーの強みを知っておくのは納得のいくスーツを作るためのポイントですね。
次回は、いよいよオーダースーツの応用編。より細部にこだわって、マニアックにスーツを仕立てる面白さをお伝えします。
ーおわりー
SHEETS
2014年立ち上げ。サビル・ロウの老舗「Kilgour(キルガー)」「Stowers Bespork(ストアーズ・ビスポーク)」にて修行を経た、森田智さんによるテーラー「SHEETS(シーツ)」。シンプルで落ち着いた内装には、お客様やご近所さんからもらった動物の置き物がちょこんと飾られており、ほっこりとした気持ちになる。
☎︎ 03-6256-9293
mail@sheets-studio.com
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