鍛冶職人たちが100年以上受け継ぎ造り出す、京都の源金吉印の出刃包丁

取材・文/堤 律子
写真/田中 幹人

毎日欠かさず続けていることのひとつに、料理がある。どれだけ疲れていても、何かに腹を立てていたとしても、包丁を手に取りまな板に向かう。そして野菜や魚、肉に庖丁を入れるたび、疲れや腹立たしかった事も、ストン、ストンと落ちてゆく。少しずつ心が軽くなり、気が付けば無心。ただ「美味しくなること」だけに集中する料理の時間は、面倒なルーティンワークではなく、日々を過ごす中で、なくてはならないひとときだ。

だからこそ、ストン、とまな板に落とす刃は、切れ味がよいものでなければならない。“源金吉”と刻まれた「八木庖丁店」の包丁は、そこに強さを加えて洗練したような一本だ。

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魚をさばくのに適した本霞 重さゆえの鋭い切れ味

魚を捌き、おろすために研ぎ澄まされた鋭い切っ先や、手強い魚の骨も難なく切り落とす刃元(柄に近い部分)の厚み。硬い魚の骨も砕くため、ある程度の重さがあるのも、出刃包丁の特徴だ。


八木庖丁店の屋号「源金吉」という文字が刻まれた出刃包丁(写真は5寸5分=16.5cm。2万500円、税抜)は、その特徴的な形状の中で、切れ味の良さとタフさにこだわって製造され、料理人の中でも愛用し続ける人が多い包丁。


「剛材は白鋼。剛材の中でも不純物が少なく、鋭く切れ込むので、魚をさばくのに向いています。刃が欠けにくく手入れしやすいと、代々使っていただいているお料理屋さんもあります」と話すのは、八木庖丁店三代目店主・八木洋子さん。


木製の柄を握ると、すっと手に馴染み、出刃包丁ならではの重みが手の中で安定感を出し、しっくり納まってくれる。その重みゆえ、抵抗を感じずスッと切れるので、むしろ軽く感じるようだ。


「柄は、朴木(ほうのき)と呼ばれる木で、しっかり硬さもありますが、柔軟性もある。長年使っているお客様の中には、手で握った形に柄がすり減っているから柄を交換して、という方もいらっしゃるんですよ」。


柄と刀身を繋ぐ“桂(かつら)”という部分には、今では貴重な水牛の角が使われていて、1本1本その模様や色合いが異なるので、それぞれ印象が異なるのも面白い。「刃はかけにくく硬いものですが、研ぐ時にあまり立てて研ぐと刃を痛めます。出刃包丁の角度に合わせて、研ぎ石に刃を当てて研いでください」。

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大阪・堺市の職人集団が 守り続ける八木庖丁店の品質

「八木庖丁店の創業は安政元年。当時は丹波国八木(現在の京都府亀岡市〜兵庫県南丹市の一帯)で、亀岡藩松平公の刀鍛冶を担っていましたが、明治初年の廃刀令後は、料理包丁や打ち刃物製造に転業しました。今の場所には明治8年からのれんを掲げています」と歴史は古く、天台宗総本山の比叡山延暦寺や山王総本宮の滋賀県の日吉大社など、近隣の寺社仏閣も八木庖丁店の包丁を指名しているところからも、その品質の高さがうかがえる。


「包丁づくりは、大きく分けて17の工程があります。一枚の大きな鋼を切り出したり、炉で熱して成形するなど、それぞれの工程にその工程専門の職人がいて、現在は使用する水や材料が手に入りやすい環境が整う大阪府堺市の鍛冶職人集団の皆さんにお願いしています。道具の基本、“頑丈であること”にこだわったうちの包丁の作り方は、職人さんたちにきっちり伝えられていて、変わることなく100年以上高品質を保ち、店頭に並べ続けているんです」。


その庖丁を販売するのが八木さんだ。店頭の壁面にはところ狭しと包丁が並べられ、和包丁、洋包丁合わせて約50種類が、さらに幅広いサイズ展開で数百本揃っている。


一般的な包丁一通りに加え、鱧の骨切り包丁や、江戸型のうなぎ裂き、京型のうなぎ裂き、カステラ包丁と、まるで博物館のごとく多種多様な包丁を見ることができる。さらに日本料理に使われる押し型や銅製卵焼き器、バットなど、素朴で無駄がない包丁以外の台所道具も並び、店の前を通る人の目を奪っている。

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四代目を継ぐのは、 海外から見た日本の魅力を知る孫娘

八木庖丁店は、京都の台所「錦市場」の目の前。料理人が中心に足を運ぶ店だが、今は海外からの訪問者も多い。英語での対応が必要不可欠になっているが、八木さんと一緒に店頭に立ち、海外からの旅行者の対応をしているのは、八木さんの孫娘・八木紫帆さんだ。


大学時代にオーストラリアへ留学し、日本を外から見たことで、その素晴らしさに気が付いたと紫帆さん。弱冠23歳だが、四代目として八木庖丁店の看板を継ぐことを決めている。「まだ勉強を始めたばかりですけどね」と、八木さんは少し嬉しそうに笑いながら、ケースから庖丁を取り出す。


「庖丁は、こんな風にサラダ油を少し塗り込んで、きれいに拭き取るんです。そうすると、人の手の脂が取れて、サビ防止になります」と、刃に数滴サラダ油を垂らしては、布で一本ずつ丁寧に磨いてゆく。「ご家庭では、洗った後に乾燥した布で拭いて、湿気のないところで保存してください。あまり使わない庖丁は、油で時々メンテナンスしてくださいね」。

もちろん、八木庖丁店に持ち込むと研いだり、柄を取り替えたりとメンテナンスしてくれるので、かなり長い期間愛用することができる。庖丁を磨く八木さんの手元に見入っていたら、そばで紫帆さんもじっとみつめているのに気が付いた。100年以上続く「切れ味の良い、頑丈な庖丁」は、途切れることなく続いてゆく。

ーおわりー

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源金吉印 八木庖丁店

古都・京都の台所、錦市場と交差する堺町通りを南に下った所に店を構える八木庖丁店。
安政年間(1854年頃)に「刀鍛冶」としてはじまり、明治二年の廃刀令以降は御料理庖丁・打刃物製造・調理用御道具類専門店として、刃物を中心とした質の良い調理道具全般を提供し続けている。2018年には次の百年も愛される庖丁・調理道具の専門店となるよう、永きに渡り愛されてきた前店舗を改装している。
Webページには包丁の種類によっての特徴や素材や製法についてもまとまっている。どんな包丁を購入するのか迷っている際に訪れてみてもいい出会いがありそうだ。

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切れればイイのだ! 家庭用包丁が誰でも簡単に研げてサクサク切れる!

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ムズかしい“技術"をはぶいた包丁研ぎのススメ

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◎「動き」と「力の入れ方」がよくわかる動画付き!
◎パタンと開いて見ながら研げる特殊製本!

【この本の特徴】
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自分好みの刃をつけるにはどうしたらいいか、そんな疑問に答えてくれるのが、この1冊。

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公開日:2015年11月30日

更新日:2022年4月15日

Contributor Profile

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堤 律子

京都在住のフリーエディター。ほっこりするものよりキリキリ研ぎ澄まされたものが好き。30代も後半となり、スタイルではなく体力維持のためバレエ教室に通い、最近着付けも習い出す。今、興味があるのは銅版画(製作する方)。

終わりに

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夕食の後、食卓でりんごや柿などの果物の皮をむく時があります。その時は大抵八木庖丁店のペティナイフを使うのです。柄が細くて持ちやすく、私の手にぴったりで扱いやすい。それで、野菜や肉を小さく切る時なんかにも使います。必要以上にねぎを小口切りにしてみたり。今回久々に伺ったら、舞妓さんのように初々しく可愛らしい女性が迎えて下さり、四代目だとお聞きして、とっても嬉しくなりました。無駄に飾らず、必要なものだけが並び、商品の良さを知っている人だけがやって来るような雰囲気の八木庖丁店。これからはまた新しいエッセンスも加わって、さらに人を惹きつけるお店になりそうです。

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