「革」の特徴を知ることが、「靴」の特徴を知ることにも繋がる

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取材・文/飯野高広
写真/新澤遥
イラスト/shie

外出する機会も増え、体力不足を感じるこの頃。革靴というタフで優しい相棒を足元に!

当連載では、『紳士靴を嗜む』の著者であり、2020年の「靴磨き選手権大会」でMCを務めた服飾ジャーナリストの飯野高広さんが、近年一部の女性の間で評価を得つつある「革靴」について解説していきます。そもそも革靴とはどんなもの?という基本のことから、普段は語られないデザイン・革の種類、いざ履く前の大事なお約束ごと、足のお悩みに合わせた選び方、さらに知れば知るほど面白くなる靴の構造や磨き方など、全7回(もう少し増えるかも)にわけてお届けします。

今回は、革の分類とそれぞれの特徴、鞣しの種類、皮から革になるまでの工程など、革靴の見た目、耐久性に関わる「革」について解説してもらいます。

おじ靴→革靴に呼び方を変えました

「革靴」と文字にすると、紳士靴=男性のものというちょっと遠い存在に感じる方もいるのではと考え、連載では親しみやすく「おじ靴」と呼んでいました。第1回を読んでいただいた方はご存知だと思いますが、実は連載当初から飯野さんと「おじ靴」という表現は違和感あるよね。と話していました。ただ、他に的確でしかも簡潔な表現を見つけることができず、代わりの名称を模索しながらのスタートとなりました。

連載が進むにつれその違和感がふつふつと大きくなり、番外編の座談会や靴のイベントで実際の声を聞くことで、改めて「おじ靴」という呼び名ってどうなの?と立ち返りました。今の時点ではまだ完全に相応しいと感じる呼び名を探し出せてはいませんが、今後の記事内では「おじ靴」という呼び方をやめ、デザインにある程度以上のドレス性と古典性を有し性別も気にせず履ける靴の総称として「革靴」を用いてみようと思います。ただし、私達が気付いていないだけで、もっと相応しい呼称があるかもしれません。皆さんのご意見を賜りたく、SNSなどでお気軽にご意見いただけたら嬉しいです!

料理と同じで、素材って大事!

どんな種類の靴でもそうだが、たとえ基本的なディテールやスタイル・デザインが同じでも、どのような素材=革を使うかで、見え方に大きな違いが出てくる。ことさらスタイル・デザインが似通ってしまいがちな革靴では、その傾向が強い。と言うことは革の特徴を知ることが、靴の特徴を知ることにも繋がる訳だ。と言うことで今回はその「革」について探究してみたい。

もちろん、靴の用途や目的によって、「最適な革」は異なって来る。そして思い出して欲しいのは、天然皮革は主に食用の副産物であり、他の動物の大切な命を頂戴して作られると言うことだ。これを念頭に置けば、価格とかブランドとかに関係なく、大切に履かない訳にはいかないのである。

とりあえず牛革の違いを、ザクッと整理

靴に用いる革の中では圧倒的主流派の牛革。その分様々なものがあるので、単に種類と言っても訳が分からずチンプンカンプンになりがちだ。しかし、「革が出来上がるまで」を幾つかのステップに分けた上で考えると、案外整理しやすいので、まずは一覧に纏めてみた。これを完璧に覚える必要は全くないが、どのような革靴を買いたいかを考える際に、一つの目安にはなると思う。

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A. 年齢や性別による、牛革の分類

同じ「牛革」でもその性質は、その原材料となる牛の年齢や性別で大分異なり、用途で使い分ける。若いものも円熟を重ねたものも、それぞれ異なる長所があるのは人間と同じ。

写真/ミューゼオ・スクエア編集部

写真/ミューゼオ・スクエア編集部

a. 今や超・高級品【カーフ】

生後6カ月位までの仔牛の原皮=カーフスキンを用いた革のこと。薄くて軽いが、その分キメが細かく手触りも非常にソフトなのが特徴。当然高額となり、靴には専ら最高級品のアッパーに用いられる。

特に生後3カ月までのものは「ベビーカーフ」と呼び、風合いは正に赤ちゃんの頬に近くスベスベだ。しかし革質が大変繊細な分、靴に成型すると造り込みの良し悪しがハッキリ解る。また、食肉需要の変化などで革自体の供給量が過去より著しく減少しており、もはやビスポーク(注文靴)レベルのアッパーにしか使われない。

b. 十二分に高品質【キップ】

生後6カ月から2年位までの牛の原皮=キップスキンを用いた革のこと。カーフに比べ若干厚いものの強度には優れるため、こちらも高級な靴のアッパーに用いられる。

実は欧米ではこちらも「カーフ」と呼び、「カーフ」と「キップ」とを明確に区別しているのは事実上日本だけ。よって、特にインポートの靴でカタログや箱等に「カーフ」と書かれている場合は、実際はほぼこの原皮だ。流石にベビーカーフに比べると柔軟性や表面のキメの細かさでは及ばないものの、質感は十二分に優れている。

c. 汎用性が高く最も一般的【ステア】

生後3~6ヶ月の間に去勢され、かつ生後2年以上経ったオスの成牛の原皮=ステアハイドを用いた革のこと。去勢=繁殖用ではなく食用の意味であり、牛革は牛肉の副産物であることは忘れないでほしい(命を戴いているからこそ大切に履きたい)。

カーフやキップに比べ柔らかさや表面のキメの細かさでは劣るが、厚みがあり強度に優れる。また、去勢の効果で原皮一枚の中での厚みやキメのムラが少なく、扱い易く歩留まりも高い。そのため靴には最も広範囲に利用されている。
アッパー用では、後述する「加工」以降の工程で手間を多く加える必要のあるものは、大抵これ。また、インソールやアウトソール等、ある程度以上の厚みや耐久性が求められる部材にも多く用いられる。

d. その他

牛革にはその他、以下のものがある。

カウ:カウハイド=出産を経験し生後2年以上経ったメスの成牛の原皮を用いたもの。ステアよりもしなやかで広い面積を取り易いものの、部位で密度の差が大きい傾向があり、靴には主にライニングに用いられる。

ブル:ブルハイド=去勢されずに生後3年以上経ったオスの成牛の原皮を用いたもの。ステアより厚い分キメが荒く傷も多いため、主に底材向け。

B. 鞣しの種類による、牛革の分類

人類が誕生して最初に考案した化学処理とされる「鞣し」。これは、原皮から体毛や脂肪を除去し、薬剤等で皮のタンパク質(コラーゲン)を結合・安定化させるのを通じ、「皮」を腐敗・乾燥し難い「革」に変化させる技術である。世界各地で様々なものが考案され、日本の甲州印伝や姫路の白なめしのように古来の製法が継承されているものも多い。今日大規模に行われているのは以下の方法である。

a. 古くからの方法【ベジタブルタンニン鞣し】

写真/ミューゼオ・スクエア編集部

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植物の樹皮や葉から抽出した「タンニン」と呼ばれる成分を活用して鞣す、昔ながらの方法。タンニンとは緑茶や赤ワインの渋み・苦みの成分で、日本では「渋鞣し」とも称する。

下処理を終えた原皮を、様々な濃度のタンニンが入った桶槽に数日おきに漬け換えるのを通じ、時間を掛けて「皮」から「革」へと変化させる。期間は平均25~90日で、地中に埋め込み約1年掛けて完成させるものもある。

堅牢性・耐摩耗性・耐伸縮性等に極めて優れ、可塑性・成形性も良くなる。ただしタンニンが日光や油分で化学変化を起こすので、色調面での経年変化が起こり易く、また柔軟性・弾力性・伸縮性・耐熱性・染色性もやや劣る。よって、美しさより丈夫さや密度を優先する製品や部材向けだ。靴では主に底材で用いられ、アッパー用には現在では殆ど見掛けない。

b. 近現代的な方法【クロム鞣し】

写真/ミューゼオ・スクエア編集部

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近代的な主要技術が19世紀後半に固まった、三価クロム塩等の溶液を用いて鞣す方法。下処理を終えた原皮を、クロム溶液と一緒に一種の回転槽の中に入れ上下に回転させることで、短時間に「皮」から「革」へと変化させる。回転時間は平均6~12時間と圧倒的に速く、コストも安くなるので大量生産に適し、20世紀以降一気に広まった。今日の革生産ではこれが圧倒的に主流だ。

柔軟性・弾力性・伸縮性・耐熱性・染色性等に極めて優れた特性を有する。三価クロム塩が安定性の高い分子構造なので、軽く変色し難い革にも仕上がる。ただし堅牢性・耐摩耗性・耐伸縮性や可塑性・成形性には劣るので、柔らかさや美しさが優先する製品や部材に適する。よって靴では専らアッパーに用いられ、底材用にはほぼ使わない。

c. 両者良いとこ取り【混合鞣し】

ベジタブルタンニン鞣しとクロム鞣しの双方を取り入れた方法。クロム鞣しを先に行う場合は「コンビ鞣し」、ベジタブルタンニン鞣しを先に行う場合は「逆コンビ鞣し」と称する。

特に前者は近年、高級な革靴のアッパーの革にも多く採用されている。例えば「バーニッシュドカーフ」と称する、表面に摩擦による「焦がし」を入れ易い=古びた風合いを出し易い革は、この鞣しで作られるものが多い。

d. エコロジーを配慮【非クロム鞣し】

三価クロム塩の代わりに、アルミニウムや動物の油脂、それに合成タンニン等を用いて鞣す方法。生産だけでなく、使用後の環境面での様々な課題が浮かび上がっているクロム鞣しに代替する方法として、近年注目を浴びている。

C. 加工の種類による、牛革の分類

加工次第で牛革の性質は劇的に変化する。原皮の特徴を活かし切るものもあれば、手間を掛けて新たな意味を付加させる場合もあり、それ次第で靴での使われ方も左右する。

MuuseoSquareイメージ

まずは革の断面構造から。牛だけでなく鞣す前の動物の原皮は、外側から順に

・体毛の付いた「表皮」
・タンパク質(コラーゲン)が主体の「真皮層」
・肉と結合する「皮下組織」


の3層構造。鞣しの工程を経て「革」として利用されるのは真ん中の「真皮層」だ。これは更に外側から以下のように分かれ、これらをどう扱うかで革の見た目が大きく変化する。

・乳頭層…この上部を「銀面」と称する。
・網様層…この下部を「肉面」とか「床面」と称する。

加工の種類① 銀面をそのまま活かす革

こちらは a. 銀付き革

こちらは a. 銀付き革

a. 本来の質感を最大限に残す【銀付き革】

銀面を残し表面にした革のことで、英語では「フルグレインレザー」と称する。銀面は革を構成する部位の中では最も組織が細かく、丈夫で柔軟性も高い。よって、これを残して表面にすると、鞣しの種類を問わず原皮本来の風合いや持ち味を最大限に活かせる。

ただし原皮にあったシワや凸凹、傷や虫刺されの痕跡もそのまま残るので、この革になれるのは銀面にダメージの少ない上質な原皮のみ。歩留まりが落ちるので当然、高価になる。

靴に用いる銀付き革の代表例は、アッパー向けの「ボックスカーフ」と呼ばれるもの。これはクロム鞣しをごく短時間施し、タンパク質系の仕上げ剤で表面を美しく処理した、余計な加工をあまり施さない柔らかなカーフ・キップのことだ。表情が格調高く仕上がるので、特に黒の高級品のアッパーに使われる。

なお、「ボックスカーフ」なる名称は、国や時代それに用途で定義が様々に存在するので結構混乱する。例えばフランスでは色に関係なく用いる呼称だが、英国では黒のものにしか使わない(他の色は「ウィローカーフ」と呼ぶ)。また、靴用のこれには特段のシボ(後述)は出さない一方で、鞄や革小物用は細かい一文字状の「ウィローグレイン(水シボ。これも後述)」を極々軽く露出させる。とは言え、上記の処理を施した言わば「革のエリート」を指す点ではいずれも共通だ。

加工の種類② 表面に何らかのコーティングを施した革

b. 歩留まりを高め質感も調整【ガラスレザー】

クロム鞣しを施した後に平らなガラス板等を張り付けて乾燥させた後、銀面をサンドペーパーで削り、顔料系の塗料や樹脂等で表面を均質に仕上げた革のこと。銀面に大きな修正を加えた革なので、英語では「コレクテッドグレインレザー」と称する。銀面を削ることで、原皮の表面に残ったシワや傷・虫刺され痕等を消せるので歩留まりを高められ、安く大量にかつ安定的に供給できる。

新品の段階では光沢に優れるものの、要は表面をコーティングしたものなので、風合いや柔軟性は銀付き革に比べ大きく劣る。

靴には主に、新品から数年は特段のお手入れをしなくても一定の見栄えや耐久性を維持したいものに用いる。履きジワが亀裂に深刻化するケースも多い学校指定のローファーのアッパーが、その典型だ。ただし近年では技術革新が進み、素材感を十分残したものや柔軟性に富むものも多くなって来た。銀面を削る度合いを工夫するのを通じ、銀付き革と見間違うようなものも結構ある。

c. 起源から用途が180度変化【パテントレザー】

日本では「エナメル」として知られる、クロム鞣しを施した後に表面をポリウレタン樹脂等で塗装して仕上げた革のことだ。そもそもは日本の漆塗りをヒントに、表面に亜麻仁油やワニス系のラッカー(油性塗料を薄める溶剤)を重ね塗りしていたらしい。

当初はワーク系の靴のアッパー向けに、水や汚れに強く丈夫な革として19世紀前半に米国で発明され、特許=パテントを得たのが英語名の由来。ところが用途はやがて、宴≒夜間の礼装用向けに180度変化した。靴クリームを使わずに済む点が、女性の大切なパーティドレスを汚さないことに結びついたのだ。

今日では婦人靴で多く採用されるが、これも乾拭きだけでキラキラした光沢が半永久的に持続できるから。頻繁に靴のお手入れを行い難い人には、確かに好都合で亀裂が起こらない限りは水や汚れも染み込まない。しかし、実はその亀裂が意外と簡単に入る。何せ革と厚めの樹脂の2層構造なので、断面が厚くなり深いシワが入り易く、温度や湿度の変化で双方の収縮差が起こりがちだからだ。よって、保管は必ず暗く低湿度で風通しの良い場所で行った上で、簡単なもので構わないのでシューキーパーを必ず入れておこう。

加工の種類③ 表面にシボを出した革

「シボ」とは、革を鞣した後にその表面に付いた、均等でかつ細かい凸凹を有した一種のシワみたいなもの。自然に付く場合もあるものの、大半は何らかの形で人為的に形成されたものだ。いずれも革に風合いを与えるだけでなく、その表面に傷が付き難くし、たとえそれが付いても目立ち難くさせる効果もある。

こちらは f. 型押し革

こちらは f. 型押し革

実は結構混同されるのだが、「シボそのものの種類」「シボを出す・付ける方法」とは異なる。

「シボそのものの種類」で代表的なものは、シボの小さいものから順にこんな感じだ。それが大きくなればなるほど、革の表情にカジュアルさが加わる。

・ウィローグレイン:細かい一文字状のシボを極々軽く出したもので、通称「水シボ」。これが綺麗に出ている代表例が、「鞄や革小物用の『ボックスカーフ』」。エルメスの黒やワインレッドのヤツで有名な、でも最近は殆ど見掛けないあの革だ(この革になれるだけの良質な原皮が、エルメスであっても調達し難くなっている)。
・ボックスグレイン:細かい四角形状のシボを極々軽く出したもの。
・ぺブルドグレイン:細かい丸小石状のシボを出したもの。
・スコッチグレイン:大麦の実粒状のやや不揃いなシボを出したもの。


一方、「シボを出す・付ける方法」は以下の3種類に大別される。

d. 物理的にシボを出す【揉み革】

鞣す過程で物理的に揉む事で表面にシボを出した革のこと。鞣しに失敗した革を偶然手で揉んだところ、独特の表情に変化したのが誕生のきっかけらしい。

手揉みはやがて、革の表面を内側にして畳み、その上に裏面がコルク等で出来た船底状のボードを置き手で圧を掛ける方法に進化した。そのため英語では「ボーデッドレザー」と称する。なお、この工程は今日では大半が機械作業だ。

革をどの方向に何回畳み何回揉むかで、出てくるシボの形状が変化し、革に柔軟性が加わる。ただ、他の方法に比べ効率が悪く、現在ではカーフ等品質の良い薄手の革にしか施されない。また、主に鞄や財布等の革小物向けで、靴ではあまり見掛けない。前述したエルメスの「ボックスカーフ」は、この手法を用いたものだ。

e. 化学的にシボを出す【シュリンクレザー】

鞣す過程で革と収斂性の強い特殊な薬剤とを混ぜ合わせ、表面を化学的に収縮させるのを通じシボを出した革。
シボの出方は鞣しの結果次第なので、非常に緻密な製造ノウハウが求められる。よってこの革の評価が高いタンナーは他の革でも高い評価を得ている場合が多い。

良質のものは厚みの割にソフトで弾力性の高い、身が締まりながらもフカフカな質感になる。またそれ故に揉み革に比べシボが深目に出る。革靴ではカジュアル用やカントリー系のものが用いられる傾向が高い。エルメスの革だと「トリヨンクレマンス」が典型例。

f. 文字通り立体プリント【型押し革】

「エンボスレザー」とも呼ばれる、鞣す過程でプレス機によって加熱・加圧することを通じ、その表面に様々な型を押し付けて仕上げた革。生産効率が高く、揉んだり縮めたりしない分カリッとハリのある雰囲気に仕上がるのが特徴。エルメスの革だと以前の「クシュベル」や現行の「エプソン」が典型例。

元々の開発目的は歩留まりの向上だった。例えば原皮そのものは上質なのに僅かに細かな傷が散見される場合、銀付き革に仕上げた上でこれを施せばトップクオリティの革として販売できる。また、原則銀付き革のみしか対応できない揉み革やシュリンクレザーとは対照的に、こちらはガラスレザーなどにも加工が可能だ。

なお、クロコダイルやリザード等の革の表情に似せて作られた、本来の「シボ」以外の「型」を持つ牛革も近年では数多く世に出ている。言わば革のカニ蒲鉾的な存在で、もはや「ニセモノ」ではなく一ジャンルとして十分認められている。とは言え購入の際には気を付けたい。

加工の種類④ 起毛させた革

こちらは g. スエード

こちらは g. スエード

g. 暖かみを感じさせる起毛【スエード】

鞣す過程で肉面を起毛させ、それを表面として仕上げた革のこと。この加工法を開発したのが北欧のスウェーデンのようで、この国名のフランス語表記が語源だ。

原皮にはカーフスキンやキップスキン等の薄く柔らかなものが用いられ、毛足を比較的短くしキメを細かく仕上げる傾向が強い。フワッと温かみのある肌触りとなるので、従来は秋冬向けの革と見なされ、色もそれ向きの濃色主体のものが主体だった。

革の組織で一番丈夫な銀面を残して鞣されたものは、耐久性が求められる登山靴やカントリーシューズのアッパーにも重用される。一番丈夫な銀面を裏面に回せば、その破損を最後まで防げ、凍傷ひいては遭難防止に直結できるからだ。また、表面の毛羽立ちのお陰で自然な撥水性が得られるからでもある。

h. スエードよりもワイルドな質感【ベロア】

「鞣す過程で肉面を起毛させ、それを表面とした革」である点、それに語源がフランス語である点はスエードと全く同じ。この名称は眩い光沢を魅力とする生地・ベルベットと質感が似るのに由来する。

ただしこの名称は日本でしか使われていないようで、海外ではこれも「スエード」。日本国内ではステアハイド等比較的厚めの原皮を用いた際にこう呼ばれ、スエードに比べ毛足も長くキメも粗く仕上げる。

この革は銀付き革を薄く漉いた後に残った層を活用し、表面・裏面共に肉面とする場合も多い。この状態の革を特に「床ベロア」と呼び、柔軟だが耐久性には乏しいので、靴のアッパーに用いる際には樹脂で裏打ちを施す。クラークスのデザートブーツの革が典型例だ。

i. 涼やかさを感じさせる起毛【ヌバック】

鞣す過程で肉面ではなくその銀面を起毛させ、それを表面として仕上げた革のこと。牡鹿の銀面を同様に起毛させた「バックスキン」をイメージし、その語頭に「新しい」の意味を付けたのが呼称の由来だ。

銀面は肉面に比べ平滑なので、「起毛」と言うより「均質に削る」と表現した方が適切だろう。よって質感はスエード以上に毛足が短く、キメも細かくなる傾向が強い。サラッとした感触になるので、もともとは春夏向けの素材と見なされ、色も淡色系のものが多かったが、近年では濃色のこの革をアッパーに用いた靴も随分増えている。

タンナーの技術革新もあり、実は最近はヌバックとスエードそして床ベロアの区別が相当付き難くなっている。敢えて見分け方を説明すると、起毛していても毛穴の跡等革の地肌が何となく感じられるのなら、それはヌバックと考えて良いかと。ただし、どちらであってもお手入れの方法は同じだ。

加工の種類⑤ 特殊な鞣し工程が入る革

j. ワーク・アウトドア御用達【オイルドレザー】

鞣す過程で通常より多くの油分を加えて仕上げた革。銀面を付けた状態でそれを表面としたり、その肉面をスエードとして用いたり、銀面を削ってヌバックとする場合など、フィニッシュも多彩だ。

光沢は鈍いものの油分の多さ故に撥水性が抜群で、しかも革の厚みの割にしっとり柔らかい風合いとなる。傷にも強く、浅いものならそこを裏側から指で押し摩れば一瞬で目立たなくできる。

ワークブーツ等での実需が多いためか、この革はヨーロッパ以上にアメリカ産のものに昔から定評がある。が、近年同国ではこれを鞣すタンナーの数が減少しつつある。

k. 取り扱いは簡単【撥水レザー】

鞣す過程で様々な添加剤を用いて、撥水・撥油効果を高める加工を施した革の総称。今日では様々なジャンルの靴や革製品に活用されている。

要は表面を樹脂コーティングした革なので、良く言えばメンテナンスフリーだが、「革」としての風合いも正直若干劣り、お手入れの楽しみもあまり味わえない。

一度革の表面に傷が付くと、その部分にだけ水が集中し染み込み回復し難いシミとなるケースも多く見られるので、効果を過信しないことが肝心だ。

D. 着色・仕上げの種類による、牛革の分類

革質の良さを素直に出すか、表面をしっかり保護するのか、上手く化粧してあげるのかなどなど、たとえ同じ色でもその「付け方」次第で、見栄えはガラッと変化する。

こちらは d. アンティーク仕上げ

こちらは d. アンティーク仕上げ

a. 良くも悪くも経年変化が著しい【素仕上げ】

ベジタブルタンニン鞣しを施す過程で、表面塗装を行わず瑪瑙玉(めのうだま)によるローリング等のみでツヤを出す仕上げ。中でも染色すら全く行なわずに完成させる「ヌメ革」が典型例だ。

自然に近い状態のため、革そのものの風合いやベジタブルタンニン鞣しの長所が最大限に残される。元来の淡い褐色が経年で飴色に変化するのも魅力。

ただし塗装がされていない分、汚れがとにかく付き易くかつ目立ち易い。お手入れにも正直気を遣うので、例えば靴ではインソールやアウトソール等、専ら汚れても気にならない製品に用いる。

b. 透明感の高い色合いが魅力【アニリン仕上げ】

鞣す過程で「アニリン染料」を用いて色を染めた上で、それで僅かに塗装を施した仕上げのこと。因みにアニリン染料とは合成染料の元祖で、産業革命絶頂期の19世紀中盤の英国で発明された。

発色と透明感が共存し、銀面の繊細な表情を壊さずキメ細かで柔らかな感触を保てる。そのため靴では専ら高級なもののアッパー向けに、カーフやキップの銀付き革に施される。

一方で、素仕上げのものよりは扱い易いものの、その透明感が災いし色落ちや水ジミを起こし易いのが難点。ともすれば軽く水拭きしただけで色ムラを生じさせてしまうため、近年は以前ほど用いられず、実質ビスポーク(注文靴)レベルのものでしかお目に掛れない。その代わりとして、染料だけでなく顔料を少量塗装し小傷を隠し色付きを安定させる、通称「セミアニリン仕上げ」のものが増えている。

c. 色感が安定し褪せ難い【顔料仕上げ】

鞣す過程で染色した上に、不溶解性の顔料で厚めの塗装を施した仕上げ。透明感に乏しく革本来の風合いにも劣るものの、傷を隠し色の均質性・定着性も高くなるのが特徴。革としての歩留まりも確実に上がる。

ガラスレザーなどの一般的な靴のアッパーは、程度の差こそあれ大抵この仕上げだと思ってOK。近年は鞣し技術の進化を受け、表面の透明感をある程度確保したものも増えている。なお、スエードのような起毛させた革にはこれは施せない。顔料が表面に定着できないからだ。それらが色落ちもし易いのは、原則染料のみで着色するからである。

逆に、スニーカーなどで多用される「真っ白な表革」は、この仕上げでないと製造できない。染料には「純白」が存在せず、剥げ落ちて革の地の色が出るのを防ぐべく、多層の顔料で色出しせざるを得ないからだ。婦人靴に多いパステルカラーのアッパーの革や、靴以外だとソファーや自動車の椅子用の革=シートレザーも原則この仕上げだ。

d. 敢えて古びて魅せる【アンティーク仕上げ】

着色・塗装が一通り終わった革に、それとは異なる色の染料や特殊な乳化性クリーム等を用いて、使い込んだ革や古い木製家具の様な色ムラをわざと作り出す仕上げのこと。1990年代に入ってからイギリスの既製靴で脚光を浴び始め、その後広く普及した。

この仕上げを行うタイミングは、革を鞣す過程と靴を作る最終段階とがあり、双方で行われるケースも多い。また、色を重ねるのではなくアルコール等を用いて色を抜いたり、靴に仕上げる段階でバフ掛け等を通じ革に人為的な「焦がし」を入れるのも、広義のこの仕上げに含まれる。最近では革に一種の印刷を施して同様の効果を狙ったものもある。
なお、その性質上、お手入れを重ねるに従い効果が次第に薄れる仕上げであることは覚えておきたい。

E.牛以外の革

靴のアッパーには、牛以外の動物から作られた革も用いられる。それぞれの革独自の特徴があり、靴の性格にも明確な変化を与える。代表的なものを紹介したい。

写真/ミューゼオ・スクエア編集部

写真/ミューゼオ・スクエア編集部

a. 他に類を見ない圧倒的な光沢【コードヴァン】

馬の臀部の皮をベジタブルタンニンで鞣し、肉面(裏面)を削り表皮層の下にある繊維層を露出させ、それを寝かせて仕上げた革。繊維層の形状が二枚貝に似ていることから、厳密には「シェル・コードヴァン」と称する。名前の由来はスペインの都市・コルドバ。ここがイスラム勢力支配時代に、この革と似た質感の山羊革の主産地だったのだ。

生きていた時は肉側を向いていた面を表にするので、この革は一種のスエード状態。また、繊維層の組織が走る方向も、水平方向である牛の表革とは対照的にこの革は表面から見て垂直方向で、密度もそれの約3倍。要は細かい針山がビッシリ詰まった面を無理やり寝かせて「表面」にした革なのだ。

この構造のお蔭で、厚みの割に柔らかく堅牢で光沢を維持し易く、履きジワも大胆に美しく出るので、靴好きには熱狂的なファンが多い。欠点は水にあたった箇所が跡になり易いこと。寝かせていた繊維層が、水分で元に戻ろうと立ち上がってしまうからだ。

b. 豪華さと堅牢さが両立【クロコダイル】

「符」と呼ばれるその鱗模様が大きな特徴の、東南アジアやアフリカ産のワニの皮を鞣して作られる革。現在では養殖ものが殆どで、特に東南アジア産のイリエワニのものは、符が小さく形状も整っており、靴のみならず鞄・ベルト等にも珍重される。

ゴージャスな見た目に反して革質は柔軟で、汗や水にも強い通称「革の王様」。特に靴では左右両足で甲部の符の形状を均等に揃えるのが難しいため、既製品でも価格は非常に高価になる。なお、符は腹部にあり硬目で四角形の「竹符」と、横腹部にあり柔らか目で丸い「玉符」とがあり、用途や求められる強度に応じて使い分ける。

なお、アメリカ南部に生息するミシシッピーワニの皮を鞣して作られる革は、これとは別に「アリゲーター」と呼ばれ、竹符が横長の長方形となっているのが大きな相違点だ。

c. 使い方次第では清楚な印象にも【リザード】

トカゲの皮を鞣して作られる革。主に東南アジア・アフリカ・南米産のオオトカゲ類の原皮が用いられるが、特に東南アジア産のミズオオトカゲのものが、背中に並ぶ丸斑模様の美しさで最高級品とされる。

耐久性に何気に優れるので、こちらも靴や鞄・時計ベルトでは高級品となる。独特な光沢を有しながらもクロコダイルに比べ煌びやかな印象が薄いせいか、爬虫類系の革の靴としては入門編には最適かも?

d. 突起が一大特徴【オーストリッチ】

飛べないものの現存する最大級の鳥=アフリカダチョウの皮を鞣して作られる革。かつては野生のものも多く用いられていたが、現在では南アフリカ共和国やジンバブエ・オーストラリア等で飼育されたものが殆ど。高タンパク・低脂肪なこの鳥の食肉需要が欧米で増加した結果、革としてもある程度の安定供給体制が構築できたからだ。

羽を抜いた跡が丸く突起した「クイルマーク」を、胴体部の銀面に有するのが最大の特徴。丈夫で柔軟性にも富み、使い込むほどに艶も増すので、靴だけでなく鞄用の素材としても高く評価されているのはご存知の通り。なお脚部の銀面にはクイルマークが存在せず、こちらは別に「オーストリッチレッグ」と呼ばれる。

ーおわりー

カバー写真:アッパーはコードヴァン。上が新品で、下が経年の一例。履き方、お手入れの仕方、履く人それぞれの扱いで革の味わいも変化する。「PC-575」¥93,000+税/プリュス バイ ショセ

カバー写真:アッパーはコードヴァン。上が新品で、下が経年の一例。履き方、お手入れの仕方、履く人それぞれの扱いで革の味わいも変化する。「PC-575」¥93,000+税/プリュス バイ ショセ

撮影協力:プリュス バイ ショセ (☎︎03-3716-2983)

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公開日:2020年10月9日

更新日:2021年10月14日

Contributor Profile

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飯野 高広

ファッションジャーナリスト。大手鉄鋼メーカーで11年勤務した後、2002年に独立。紳士ファッション全般に詳しいが、靴への深い造詣と情熱が2015年民放テレビの番組でフィーチャーされ注目される。趣味は他に万年筆などの筆記具の書き味やデザインを比較分類すること。

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