今は亡き“尖った”スポーツカーにアラフィフが熱狂! ユーザーがホンダNSXにハマる理由とは

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取材・文/手束毅
写真/阿部昌也

「自動車でどこまでも」 シリーズ 1 回目。

燃費や室内空間の広さを売りに「移動手段」としての価値をアピールするクルマが多くを占める国産車。だが、振り返ると趣味性が高く「嗜好品」としての魅力を持つ国産車も少なからず存在した。そんなクルマたちを取り上げるこの企画の第一弾は、1989年に発表された国産高級スポーツカー、ホンダNSXだ。

あのフェラーリが後追いした唯一のMade in Japan

「燃費が良く、壊れない」「品質が高いのにリーズナブル」──海外市場へ向けた輸出が本格的にスタートして以来、日本車は世界中で高い評価を受け、今に至る。
特に小型車ジャンルでは石油ショックや自動車排出ガス規制を受け、低燃費で排出ガスにしっかりと対応したことなどを理由に1970年代以降、世界中の市場を圧巻した。

近年はエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車や、水素を燃料とし車両に搭載した燃料電池で発電し電動機の動力で走る燃料電池車(FCV)、自動運転などの分野でリードしている日本車は、世界中の自動車メーカーに影響を与えてきたことは間違いない。

ただ、燃費の良さやリーズナブルというファクターを重視しない「高級スポーツカー」の分野については別だ。

フェラーリ、ポルシェ、アストンマーティンなど世界的に名声を得ている高級スポーツカーメーカーの牙城を崩す日本車は、残念なことに現在は存在しない。1000万円を軽く超える高級スポーツカーの世界では性能はもとより「ブランドイメージ」が重視される。これまで築いてきた日本車の評価が通用しない世界なのだ。

クルマに詳しくなくても「かっこいい」と感じる人がいまだに多いNSX。エンジンをミッドシップに搭載した2シーターレイアウトだ。

クルマに詳しくなくても「かっこいい」と感じる人がいまだに多いNSX。エンジンをミッドシップに搭載した2シーターレイアウトだ。

MuuseoSquareイメージ

先に挙げたメーカーたちはスポーツカーといえども無視できなくなった安全性能や環境性能を消化しながらも自らの世界を邁進している。彼らの眼中に「日本車」は映っていない。
しかし、そんな彼らをはじめとする世界中のスポーツカーメーカーのクルマ作りに大いなる影響を与えた日本車があった。

それが今回取り上げるホンダNSXである。

1990年9月に発表された2シーター(2人乗り)スポーツカーNSXは、3リッターV6エンジンをミッドシップ(車体の中心付近)に搭載し、軽量化のため量産車として世界で初めて採用したオールアルミ製ボディで高い走行性能を実現。当時、ライバル車だったフェラーリ344やポルシェ911に速さで負けていないどころか勝っていた国産スポーツカーだったのだ。

1990年に発表されたNSX。5速マニュアルトランスミッションとともに4速オートマティックも用意された。

1990年に発表されたNSX。5速マニュアルトランスミッションとともに4速オートマティックも用意された。

1992年に追加されたNSXタイプR。快適装備を省くなど120kgの軽量化を行い、サーキット走行を視野に入れたモデルとして登場した。

1992年に追加されたNSXタイプR。快適装備を省くなど120kgの軽量化を行い、サーキット走行を視野に入れたモデルとして登場した。

1995年のマイナーチェンジで登場したNSXタイプT。ルーフを脱着可能としたオープンモデルだ。

1995年のマイナーチェンジで登場したNSXタイプT。ルーフを脱着可能としたオープンモデルだ。

1997年に行われたマイナーチェンジ時に追加されたNSXタイプSゼロ。サーキット走行を追求したタイプRの後継モデルとして登場した。

1997年に行われたマイナーチェンジ時に追加されたNSXタイプSゼロ。サーキット走行を追求したタイプRの後継モデルとして登場した。

2001年のマイナーチェンジでヘッドライトがリトラクタブルから固定式へ変更するなど、デザインの変更が行われた。

2001年のマイナーチェンジでヘッドライトがリトラクタブルから固定式へ変更するなど、デザインの変更が行われた。

2002年に追加されたNSX-R。空力性能を見直し操縦安定性にこだわるなど、運動性能のさらなる向上を目指したスポーツモデルだ。

2002年に追加されたNSX-R。空力性能を見直し操縦安定性にこだわるなど、運動性能のさらなる向上を目指したスポーツモデルだ。

そんなNSXは今から25年前のクルマにもかかわらずいまだに熱狂的なファンを抱える希有な日本車でもある。
クルマに趣味性を求める層が少なくなったと言われる現在の日本で、どういう人たちがNSXに興味を持ち、また、求めるのだろうか。

その疑問をNSXをはじめとする高級中古車を仲介販売する「マックス倶楽部」の武内啓輔さんに話を聞いた。現在流通しているNSXの多くを扱っている武内さんは、元オーナーでもある。

数多くのNSXを扱ってきた専門家として、また元オーナーとして同車をどういうクルマだと考えているのだろうか。

研ぎ澄まされたフォルム、そして隙のない走りは、まるでアスリート

「NSXは(数ある日本車の中で)存在自体が別格のクルマではないでしょうか」

言葉で表すのが難しいと断りつつ、武内さんが最初にこう述べたのには理由がある。

オールアルミボディ、量産車のパーツを流用せず新設計された自動車の骨格となるシャーシ、高出力を可能とするため新機構を採用したエンジン。高い走行性能を実現するために量産車メーカーのホンダが妥協しない姿勢をクルマ作りで示したのだ。

「アクセルを踏めば速く走れるクルマは数多く存在していますが、(メーカーがクルマ作りに妥協しなかったことで)曲がることや加速するときのフィーリングやレスポンスに関して言えば唯一無二の存在である気がします」

スポーツカーとしての資質にこだわったNSXは、同クラスのライバル車と比べ圧倒的に軽かったにもかかわらず剛性(曲げ・ねじりなどの力に対しての強さ)が高い。贅肉をそぎ落としたアスリートのようなストイックさがありつつも、スポーツカーとしての完成度は優れていたことが世界中で支持を集めたクルマだったのだ。

「当時の日本車との比較だけでなく、同世代のフェラーリやポルシェに比べても(スポーツカーとしての完成度は)一歩も二歩も前に出ていると思いますよ」

マックス倶楽部店内に展示されていた1995年式のNSX。内外装は以前所有されたオーナーによりカスタムされている。

マックス倶楽部店内に展示されていた1995年式のNSX。内外装は以前所有されたオーナーによりカスタムされている。

ただし、日本のみならず世界でNSXが評価されたのは走行性能が高かっただけではない。「壊れること」が当たり前だった当時の高級スポーツカーと比べ、圧倒的にトラブルが少なかった。また、収納スペースを取りにくいミッドシップ2シーターにもかかわらず、リアのトランクにはゴルフバッグが収納でき、運転を容易にするオートマチックトランスミッション(AT)を準備するなど実用性も重視した。
簡単に言えば、定評があった日本車の美点を高級スポーツカーに取り入れたのだ。

ただ、そのことについて「スポーツカーに必要なのか」と発表当時は賛否両論が繰り広げられた。
しかし、NSX登場以降に発表されたフェラーリをはじめとする多くの高級スポーツカーは耐久性や実用性を重視している。結果的にNSXが高級スポーツカーの常識を変えたのだ。

クルマに似合う自分になるため肉体改造まで!? NSXを乗りこなすオーナー像とは

世界を変えたNSXにはいまだ多くのファンを抱えるが、だが所有するとなるとそのハードルは高い。
発表当時、車両価格が800万円を超えた高級スポーツカーだったことで流通量は多くなく、しかも誕生からすでに20年以上経つ。

それでもNSXを求める人とはどういう方なのか。

「このクルマは40代後半から50代前半の方が一番反応していますね。実際所有している方は当時800万円以上したことで手が出なかった人、若いとき購入したものの結婚を機に手放した方がお子さんの手が離れたことで戻ってきた方などです」

デビュー時は3リッターV6エンジンを搭載していたNSX。1997年のマイナーチェンジで3.2リッターエンジンに変更された。

デビュー時は3リッターV6エンジンを搭載していたNSX。1997年のマイナーチェンジで3.2リッターエンジンに変更された。

そんなNSXユーザーではあるが、選択するタイプによってユーザーさんのタイプも違ってくるのだという。

「サーキット走行を視野に入れた“タイプR”のユーザーは、このクルマに乗るため自分のカラダも鍛えていますよ。東京マラソンを走ったりしていて、みな腹筋が硬くて驚きます(笑)。オープントップの“タイプT”ユーザーはスーツを着て都心をゆっくり走りたいという方。走りよりラグジュアリーを重視しているのですね」

タイプによってユーザーの違いはあるものの、お金と時間に余裕がある大人が妥協せずに作り上げた国産スポーツカーを求めていることにはかわらない。ただ、NSXを所有することは簡単ではないという。

「車庫にクルマを大事に保管しているだけではダメ。乗ってあげないと壊れるクルマなのです。週末に100km、200kmくらいを運転していかないとエンジンやサスペンションなどがへたっていくため、保有することが難しい。それが欠点ですが、このクルマの特徴でもあります」

ただ、保有することが難しいからこそユーザーは維持管理に力を入れる。

「大人の嗜好品といえるNSXユーザーの間では現在45歳の方を、はたち(20歳)いわゆる成人と考え、その年齢以下は未成年だと見ています。発表当時をリアルタイムで知っていたかどうかが年齢の基準となりますが、保管や管理が難しく、動かさないと経年劣化が始まるこのクルマの宿命を理解した上でNSXを所有するには、それくらいの年齢以上ではないと責任が負えないと考えられているのです」

そんなオーナーたちは、クルマを手放すときでもただ高く売れればいいとは考えない。金額以上に自分が大事に扱ってきたNSXをどう扱ってくれるかを次のオーナーに求めるのだ。

「NSXのオーナーたちは例えば5年間というスパンで、サスペンションなどの足まわりに手を入れたり、消耗品を交換するなど壊れにくい車両を自ら作っています。それは20年以上経つクルマなので、壊れる前に前もって手を入れることでトラブルが起きにくくなりますし、結果的にメンテナンス費用も安くすむからです。これらのメンテナンスをしている途中でオーナーが車両を手放す場合は、このまま継続して欲しいという希望や、屋内保管だった場合は同じような保管方法を踏襲して欲しいなどの希望を理解してくれる方が出てこないと売らない、というケースは少なくありません。これはNSXが嗜好品と考えられているからこその特徴なのでしょう」

マックス倶楽部はそんなオーナーとNSXの購入を考えている人を繋ぐお店だが、お客さん同士をお店で引き合わせ打ち合わせをすることもあるそうだ。そこまでしないと嗜好品であるNSXの伝承はできない。

そこまでユーザーが維持管理にこだわりクルマを守ってきた結果、一番新しい個体でも10年以上経つ同車の価格は下がるどころか上がっている。

「扱い方を知っている人しか所有できないストイックな嗜好品であるNSXは、走行距離が少ない車両でもダメな状態があります。そうかと思うと、走行距離が10万kmを超えていてもちゃんと管理されていれば問題ない個体もあります。一般的な中古車の市場価値は走行距離が少ないほうが当然、高いのですがNSXの場合はその例に当てはまりません。いま店内に展示してある車両を私が扱うのは4回目ですが、以前販売したときの値段が450万円だったのが今回の値段は500万円。走行距離は5万km伸びているにもかかわらずです。今後、このクルマの走行距離が10万kmを超えた場合でも値段は上がることはあっても、下がることはないでしょう」

MuuseoSquareイメージ

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点灯させないときはボディに収納されるリトラクタブルヘッドライト。現在は法的な問題で自動車には採用できなくなった。

中古車ではあるものの、1000万円以上の値がつくケースもあるNSX。ユーザーがなぜ大金を投じて購入するのか。
そこには、現在のクルマでは得られない魅力がNSXには詰まっているからだ。

「NSXを所有することの大変さをこれまで語ってきましたが、わかっている人しか扱えないことはクルマの根源というかルーツだと私は考えています。また安全性能が現代の基準と違うNSXは、馬と同じように扱うことが出来ない人は乗ってはいけないと線引きがあるクルマでもあります。ちゃんと扱わないと壊れるし、エアバッグがついていない個体は現代のクルマと違って危険が伴う。ホンダをはじめ国内自動車メーカーが一番尖っていた時代に生まれたNSXは、安心・安全・エコというキーワードとは真逆の嗜好品。スポーツカーとして妥協せずに作られた姿勢を含め、いまでは作ることができないクルマであることは間違いありません。ストイックで危ない感じがあるものの、止まる、曲がるを合わせた速さが伝わる。これは乗った人しかわからないNSXの魅力ですが、
安全規制が厳しくなった今ではこのようなクルマは作れないでしょう」

純正仕様に近づけたい! 未だ衰えぬオリジナルへの憧れ

近年、40代、50代が中心のユーザーの間では車両をカスタムするのではなく、発売されていた当時の姿に戻す動きが進んでいる。

「最近の傾向として純正換装に戻すユーザーが増えています。省電力で光量が高いHIDランプから純正のハロゲンランプへ、オーディオを純正だったBOSE製のカセットデッキへ戻すなどノーマルの状態に戻していくのです。BOSE製オーディオはカセットデッキなのに50万円もするのですが、わざわざ購入し取り付け、音源はCDからメタルテープに落として車内で聴くのですよ(笑)。車両をノーマルに戻すことで、NSXが発表された当時の自分を取り戻すみたいな世界がここにはありますね」

MuuseoSquareイメージ

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2005年に生産が終了するまで、純正のオーディオはカセットデッキだったNSX。ナビゲーションやCD・MP3オーディオに載せ替えるオーナーが多いなか、オリジナルにこだわり純正オーディオに換装する方も少なくないという。

折しも10月30日から開催された「東京モーターショー2015」で、ホンダは新型NSXを国内初披露した。
新型は初代同様V6エンジンをミッドシップに搭載する2シータースポーツカー。だが、初代NSXユーザーにとってまったく気にならないという。

「初代NSXに乗っているユーザーにとって、クルマに対する熱はいまだに冷めてなく、また初代を欲しい方からすると自分の中にできあがっているクルマの理想像があるため視線が新型にはいきません」

洗練されたデザインを身にまとい、エンジンに3つのモーターを組み合わせ、最高出力573psを誇る新型NSXの動力性能は初代とくらべ圧倒的に向上している。ハイブリッドシステムを採用したことでハイパワーと高級スポーツカーとしては圧倒的な低燃費を両立した新型NSXではあるが、世界中のメーカーに与える影響は初代と比べ少ないのではないかと筆者は予想する。

Honda本社ビル1階のショールーム「Honda ウエルカムプラザ青山」に展示されてあった1992年に追加されたNSX-R。ショールームを訪れる人からの注目度は高い。(撮影:手束)

Honda本社ビル1階のショールーム「Honda ウエルカムプラザ青山」に展示されてあった1992年に追加されたNSX-R。ショールームを訪れる人からの注目度は高い。(撮影:手束)

初代が誕生した80年代後半、日本は未曾有の好景気だったがそんな時代背景をバックに「世界に負けないクルマを作ろう」という思いを胸に初代NSXは生まれ、そんな開発陣の思いは多くの人を引きつけた。
そんな思いを受け止めた初代のユーザーにとって、開発車の主調が見えにくい新型NSXの魅力は伝わりにくいのだろう。

多くのメディアではピーク時に比べ国内市場での新車販売台数が少なくなったことを受け、若者を中心にクルマ離れが起こっていると主調しているが、筆者は「クルマ離れ」ではなく「クルマが趣味性から離れていった」と見る。
懐古主義といえば話は早いが、移動手段としてではない魅力が見えるクルマに多くの人は惹かれるのだ。

取材を通し改めてわかったことは、初代NSXには今の国産車にはない嗜好品としての魅力がいまだに健在であること。
所有することの難しさやストイックな性格のNSXは、国産車のベクトルで図ることができないクルマであり、だからこそ未だに憧れるユーザーが後を絶たない至高のクルマなのだろう。

ーおわりー

File

マックス倶楽部・池袋ショールーム

東京都池袋駅から徒歩5分の場所に居を構えるマックス倶楽部は、NSXを中心にクルマを大切にするユーザーが所有する車両を、新たな所有者へと継承する高級中古車の仲介販売を行っている。
住所:東京都豊島区池袋2-38-12 ウェストコート21 1F
TEL:03-3980-2044

公開日:2015年11月9日

更新日:2022年2月24日

Contributor Profile

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手束 毅

自動車専門月刊誌の編集を経て現在はフリーエディターに。クルマはもちろん、モノ系、ミリタリー、ファッション、福祉などなど「面白そう」と感じた様々な媒体やテーマに関わっているものの、現在一番興味がある「もつ焼き」をテーマにした出版物の企画が通らないことが悩みの種。

終わりに

手束 毅_image

今回取り上げたNSXをはじめとする80年代後半から90年代にかけての国産車はとくに面白いクルマが多いんですよ! 自動車媒体に関わっている仕事柄、数多くのクルマに接していますがいまのクルマとは性能が比べものにならない当時の車両には、スペックからは見えない魅力が詰まっていることを今後もお伝えしていきます。

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