今回は、この3つの基本の織り方について、それぞれの特徴と違い、代表的な生地、変形生地についてご紹介していきます。この違いを知っておくと、今知っている生地やこれから出会う生地など、さまざまな服地についてさらに知識が深まるはず!
三原組織の平織りと綾織り、朱子織りの違いとは?
平織り(プレーン ウィーヴ)について
平織りは、経糸1本と緯糸1本を交互に交差させて作られた、三原組織の中で最も単純な織り方です。英語では「Plain weave(プレーン・ウィーヴ)」といいます。糸の交差する点(組織点)が多いので、やや硬くハリがあり耐久性の高い生地に仕上がることが特徴です。
摩擦に強く丈夫ではあるものの、糸の交差回数が多い織物は隣の糸から離れようとする力が働くため、隙間の多い薄地になります。そのため実用的で薄手のシャツなどに用いられることが多いようです。
また、経糸と緯糸が生地の裏表に均等にあらわれるので、他の組織よりも生地の裏表がわかりにくいことがあります。
平織りの代表的な生地
スーツ地だと、トロピカル、ポーラー。シャツ地だと、ブロード、ボイル、オーガンジーなどが代表的な生地。その他にもキャンバス、シャンブレー、ローン、縮緬(ちりめん)などがあります。
平織りの変化組織
平織りには、使う糸の質や撚りの強弱、太さなどで、生地の表面にシボや畝があらわれる変わり織りもあります。例えば、通常は経緯1本ずつ交差するところを、2本もしくはそれ以上の本数をひと固まりの糸(引き揃え)にして平織りしたものです。
経緯ともに2本ずつを束にして平織りにしたものを「Matt weave(マット・ウィーヴ)」または「斜子(ななこ)」といいます。毛織物ではマットウーステッド、シャツ地ではオックスフォードが代表的。
この引き揃えの本数が3本以上の場合は「Basket weave(バスケット・ウィーヴ)」、日本語では「籠目織り(かごめおり)」といいます。
さらに畝があらわれる生地は、経糸か緯糸を2本にし、もう一方の糸を1本で織ります。経1本/緯2本の場合を「経畝織り(たてうねおり)」、緯1本/経2本を「横畝織り(よこうねおり)」といいます。
綾織り(ツイル ウィーヴ)について
綾織り(英語では「Twill weave(ツイル・ウィーヴ)」といいます)は、経糸と緯糸を2本ずつ抜かすなどして交差させて作られた組織です。「斜文織り(しゃもんおり)」とも呼ばれており、生地の表面に「/」のように斜めの畝が見えるのが特徴です。この斜線のような畝を、「綾目(斜文線)」と呼びます。
平織りに比べ経糸が長く表面にあらわれる(糸を浮かせる部分が多い)ので、耐久性はやや劣るものの、しなやかで光沢を帯びた生地に仕上がります。
通常の綾織りは、綾目が右上がりで「右綾」「正斜文」といい、左上がりは「左綾」「逆斜文」といいます。
組織点が少ないため、隣り合う複数の糸が接近しようとするので、隙間の少ない厚手の織物を作ることができます。糸と糸との密度を高めて織ることができ、地厚かつストレッチ性に優れ、シワになりにくい生地を作るのに適しています。
綾織りの代表的な生地
ギャバジン、サージ、サキソニー、カルゼ(畝のはっきりした右綾の毛織物)、デニムなどが主な生地。
綾織りの変化組織
経糸が緯糸に「2本上:2本下」と交差する場合を「2/2綾織り」、「2本上:1本下」の場合は「2/1綾織り(三つ綾)」、「3本上:1本下」なら「3/1綾織り(四つ綾)」と呼びます。まれに「3/3」「3/2」などもあり、平織りではできないバラエティー豊富な変化組織があります。
「2/2綾織り」は、秋冬素材に多く使われています。経緯ともに2本ずつ飛んで交差するのでバランスがよく、経糸の密度を変えることで綾の角度が変わります。綾目の角度45度くらいのものを「正則斜文(せいそくしゃもん)」と呼び、代表的な生地としてサージがあります。ギャバジンやサキソニー、カルゼも「2/2綾織り」の仲間です。
「2/1綾織り」は、現在ではビジネススーツなどで年間を通して販売されています。平織りの軽さと綾織りの豊かな表情を併せ持つ、いいとこ取りの組織と言えます。
「3/1綾織り」については、デニムをイメージするとわかりやすいかもしれません。デニムの多くは、経糸にインディゴ、緯糸に生成りを使用しています。経糸が緯糸に「3本上:1本下」なので、表面は4分の3がインディゴとなります。裏面は、その逆で4分の3が生成りとなります。ちなみにデニムに使われる織りを「破れ斜文織り」「ブロークン・ツイル」と呼びます。
このように綾織りは多彩な表現ができるので、変化組織も多数存在します。よく知られている「ヘリンボーン」も、綾織りの変化織りの一つです。
朱子織り(サテン ウィーヴ)について
朱子織りは英語で「Satin weave(サテン・ウィーヴ)」といい、その名の通りサテン生地を思い浮かべてみるとわかりやすいと思います。
経糸または緯糸が4本飛んで下に潜り交差するもの「4本上:1本下」を「5枚朱子」と呼びます。組織点が少ないだけでなく緯経のどちらかがほとんど表面にあらわれず、綾織りのように綾目も目立ちません。滑らかで滑りがよく、光沢に富んでいることが特徴です。
ただし糸が浮いている距離が長いため、摩擦に弱く引っ掛かりやすいという欠点もあります。
「5枚朱子」だけでなく、8枚、10枚、12枚、16枚なども存在し、数字が大きくなるほど光沢感が増します。毛織物で使われる朱子のほとんどは、糸の太さもあって5枚朱子が中心。10枚以上の朱子はシルクなどの細い糸で織られたものが多く、フォーマルウェアやブラウス、ジャケットの裏地、ネクタイなどに使われています。
朱子織りは三原組織の一つですが、綾織りの一種ととらえても間違いではないので、綾織りの変化組織ということもできます。
朱子織りの代表的な生地
朱子織りの変化組織
裏面がサテンになっている「バック・サテン」やサテンをストライプ状にした「サテン・ストライプ」、サテンにドビーやジャカードで柄を織り込んだ「紋朱子(もんじゅす)」など、朱子織りも綾織りと同様バリエーション豊かです。
オーダースーツやジャケットを仕立てる際に役立つ「三原組織」
デニムや春夏のジャケットに最適なトロピカル、メンズのフォーマル生地を代表するベネシャン、レディスのスカートにも使われるオーガンジーなど、よく目にする生地も「平織り」「綾織」「朱子織り」のいずれかで織られてます。
基本の織り方、3種の特徴と欠点を知っているだけでも、これから出会うさまざまな服地の良し悪しがわかるはず!スーツをオーダーしたりジャケットを仕立てたり、服を買う時にぜひ思い出してみてください。
ーおわりー
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