複雑系文字盤に魅せられて:ヴィンテージウォッチ専門店スタッフの私物時計

複雑系文字盤に魅せられて:ヴィンテージウォッチ専門店スタッフの私物時計 _image

文/ミューゼオ・スクエア編集部
写真/新澤遥

ヴィンテージウォッチに魅せられ仕事にしてしまった人たち。仕入れをしたり、修理をしたり、販売をしたり。日々数多くのヴィンテージウォッチに触れる彼ら彼女らはどのような時計を愛用しているのだろう。

本企画では、ヴィンテージウォッチ専門店のオーナー・スタッフの私物の時計を紹介します。ヴィンテージウォッチとの出会いは一期一会。ご縁があれば手元に置いておきたい時計も聞きました。

今回はヴィンテージウォッチ専門店「キュリオスキュリオ」オーナー萩原秀樹さんにお話していただきました。

レマニア スウェーデン空軍 パイロットウォッチ

MuuseoSquareイメージ

1970年代頃のレマニアのスウェーデン空軍のパイロットウォッチ。スウェーデン空軍の戦闘機「Viggen(ビゲン)」のパイロットが使用したとされており、このモデルも「Viggen(ビゲン)」と呼ばれている。ムーブメントはOMEGAのスピードマスターの5thのツーレジスター版である、キャリバー1872を搭載。

「スウェーデン王国のスリークラウンがかっこよく、コレクションをはじめたころに憧れていた時計です。スウェーデン空軍の時計は当時、幻と呼ばれるくらい市場に出回っていませんでした。このモデルは350個ほどしか生産されていない珍しいものです。軍用時計の種類を一番作っていることもあり、レマニアは好きなメーカーの一つです。ムーブメントを自社で設計していて、オメガのベースムーブメントにも採用されています。ロゴの形もオリジナリティがあります。それとプラスチックベゼルも萌えポイントの一つです。オメガのシーマスター300やレオニダスのCP-1の初期型には搭載されているものの、軍用時計全体の割合からするとあまりありません」

レマニア サブマリンシリーズ2

右からレマニア 通称サブマリンのシリーズ2  1960年代製。ハンハルトのドイツ海軍モデル 1940年代製。ゼニスのスペシャル 1930年代製。ロンジンのチェコスロバキア軍の3rdモデル 1940年代製。

右からレマニア 通称サブマリンのシリーズ2 1960年代製。ハンハルトのドイツ海軍モデル 1940年代製。ゼニスのスペシャル 1930年代製。ロンジンのチェコスロバキア軍の3rdモデル 1940年代製。

1960年代にイギリス海軍の原子力潜水艦乗務員用に作られた時計。白文字盤にブラックペイントの仕様。ムーブメントは高性能のキャリバー2220を搭載。

「夜光塗料が使われていないモデルです。夜光塗料を使わない理由は、暗い船内の中での視認性を高めるためと、放射能漏れ感知器が作動しないようにするためです。軍用時計では比較的珍しい白い文字盤のなかでも一番デザインが好きです。ミリタリーでありながらシンプルで繊細。少しドレスウォッチ的な要素もありコレクションしました」

ハンハルト ドイツ海軍モデル

第二次世界大戦でドイツ海軍砲兵部隊が使用した、通称「タキテレ」。ムーブメントはキャリバー41を搭載。

「軍用時計は視認性を高めるためにシンプルなデザインが多い。この時計はスパイラルタキメーターが入っていて、軍用時計とアール・デコ系の時計の魅力を併せ持ったモデルです。そのような時計はこのモデルしかありません。赤いプリントもかっこいい。オリジナルは市場に出回ることが滅多になく、幻級の軍用時計と言っても過言ではありません」

ゼニス スペシャル

1930年代にドイツのパイロットが使用していたアヴィエーションウォッチ。グローブを装着したままでも操作がし易いよう、大きなリューズとコインエッジの回転ベゼルが付いている。ムーブメントはキャリバー15-1を搭載。

「30年代のセンターセコンドの時計はあまりありません。インデックスのデザインとオリジナルの台形の風貌がかっこいい。ムーブメントには透明のプラスチックカバーがかけられています。防塵目的なら鉄の蓋をすると思うんですけど、あえてプラスチックを採用した理由がわからない。謎があるところもいいんです。ちなみにゼニスのスペシャルはスモールセコンドのものもありますが、そちらは文字盤がポーセリンです」

ロンジン チェコスロバキア軍3rdモデル

1940年代に作られた、ロンジンのチェコスロバキア軍3rdモデル。ムーブメントはキャリバー15.68Zを搭載。

「コレクションをはじめた初期に買った時計です。ラグが下にカーブした形状をしています。加えてクッションケースのボリュームがあるため手乗りが良い。クッションケースを採用している軍用時計はパネライとチェコスロバキア軍モデルしかありません。1stと2ndはムーブメントと文字盤の素材が異なります。文字盤は、1stはポーセリン、2ndはエナメル。3rdはブラックミラー。日常で使うという意味では、3rdが、一番バランスがとれていると思います」

アウリコスト タイプ20

右からアウリコストのタイプ20。ギャレットのフライングオフィサーの1stモデル。

右からアウリコストのタイプ20。ギャレットのフライングオフィサーの1stモデル。

フランス空軍が1950年代に使っていたシリーズのテストピース。ムーブメントはキャリバー2040(レマニア キャリバー15TL)にフライバック機能を追加したものを搭載。

「フランス空軍に納入されたアウリコストのタイプ20はメッキケースにマットブラックダイアルの組み合わせですが、このテストピースはステンレススチールケースにブラックミラーダイアルの組み合わせです。兵士に支給されることはなかったため、200個ほどしか製造されていないと言われています。ベースムーブメントはレマニア名機15TLがベースになっています。それにフライバック機能をつけくわえたモデルはおそらくこのモデルだけです。ベゼルの形状に特徴があって、中の見返しがすりばち状に広がっている。そのデザインがかっこいい。ブラックミラーダイヤルというところもヴィンテージ好きにはたまらない仕様のひとつです」

ギャレット フライングオフィサー1stモデル

世界で最初にワールドタイム機能を搭載したクロノグラフ、フライングオフィサーのファーストジェネレーション。ムーブメントはキャリバーVenus150を搭載。

「34.5mmのケース径の中に都市の名前とスネイルタキメーターがギュッと詰まっています。夜光のリーフハンド針もとてもシャープで、この針のおかげで全体が締まって見えます。フライングオフィサーの後継機はスネイルタキメーターが無くなりシンプルな顔になります。黒文字盤のものが見つかればぜひコレクションをしたいです」

ミネルバ クロノグラフ

MuuseoSquareイメージ

1930年代初期頃のミネルバのクロノグラフ。文字盤やフレキシブルラグのテイストからも分かるようにデコラティブなデザインであることが特徴。ムーブメントはキャリバー13-20CHを搭載している。自社内でムーブメントを生産していた数少ないメーカー。

「会社を立ち上げる前、ヴィンテージウォッチ専門店に勤めはじめた時に買った時計です。軍用時計以外で買った初めての時計でもあります。1930年代当時、クロノグラフのムーブメントを作れるメーカーは限られていました。そんな技術力があるのに、社員は少なく少数精鋭だったんです。フレキシブルラグなので手にフィットしやすいところがポイントが高い。ブラックミラーダイヤルも見逃せません。それに、ミネルバはロゴが良い。ロゴの好みで言えば、ミネルバはレマニア、ヘルベティアとともに3本の指に入ります。僕の好きな要素が詰まったドレスウォッチです」

ご縁があればコレクションをしたい時計 ロンジン リンドバーグ

「飛行士がジャケットの上から着けるものなので大きく存在感があり、物体として魅力があります。特にシルバーケースがいいですね。オリジナルにはオーラがあると思います」

ーおわりー

時計を一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

もっと腕時計を楽しむための知識が満載!

41voahd6tal. sl500

腕時計のこだわり (SB新書)

ロレックスが高級腕時計の定番として君臨し続けている秘訣とは何か、最高峰ブランドであるパテック・フィリップの驚異的な職人芸とは──腕時計の「こだわり」がわかれば、腕時計はずっと面白くなる。腕時計をより深く楽しむための知識やノウハウを徹底解説。

Discover the stylistic evolution of the watch in this unparalleled guide to the greatest timepieces of the 20th century.

31uxhu9su4l. sl500

The Watch: A Twentieth Century Style History

Offering the perfect blend of high-quality imagery and impeccable research, this magnificent book takes readers through the 20th century to show how the watch, in all its forms, evolved. It charts the early rise of the wristwatch, shows how the cataclysmic events of the 1929 Wall Street Crash unexpectedly led to a golden age of watch production, and demonstrates how the electronic watch, which almost destroyed the traditional industry, led to a mechanical watch renaissance in the last two decades of the 20th century. Each decade opens with an introduction to the era's stylistic and design highlights and then examines the development of specific genres of watches within each period.

公開日:2020年8月28日

更新日:2021年7月2日

Contributor Profile

File

ミューゼオ・スクエア編集部

モノが大好きなミューゼオ・スクエア編集部。革靴を300足所有する編集長を筆頭に、それぞれがモノへのこだわりを強く持っています。趣味の扉を開ける足がかりとなる初級者向けの記事から、「誰が読むの?」というようなマニアックな記事まで。好奇心をもとに、モノが持つ魅力を余すところなく伝えられるような記事を作成していきます。

Read 0%