「お気に入りの革靴を履いている」満足感は、仕事や学業のパフォーマンスをあげてくれるもの。この連載では、革靴のデザインごとに代表モデルやディテールについて解説します。愛せる革靴を探す旅。今回は洗練された雰囲気が漂う、ストレートチップを深掘りしていきます。
ストレートチップとは?
Church's(チャーチ)「CONSUL」
ストレートチップとは、トウ(つま先)に対して真一文字の切り返しがついたデザインの靴を指します。真一文字の繰り返しの部分はステッチ(縫い目)があしらわれています。この部分の縫い目は三本縫いにされたものや、二本縫いにされているものなど様々です。
たとえば、古くから質の高い靴を製造していることで有名なイギリスのシューメーカーEdward Green(エドワードグリーン)のChelsea(チェルシー)と呼ばれるストレートチップは、切り返しの部分は二本縫いとなっています。
靴の聖地、イギリス・ノーサンプトン(Northampton)で1873年に創設された、SANDERS(サンダース)が製造する1128Bというモデルは三本縫いになっています。
なお、ストレートチップとは異なり、トウの部分に穴飾り(パンチ)が施されている靴があります。この靴はパンチドキャップトウと呼ばれ、ストレートチップとは区別されます。穴飾りが施されている分、ストレートチップよりも華やかでカジュアルな印象となります。
洗練された印象となる黒の内羽根式ストレートチップは、ビジネスの場で着用が可能ですし、冠婚葬祭などフォーマルなシーンでも用いることができる靴です。普段革靴を履かない方でも一足は所有しているといざという時に安心できるはずです。
靴の甲革の上部に左右に分かれた部分(羽根)は、紐で結ぶことによって足にフィット感をもたらす重要なパーツです。羽根の形状には2つの種類があり、それぞれ内羽根式・外羽根式と呼ばれます。内羽式は、羽根が甲部と一体化していることが特徴です。
一方、外羽根式は羽が甲部の上に被されるように縫われています。外羽根式は軍靴として採用された歴史を持っており、靴の着脱が容易で実用性が重視されていることから、外羽根式の方が内羽式よりもカジュアルな靴であると考えられています。靴紐を緩めることで羽根が広く開くので、足の出し入れが比較的しやすくなっています。
ストレートチップの歴史
内羽根式の紐靴は1853年、英国のヴィクトリア女王の夫君であるアルバート公が考案したとの説が有力です。彼が好んだスコットランドの王室御用邸である「バルモラル城」に因んでバルモラルと呼ぶようになりました。
19世紀後半初頭になると、靴のトウの部分を守るために、つま先に芯(トウキャップ)が入るようになります。ストレートチップの特徴である真一文字の線は、靴職人がキャップトウを入れる際の目安とした線がデザインとして取り入れられたという説もあります。
先にも説明したように、内羽根式のものは英国王室が使用してきた歴史を持っているためストレートチップの中でもフォーマルです。
日本においては、茶系の靴が1980年代まではほとんど売られていませんでしたが、イタリアの洋服のスタイルが流行したことをきっかけとして1990年代以降、茶系の色のストレートチップが増えてきました。
ストレートチップの代表モデル
大塚製靴「M5-105」
明治5年(1872年)の創業以来、西洋靴という新しい文化を日本に定着させ、日本人の足に合った靴の追求に専心してきた大塚製靴。
約110年前(1907)年に発行された当時の大塚製靴のカタログには、内羽根式のストレートチップが多く見られたそう。その歴史と技術を継承し、作られた靴がM5-105です。
トウの部分は、スキンステッチで一文字を表しています。機械ではこのようなステッチを表現することはできません。確かな手縫いの技術をもってはじめて実現できる意匠です。
JOSEPH CHEANEY(ジョセフ チーニー)「BUCKINGHAM」
1886年に、グットイヤーウェルトシューズの生産地として名高い英国ノーサンプトン州の郊外、デスバラーで設立されたジョセフ チーニー。
「BUCKINGHAM」はジョセフチーニーのハイエンドラインでもあるインペリアルコレクションの内羽根式ストレートチップです。
木型はインペリアルコレクションのみに採用されるラスト208を採用。程よい長さのロングノーズシルエットにバランスの良い甲の高さ、やや膨らみのあるエッグトウ。 それでいて絶妙にシェイプが利いたウィズから得られる総合的なフィット感は、チーニーの中でも格別タイトフィットな仕上がりです。
アウトソールには樫の木をベジタブルタンニンなめしたオークバークソールを採用しています。時間を掛けて丁寧に鞣されたソールは、しなやかさと屈強性に優れ摩擦にも強く、すり減りが少ないのがポイントです。
また、フィドルバック、くびれが際立つベヴェルドウエスト、ヒドゥンチャネルといった既成靴にはまず見受けられないビスポーク仕様は、英国のクラフトマンシップを一層堪能できます。
Jinto SHOEMAKERS(ジント)「CAP TOE OXFORD」
Jintoは現代的なカラーをプロダクトに融合させた、宮城興業の若手社員によるファクトリーブランド。プランニングからプロダクションまでの工程を国内一貫生産、「JAPAN MADE」にこだわった靴を提供しています。
「CAP TOE OXFORD」に使われている革は、表面に「蝋」が塗付されているワックスレザー。ロウが付いているため、磨くとツヤを出しやすいことが特徴です。
ソールには耐摩耗性に優れているヨーロッパ産のベンズレザーを採用しており、税抜き¥30000という手頃な価格ながらレザーソールのはき心地を楽しむことができます。
REGAL(リーガル)「01RR BG」
日本のビジネスマンの足元を支え続けてきたリーガルが製造する、デイリーユースに最適なストレートチップが「01RR BG」です。
メリハリのあるラウンドラストとコバ周り、履きこむことで足裏形状を記憶するグッドイヤー・ウェルテッド製法ならではの履き心地がポイントです。ボリューミィながら軽さを備えたラバーソールとソフトなレザーで足へのストレスを軽減。実用性に秀でています。カラーはブラック、ダークブラウン、ブラックスエード、ダークブラウンスエードの4色となっています。
RENDO(レンド)「CAP TOE OXFORD」
浅草に店を構えるシューズメーカー「RENDO」。
RENDOは全ての靴をグッドイヤー・ウェルテッド製法でつくっており、またビスポークシューズと見間違えるほどシェイプがきいた木型を用いるなど、手間暇を惜しまずに靴作りをおこなっています。型紙のみならず、木型もブランドを主宰する吉見氏が自らの手で設計したものを用いています。
R7701は、ビジネスシーンの定番とも言えるcap toe oxfordのモデル。シンプルなデザインですが、オリジナル木型の形状を活かしながら、 純粋なラインをパターンに落とし込んでいるRENDOのエントリーモデルです。
まとめ:冠婚葬祭に最適な一足
ストレートチップは、冠婚葬祭からビジネスシーンでも履くことができる靴です。特に黒の内羽根式のストレートチップは、モーニングなどの「昼間の儀式用の礼装」に最適な靴です。一足持っておけば、いざという時にも安心できます。
初めて本格的な革靴の購入を検討しているのであれば、黒の外羽根式プレーントウと合わせて黒の内羽根式ストレートチップも選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。
なお、黒の内羽根式ストレートチップのことばかりを紹介してきましたが、茶系のストレートチップをラインナップしているメーカーは数多くあります。
茶系は内羽根式であってもフォーマル用としては適さないものの、フルブローグなどと比べるとやはり洗練された雰囲気があります。
チャコールグレーやネイビーのスーツはもちろん、ブレザーなどとも相性がよく、黒色よりはカバーできる装いの範囲は広くなります。
ーおわりー