ボールペンやシャーペンとは違って、いつどこで何に書いても同じとはいかない万年筆。インクや紙、それに今の気分でも書いた文字に違いが出てくる。“万能”ではないからこそ、「万年筆×〇〇」のベストな相性を追求してみたくなるのかもしれない。
今回、万年筆との相性を調査したのは「ノートの紙」。
前編に引き続き、業界でも一目置かれる万年筆のスペシャリスト・代官山 蔦屋書店 文具コンシェルジュの佐久間和子さんと「万年筆と紙の相性」を探ってみました。愛用万年筆とノートとの最高のマッチングを叶えるべく、佐久間さんを独り占めして全13冊を試し書きしてもらいました。普段何気なく使っているノートも万年筆で書くと、紙の色味で発色が変わったり罫線でインクが弾かれたり様々な違いがあるそうですよ。
後編でご紹介するノートは、「万年筆で書くのにぴったり」と評判の個性派7冊!佐久間さんならではの書き心地の違いやインクの発色・にじみ具合、選び方の注意点などを教えてもらいました。
代官山 蔦屋書店 文具コンシェルジュ 佐久間和子さん
総合文具での勤務やイラストレーターの経験を生かし、2011年より代官山 蔦屋書店の文具コンシェルジュを務める。MD、接客、売り場づくりやイベント企画などを担い、店舗では約3000種類の文具を取り扱う。
佐久間さんが万年筆でイラストを描いてその日誕生日の人々を祝うtwitter(@DT_stationery)とInstagram(@daikanyama.tsutaya.stationery)も大好評。万年筆は私物で100本以上は所有しており、メディアでも多数取り上げられている。
※Twitterが凍結している場合もInstagramで日々更新中!
写真/ミューゼオ・スクエア編集部
佐久間さんが万年筆を使う際のノート選びで重視している5点をおさらい!
①書き味
使うペンによって変わるので、好みで選びましょう。佐久間さんは適度な抵抗感がある紙質がお気に入り。逆にツルツル系はペン先がすべるので苦手なのだとか。
②発色の良さ
インクの色が映えるもの、沈むものがあるのでその点も重視します。染み込み具合で絶妙に色加減が変わっていくので、好みのインクに合わせてチョイスを。
③にじまない
絶妙なにじみは風情がありますが、基本的ににじみすぎはNG。特に細字で動物の毛などの細かな描写を描く場合は、にじまないことが絶対条件です。
④乾く速度の速さ
乾きが遅いと書き進める途中に手で伸ばしてしまったり、前のページに写ってしまったりすることも。太字のペンで確認するとしっかりとチェックできます。
⑤裏抜けをしない
特にノートは裏抜けをしてしまうと次のページが使えなくなってしまうことも。チェックの際には太字で抜けやすいインクを使うことをオススメします。
また上記項目にはありませんが、どんな用途に使うかを意識することも大切。罫線の有無やどんなペンと組み合わせるかによって、セレクトするノートも変わってきます!
使用した万年筆とインク、選んだ理由は?
佐久間さんが使用した万年筆2本。
一冊一冊、ルーペでにじみを確認する佐久間さん。写真/ミューゼオ・スクエア編集部
佐久間さんがチェックに用いた厳選万年筆はこの2つ。
● 万年筆(写真下):パイロット「カスタム98」極細字(EF)
インク:ラルティザンパストリエのボン・エスペランス
● 万年筆(写真上):ペリカン「M101N」中字(M)
インク:色彩雫の月夜
選んだ理由▶︎「今回は多方面でチェックするためにこの2本を用意しました。極細はひっかかりの確認用です。ただ抜けの確認には不向きなので、もう1つは字幅の太いものを。中には抜けやすいインクが入っています」
※違うメーカーのペンとインクを使う場合は詰まる可能性がありますので、ご注意ください!
神戸派計画「グラフィーロ」
グラフィーロ(GRAPHILO)[A5・4mm方眼・64ページ]¥800(税別)/神戸派計画
填料(てんりょう:紙の色合いやなめらかさを高める顔料)の種類や量、配合方法にこだわったノート。紙の風合いをしっかりと残しつつ、かすれやひっかかりのないまさに「ぬらぬら」のなめらかな描き心地。本文用紙は柔らかな白地に薄いグレーの方眼罫が入っています。コート層が均一なので、インクの発色が良く、濃淡の表現も豊か。水でぼかしたり色を重ねたりしてもよれづらいので、イラストにも適しています。
軽やかな描き心地で、筆がどんどん進みます。ひと言でいうと、「描いていて楽しいノート」ですね。にじみがあまりなく、インクの濃淡がキレイなのもグラフィーロの良さ。
乾きが少し遅い分、インクが紙の表面に溜まってしまい、筆跡が少し太くなりますが、吸い取り紙を使えば全く問題ありません。裏抜けがないので、いろんなインクで楽しんでみたいです。
日本ノート「Premium C.D. NOTEBOOK 紳士なノート」
Premium C.D. NOTEBOOK 紳士なノート[B5・無罫・192ページ]¥1,300(税別)、写真・赤[A4・5mm方眼・192ページ]¥1,600(税別)/日本ノート
Premium C.D. NOTEBOOKのために開発されたオリジナル筆記用紙「A.Silky 865 Premium」を使用しています。思わず何度も触りたくなる、シルクのようなツルツルとした質感。気持ちの良い、なめらかな書き心地です。表紙にはフランス製の高級特殊紙を採用。今回、試し書きしたのはB5サイズの真っ白な無地ノートなので、自由にアイデアを描きたい方にオススメです。ネーミングの通り、紳士のたしなみに相応しい一冊なのに、手に取りやすい価格にも驚きます。
ツルツル・スベスベの紙質なので、ぬらぬら派にはピッタリ!力を入れずに書けるので、これにハマっちゃうと他のノートには浮気できないかもしれませんね(笑)。
紙が白く発色も良いので、インクを楽しみたいという方に喜ばれると思います。裏抜けが一切なく安心できるので、インクの色見本帳には最適だと思います。気になるほどではありませんが、インクの乾きは少し遅めかも。
満寿屋「MONOKAKI」
MONOKAKI[A5・無罫・160ページ]¥1,000(税別)/ 満寿屋
書きやすさを追求した原稿用紙で、多くの文豪に支持されてきた満寿屋。「その使い心地を普段使いに」という要望から、万年筆での筆記を想定したオリジナルのクリーム紙を用いたノートを開発しました。インクがにじみにくく、なめらかな描き心地が特徴。本文用紙は目が疲れにくいクリーム色の無地。長時間文字を書き続ける方にも優しい色みです。「物書き(作家たち)」の求めるクオリティをデイリーで楽しめるノートです。
適度に抵抗感があり、サリサリとした描き心地。流行のスルスル質感とは異なる、硬派な感じが好きです(笑)。極細のペン先だと少し引っかかりを感じるかもしれませんが、気持ちよく書けます。にじみにくいので、シャープな線が書けるのもポイントです。
紙が薄いのにハリがあり、裏抜けしないのはとっても優秀!クラシカルな表紙や高級感のある紙質でリッチな気分を味わえます。
プラス「カ.クリエ プレミアムクロス」
カ.クリエ プレミアムクロス[A4×1/3・5mm方眼・112ページ]¥680(税別)/プラス
ジャケットの胸ポケットにも入る、スマートサイズで持ち運びにも便利。A4の3分の1サイズなので、折った紙もキレイに収納できます。本文用紙にはなめらかな書き心地が特徴のクリーム色の中紙を使用。薄めのグレージュの方眼罫が端まで入っているので、見開きで使えばアイデアやマップなども自由にたくさん描けます。糸がかり製本で開きやすいのもうれしいポイント。
程良いクリーム色が目にも優しく、使いやすいと思います。ひっかかりがなく、ツルツルでもないちょうど良い摩擦感なので、好き嫌い分かれずに使えそう。裏抜けが全くないので、安心して両面に書くことができます。
インクをよく吸い込むので、やや色が濃く見えますね。発色や濃淡を楽しみたい人には少し物足りないかも。
ミドリ「MDノート」
MDノート[A5・無罫・176ページ]¥800(税別)/ミドリ(デザインフィル)
紙質違いの2種類があり、今回は「MD用紙クリーム」をご紹介。本文用紙は温かみのあるクリーム色。そして、ひっかかりとなめらかさを両立させた絶妙な書き心地で、リズミカルに筆を運ぶことができます。製本は糸がかりを用いているので、180度開くことができ、使いやすさも抜群。表紙に飾りがない、無垢な佇まいも用途の幅を広げます。もう1種類の「MD用紙コットン」はコットンパルプが20%配合していて紙が白く、よりなめらかな質感です。
サラサラとした触り心地で、今回試した中では最も抵抗感が強いです。太いペン先で書いてもサリサリとし、しっかりと万年筆で書いている感覚を楽しめます。にじみがほとんどなく、筆跡がシャープになるので、シャキッとした文字がお好みの方にピッタリです。
色鉛筆など他の筆記具との合わせ技もいいかもしれませんね。シンプルな装丁も含め、魅力がいっぱい詰まっている一冊です。
KUNISAWA「FIND NOTE HARD」
FIND NOTE HARD[A5・5mm方眼・192ページ]¥3,000(税別)/KUNISAWA(河内屋)
高品質の証でもある透かし模様。
2018年「文房具屋さん大賞」ノート賞受賞の一冊。まず目を引くのは、高級感溢れるコッパー色(銅色)の天金加工。見た目の良さだけでなく、紙の変色や収縮を防ぎ、ノートを格段に長持ちさせます。本文用紙には品質の良さを保証する透かし模様が入った、フールス紙を使用。クリーム色の紙にグレーの方眼罫で、なめらかな書き心地です。表紙はしなやかさもあり、持ち運びやすさも◎。
書き心地が好みで、以前から気に入って使っています。紙質はしっかりとしていて、フールス紙の中でもサラサラ系。程よい抵抗感がありつつ、ひっかかりはありません。
紙は真っ白ではありませんが、インクの発色が良く、そのものの色がよく見えます。紙の程よいクリーム色も私好みです。このビジュアルの特別感は、商談などのビジネス用や日記などの保存用に使いたいですね。
渡邉製本「セブンシーズ クロスフィールド」
セブンシーズ クロスフィールド[A5・7mm方眼・384ページ]¥3,200/渡邉製本
手が透けるほど薄くて軽い用紙「トモエリバー」。
カリフォルニアの文具ショップが日本の製本技術を見込んで制作依頼をした、という誕生秘話を持つ人気ノート。本文用紙には万年筆と相性が良いと言われる、トモエリバーを使用しています。紙の薄さが特徴的で、192枚のボリュームながらたったの12mm程度。柔らかな白でインクを美しく発色するのも持ち味です。薄いグレーの破線方眼罫で、1マスが7ミリなので、文字も書きやすくなっています。表紙には学術書などにも使われることが多い素材を採用し、長期使用ができる作りに仕上がりです。
何よりも魅力は紙の薄さ。これで裏抜けがないのは驚異的です!紙がフワフワとしているのにハリがあって、めくるのが楽しくなります。サラサラ系で書きやすさも十分。
紙色は白ですがまぶしくなく、インクがキレイに見えるちょうど良い加減です。そして、発色がとっても良いですね。細い線もきちんと色が見え、濃淡もキレイです。他と比べるとにじみもなく、優秀ですね。
万年筆に合うノートは食の好みのように人それぞれ違うもの
後編では7冊の厳選ノートを書き比べしました。佐久間さんがお気に入りのサラサラ系や驚きのフワフワ質感のものなど、それぞれの個性がよく見え、今回も新たな発見がたくさんでした!
前編・後編のトータルで13冊をご紹介しました。ぬらぬら派やカリカリ派など、万年筆に合うノートは食の好みのように人それぞれ違うもの。さらに万年筆やインクを変えれば、また書き心地や発色が変わってくるので、楽しみも無限大です。ぜひ佐久間さんの声を参考に、自分の好みを理解してお気に入りの一冊を見つけてください!
試し書きしたノート全13冊を一気見せ!
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