正しいフィッティングで足のサイズと用途に合う靴を選ぶ。chausser訪問編

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取材・文/飯野高広
写真/新澤遥

当連載では、『紳士靴を嗜む』の著者であり、2020年の「靴磨き選手権大会」でMCを務めた服飾ジャーナリストの飯野高広さんが、近年一部の女性の間で評価を得つつある「革靴」について解説していきます。そもそも革靴とはどんなもの?という基本のことから、普段は語られないデザイン・革の種類、いざ履く前の大事なお約束ごと、足のお悩みに合わせた選び方、さらに知れば知るほど面白くなる靴の構造や磨き方などをお届けします。

今回は、革靴ブランド「chausser(ショセ)」のレディス店舗「plus by chausser(プリュス バイ ショセ)」でフィッティングのポイントを教えてもらいます。

「最適なサイズの靴」どう選ぶ?

この「革靴のススメ」ではこれまで、近年大きな注目を集める「女性が履く革靴」について、ブランドやデザイン、アッパーの革それに構造のような「革靴そのものへの探究」を行って来た。それはそれで読者の皆さんの大きな参考になったのではないかと自負している。

しかしそれらとは別に、革靴を選ぶ際に絶対に無視してはならない大切な判断項目がある。「足との相性」だ。どんなに美しいデザインの革靴であっても、自分の足に合っていないものは靴ではなくて単なる苦痛にしかならない。しかし、試着の際にどのような点を注意すべきかさえ事前に知っておけば、かなりの割合でそのような悲劇を避ける事が可能だ。

そんな肝心なポイントを、以後つらつらと記してみようと思ったのだが……なに?この企画の編集で日夜頑張っていただけているNさん(女性)が、新しい革靴を探しているだって? だったら話は早い。彼女を信頼のおける靴店に連れて行き、革靴選びの模様をそのまま記事にしてしまいましょう! という事で先日、凛々しくも温かみのある革靴作りで有名なchausserの、恵比寿にある直営店を訪問してまいりました。
(注:なお取材は2021年1月からの緊急事態宣言の前に行っております)

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今回接客していただけたのは、「chausser(ショセ)」プレス・山本 教子さん

暖かみのあるデザインと高い品質で定評のある国内の革靴ブランド「chausser」のプレスである山本さん。靴の専門学校で、足にトラブルがあってもインソールや革の素材選びなどで心地よく履ける足と靴の相性を学ぶ。プライベートでも「#革靴女子会(SNSで革靴好きがオンオフで集まる会)」に参加されることもあるほど、公私共に革靴好き。

「どんな革靴が欲しいのか?」これが出発点

「カチッとした取材の時にも、思いっきり遊ぶ時にも履き回せる一足が欲しい!」そんな思いでchausserの店舗を訪れたNさん。「今回は茶色の紐靴かな?」とある程度は候補を絞っての来店だったが、いざ店頭で様々な靴を見てしまうとついつい目移り。どれを選ぶかでまず、いきなり一苦労……。

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当店には、ふとウィンドー越しに店内を御覧になられて、雰囲気が気になって入ってくる人も多いですね。店内ではchausserやTRAVEL SHOES(トラベルシューズ)のような弊社のブランド毎に、異なるイメージでラックをディスプレイするのを通じて、お客様がより選びやすいように心掛けています。
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「どのようなテイストの靴をお探しでしょうか?」山本さんの問いかけに、履きたい場面や合わせる服などを色々話すNさん。「でしたら……」と提案頂けたのは黒のプレーントウと茶色のUチップで、いずれもplus by chausserの外羽根式のものだ。Nさんは多少迷った結果、後者(PC-5017 BR 価格4万5000円+税)を選んだ。「あ、この雰囲気の茶色は持っていないので、折角だからチャレンジしたい!」

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メインのchausser以外にも、伝統的なスタイルと製法に更にこだわったplus by chausser、防水加工・ビブラムソール採用など機能面が充実したTRAVEL SHOES、それにコンフォートシューズのような位置付けのMUKAVA(ムカヴァ)と、様々なテイストに応えられるブランドが揃っています。もちろんお客様の中には、良い意味でパッと見・一目惚れ的に選ばれる方も多くいらっしゃるので、そのような希望にも沿えるよう、色々お話しするのを通じて靴選びのお手伝いをしています。

「自分のサイズだと思うもの」以外も試着するのが大切!

「Nさん、普段履いている靴のサイズはいくつでしょう?」山本さんが尋ねると「大抵23.5ですっ!」とNさん。暫くして持ってきたのは、その茶色のUチップの23.5と24.0。「ではまず、24.0から試してみましょうか?」山本さんのその一言に目を丸くするNさん。

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靴の製法・デザイン・お客様の体格や足の特徴、履き心地の好みによっても異なりますが、今回のように、最初に申告サイズより敢えてハーフサイズ大きいものをご試着いただく事で、足と靴との全体的な相性をまずチェックするケースも多いですね。Nさんがご来店時に履いていた靴のシワの出方から「ひょっとしたら24.0の方が良いかな?」と思ったのもありますが。

足は本当に皆様それぞれ個性があるので一概には言えませんが、足が細い・柔らかい方は少しきつい靴でもぴったりだと感じて、実際の足のサイズよりも小さいサイズを選んでいる可能性があります。逆に、靴を履いて痛みを感じやすい方は、トラブルを回避するために大きいサイズを選んでしまっていることも見受けられます。

ちなみに、革靴とスニーカーではオススメするサイズが異なる場合もあるので、普段履いている靴のサイズを伺う際に必ず「革靴で選ぶサイズ」を教えてもらうように気をつけています。
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早速24.0のものにまず足を入れてみる。靴紐を十分に緩め、靴べらを用いてゆっくり足入れし、靴のかかと部を足のかかとにしっかり合わせた上で、山本さんが靴紐を結び上げる。「なるほど右足はこうなると、では左足も……」山本さんの言葉に若干驚くNさん。「やっぱり両足試着しないとダメなんですね。片足の試着だけで急いで決めてしまうケースも結構多いので(笑)」

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靴べらを用いずに履き続けてしまうと、かかとの芯材が折れて型崩れが起き靴の寿命が短くなってしまう可能性があるので、試着に限らず日頃からどうかご注意願います。

また、自分の足の大きさが左右で異なることに気付いていないお客様も多いので、試着は必ず両足で行います。その際には、足に対してその靴のフィット感が最大になるよう、足をしっかりとかかと側に納め、前滑りが起きないように靴紐の結び目はしっかりと結んでください(目安としては結び目の下に指が入らない程度)。登山をされる方にはお馴染みだと思いますが、つま先トントンではなく、かかとトントンでお願いします!

なおchausserでは、緩みにくく、足の甲を面で抑えることができる「パラレル」という靴紐の通し方を採用していることが多いです。
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山本さん、左右の靴の様々なエリアを触診し、靴紐の締まり具合をチェックした後で「どうぞご遠慮なさらずに、店内を歩いてみて下さい」と。そしてNさんが普段通りに歩き回った後で更に「いかがでしょう。私の印象では全体的にちょっと……」Nさんもすかさず答えを出した「気持ち緩い、ですね。履いているだけでは全く違和感を覚えなかったのですが、歩いてみると足のかかとが少し浮いてしまう感じです」

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試着の際は、お客様の
①つま先の「余り具合」(つま先が前に当たっていないか、捨て寸と呼ばれるつま先の必要なゆとりがきちんと取られているか)
②ボールジョイント(親指と小指との双方の付け根を結んだ、足でも靴でも最も広いエリア)の「張り具合」
③かかとの「収まり具合」
④くるぶし周辺の「喰い込み具合」
に特に注目しています。

今回はNさんも仰っていた通り、かかとに合わせ紐をしっかりと締めた状態でも店内を歩いた際にかかとの浮きが明らかに見て取れたので、これではサイズが大き過ぎると判断しました。ただ履くだけでなく、店内を歩いてフィット感を確認することの大切さがお分かりいただけたかと思いますので、読者の皆さんもどうぞご遠慮なさらずに。
(商品によってはアッパー・ソールがデリケートな素材の場合もございますので、傷やシワが入らないようにご留意いただけると幸いです)
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という事で次に、Nさんの申告サイズだった23.5のものを同様に試着してみた。今度は靴紐は、先程山本さんが行った手順を真似てNさん自身が結び、歩いてみると……「24.0より明らかに『足に合っている』感じですね」Nさんにはこちらの方が明らかに快適なようだ。「ただ、かかとが浮く感触が僅かに残る、かな?」「くるぶしの周りは変に食い込みませんか?」と山本さん。「そこは左右共に全く違和感はありません」

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かかと周りの「僅かな緩さ」に関しては、恐らくこの靴がまだ新品で「返り」の付いていない状態だからそのように感じたのかもしれません。ちなみに日本人の足は欧米人に比べ、足長や足囲はともかく、かかとが小さい(もしくは*ヒールカーブがあまりない)傾向があるので、chausserの靴ではどれも、ここをコンパクトに造形しているのが特徴です。

また、くるぶしの周囲=履き口に関しては、革の特性と靴の製造の際アッパーの革を木型により馴染ませる必要がある関係で、新品の靴では履き口が僅かに内側に入り込んでいる傾向があります。しかしこの部分は履き込んで行けば自然と馴染んでほとんど気にならなくなるので、試着の際はそれも勘案する必要があるのです。

*ヒールカーブ=横から見たときの出っ張りのこと

「履き方」でもベストサイズは変化し得る!

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「それでは」と山本さん、今度は23.0の靴を持って来てくれた。「えっ?これ入るかしら??」Nさんは驚きつつ試着し、三度店内を歩いてみると……「これは足全体が靴にバシッと合わさっている感じがします。特にかかとがもうピッタリ!」Nさんは予想外のサイズで予想外のフィット感が得られたことに感動を隠せなかった。「特に甲の部分が文字通り足に貼り付いているような印象です。ただ、これだと丸一日は履けないような気も……」

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女性は筋肉・靭帯が少し緩く、柔軟な足をしている傾向があります。そのため、しっかり固定すべきところを固定されると靴をより快適に履けることを実感していただきたかったので、大きいサイズから順番にご試着いただきました。

また、「むくみ」による足の膨張・収縮の差が大きい方もいるため、ご試着の際には足がむくんでいる状態かどうかも踏まえてサイズ選びを行っていただきたいですね。

そこで山本さんがNさんに幾つか確認に入る。「履く頻度」「どのような靴下と合わせて履きたい?」などなど……。「今回はストッキングとか薄手の靴下ではなく、寒い時期に合わせて厚手の靴下を履く前提の靴を探していて……」「ひょっとしてその厚手の靴下、今お持ちでいらっしゃいます?」「はい、あります」「でしたら、それを履いて改めて試着した上で、サイズを決めましょう」

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靴をどこで、どのように履くのか? はこのように個々人で異なるのが当たり前で、それがサイズ選びにも大きく関わってきます。この辺りの微妙な感覚やシチュエーションについてこそ、ご遠慮なさらずに店員さんとどんどん話をして、自分なりのベストアンサーを導いていって欲しいですね。

それから、今回のように「合わせる靴下」を持参、または履いた状態でご来店頂けると、サイズ選びの際に大きな手助けとなってくれます。こういった革靴の選び方がもっと広まってくれると嬉しいです。
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という事で厚手の靴下に履き替えて、改めて23.5と23.0のサイズを試着し、店内を歩き回るNさん。「厚手の靴下を履くと、23.5でのかかとの『浮き』は全く気にならなくなりました。一方、23.0だと、長さは短くないけど甲が、タイトと言うよりかなりキツくてしんどくなってしまう……」 結果、サイズは「23.5」で決定と相まった!

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今回は厚手の靴下を履く前提で、しかもそこまで高頻度に履くご予定ではなさそうでしたので、この「23.5」で宜しいかと思います。一方で、靴下が薄手だったり、週1日以上履くのが前提の靴だとしたら、サイズは「23.0」をお勧めしていたでしょう。この靴はグッドイヤー・ウェルテッド製法で底付けされているので、その特性上、馴染んでくるとインソールが足の形状通りに沈み込んで、ハーフサイズほど「ゆとり」が出てくる傾向にあるからです。

店員さんとの対話を通じて、精度を高める

今回の一連のフィッティングの流れでのNさんの発言、そして山本さんからのコメントはどれも、読者の皆さんの革靴のサイズ選びに大きな参考になること確実だ。更に山本さんからは、多くの経験に基づいた貴重なアドバイスを幾つかいただけたので、ここでご紹介したい。

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一つ目は「サイズはあくまで『目安』であって絶対評価ではない」ということ。今回のように実際にどのような環境で靴を履くかだけでなく、同じメーカー・ブランドの靴であっても、木型やデザイン次第でベストなサイズは異なるので、過信は禁物なのだ。「例えば、スニーカーと革靴とパンプスで、最も快適な靴のサイズが全部異なっていても全くおかしくないです。いや、ある意味当然なのですが、それをご存知ない方も多いのです。足は左右で違う方も多くいますし、想像以上に個性豊かなので、数字ではなく自分自身の『感触』こそ最も大切にしていただきたいです」

次に、今回の「23.0」か?「23.5」か?のように判断が難しい場合、または左右で足の大きさが異なるような場合には、インソールやタンパッドなどで個別にチューニングする作戦も大いにアリだということ。「『もし中間のサイズがあったなら……』的な場合でも、快適性は格段に増しますので」ただし、これらはいい加減に装着してしまうと、却って履き心地の悪化に繋がるリスクもあるので、この辺りも店員さんに相談して欲しいそうだ。逆に言えば、これらの扱いに長けた店員さんがいる靴店での購入が、快適な履き心地への第一歩とも言えるだろう。

最後に、「やはり店員さんを上手に活用して欲しい」とのこと。数多くの足を、数多くの靴を、そして数多くのファッションを見て来た経験から得られるアドバイスは、間違いなく靴選びの大きな参考になるからだ。「chausserでは店頭でのお客様の声を、スタッフがフィードバックして靴の改良や次の企画に繋げるスタイルが定着しています。その意味でも店員さんとの会話を楽しんでいただきたいです!」

なおchausserでは、今回のplus by chausserのような革靴系のものについては、好みのモデルで自分のサイズのものが品切れの場合でも、3か月ほど時間を頂ければアップチャージなしで製造してくれるサービスもある。好きなデザインの靴だからこそ、サイズも妥協せず履きたくなるはずで、その結果長期に渡って飽きずに履くことができる。このサービスは活用しない訳にはいかないだろう!

さあ、Nさんの新たな一足も決まったことだし、フィッティングについても興味が湧いて頂けたのではないだろうか。これを踏まえて次回は、そのポイントについて、更に掘り下げて解説してみましょうか!

ーおわりー

「TRAVEL SHOES」の店内ディスプレイ

「TRAVEL SHOES」の店内ディスプレイ

「plus by chausser」の店内ディスプレイ

「plus by chausser」の店内ディスプレイ

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plus by chausser

シューズデザイナー・前田洋一氏が手掛ける日本の革靴ブランド「chausser(ショセ)」のレディスシューズ店。

紳士靴と同様の構造とデザインを有し、伝統的なスタイルと製法に更にこだわったシリーズ「plus by chausser(プリュス バイ ショセ)」を中心に、防水加工・ビブラムソール採用など機能面が充実した「TRAVEL SHOES(トラベル シューズ)」、低反発クッションインソール・抗菌防臭シート・つま先の丸い形状の木型・アウトソールにラバーの加工済というコンフォートシューズのような位置付けの「MUKAVA(ムカヴァ)」と、様々な要望に応えるブランドが揃う。マニッシュながら気分がどこか安らぐ、暖かみがあり飾り立てない作風は、以前から一定の女性層の熱い支持を集めている。アッパーの革への優れた選球眼でも評価が高い。

レディス店、メンズ店ともに、恵比寿に直営店を構える。

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公開日:2021年2月4日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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飯野 高広

ファッションジャーナリスト。大手鉄鋼メーカーで11年勤務した後、2002年に独立。紳士ファッション全般に詳しいが、靴への深い造詣と情熱が2015年民放テレビの番組でフィーチャーされ注目される。趣味は他に万年筆などの筆記具の書き味やデザインを比較分類すること。

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