おじ靴→革靴に呼び方を変えました
「革靴」と文字にすると、紳士靴=男性のものというちょっと遠い存在に感じる方もいるのではと考え、当初連載では親しみやすく「おじ靴」と呼んでいました。初回の本文を読んでいただいた方はご存知だと思いますが、実は連載当初から飯野さんと「おじ靴」という表現は違和感あるよね。と話していました。ただ、他に的確でしかも簡潔な表現を見つけることができず、代わりの名称を模索しながらのスタートとなりました。
連載が進むにつれその違和感がふつふつと大きくなり、番外編での座談会や靴のイベントで実際の声を聞くことで、改めて「おじ靴」という呼び名ってどうなの?と立ち返りました。今の時点ではまだ完全に相応しいと感じる呼び名を探し出せてはいませんが、第6回からは「おじ靴」という呼び方をやめ、デザインにある程度以上のドレス性と古典性を有し性別も気にせず履ける靴の総称として「革靴」を用いてみようと思います。ただし、私達が気付いていないだけで、もっと相応しい呼称があるかもしれません。皆さんのご意見を賜りたく、SNSなどでお気軽にご意見いただけたら嬉しいです!
※連載名とタイトルは「革靴」と変更しましたが、第5回までの本文ではそのまま「おじ靴」と記載しています。
こんなご時勢だからこそ頼りにしたい、美しくて履き良い靴、厳選
左から「ジャクソン」¥28,000+tax/ビルケンシュトック 「KTO-2000L」¥30,000+tax/KOTOKA 「F01F」¥36,000+tax/REGAL
新型コロナウィルスの影響で、明らかにいつもとは異なる年となってしまった2020年。読者の中で何らかの影響を受けなかった人はいないだろう。「平日は在宅勤務メイン、休日もなるべく家でおとなしく過ごすようになってしまい、革靴を履く機会が減ってしまった……」との声も、性別や職種を問わず多く耳にする。
でも、だからと言って革靴の魅力が減ってしまった訳ではない。寧ろその逆で、この秋冬に出て来た革靴、ことさら女性のユーザーに焦点を当てた作品は、見え方も履き心地も一段と洗練されたものになっている。という事で、今回は私・飯野が旬のお勧めを靴メーカーごとにピックアップしてご紹介申し上げたい。
なお今回ご紹介する靴は、2020年11月14日にmuuseo squareが主催したライブ配信セミナーに登場したのと同じもの。ご覧になられた方は是非ともこちらで復習なられて下さいませ。
Oriental(オリエンタル)
奈良・大和郡山を本拠とする日本の靴メーカー。OEM製造を数多く手掛けているが、近年は自社ブランドにも注力。特に社名をそのままブランド名としたこの「オリエンタル」は、丁寧な靴作りと従来の日本の紳士靴では描けなかった上品なデザインで、靴好きの間で登場来人気は鰻登り。待望の女性向けモデルもこの秋登場し、早くも高い評価を得ている。
MADISON(サイドゴアブーツ)
シンプルな表情と着脱の容易さでファンの多いサイドゴアブーツに、グリップ力と見た目の綺麗さが両立したダイナイトソールを組み合わせた意欲作。トウシェイプも飽きの来ないラウンド系なので、ソールの全交換等も含め修理しながら長年の愛用が可能だ。
●ヒール高さ2.7cm
●ダイナイトソール
●グッドイヤー・ウェルテッド製法
「マディソン」¥50,000+tax/オリエンタル(オリエンタルシューズ)
立体的な表情に木型の確かさと革質の良さを感じる。スッキリとした表情は服を選ばない!
ALBERS(コインローファー)
凛とした美しさが前面に出る、正に「大人の女性が履きたくなるローファー」。ややタイトなフィッティングを狙っているだけあり、甲やかかとのフィット感には特に優れている。革製の底面には出し縫い糸を露出させないなど、美観への細かな気配りが徹底している!
●ヒール高さ2.5cm
●レザーソール
●グッドイヤー・ウェルテッド製法
「アルバース」¥48,000+tax/オリエンタル(オリエンタルシューズ)
KOTOKA(コトカ)
奈良県の靴メーカー7社による「奈良発靴」プロジェクトから生まれたブランド・コトカは、日本料理のように素材を生かし、簡素さに美を込めるのがモットー。そのためアッパーには厚手の国産レザーを、極力デザイン上の縫目を減らした大判で採用し、ライニングも敢えて付けていない。革で優しく足を包む、従来の革靴にはありそうでなかった感触を堪能したい!
一枚革ダービー KTO-2000L(外羽根式プレーントウ)
アッパーに栃木レザーの100%植物タンニン鞣しの革を採用した一足。自然な銀面とオイル分をたっぷり含ませた革質は、履き始めから足に馴染みやすいと共に、ダイナミックな経年変化を遂げてくれる。ソールも国産の生分解系素材使用のもので、あらゆる面で優しい靴だ!
●ヒール高さ3.5cm
●生分解系素材使用合成スポンジソール
●ステッチダウン製法
「KTO-2000L」¥30,000+tax/KOTOKA
かかとに芯材を収める革パーツが見えるのは、革質最重視でライニングを敢えて付けていないから。
一枚革サイドゴア KTO-5012(サイドゴアブーツ)
こちらのアッパーは兵庫県たつの市産。混合鞣しの後にワックスを染み込ませ揉み加工を施しているので、体温で蝋分が流動するのを通じ着用時に革の「ハリ」が自然にほぐれて行くのが魅力だ。気持ち短めの筒丈と大胆な履きジワも、カジュアルな印象を際立てる。
●ヒール高さ2.5cm
●生分解系素材使用合成スポンジソール
●セメント製法
「KTO-5012」¥27,000+tax/KOTOKA
ワックスと揉み加工のお陰で革の表面はややマットな印象。筒丈が短めなのでサクッと気軽に履ける。
HARUTA(ハルタ)
中学や高校時代にここのローファーにお世話にならなかった人は殆どいないだろう。昔も今も日本の学校制定靴では断トツのシェアを誇る靴メーカーだが、最近は「卒業生向け」にも力を入れてくれているのが嬉しい。品質の個体差が少ない点、そして何よりリーズナブルな価格でも、文字通り日本の靴業界の「絶対評価しなきゃいけない頑張り屋」的存在である。
スポックシューズ 150(ロメオスリッパ)
近年の「大人のHARUTA」快進撃の象徴がこのスポックシューズ。清楚でありながら開放感の高い履き心地が評価されているのだろう。このモデルのアッパーは同社のローファーと似た所謂「ガラスレザー」だが、陰影を付けたアドバン仕上げのお陰でより立体的な印象。
●ヒール高さ2.8cm
●合成ソール
●セメント製法
「スポックシューズ 150」¥9,800+tax/HARUTA
レースアップシューズ SG236(外羽根式プレーントウ)
同社の定番商品のアッパーにスコッチガード加工が施され、ライニングとソックシートにも抗菌素材を使用したアップグレードバージョン。突然の雨にも問題なく履けお手入れも簡単なので、革靴ビギナーも既に履きなれている人にも頼もしい一足になるはずだ。
●ヒール高さ2.8cm
●合成ソール
●セメント製法
「SG236」¥12,500+tax/HARUTA
BIRKENSTOCK(ビルケンシュトック)
足医学大国・ドイツを代表する靴メーカーであると共に、現存する靴メーカーの中では恐らく世界最古の存在。2層のジュート・天然ラテックスを添加したコルクそれにスエードの4層からなる独自のフットベッド(インソール+ミッドソール)があまりに有名で、早くからサスティナビリティを意識した製品作りを行っていたことでも知られている。
Stalon(サイドゴアブーツ)
ビルケンシュトックが理想のサイドゴアブーツを作るとこうなる! アウトソールが合成系なので見た目に比べ軽く、アッパーはオイルドヌバックなので天候を気にせず快適に履ける。伝統のコルクフットベッドは着脱可能なのでメンテナンスも容易だ。
●ヒール高さ2.9cm
●合成ゴム系軽量ソール
「スタロン」¥26,000+tax/ビルケンシュトック
Jackson(マウンテンブーツ)
近年性別を問わずすっかり定番になったマウンテンブーツ。インサイドストレートに徹したオブリークトウの形状が、足の健康を第一に考えている同社らしい。スエードの色味のニュアンスがとにかく素晴らしく、トータルコーディネートのスパイスになること確実!
●ヒール高さ2.4cm
●合成ゴム系軽量ソール
「ジャクソン」¥28,000+tax/ビルケンシュトック
ビルケンシュトックの代名詞・フットベッド。以前から環境負荷の少ない素材で作られている。
forme(フォルメ)
デザイナーの小島明洋氏が立ち上げた靴ブランドで、製造は当初から浅草の熟練職人が担っている。かかと周りのコンパクトさなど日本人の足型を徹底研究した上で、その名の通り繊細かつスーッと伸びやかなフォームが大きな特徴。モードともトラッドとも異なる雰囲気は、シンプルながら一度見ると決して忘れられない魅力に満ち溢れている。
Lim Balmoral Straight Tip FF-106(内羽根式ストレートチップ)
鳩目下にある縫合線がかかとへと自然に伸びる、ロングヴァンプ(バルモラル)仕様のストレートチップ。古のレースアップブーツには多く見られた意匠だが、不思議とモダンに見えるのは鳩目の色使いの効果かも? アッパーにはイタリア製の上質な型押しカーフを使用。
●ヒール高さ2.8cm
●レザーソール
●グッドイヤー・ウェルテッド製法
「リム バルモラルストレートチップ FF-106」¥67,000+tax/forme
大き過ぎず小さ過ぎない鳩目の絶妙な存在感。その縦横の間隔にも全く破綻が見られない!
Loafer FF-111(コインローファー)
来春リリースする同ブランド初のローファーは、ベーシックなスタイルながらサドルやその上のタン(舌革)のコンパクトさに一貫したポリシーが感じられる。甲のモカシン縫いは通常の婦人靴では機械縫いが主流だが、この靴では手縫いとすることで表情がより豊かに。
●ヒール高さ2.7cm
●レザーソール
●マッケイ製法
「 ローファー FF-111」¥62,000+tax/forme
ヒールリフトのゴムの形状や釘打ちの細かさも、このブランドらしい徹底した美意識を象徴する。
REGAL(リーガル)
言わずと知れた我が国最大の靴メーカーであると共に、日本の靴作りの歴史そのものと言える存在。以前から女性向けの革靴は手掛けていたが、ここ数年で種類も、そして色使いも豊富になって来た。堅牢さと安定した品質、それにトラッドを基軸とした手堅いデザインは同社のメンズと同様だが、レディスならではの工夫が随所に見られるのが心憎い。
F01F(内羽根式フルブローグ)
スタイルはお手本通りの内羽根式フルブローグ(ウィングチップ)だが、エメラルドグリーンに近い色遣いで一気に洗練された印象に。靴の中で足が前滑りするのを防ぐべく、インソール前方に緩やかな起伏を設けるなど、履きやすさを徹底した一足に仕上げている。
●ヒール高さ1.5cm
●レザーソール
●グッドイヤー・ウェルテッド製法
「F01F」¥36,000+tax/REGAL
F04F(コインローファー)
ワイン色のアッパーとナチュラルカラーのソール部とのコントラストが映えるローファー。同社が長年定番とするものに比べ、華やかな印象が強まっているだけでなく、木型もより足沿いに優れたものを用いている。こちらもインソール前方の緩やかな起伏を装備。
●ヒール高さ1.5cm
●レザーソール
●グッドイヤー・ウェルテッド製法
「F04F」¥36,000+tax/REGAL
リーガルの一連のシリーズにはかかとに横長長方形のチャームが付き、デザイン上のアクセントになっている。
RENDO(レンド)
浅草の著名な靴工房で活躍していた吉見鉄平氏が独立して立ち上げたブランド。丁寧な接客から得られた膨大なデータを基にした現代の日本人にフィットした木型と、普遍性極まるデザインとが完璧に「連動」したここの靴は、正に「これからのスタンダード」と言うべき存在だ。この秋冬からパターンオーダー形式で待望のレディスも、満を持して登場!
GBL001(外羽根式Uチップ)
同社のメンズで人気のロングヴァンプスタイルのUチップを、レディス向けに改良した一足。アッパーの上半分はバーガンディのスムースカーフ、下半分はダークブラウンの型押しカーフとした絶妙なコンビ仕様は、活用範囲が広いだけでなく何気に傷や雨にも強そう!
●ヒール高さ2.8cm
●リッジウェイソール
●グッドイヤー・ウェルテッド製法
「GBL001」写真の仕様での価格¥63,700+tax/RENDO
GBL001(外羽根式Uチップ)
上の靴と同モデルだが、こちらはグレイのスムースカーフとベージュのスエードと採用。色味を変えるとこうも印象が変わるのかと驚かされる。コンビ仕様のキルトだけでなく、外側と内側で配色を変えるなど、凝った色使いが可能なのもパターンオーダーの醍醐味だ。
●ヒール高さ2.8cm
●リッジウェイソール
●グッドイヤー・ウェルテッド製法
「GBL001」写真の仕様での価格¥63,700+tax/RENDO
同じデザインの靴だからこそ際立つ、ブランドの個性!
今回登場した14足はどれも、デザインそのものはシンプルでありながら、思いのほか個性が際立つものばかりとなった。あくまでも偶然だが、ローファーやプレーントウ、それにサイドゴアブーツは複数のブランドのものを採り上げることができたため、寧ろブランド毎の性格・特徴を掴みやすかったのではないだろうか。
左から「SG236」¥12,500+tax/HARUTA 「GBL001」写真の仕様での価格¥63,700+tax/RENDO 「リム バルモラルストレートチップ FF-106」¥67,000+tax/forme 「アルバース」¥48,000+tax/オリエンタル(オリエンタルシューズ)
その一方で、アッパーの革のチョイスは嬉しくなるくらいに千差万別! 凛々しさが溢れるものやリラックス感満載のものだけでなく、お手入れにあまり気を遣わなくて良いもの、お手入れをしっかり行い革を「育てる」ことに意味があるものまで、改めて革のバリエーションの豊かさを実感できたと思う。そしてこの多様性は、革靴との「履き方」「付き合い方」が多様であることも意味する。自分ならどのような革靴を、どのような場でどう履きたいか? 今回ご紹介した靴たちを通じて、あれこれ思いを巡らせていただければ幸いである。
ーおわりー
カバー写真:左から「F04F」¥36,000+tax/REGAL 「リム バルモラルストレートチップ FF-106」¥67,000+tax/forme 「マディソン」¥50,000+tax/オリエンタル(オリエンタルシューズ)
<お問い合わせ先>
●オリエンタルシューズ(☎︎0743-55-1113)
●KOTOKA(info@narakutu.or.jp)
●HARUTA(☎︎03-3874-3317)
●ビルケンシュトック・ジャパン カスタマーサービス(☎︎0476-50-2626)
●forme(☎︎03-6240-6558)
●REGAL(☎︎047-304-7265)
●RENDO(☎︎03-6802-3825)