お酒と共にスロットカーを楽しんだ60年代
ミニカーやラジコンに少しでも興味がある方にとって名前は聞いたことがあるであろう「スロットカー」。
「スロット(slot)=溝」から名付けられたネーミング通り、スロットカーを簡単に説明すると「溝付きの専用コース上を、コントローラーで走らせる自動車模型」だ。
写真にあるような溝付きのコースを、コントローラーで自動車模型を走行するのがスロットカー。サーキットで活躍するレーシングマシンが特に人気が高いそうだ。
国内では、1960年代に世界中で巻き起こったブームにのって特に大人が楽しむホビーとして話題となったことがある。
大人が嗜むブームだけに、バーなどにコースが設置され飲みながら友人たちとタイムを競うことが多かったようだ。
現在は、さすがにブームといえるほどの広がりは見せていないものの、60年代と同様に主に大人がスロットカーを楽しんでいるという。
実際に触れたことがない筆者にとって、ミニ四駆とラジコンの中間に位置するイメージが強いスロットカーは、大人のホビーとして以前から大いに興味があった。
そこで、東京銀座の玩具専門店「博品館TOY PARK銀座本店」におじゃまし現在のスロットカー事情について取材した。お話を聞いたのはスロットカー担当の田原十六(たはら とおむ)さん。
博品館TOY PARK銀座本店の店内に設置された約36mのスロットコース。
店内にはスロットカーやパーツ、コースなどが販売されている。
「博品館TOY PARK銀座本店」は全長約36mのスロットカーサーキットを持ち、海外ブランドのスロットルカーや関連商品を販売している。お店を訪れる年齢層を聞くと40代後半から60代と、以前、取材したミニ四駆を楽しむ層よりはひとまわり年齢が高かった。
特に50代後半から60代のユーザーは、以前ブームになったころ子どもだったことが、今スロットカーに触れたくなる大きな理由なのだそうだ。
「昔、国内でスロットカーがブームになったとき、子どもがお店に行くと『なぜ子どもがここに来るのか!』と白い目で見られたそうです。ここにくる常連のお客さまは『自分たちと同じ思いを、今の子どもたちに味わわせてはいけない』と、初心者や子どもたちに教えてあげたりしていますね」
スロットカーは世界最小のモータースポーツ!
また、以前のブーム時と大きく違うのは大人であるにも関わらず、お酒を飲んで楽しめる場所がごく一部になっていること。
これは、スロットカーの普及に力を入れる人たちの考え方が変わったことが大きな理由となっているのだという。
「いま、スロットカーを普及させようと動いている中心にいる方が『スロットカーは世界最小のモータースポーツ。そんなスロットカーをお酒を飲みながら楽しむのはダメだ』と熱く説くのです(笑)。じつは博品館にスロットカーのコースや売場を作る際、当初、お酒なども楽しめる大人の遊び場的な雰囲気を作ろうしていたのですが、それはダメだと言われたことでいまのような形になりました」
確かに、小さいとはいえスロットカーがモータースポーツであれば、お酒を飲みながら楽しむことはすなわち飲酒運転となる。真剣に楽しむために、お酒は必要ではないのだ。とはいえ、読者の中にはコースを走行するとはいえ、モータースポーツを名乗るのは違うだろうと思う方もいるだろう。
ただ、スロットカーを専用コースで速く走らせる為には、サーキットを疾走するレーシングカーと同様の走行テクニックが必要となるのだ。
「コースを速く走らせるため、操縦で一番重要なのはブレーキポイント。上手い人はコーナーに入る手前でブレーキをかけ、抜けるタイミングでパワーをかけています。ブレーキングポイントはギリギリまでブレーキを我慢するなど実車さながらの駆け引きが必要です」
溝に沿って走らなくてはいけないスロットカーは、コース上で走行ラインこそ選択できないものの、ブレーキポイントで勝敗が左右されるところは実車でのレースとまったく変わらない。確かに、スロットカーは「世界最小のモータースポーツ」といえるのだ。
実際にサーキットでクルマを走行させることは、ある程度のお金がかかることやサーキットは限られた地域にしかないため気軽にできる人は多くはない。ただ、スロットカーであれば、専用コースが近くにあるかどうかなどの問題があるものの、実車をサーキットで走らせるよりは難易度は低いことは間違いないだろう。これはサーキットの走行に興味がある人はもちろん、スロットカーを多くの大人が楽しめるポイントだろう。
コントローラー(写真参照)のトリガー部を握ると加速、話すとブレーキがかかることでスロットルカーを操作する。
また実車がハンドルやアクセル、ブレーキといったパーツを操り車両をコントロールすることと違い、スロットカーは基本的に手元のコントローラーのトリガー部を操作するだけというところも楽しみやすいポイントではないだろうか。
ただ、単純な操作だが、車両を上手く走らせるにはミリ単位のコントロールが必要となる。基本的にコントローラーのトリガー部を握るとパワー・オンで加速、離すとパワー・オフしブレーキとなるのがスロットカーの操作だが、加速やブレーキの細かい調整を可能とするため、コントローラーをカスタムするユーザーも珍しくないという。
「常連さんのなかには、細かい電流の調整ができるつまみをコントローラーに設置したり、ブレーキをしっかりと止まるためのものと惰性で動くものをつけたコントローラーを持つ人もいますね」
ただ、スロットカーの醍醐味のひとつとして車両のカスタムができることも忘れてはならない。
ミニ四駆と変わらず、車体にパーツを装着し調整しながらタイヤ、ギア、モーターをコースの特性に合わせて組み替えることができるのだ。
自分好みの車両にカスタマイズできるのは、ユーザーにとって魅力的なポイントだろう。
そのカスタムについてだが、特に速く走るにはモーターの交換が必須のようで、ユーザーの間ではモーターを回せば回すほど速くなるというのが定説となっている。
「ここのコースで開催される公式のレース時はノーマルのモーターしか使用できませんが、友人同士と競うときなど回転数が高いモーターに載せ変える方は多いですね。またモーターは回せば回すほど速くなると言われているので常連さん同士が『(モーターの)あたりをつけるためにどこで回してるの?』というような会話をしている姿を良く目にします(笑)」
モデルカーとしてのクオリティが高い
このようにコースを走行し、いかに速く走るかを楽しむスロットカーではあるが、同じように車両を速く走らせることを主に楽しむミニ四駆と大きく違う面がある。
それは、モデルカーとしてのクオリティが高いことだ。
レーシングカーとともに、映画などに登場したキャラクターをテーマとしたスロットカーの人気が高い。
「スロットカーは走らせるだけではなく、模型としての出来がいいのでコレクターズアイテムになることも特徴です。なにより飾るだけでも見栄えが良いので走らせない人がいるほどです。それは映画「007」に登場するボンドカーやテレビゲーム「マリオカート」に登場するカートなどの限定商品が発売されることも、その理由なのかもしれないですね」
確かに現在、販売の主流だという1/32スケールのスロットカーは、実際にサーキットを走行したレーシングカーを再現したモデルが多いがどれもクオリティが高い。
市販モデルやレーシングカーではなく、バーチャルな車両として販売されているミニ四駆と、スロットカーは違う魅力を備えているのだ。
ドイツのメーカー「Carrera(カレラ)」の製品は、初心者がすぐに上手く操作するのは難しい。
ただ、残念なのは、国内の模型メーカーがスロットカーの商品を発売していないため国産車のラインナップが少ないこと。現在、博品館ではドイツのカレラ社、イギリスのスケーレックストリック社などが売れ筋だという。メーカーによって速さや操作の難易度が違うそうで、ユーザーは自らが重視する目的などによりメーカーを選ぶそうだ。
最後、田原さんにスロットカーを体験したことがない方へのメッセージを聞いてみた。
「アクセルとブレーキしかないスロットカーは操作が簡単だということをお勧めポイントとして挙げたいですね。もちろん速く走らせるためには、テクニックが必要ですが、スロットカーの世界に入る敷居は決して高いものではありません」
と、インタビューが終わった後になにげなく話してくれた田原さんの話に筆者は大きな衝撃を受けた。
「野球少年だった私は子どもの頃からホビーを体験したことがなく、スロットカーもこの売場の担当になってから初めて体験しました。実際に体験するとスロットカーの楽しさにすっかりハマってしまいました。スロットカーを知ったことがきっかけでスーパーGT選手権などの実車がサーキットで競うレースに興味を持つようになりましたよ」
実態は別として、世間では特に趣味としてのクルマ離れが進んでいると言われる。
「クルマ好きだからクルマのホビーに目を向ける」と考えていた自分にとってホビーから実車に目を向けるのはとても興味深い流れだ。
ホビーからクルマへ、そしてクルマから新たなホビーへ興味を持つ。この動きはクルマ好きにとって注目すべき新たな流れなのではないだろうか。
ーおわりー
博品館RACING PARK
店内に1/32サイズのスロットルサーキットがある博品館RACING PARK。全長約36mあるサーキットでは、ビギナーからマイコントローラーを持参するコアなユーザーなど幅広い層が走行を楽しむことができるだけでなく、子ども向け、大人向け、それぞれのレース大会が実施されている。
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終わりに
以前、おもちゃショーのブースに展示されていたスロットカーを少し操作し、あっという間にコースアウトした筆者。ただ、そのスロットカーは初心者にとって操縦が難しいメーカーの製品だったことがこの取材で判明しました。知らなかったことがわかる楽しさは編集者としての醍醐味ですね!