コーラス株式会社 セーラー万年筆担当 西本和弘さん
日本橋高島屋 S.C.本館 万年筆売り場で接客を12年担当してきた、万年筆のプロフェッショナル。フォロワー数13,000人を超えるTwitterアカウント「ntさん@日本橋の万年筆屋さん」(@enu_tea)の中の人でもあり、今の万年筆ブームの火付け役。
豊富な知識と商品提案力、そしてマニアの心をつかむ軽快なトークから、万年筆界のカリスマ店員とも呼ばれている。商品プロデュースも手がけており、本企画第1弾に登場した代官山 蔦屋書店の佐久間さんとコラボレーション商品を監修したことも。
写真/ミューゼオ・スクエア編集部
ntさんが万年筆を使う際の便箋・レターセット選びで重視するのはこの2点!
①書き味
重要なのは、筆を走らせた時に「気分が上がるか」。愛用する万年筆と相性のよい紙の場合、筆がグングンと進むのだそう。西本さん好みの紙質は「トモエリバー」のようになめらかな書き心地。
②にじまない
抜けやすくにじみやすい、太字を普段使いしているため、にじみにくさはとっても大切。紙の繊維感、インクの吸い方、コーティングにも目を光らせて、どのようににじむかをチェックします。
「ノートと違って裏面を使わないので、裏抜けはあまりシビアに見ていません。その分、使えるインクや紙の選択肢が増えるという点で便箋選びはとても楽しいと思います。お客さまの中には罫線の色はもちろん、匂いにこだわる方も多くいらっしゃいます」(西本さん)
※紙の特徴がわかるよう、前回同様「インクの発色」「インクの乾き」「裏抜け」を含む5つのポイントでも見ていただきました。
試し書きに使用した万年筆とインク、選んだ理由
①
万年筆:セーラー万年筆 プロフェッショナルギア 太字
インク:ローラー&クライナー「Verdigris」
②
万年筆:セーラー万年筆 長刀研ぎ 中字
インク:セーラー万年筆 「山鳥」
③
万年筆:セーラー万年筆 プロフェッショナルギアスリム 竜宮城 中細
インク:セーラー万年筆 「青墨」
太さの違う3本を使用。「①プロフェッショナルギアは普段使いしているもの。にじみやすいインクを入れているので、紙の性能がよく見えてきます。②長刀研ぎは、立てたり寝かせたりと書き方でニュアンスが異なり、漢字特有の払いをしやすいのが特徴。書き味のチェックに最適です。また、中細の③プロフェッショナルギアスリムには顔料インクを入れ、くっきりと書かれた状態を確認します」(西本さん)
※違うメーカーのペンとインクを使う場合は詰まる可能性がありますので、自己責任でご使用ください!
G.LALO「レターセット」
パリの老舗ブランドによるシリーズ5種。今もなお手作業で作り上げており、そのクオリティは世界中で高く評価されています。「トワル・アンぺリアル」は皇帝の織物というネーミングの通り、縦糸と横糸が織り込まれているような美しさが印象的。
他にも、最も古くから展開されている定番「ヴェルジェ・ド・フランス」シリーズや白さが際立つ「べラムフランス」、コットンを50%含んだソフトな手触りの「べラムコットン」があり、すべて無地なので、紙質の違いがしっかりと感じられます。
「G.LALO」プレスコメント
「2020年、『G.LALO』はブランド生誕100周年を迎えました!これからも高品質で常に時代に合ったエレガントな紙製品を生み出し、書くことや手紙を交わすことの楽しさを提案し続けていきます」
5種どれも厚みがあり、きちんと感を得られる便箋です。中でも気に入ったのは「トワル・アンぺリアル」。見た目の印象ではペン先にひっかかりがあるタイプかと思いましたが、すごくスムーズな書き味で気持ちがいいです。
サラサラとしながらも筆跡に風合いも出る、不思議な紙。こういった紙質はノートにあまりないので、便箋ならではの新鮮さがありますね。発色、裏抜け、乾きもすべて優秀です。
G.LALOの他の種類もチェックしてもらいました
ヴェルジェ・ド・フランス(ホワイト):西本さん「ひっかかりが強め。紙が厚く、透かしが入っていて高級なイメージ」
ヴェルジェ・ド・フランス(ローズ):西本さん「発色のよいピンクは珍しく、お客さまにもぜひオススメしたいです」
ベラムコットン:西本さん「他にないコットンならではの繊維感が強い、独特な風合いが楽しめます」
べラムフランス:西本さん「サラサラ系としっかり系、両方いけるプレーンな紙。濃淡が出るのも◎」
エヌビー社「万年筆のための便箋」
「万年筆の初心者から気軽に使えるように」と細部に気遣いが感じられる便箋。万年筆に適した国内唯一の高級筆記専用紙、OKフールス紙を採用し、すらすらとスムーズな書き心地を味わえます。光に透かして見えるレイド模様と2種類のウォーターマークは紙質が優れている証。横罫と縦罫があり、用途によって選べるのも嬉しいポイントです。中身が透けない中紙入り専用エンベロープも展開しています。
「エヌビー社」プレスコメント
「紙質へのこだわりはもちろん、さりげない模様や金箔を施した高級感のある表紙も魅力です。万年筆愛好家の方々に好まれそうな格好良い雰囲気に仕上げながら、中には文例や説明書が付いているので、どんなことを書けばいいかわからないという方にもおすすめ。
なめらかな書き心地を楽しみながら、大切な人への手紙を書いてみてはいかがでしょうか?」
さすがのOKフールス紙、書き味のよさは抜群です。透かしも綺麗で、万年筆好きに好まれる質感だと思います。
罫線にインクが乗ってしまいますが、文字が収まるように線の間隔が広く取られているので問題ないでしょう。太字で書いたところが一部裏抜けしましたが、それ以上に書き心地やインクの発色のよさが強みになっていますね。
アルジョ・ウィギンス「コンケラー・レイド」「コンケラー ・ウーブ」
コンケラー・レイド 便箋[A4・ブリリアント ホワイト・50枚]¥1,280+tax、C6 封筒&カード[114×162mm・ブリリアント ホワイト・各10枚]¥840+tax、DL封筒[110×220mm・ブリリアント ホワイト・25枚]¥1,150+tax、コンケラー・ウーブ 便箋[A4・ブリリアント ホワイト・50枚]¥1,280+tax、C6 封筒&カード[114×162mm・ブリリアント ホワイト・各10枚]¥840+tax、DL封筒[110×220mm・ブリリアント ホワイト・25枚]¥1,150+tax/アルジョ ウィギンス(株式会社ヤマト)
世界トップクラスの製紙メーカー・英アルジョウィギンス社の「コンケラー」2種類。信頼の品質と洗練されたデザインが支持され、世界100カ国以上で愛用されています。
「レイド」は凹凸を感じる表面の簾の目が美しく、「ウーブ」は程よく繊維感を残しつつもなめらかに仕上げているのが印象的。どちらも真っ白な無地、さらに便箋としては大きめのA4サイズなのでビジネスペーパーとしてもオススメです。同質の紙を使用した専用の封筒やカードセットも揃います。
「アルジョ ウィギンス」プレスコメント
「1888年、英国ロンドンで生まれたペーパーブランド『コンケラー』。便箋にブランド名の透かしが入っているのが特徴です。ヨーロッパの伝統と洗練を感じさせる『簾の目』模様の『コンケラー・レイド』と、しっかりとした質感の平滑仕上げの『コンケラー・ウーブ』。2つのテクスチャの書き心地をぜひお試しください!」
表面の質感が特徴的な「レイド」は、中細のペン先で縦に線を引くとパタパタと音がしました。インクの吸い込みが早く、にじみはありますが、それがしっかりと味になっています。
「ウーブ」はペンを選ばない便箋で、個人的に書いていてとても楽しかったです!紙質はしっかりとしているのにペン先は程よくすべり、素直に発色してくれます。インクの吸いのよさは「レイド」と同じくらいですね。
オリジナル クラウンミル「レイドペーパー」「ピュアコットン」
レイドペーパー 便箋[A5・無罫・50枚]¥1,800+tax、ピュアコットン 便箋[A5・無罫・50枚]¥2,000+tax/オリジナル クラウンミル(アイハラ貿易)
クリーム色の「レイドペーパー」は表面に繊維の凹凸感があり、手すき仕上げのような温かみを感じられます。レイド模様の透かしも入っています。真っ白な「ピュアコットン」は光に透かすとブランドマークが見える粋なデザイン。繊維質がありながらもなめらかな触り心地です。どちらも無地で、高級感を感じる厚みがあります。
「オリジナル クラウンミル」プレスコメント
「『ORIGINAL CROWN MILL』のブランドは、ベルギー、オランダなどの欧州の王室で長きに渡り愛用されています。2種類とも紙は万年筆への筆記適性を重視して作り上げました。『ピュアコットン』はその名の通り、100%コットンなのでインクの発色も抜群です!」
「レイドペーパー」は割とザラつきがありますが、書き心地はいいですね。フールス紙に少ししっかりとした質感を足したイメージかな。レイド模様の透かしも気持ちが上がります。
もう一方の「ピュアコットン」はとても僕好みです!しっかり系の紙質なのにペン先がガリガリせず、インクをよく吸収する。なので、独特の濃淡が出るんですよね。ヌルヌル系だけど字がしっかりとキマる、安心感のある紙です!
LIFE「ライティングペーパー」
銀行業務用に作られた用紙「バンクペーパー」を採用した、厚みのあるふっくらとした無地の便箋。表面は緻密でなめらかな仕上がりで、裏抜けもしにくいと定評があります。紙の色は、インクの色に影響を与えない程度の柔らかなクリーム色。インクの吸い込みはゆっくりですが、吸取紙がついているのでご安心を。光にかざすと「THREE DIAMONDS」の文字が透けて見えます。
「LIFE」プレスコメント
「LIFEでは商品の個性に応じて様々な紙を使用しています。お手持ちのペンやインク、紙とで、好みの組み合わせを発見する過程も楽しんで、ぜひ書くことを愛していただきたいです。特に『ライティングペーパー』はその名の通り、書くことへのこだわりが込められているので、ぜひお試しください」
まさに「バランスの取れた紙」というところでしょう。しっかり系で抜けがない、バランスのよさが特徴。
正直なところ僕の好みとは違うのですが、初めての便箋として迷っている方にはこれをオススメしたいです。これから自分の好きな書き心地を見つけていくのにぴったりな、基準となる紙だと思います。
LIFE「エアメール 便箋」
エアメール便箋[250×177mm・タイプ用紙50枚・下敷き付]¥350+tax/ライフ
他の便箋とは一線を画す、薄さと軽さ。トレーシングペーパーと勘違いしてしまうほどですが、文字がしっかりと読める透け感に調整されています。紙表面はきめ細かくなめらかなので、どんな筆先でもスルスルと書けると好評。無地のため手紙としてはもちろんのこと、イラストを描くなど様々な用途で使用できるアイテムです。
「LIFE」プレスコメント
「『タイプ用紙』は透けるような薄さと軽さを持ちながらも、タイプライターでの強い印打にも耐える強さを持つ紙質とされています。電子メールも一般ではなく、国際郵便料金が今より高かったであろう当時にできるだけ軽く送れる紙として採用されたのだと思います」
西本さん「裏抜けしないけど、文字ははっきりと透けるので悩んだ結果『?』にしました」
これはすごい!書き心地がよくて、ファンになってしまいました。『ライティングペーパー』とは真逆で、びっくりするほど薄くて軽い。なのに裏抜けもしない!この独特の透け感は圧倒的な魅力ですね。
持ち運びにも便利なので、オリジナルシステム手帳のリフィルにしたいなぁ。インクが濃く綺麗に出ているので、色を楽しみたい方にも最適です。
万年筆と紙の相性って、本当に奥深い
「こんなに試し書きができるなんて役得です!」と西本さんは長時間ペンを走らせて、相性を確認してくださいました。(ちなみにLIFEの「エアメール」が一番の衝撃だったそう!)
皆さんも気になる便箋は見つけられましたか?こんなに種類があってもどれ一つとして同じ質感はなく、万年筆と紙の相性って、本当に奥深いですよね……。
実はこれでもまだ半分。後半も硬派なものからユニークな紙質のものまで、様々な種類が登場します!次回もお楽しみに。
ーおわりー
文房具を一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
万年筆派の方のための、書き込み式練習帳
美しい文字を万年筆で書く
万年筆の基本についても、巻頭のカラーページで少し触れています。
練習ページでは、日常生活だけでなく、ビジネスに役立つ言葉やフレーズ、欧文筆記体など万年筆で書くのに適したお手本などを紹介。
巻末には論語や般若心経からの抜粋も、お手本として掲載しました。
小日向 京さんの文具愛、炸裂!
惚れぼれ文具 使ってハマったペンとノート
文房具を語る、心にしみる言葉が満載!
文具ライターの小日向 京さんは、生粋の文具好き。
自身の数多ある“推し文具"の中から、「惚れぼれする気持ち」を抱かせてくれるペンと紙製品を厳選し、ひとつひとつじっくりと語っています。
もちろん、ためになっておもしろい、小日向流の文具の使い方も盛りだくさん。
惚れぼれとした気持ちになる文具と出会い、使うことの意義と幸せを、しみじみ感じることのできる一冊です。