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精進料理人・棚橋俊夫さんが語る「食材の命と向き合う」ための調理道具とは

美味しい料理をつくる人はきっと、とっておきの調理道具があるに違いない。そんな期待を胸にお話を伺ったのは、精進料理人 棚橋俊夫さん。生粋のMade in Japanの料理でありながら、意外とその実態は知られていない。精進料理を通じた食育の活動で国内、海外を飛び回る棚橋さんに、精進料理の必須道具をご紹介いただきました。

取材日: 2015年7月30日

取材・文/廣瀬 文
写真/牧野 智明

手間をかける理、昔から重宝される所以を語りかける。精進の道を説く三種の神器とは?

 低く、力強い音が耳に、そして体に響いてくる。次第に部屋全体に甘く香ばしい香りが漂ってきた。すっと伸びた背筋、一点を見つめブレることのない視線。ひたすらに、ひたむきに。両膝に抱えた大きな擂り鉢(すりばち)と擂り粉木(すりこぎ)で丹念に胡麻をすり続けるその人は、精進料理人 棚橋俊夫さんだ。

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精進料理と聞いて「魚や肉を使わない、修行のための茶色くて質素な料理」とイメージをする方も多いかもしれない。確かに間違いではないだろう。しかし、棚橋さんの料理を前にすると、目からウロコ。イチジクを使って主菜に仕上げたり、トマト丸ごとを味わう味噌汁、ナスのデザートまで。見た目味わい共に、精進料理とはこれほどにも食材の個性が際立つものであったかと、度肝を抜かれ、虜になった人は私だけではない。

現在では、イタリア、フランス、ブラジル、アメリカなど世界各国の講義やイベントに招かれ、精進料理を用いた食の意識改革につとめ、確実にファンを増やしている。その野菜への情熱、哲学は、かの世界的料理人アラン・デュカスも教えを乞うほどだ。

「旬野菜の美味しさ、体にもたらしてくれるエネルギー。そういった素晴らしさを感じてもらえるよう、野菜に敬意を払って調理し食べてくれる人へ届ける。それが精進料理人としての私の仕事です」

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一皿一皿に独創性を強く感じさせる棚橋さんの精進料理だが、その調理方法は地道で時間のかかるものだ。約一時間、一番時間がかかるという胡麻擂りもほぼ毎日欠かさない。その理由は、精進料理修行の基本、「手間ひまを惜しまない。省かない」というところからきているという。

彼が擂り鉢を擂る姿勢から瞑想や座禅のような印象を受けたのも頷ける。しかし、あらゆる種類の便利な電化製品が存在し、時短・効率化が優先される世の中において、真逆をいくようだが。

「結果に重きをおく世情とは違い、精進の世界では、精神を集中させ、清らかな状態で、いかに目の前にある食材の命と向き合うか。そのプロセスに意味合いをもたせているのです。一見、非合理的で時代遅れと思われる調理法かもしれません。ですが、昔から伝わる手法で手間ひまをかけることには、体がきちんと食物の栄養と、そして美味しさを感じていただくためのちゃんとした理由があるんです」

”料理とは理(ことわり)を料(はか)ることである”という言葉がある。調理に使われる道具にもきちんとした理由があるに違いない。
擂り鉢・擂り粉木、おろし金そして裏ごし器。この「精進三種の神器」をはじめ、棚橋さんがその理を説いてくれた、こだわりの調理道具選をご覧いただきたい。

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棚橋 俊夫さんのこだわり調理道具

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精進料理の三種の神器

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これなくして精進の道は始まらず。基本を支える擂り鉢と擂り粉木。

 精進料理修行の基本は胡麻擂りにあり。27歳で精進料理の門を叩いた棚橋さんもこの修行から始まったという。日々鍛錬を積み重ねた棚橋さんでも、姿勢を崩さず一定の力とリズムで擦り続ける過程に約一時間ほどかけるいうこの胡麻擂り。「ところで、なぜ擂り粉木は山椒の木で作られていると思う?」と問いかけを受けるも、答えられず。「山椒の木には殺菌作用があった。擂りながら、その細かい山椒の殺菌成分が調理しながら得られる。昔の人は便利なものがなくとも、知恵があった。そう感じませんか?」海外遠征で持っていく荷物が限られても、精進の心と道具の理を伝えるこのセットは欠かせない。日本でしか手に入らない為、講演先で現地の調理人に譲ることもあるそうだ。動画でもお分かりかと思うが、擂り鉢と擂り粉木を使う棚橋さんの姿にはいっさいのブレを感じさせない。

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強くて切れにくい。天然素材のしなりを活かして使う裏ごし器。

 つっぱりもせず、たるみもせず絶妙な張り。檜の枠に張られた素材は水にも強い馬の毛だ。金属や化学繊維にはない、しなやかな馬の毛は、食材を裏ごしするときに素材の無駄な繊維がその弾力性で押し返され混じらない。裏ごしされた食材には繊維の濁りざらつきがないため、なめらかな口当たりに仕上がるのだ。馬の毛のハリがなくなったら、張り替えをして使い続けることができる。豆腐の白和えを作るときや、芋や豆の擂り流しを作るときに使われる。

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風味が際立ち、口当たりまろやか。銅のおろし金。

 素材の赤道色から調理界では赤板(あかいた)とも呼ばれる、銅製のおろし金。脇役のトッピング・わさびや生姜以外にも、レンコンや里芋などもすりおろして団子や具材のつなぎをつくるために活躍する。突起部分の細かく鋭い刃(目立てという)によって、擦られた食材は風味が引き立ち口当たりが優しくなる。ワサビを摩り下ろすと、甘みすら感じられるという。目立て部分が擦り減ってきたら、再度板の面をならして、立て直して使えるのも加工しやすい銅の素材ならでは。

精進料理の基本の一品

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純白つややかな胡麻豆腐

 なぜ、この胡麻豆腐が基本の一品になるか。それは、皮むきごま、吉野葛、水というシンプルな食材しか使わないため、完成時に作り手の手仕事が顕著に表れるということ。そして、胡麻擂りなど手間のかかる工程を含んでいるからだという。雑念を取り払い、丹念に目の前のゴマを擂ることに集中する。次第に無我の境地へ誘われるような独特の感覚を得るという。棚橋さんの胡麻豆腐は皮をむいた生の白ごまを使用し、美しい乳白色に仕上がっている。

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