織り目がぎっちりと詰まったタフな相棒、ツイードジャケット。今回はジャケットにつかわれるツイードの生地について。ハリスツイード、スコティッシュツイード、ドネガルツイードで作られたジャケットを実際に見て、ツイードのもつ魅力に迫ります。
憧れを抱き続けたツイードのジャケット
学生時代から憧れていたもの。それがツイード生地のジャケット。初めての一着は大学の近くで購入したオーソドックスなグレーのヘリンボーン柄。「遂に!」と自宅の鏡の前で意気揚々を羽織ってみたのだが、なぜかジャケットだけが浮いてしまう。
何だか田舎の大学講師のような出で立ちになり、自分でも苦笑いしてしまった。
そのジャケットはお蔵入りに。苦いツイードジャケットデビューとなったが、それでもツイード生地への憧れは途切れることなかった。ツイードの種類の違うものを試して、ときに失敗もして、現在は自分が着ていてしっくりくるロングコートとジャケットで計12着揃えるまでに至った。「これだ!」と自分で納得できるツイードジャケットと出会ったのは、オーダーをすることを始めてから。野暮ったくなりがちなツイード生地を体型に沿わせて仕立ててもらい、袖を通したとき、ようやく自分にも着こなせそうだという実感が持てたのだ。
ツイードの何がそこまで私を魅了するのか……軽くて暖かいといった着心地の良さはハッキリ言ってない。ゴワゴワとしていて、その上硬くて重い。決して万人受けする生地ではないのだが、逆にそこが私の嗜好にぴったりとはまった。
今のツイードジャケットの原型は、英国紳士たちが狩猟や乗馬、フィッシングなどのスポーツライフを愉しむうえで身にまとっていたアウターアイテム。言わば英国貴族のスポーツ着なのだ。羊毛で網目に隙なく編まれた生地は、折り目も容易につかなければ、擦れたり引っ掛けたり少々手荒く扱ってもへこたれない。そのタフさに、昔も今も心惹かれる。仕事着としても愛用している私にとって、ツイードジャケットは、身にまとい守ってくれる鎧、戦闘着のような存在だ。
ツイード生地の楽しみといえば、有名な「ハリスツイード(※1)」をはじめ、産地によって羊の毛の風合いや、職人が織り上げるテキスタイルデザインに違いがあることだ。歴史や産地について知れば知るほど、このツイードの奥深さに知的好奇心を掻き立てられる。
※1:ハリスツイードとは
スコットランドの北西部に浮かぶ島、ハリス島周辺を産地とするツイード。島の住人たちで羊の飼育から、毛のせん毛、織りまで全ての工程を手がける。トレードマークとなるオーブ&クロスのタグは「ハリスツイード協会」の品質認定の証。その管理は、表記されたシリアル番号からは織り職人が判別できるほど徹底されている。
このハリスツイードの他に英国製ツイードには様々な産地がある。
ドニゴールツイード(アイルランド北西部 ドニゴール州)
シェットランドツイード(スコットランド北東 シェットランド諸島)
スコティッシュツイード(スコットランド)など
Harris Tweed(ハリスツイード)
パターン:Herringbone(ヘリンボーン)
マーチャント(生地商社):不明
今まで出会ったことのないはっきりとした青色がお気に入り。ハリスツイードを証明するダグにはシリアルナンバーが表記されているのがわかる。
Scottish Tweed(スコティッシュツイード)
パターン:Broken Herringbone(ブロークンヘリンボーン)
マーチャント:PORTER&HARDING(ポーター&ハーディング)
枯れ木や、植物が鬱蒼と茂った土地を分入って歩く時、その棘から体を守ってくれて決して破れることのないと言われている最強の生地、それがポーター&ハーディングのソーンプルーフというシリーズ。この屈強な生地仕立てと、この派手すぎないグリーンカラーがお気に入り。
Donegal Tweed(ドネガルツイード)
Donegal Tweed(ドニゴールツイードまたはドネガルツイード)
パターン:Nep Yarn(ネップヤーン)
マーチャント:SMITH WOOLLENS(スミスウーレンズ)
クラッシックパンツを合わせるとどうしても学校の先生になってしまうので、常にデニムと合わせている。ネップヤーン織り独特の生地目にポツポツ出てくる色味がいい。
3着とも購入した当初はガチガチで肘を曲げるのにも力が入っていたが、6年ほど経った今、程よく生地が柔らかく体に馴染んできた。下ろし立ての硬い生地目がだんだんとねて落ち着いてくるのだ。装備している私にしかわからない、このちょっとした経年変化もたまらない。
ーおわりー
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この一冊があれば、ジャケット素材の知識は完璧⁉︎
メンズ・ウエア素材の基礎知識 毛織物編
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終わりに
”重くてゴツい”という一般的には敬遠されそうなキーワードですが、成松さんの相棒を語る上では外せないワードだと心得ました。そしてツイード生地の産地やパターンの違いなどを聞いて、この生地自体にある奥深さが編集長を魅了している大きな要素でもあるんだろうなと感じました。体を寒さと外傷から守ってくれる鉄壁のジャケット、まさに相棒感漂う愛好品でした。