サファリ、ハッキング、ノーフォーク。個性派スポーツジャケットの起源はここにあった。

取材日: 2017年5月29日

文/飯野高広
写真/松本理加
撮影協力/OLD HAT

サファリ、ハッキング、ノーフォーク。個性派スポーツジャケットの起源はここにあった。_image

ファッションにこだわりのある人が好んで着る印象のある、サファリジャケットやハッキングジャケット。もともとはそれぞれの用途に特化した作りがデザインに反映された機能的なアイテムだった。服飾ジャーナリスト・飯野高広さんとともにその起源を解説、知れば知るほどに面白いジャケットの世界だ。

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まず「用途」ありきのさまざまなディテール

若い頃愛読していたメンズファッション誌「MEN’S CLUB」の別冊か何かで、服飾評論家の大御所である、くろすとしゆき先生がこうおっしゃっていたのをたびたび思い出す。

「食事に例えるとスーツはコース料理である一方、ジャケットはアラカルトのメインみたいなもの」

スーツに比べ気楽に着れると思いきや、他の服との合わせ方次第で見栄えの良し悪しが段違いに変化するジャケットの難しさ、そして楽しさを巧みに表現されていて、流石だなぁと今でもうならされるのだ。

では、その着こなしの成否の分水嶺は? と問われると、個人的には、その形や意匠の「起源」を知っているか否かではないかと常日頃考えている。

実は今日言うところのジャケット、厳密にはテーラードジャケットのそれは、かなりの割合でフィールドスポーツ、つまり野山で行う比較的重装備を要するスポーツ向けに考案されたもの。と言うことで今回は、代表的なジャケットについて、そのディテールに垣間見える「起源」にまで踏み込んで採り上げるのを通じ、より奥深い着こなしを読者の皆さんが楽しめる一助としてみたい。

1. ジャケットの原点・原典。ノーフォークジャケット

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アコーディオンポケット、共布のベルト、スロートタブがついた上襟など、様々な機能的ディテールがつく場合が多い。

1870年代にイギリスで登場した、今日言う「ジャケット」の源流の一つ。その名の由来には、初めて着用した人=ノーフォーク公から来たとするものと、初めて着用した地域=ノーフォーク州から来たとするものの二説がある。

「原点」故に厳密な定義は実は存在せず、ある意味試行錯誤的なものがさまざまに存在するものの、敢えて言うとすればカントリースポーツの際に役立つディテールが満載なのが、一応の特徴。例えば縦横にグルリと周りフィット感の微調整が可能な共地ベルト、後身頃の肩先に付いて腕を動かしやすくするアクションプリーツ、収納力が格段に優れた腰のアコーディオンポケット、防雨・防風性をいっそう高めるスロートタブの付いた上襟などなど……。

いや、むしろこの「役に立つの発想」こそが、この服に限らずイギリス起源の紳士服全般の最大の特徴なのであろう。そして個別のスポーツに「より役に立つ一着」となるべく、このジャケットから以下に挙げるいくつかの「特殊系」が産み出されていった訳だ。

2.乗馬での利便性が随所に宿る。ハッキングジャケット

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斜めについたスラントポケット、後ろ身頃の深いセンターヴェントは乗馬をすることを目的にしたハッキングジャケットならでは。

今でこそハッキングはコンピューターでの用語、しかも、概して悪い意味で用いられがち。しかし、こちらのハッキングは、カントリーサイドで馬をのんびり外乗することで、それに特化した服としてノーフォークジャケットから進化したのがこれだ。

タイトな腰のくびれは姿勢をサポーター的に保つのを通じ、馬を驚かせないため。長目の着丈とスカート並みにフレアーな蹴回し(身頃裾の周囲の長さ)は、下からの風の侵入を防ぐため。深いセンターヴェントは跨ぐのを楽に行うため(サイドヴェンツではない点にくれぐれも注意。英国調=サイドヴェンツなんて、一体誰が言い出した?)。

斜めに付いた腰のスラントポケット(ハッキングポケット)は中身を容易に取り出すため。そう、これらは全て騎乗時に快適な環境や姿勢を考慮し尽くしたディテールばかりである。今回採り上げるジャケットの中ではシルエットや雰囲気の良さが際立つ、正に機能美の結晶!

3. 狩猟時の機能に特化した実戦版。シューティングジャケット

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銃床を当てることを考慮して二重に補強された肩周りがシューティングジャケットならではの特徴。下襟より上襟が大きいデザインとなる場合もある。

同じ「狩猟」、つまり野山に入って鉄砲で獲物をしとめる行為でも、ハンティングとシューティングとに大別されるのをご存じだろうか。

馬に乗り狩猟犬と一緒に行うのが前者で、代表例は動物愛護か伝統維持かで近年英国で大論争になったキツネ狩りだ。一方後者は自らの脚のみを頼りにするもので、欧米でのシカ狩りなどが一例。このジャケットは後者向けにノーフォークジャケットから枝分かれしたもので、銃床との摩擦を緩和すべく肩部を二重に補強してあるのが大きな特徴だ。

襟をノッチドラペルではなくバルマカーンカラー(スコットランドの地名「バルマカーン」に因んだ襟の名称。下襟よりも上襟が大きく、上襟の底部の周囲4/5程度に台襟が付くのが特徴)としたり、フロントカットをスクエアにするなど、ジャケットと言うよりハーフコート的要素を持たせるケースが目立つのも、より過酷な環境で着られることを想定しているのか?

また、写真のものには付いていないが、伏せた姿勢で銃を用いるケースを想定し、肘部に予め革製のパッチをあてているものも多く見られる。

4. アメリカ的な開放的なアレンジ。サファリジャケット

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暑い地域での着用を考えてウールではなくコットン生地が使用され軽快な印象。シャツの構造に近いデザインがサファリジャケットならでは。

今回ご紹介する中で、さまざまな点で異端児的な存在。

まず、生まれが英国ではなく米国である点で、オリジネーターは当時ニューヨークにあった高級スポーツ用品店アーバークロンビー&フィッチ、あの「アバクロ」である。ここがケニアで探検に挑む顧客向けに、従来の商品を1920年代に改良したものが起源らしく、暑い地域での着用を想定したため、素材がウールではなくコットン主体で芯地も付かない、付いても極力薄い場合が多い点も大きく異なる。

襟や袖裾のカフス、それに前立てなどはジャケットと言うよりシャツの構造に近い点も、他のフィールドジャケットには見られない特徴だろう。なおこの服、1960年代終盤まではブッシュジャケットと呼ばれていた。サファリジャケットと呼ばれるようになったのは、当時の女性解放運動に賛同してイヴ・サン=ローランがこれの女性版を作り上げた際に命名した「サファリルック」が広まって以降である。

起源や機能を知れば、ジャケットの着こなしもさらに深めて楽しめる。

スーツに限らず最近のジャケットには、使われている個々の意匠に矛盾があり、全体のデザインとして破綻が生じてしまっているものが、結構多く見られる。「流行」とか「個性」とかと言ってしまえばそれまでなのだろうが、ともすれば無教養と誤解されてしまう場合もあり得るので要注意だ。

スーツに比べ気軽に羽織れるジャケットだからこそ、その選択は是非とも丁寧に行ってほしい。そして、例えばハッキングジャケットの足元には乗馬繋がりでジョッパーブーツを持ってくるとか、合わせる他の服に何かしらの共通点を与えられるようになれると、その着こなしは格段に深化する。

-おわり-

File

OLD HAT(東京店)

ロンドンに本店を構える同名のヴィンテージクローズショップの兄弟店。

英国の著名なテーラーのビスポークスーツやツイードのジャケット、アクアスキュータムやバーバリーのトレンチコートなど、英国ヴィンテージウェアが豊富に揃う。また近年は、20世紀初頭からの紳士服を見続けて来たノウハウを活かし、スーツやジャケット、シャツや靴などのオーダーにも力を入れている。

真のブリティッシュスタイルを好む層だけでなく、有名なファッションスタイリストが貸し出しやアドバイスを受けに通うお店でもある。

〒150-0001
東京都渋谷区神宮前6-28-5
宮崎ビルB306

03-3498-2956

12:00~20:00

*お店に足を運ぶ前に、HomePageで最新の情報を確認することをお勧めします。

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