脱ぎ履き容易、かつ上品。サイドゴアブーツの特徴と代表モデル

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文/ミューゼオ・スクエア編集部

「お気に入りの革靴を履いている」満足感は、仕事や学業のパフォーマンスをあげてくれるもの。この連載では、革靴のデザインごとに代表モデルやディテールについて解説します。

愛せる革靴を探す旅。今回は機能的かつ上品なブーツ、サイドゴアブーツを深掘りしていきます。

サイドゴアブーツとは?

トリッカーズM2754

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サイドゴアブーツ(Side Gore Boots)とは、名前の通り足の内外両側のくるぶしの周辺にGore=(マチ)が施されたブーツのこと。

マチに用いられる素材はゴムを織り込んだ伸縮性のある素材が多く、靴のサイドにゴア(が付いた)ブーツという意味で、サイドゴアブーツと呼ばれています。

このゴム布は、エラスティック(elastic)とも呼ばれます。そのため、サイドゴアブーツは、サイドエラスティックブーツと呼ばれることもあります。

サイドゴアブーツは、他のブーツのように靴紐・ストラップ・バックルが付いておらず、大変柔軟性の高いゴアによって靴が足にフィットする構造となっていることが最大の特徴です。収縮性のあるゴアが靴紐・ストラップ・バックルがなくとも足にピッタリとフィットし、快適な履き心地を生み出します。

さらに、サイドゴアブーツには、ヒールの先端部分にヒールタブと呼ばれる革が付いていることが多いです。

例えば、サイドゴアブーツを製作しているイギリスの有名ブランド「ドクターマーチン」にはブランドアイコンが印字されたヒールタブが付いています。ヒールタブが付いていることによって、靴の着脱はよりスムーズになります。

加えて、ヒールタブが付いていることによって、踵の内側やフチの破れを防ぐ効果もあり、靴のフォルムの美しさをより長く保つことができるようになります。

MuuseoSquareイメージ

サイドゴアブーツの歴史

サイドゴアブーツはイギリスの首都ロンドンで1930年代に誕生しました。

当時のイギリスのシューメーカーが即位したばかりのイギリス女王であるヴィクトリア女王のために着脱が容易で高いフィット感を得られるブーツを考案したことが誕生のきっかけと言われています。サイドゴアブーツはもともとヴィクトリア女王のために製作されたものであるため、そのルーツはレディースにあります。

サイドゴアブーツの虜となったのはヴィクトリア女王だけではありませんでした。当時のヴィクトリア女王の夫であったアルバート公もサイドゴアブーツを大変気に入り、イギリス議会への登院時に着用するようになりました。

このことから、サイドゴアブーツはアルバート公の名前をとって「アルバートブーツ(Albert Boots)」とも呼ばれるようになります。

サイドゴアブーツはヴィクトリア女王やその夫であるアルバート公が着用していた靴であるため、当時はフォーマルな靴として位置づけられていました。

当時革靴はオーダーメイドによる製作が主流で、当然庶民が靴をオーダーすることは難しく、サイドゴアブーツはアッパークラスを象徴する靴であったのです。

イングランドには乗馬が文化として根付いています。そのため、着脱が容易なサイドゴアブーツは、乗馬の際にも用いられるようになりました。乗馬の際にも着用されるようになったことで、サイドゴアブーツは「ジョッパーブーツ(Jodhpur Boots)」と合わせて混同されるようになりました。

ジョッパーブーツは、足首・くるぶし・かかとに交叉上に巻きつけたストラップを外くるぶしにあるバックルで固定させるショート丈のブーツのことを指します。サイドゴアブーツも、ジョッパーブーツも馬に乗る際に用いられてきた歴史があります。

日本においては、幕末、明治の時代から英国製のサイドゴアブーツが輸入されるようになります。脱亜入欧を目指す当時の日本はイギリスから多くの文化を学び、サイドゴアブーツは日本においても一部礼装用にも用いられていました。

サイドゴアブーツの代表モデル

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Crockett&Jones(クロケット&ジョーンズ)「CHELSEA11」

世界中で最も多くの木型の種類を有する靴メーカー、クロケット&ジョーンズ。「ポールセン・スコーン」、「ジョージクレバリー」、「ジョンロブ・パリス(ロブパリ)」といった伝統的なハンドメイドのビスポーク靴店の靴を高級既製靴ブランドとして製品化させた実績も持っています。

CHELSEA11は、ラストには335を採用しており、トウまわりの程良いボリューム感とラウンドシルエットが特徴となっています。シンプルさが魅力のブーツでもありビジネス~上品なカジュアルスタイルまで幅広くお使いいただけます。サイドゴアの伸縮により脱ぎ履きがしやすく適度なホールド感も得られ機能的な一面もあわせ持っています。

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John Lobb(ジョンロブ)「LAWRY」

革靴メーカーの最高峰、ジョンロブ。1858年に靴作りを始めて以降、素材、縫製、仕上げ・・・ どれをとっても一級品のものづくりを続けてきました。

「LAWRY」は、伝統的なグッドイヤー・ウェルテッド製法で作られたサイドゴアブーツ。時代を超えて愛されるチェルシーブーツのシルエットはサイドエラスティックとプルタブが特徴的。最高級のレザーを用い、高い技術を駆使して作られた定番のクラシックブーツです。

まとめ:快適ゆえに、用途が拡大した稀有な靴

サイドゴアブーツが注目されるようになったのは1960年代。ビートルズが履いたことによって、スウィンギングロンドンムーブメントの核となるブーツとして脚光を浴びたことがきっかけです。

スウィンギングロンドン(Swinging London)とは、特に若い世代で広まったキャッチフレーズで、1960年代に流行した踊るように華やかなファッション・シーンやカルチャー・シーンを意味する言葉です。

このムーブメントは、イギリスはロンドンを発祥として世界のポップカルチャーの中心となり、ファッション・デザイン・映画・文学・アート・写真・音楽に携わる当時の人々に大きな影響を与えます。

当時のイギリスはポップカルチャーの黄金時代とも呼ばれ、イギリス全体が大変な活気に溢れていました。このムーブメントがきっかけとなって、サイドゴアブーツは一般市民の間でも広く普及していきます。その中心的役割を担ったのが音楽です。その当時音楽で世界をリードしていたのがビートルズでした。

デビュー当時のビートルズはタイトなスーツに合わせてサイドゴアブーツを合わせていました。ビートルズが活動していた中心地の一つがイギリスのチェルシーであったことから、サイドゴアブーツは「チェルシーブーツ(Chelsea Boots)」の名でも呼ばれています。

MuuseoSquareイメージ

もともとフォーマルシューズを出自に持つサイドゴアブーツはアッパーに特に何も飾りがないプレーントウであることがほとんどで、それが王道のデザインと言えるでしょう。シンプルなデザインのサイドゴアブーツは合わせる服をあまり選ばず、脱ぎ履きも極めて容易で扱いやすいブーツです。

ビートルズが1960年代にしていたように、ややスリムなスーツを合わせても足元にボリュームがでないためきれいにまとまりますし、カジュアルなパンツ、例えば細めのデニムと合わせても違和感なく履ける、適用範囲の広いブーツと言えます。

ーおわりー

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公開日:2019年4月3日

更新日:2022年5月2日

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ミューゼオ・スクエア編集部

モノが大好きなミューゼオ・スクエア編集部。革靴を300足所有する編集長を筆頭に、それぞれがモノへのこだわりを強く持っています。趣味の扉を開ける足がかりとなる初級者向けの記事から、「誰が読むの?」というようなマニアックな記事まで。好奇心をもとに、モノが持つ魅力を余すところなく伝えられるような記事を作成していきます。

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