スマホから注文できるオーダーメイド靴サービスは足と向き合う「Shoe-Craft-Terminal」

文/佐々木健人

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スマホでオーダーできて足にフィットする。そんなオーダーメイド靴のサービスがあったら?足に悩みを抱える人は少なくなるかもしれない。

遠隔オーダーメイド靴サービス「Shoe-Craft-Terminal」

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革靴に限らず靴選びは難しい。試着する時間帯によって足の大きさは異なる。試着時に気づかなかったささいな接触でも長時間歩いているうちに負荷がかかり靴ずれを引き起こす。

ならば、と東京工業大学発のテックベンチャー「Vignette&Clarity(ビネット&クラリティ)」と5000人以上の足を見てきた義肢装具士の野口達也さんがタッグを組み、開発したのが遠隔オーダーメイド靴サービス「Shoe-Craft-Terminal」だ。

「いろいろな靴を履いてみたものの足に合う靴がなく、痛みに悩んでいました。私は、機械設計や三次元計測を専門にしているため、CADと足の三次元計測データを木型の設計に活かせば、足の痛みの少ない靴作りができるのではないかと思い、オーダーメイド靴サービスの取り組みを始めました」。そう話すのは、Vignette&Clarityで働く中村なつ美さん。

Shoe-Craft-Terminalの特徴は、ショップに足を運ばずにスマホから靴を注文できることにある。

「通常のオーダーメイド靴は店舗に行って測定が必要なので手間がかかります。それに、店舗を構えると注文できるのはその地域に住んでいるローカルな人に限られてしまう。忙しくて時間が取れなくても、どこに住んでいてもオーダーメイド靴を注文できるサービスにしたかったのです」と中村さん。

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測定方法について。まず、A4サイズの紙の上に裸足でのる。片足につき2種類の動画(足の周りを360°撮影した動画、足指をグーパーする様子を真上から撮影した動画)を撮影し、Shoe-Craft-Terminalのホームページからアップロードする。その後、足に合わせて作られた靴が届く。

レディースはパンプス、内羽根プレーントゥの2点より展開をスタート。紳士靴も内羽根ストレートチップと外羽根プレーントゥの2点を用意する。販売価格はパンプスが4万円+税、レディースの内羽根プレーントゥは5万円+税、紳士靴は6万円+税となる。

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地形の測定に使われる技術を靴づくりに活かす

サービスは、Photogrammetry(フォトグラメトリー)という技術を応用して開発した。フォトグラメトリーは地形の測定や測量に主に使われる技術で、ドローンなどで撮影した写真から三次元のデータに起こし、地形の起伏などを再現する用途として使われる。

「手ブレや照明など、撮影する人や場所によって変わる要素を吸収し、測定精度を保つ手法の確立に苦心しました。また、足の計測データから木型の3Dモデルを作る作業はプログラムで自動化しています。足の計測値を反映しつつ、なめらかで自然な曲線の木型になるように、プログラムの調整に時間をかけました」(中村さん)

足型3Dデータをつくった後、サイズを解析する。

足型3Dデータをつくった後、サイズを解析する。

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既成靴とオーダーメイド靴を比べると、「値段が高い」「時間がかかる」。嗜好品として靴を捉えるならば、それらは特別な体験をもたらしてくれる一つの要素になりそうだが、今回展開する靴は「あくまで実用品」と野口さんと中村さんは口を揃える。技術を駆使してコストを下げつつ、フィッティングと見た目は損なわない。バランスをどのようにとるかが鍵となる。

Shoe-Craft-Terminalではベースとなるマスター木型のデータを用意し、顧客の足に合わせて木型データを自動調整するという方法で、製造にかかる時間などを効率化している。この木型の設計、取得するデータの選定、靴の生産体制の構築は野口さんが担当している。

ボールジョイントの幅や足長にあわせ、マスターの木型データから変形させていく。

ボールジョイントの幅や足長にあわせ、マスターの木型データから変形させていく。

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「足の形=良い木型ではないんです。例えば、靴には捨て寸が必要なので、足長(そくちょう)よりも長く、最低でも爪先が当たらぬように木型を設計しなければいけません。また、足長だけ測定して木型に反映しても適合した靴を作ることは難しく、足の幅や周囲などの数値を正確に計測することが重要です。また、数値だけでなく足の動きや機能も考慮しなくては良い木型になりません。このように多数の条件を満たすような木型の設計には高度な計算が必要で、強力なサーバーも必要になります」と量産に向けた木型設計のアプローチを語る。

「たとえば、お客様の足に合わせて木型の形状を変える場合、設計全体を調整しないといけません。木型はなめらかな曲線じゃないと不自然になってしまいますし、型紙より後の生産工程にも影響が出てきます。この影響を各工程で上手く吸収できる設計にするため何回も試行錯誤をしています」(野口さん)

同社が専用の計測器などのハードを作らずにソフトのみでサービスを完結させているのも、価格をなるべく抑えるためだそう。

パンプスを気持ちよく履くために

ラインナップの一つにあるパンプスは、紐靴と比べると設計が難しいデザインだ。ヒールが高くなると前滑りしやすくなる。ヒモ靴と違い甲を抑えるパーツがないので、靴の中で足が動きやすい。ヒモ靴はインステップ(甲の最も高い部分)まで抑えられるが、パンプスは前足部とかかとだけで足を抑えなければいけない。

そのためフィッティングもシビアになる。アッパーにかかる負担も大きく、履き下ろしてしばらくすると革が柔らかくなることでフィッティングがゆるくなることが多いそう。

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今では「代表的な女性靴」というイメージが定着しているパンプスは、本来トップラインが浅めで履き口が大変広いスリッポンを指す。16世紀に生まれたこのスタイルは、その後パーティードレス用の靴として用いられる。機能性よりも装飾性を重視した靴であり、エスコートされることを前提として設計されているため長時間歩く用途には向いてはいない。

「パンプスを履いて足が痛くなるという状態を分析すると、形が合っていない問題以外に使い方の問題もあります。そもそもパンプスを履くことが難しい足の状態の方もいらっしゃいます。使い方含めて、デザインしていかないといけません」今後は、関節の動きや足の柔らかさを反映し、より足に適合した靴を設計できるよう研究を進めている。

自分の足について知ることは、靴を選ぶ第一歩

自分の足を知ることは靴を選ぶ第一歩。自分の足を360°眺めることができ、足に合う靴が届けられるこのサービスは今後の靴選びを変える可能性を秘めている。

—おわり—

公開日:2019年10月23日

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佐々木 健人

MUUSEO SQUAREエディター。1992年東京都生まれ。時計メーカーの資材購買を経て、ミューゼオ編集部へ。ディレクションのほか、ファッションや家具、文房具分野の取材執筆も行う。

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