小さい場合の対処方法
Q1:サイズが小さい場合、伸ばすことは可能なのでしょうか?
山梨
サイズが小さい場合、ストレッチャーという機械を使ってサイズを広げていきます。長さが伸びるということはほとんどありませんが、ワイズを伸ばすことは多少はできます。
靴には捨て寸と呼ばれる空間があります。ワイズの部分を広げることによって、足が捨て寸まで入り、長さが伸びたように感じることもあります。
きついということは、足と靴のどこかが当たっている状態。当たりどころが変われば、きつさも変わったように感じます。
Shoes box尾山台店で使用しているストレッチャー。時間をかけてのばしていく。
Q2:どのくらい伸ばすことができるのでしょうか
山梨
サイズ調整は靴下の厚みも関係してきますし、痩せた太ったも関係してきます。
どこを基準にするのは難しいんですけれども、購入した直後や、譲ってもらった時に足入れをしてみたら痛かった。そういう場合、できる限り対応しますが期待に答えるのは難しいかもしれません。
「しばらく履いてみて、ちょっときついと感じた」ということでしたらご希望に添えるかと思います。
Q3:預けてから、調整が終わるまでどのくらいの日数が必要になりますか?
山梨
日数かけて伸ばした方が定着しやすいと考えているので、最低三日は入れています。一気に負荷をかけ過ぎるとパーツが飛んでいってしまうこともあるので少しずつ伸ばします。
shoexboxに限らず、ほとんどの靴修理店はストレッチャーを10台20台所有しているわけではないと思います。そのため、スケジュールが詰まっていることも多いです。履きたいときに履くために、サイズを伸ばす場合は早めに相談にきてもらえるといいと思います。
あと注意していただきたいことは伸ばすタイミングです。秋口に履きたいと思っている靴を、例えば7月にサイズ調整したとします。そうすると秋口には戻ってしまうんです。履きだすまでの日数が長ければ長いほど戻っていきます。
ストレッチをかけてからすぐに履きはじめたり、回数や時間を増やすなど意識してもらえれば馴染んでいきます。
Q4:インターネットで「ドライヤーで熱を加えて伸ばす」という記事を読みました。熱を加えるのは有効なのでしょうか。
山梨
もしかしたら効果があるかもしれないですけれども、おすすめはしません。
靴には中敷(
インソール)が付いています。インソールは通常、交換できるようにゆるめのボンドを使って中底に貼り付けています。ボンドは温まると剥がれやすくなるので、ドライヤーで温めるとインソールがずれてきてしまう懸念があります。
また、セメントやマッケイなど、製法によってはソールを縫っていないものあります。例えばクッション材や
シャンクの隙間など、熱を当てるだけで剥がれてくる可能性もあります。
そういうトラブルもあるので、あたためない方がよいのではないでしょうか。
もしご家庭でやるならば、革の柔軟剤をこまめにシュッシュとやって市販のストレッチャーで伸ばす方がまだトラブルは少ないと思います。
シューストレッチャーも、革の柔軟剤も市販されているのでどなたでも購入できる。お店での対応同様、一回で無理に伸ばそうとはせず、時間をかけて伸ばしていきたい。トラブルを避けるならば、お店に持って行った方が安心だ。
[コロニル] 皮革柔軟剤 ストレッチ 100ml
[STRECH]
皮革を柔らかくして伸ばします。甲や関節があたって痛い部分、窮屈な箇所を部分的に伸ばします。コロニルラバーウッドシューストレッチャーと併用するとより効果的です。
使用対象製品:靴
使用対象素材:スムースレザー、起毛皮革(ヌバック・スウェード・ベロア)
※爬虫類、エナメル皮革、合成皮革には使用できません。
対象物に吹き付けるとフォーム状になります。
大きい場合の対処方法
Q1:サイズが大きい場合も、対処する方法があるのでしょうか?
山梨
サイズ調整でご相談にいらっしゃる場合、「大きいのでどうにかしたい」という方が多いです。
簡易的な手段は、市販のクッションが入っているインソールを入れて対応すること。しかし、結局は改善されなかったというケースもあります。
厚みのあるインソールを敷くと深さも浅くなってしまいます。チャッカブーツなど丈が長いものであれば問題ないかもしれませんが、深さが浅くなるとどうしてもゆるく感じたり、脱げやすくなります。
Q2:靴修理店に持ち込んだ場合、どのように調整するのでしょうか。
山梨
ほんのちょっと大きいだけだったら、厚さ2mmないくらいの革でできたインソールを1枚敷くだけでだいぶ変わります。
それでも足りない場合は、コルクやスポンジでできた半敷き(靴の前半分だけを覆うインソール)を入れて、空間をちょっと狭くする。スポンジやコルクを敷くだけだと見た目が悪くなってしまうので、革を重ねるようご提案することもあります。
靴を履き続けると、中底が足の形に馴染んできますよね。その馴染みが柔らかい素材だとはやいんです。
コルクとスポンジの違いは厚さと硬さ。コルクはコシがあるのに対し、スポンジは弾力性がある。
Q3:右足と左足でサイズが違ったりした場合など、より細かく調整していただくことは可能でしょうか。
山梨
例えばこちらの革のインソールは4mmあるんですけど、入れて履いてみたら厚みがありすぎた。そういう場合は削ります。
左はちょうどいいけど、右をもう少し薄くしたいということでもできる限り対応します。
サイズの好みは人それぞれです。お客さんがどの履き心地が幸せなのか、話しながら調整していきます。
紐、ちゃんと結んでいますか?
ビスポークシューズのように、履く人の足に合うよう調整してくれる靴修理店でのサイズ調整。
小さい場合でも大きい場合でも多少は調整してもらえるので、もしサイズが合わずしまってある靴があるならば相談してみてはいかがだろうか。
ただ、持ち込む前に1点確認しておきたいことがある。それは靴紐を結んでいるかどうか。靴紐を解いて締め直さず、足が入る状態で歩き出すとどんな靴でもゆるく感じてしまう。
当たり前のことかもしれないけれど、靴のためにも足のためにも履くたびに紐は締め直すようにしたい。
ーおわりー
Shoes Box
尾山台にある「Shoes Box(シューズボックス)」。店員の山梨さんは靴修理職人として合計で10年以上のキャリアを持ち、難しい修理でも時間をかけて丁寧にやりきることを大切にしている。難易度の高い修理を依頼されることも多く、その技術は確かである。しかし、本音は”お客様自身で日々のケアをするのが一番経済的で良い”のだそう。靴とお客様の事お客様からリクエストがあれば日々のケア方法も店頭でレクチャーも行っている。
終わりに
お客さんの好みに合わせ、インソールの厚みまで調整してベストを尽くす。だからこそ、対面での受付にこだわる。Shoes boxではサイズ調整のほか、靴磨きやソールの張り替えなども対応しています。1時間半の取材中お客さんが何組もお店に訪れていました。撮影しながら横で話を聞いていると、みなさん親しげに靴の修理を依頼をして帰っていきます。信頼できる靴の駆け込み寺のようでした。