アメリカ雑貨に触れる中で、ファイヤーキングの世界へ。
もともと若い頃からヴィンテージ雑貨に興味をもっていたという遠藤さん。ファイヤーキングとの出会いは、さまざまなアメリカ雑貨に触れるなかでの自然なものだったという。
「初めてファイヤーキングを手に入れたのは、今から16~7年前になるでしょうか。古いモノやアメリカの文化が好きで、スワップミート(アメリカ発祥の物々交換の場。日本ではカーイベントと同時に開催されることが多い)に参加しながら、昔の扇風機やストーブ、真空管ラジオなどを買い集めているなかでの出会いでした」
それまで、食器に関して特に興味が向かなかった遠藤さんだが、ファイヤーキングには何か違うものを感じたそうだ。
「調べてみるとデザインや形がいろいろあって、とにかく種類が豊富。これは奥が深いぞと。私が好きなアメリカ文化の年代と、ちょうど製造時期がリンクしていることから、少しずつ集めるようになりました」
解説:ファイヤーキング(Fire-King)とは?
1941年から1986年まで、アメリカで製造されていたテーブルウエア。素材には乳白色のミルクガラスが採用されており、独特の温かみがある。家庭用、業務用、販促物として配布されたものなど、製品のバリエーションは非常に多彩。オーソドックスな無地のものから、花柄、モザイク柄、スヌーピーやスターウォーズのキャラクターがプリントされたものまで枚挙にいとまがない。
同じ製品でも、微妙に色合いが異なる点や、重ねてみると若干ズレが生じる点など、製造工程に由来する製品のムラも大きな特長として認知されている。写真は同じ製品と思われる2つのダイヤ柄ショートマグ。色の濃淡や厚みが微妙に異なるなどラフなつくりが魅力のひとつとなっている。もともと安価なものだったが、製造終了後数十年経ってから人気となった経緯もあり、専門店などでは当時の数倍の価格で取引されている。
元の所有者とコミュニケーションを取りながら購入するのが、遠藤さん流。
現在は100個以上のファイヤーキングを持っているという遠藤さんだが、購入のポイントはどのようなところにあるのだろうか。
「それはもう直感ですね。ファイヤーキングはあまりに数が膨大なので、コンプリートしようというつもりはほとんどなく、出合ったときに惹かれるかどうか。あとは価格と相談という感じです。店舗で購入することはなく、基本的にはスワップミートで出展者の方とコミュニケーションをしながら購入します。モノを介して、お互いの趣味の話や情報交換をするのがなにより楽しいんですよね」
「ファイヤーキングの中には、ジェダイをはじめとする定番となるカラーがあります。しかし、収集する中である程度まとまってきたのが、希少性の高いブルーモザイクと、私が好きな50年代のポスターやシャツなどによく登場するデザインである、ダイヤ柄のモノ。最近はラバーが付いたモノにも興味が出てきました」
「ファイヤーキングは気兼ねなく使われてきたアイテムなので、状態の良いものに巡り合うのがなかなか難しいのですが、これからも地道に収集していければと思います」
遠藤さんのファイヤーキングコレクションから一部をシリーズごとにご紹介
ダイヤ柄シリーズ
ショートマグ
チリボウル
50年代中盤に製造されていたというシリーズ。年代を考えても非常によい状態で、遠藤さんお気に入りのコレクションとなっている。このほかにパープル、オレンジ色のものが存在するそうだが、遠藤さんは写真でしか見たことがないという。
ラバーシリーズ
Dハンドルマグ
タンブラー
ラメ入りのラバーでコーティングがしてあり、傷がつきにくいという実用性に長けたシリーズ。タンブラーに関してはストッカー付きで所有しており、かなり珍しいのではとのこと。飾った時のインパクトも大だ。
ブルーモザイクシリーズ
スナックセット
60年代中盤に製造されたブルーモザイクシリーズ。モーニングを想定し、プレートにはカップを乗せる枠が付いている。遠藤さん所有のものは当時店頭に並んでいたデッドストックで、計4セットが未使用のまま揃っている。
チリボウル サラダボウル
ディナープレート×2
爽やかな印象のブルーモザイクは製造年数が短く、単品でも巡り合う機会が少ないとの事。そんな中少しずつ集めた品々。ミルクガラスならではのホワイトにブルーがよく映える。
ローレルシリーズ
スリーコンパートメントプレート
カップ×2
月桂樹の柄がプリントされたシリーズ。60年代以降に製造されたレストランウエア。
アドバタイジングマグシリーズ
ESSO
puma
企業が宣伝目的で自社の広告をプリントしたスタッキングマグ。通称「アドマグ」。写真のものはエッソタイガーとプーマ(スポーツブランドではなく米国の同名企業)。アドマグは比較的安価に手に入ることが多く、ファイヤーキング入門としてもオススメの一品。
アバウトなつくりと、温かみのある口当たりが魅力。
デッドストックなど状態が非常に良いもの以外は、定期的に取り出して実際に使用するという遠藤さん。ファイヤーキングの魅力について、改めて伺った。
「いくつものファイヤーキングを手に取ってみて感じるのは、当時のアメリカのモノづくりの、いい意味での適当さ。微妙な色合いの違いや、食器を重ねてみるとしっかりフィットしないところなどに愛嬌を感じます。実際に使ってみても、独特の口当たりが心地よく、やはりお気に入りのマグで飲めば、いつものコーヒーもおいしく感じますよ」
店舗内には遠藤さんセレクトの雑貨が所狭しと並んでいる。もちろんファイヤーキングも販売しており、価格は1,000円~30,000円程度とのこと。
遠藤さんは本業のかたわら、ヴィンテージの品を多く扱う雑貨店も経営されている。
「この店は商売というよりも、私自身が雑貨に興味のある方と触れ合うために開いているようなもの。ファイヤーキングも欲しいですが、むしろファイヤーキング友達の方がほしいですね(笑)。ファイヤーキングでコーヒーを飲みながら、お互いの好きな趣味について語り合う。そんな時間が、この場所で流れたら最高だなと思っています」
遠藤さんの話を伺いながら、自身の好きな50年代~70年代のアメリカ文化を最も身近に感じられるアイテムこそが、ファイヤーキングなのだろうと感じた。
人々の生活に密着していたファイヤーキングは、家庭やドライブインなど、さまざまなシーンで親しまれていたはずだ。プリントされた広告や模様、ラフなものづくり、経年によるダメージなどに、当時のアメリカが凝縮された一品とも言えるだろう。
今では映画や本の中でしか知りえない、昔のアメリカ文化を感じたコレクションだった。
ーおわりー
キッチンツールを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
ファイヤーキング好きに贈るバイブル本。最新のファイヤーキング人気度、選び方、飾り方
ファイヤーキングBOOK
ぽてっとしたフォルムが印象的な翡翠色の食器といったら、真っ先に思い浮かぶのがファイヤーキング。
1960年代にアメリカで使われていたこのミルクガラスの食器は、時を経た今でも大人気で、コレクターはますます増加中しています。
『ファイヤーキングBOOK』では、初心者からマニアまで満足していただけるよう、ファイヤーキングの種類や歴史といった基本からはじまり、集め方や選び方のほか、最新のファイヤーキング事情や人気度なども紹介しています。
ファイヤーキングを扱う日本のお店はもちろん、本場アメリカのお店や、アンティークショーの情報も掲載。カタログのアイテム数は、なんと200個以上。きっとお気に入りのコレクションを見つけるヒントになります。
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終わりに
取材終了後に、遠藤さんが淹れてくださったコーヒーをファイヤーキングのマグでいただいたところ、おっしゃるように温かみのある口当たりを感じることができました。ヴィンテージの食器は、生活の中で登場機会がどうしても少なくなってしまいがちですが、気兼ねなく使えるファイヤーキングをひとつ持っておくと、休日の過ごし方がちょっと豊かになりそうです。