服好きファッション通3名によるコート鼎談。服飾ジャーナリストの飯野高広さんと倉野路凡さん、ミューゼオ・スクエア編集長の成松に、愛用するコートや憧れたあの人のコート姿について語っていただきました。
コートは元来外部の環境から身を守るために作られたもの。そのため、気候や風土などによってさまざまなスタイルが生まれました。狩猟用に作られたローデンコート、漁師たちの防寒着として発達したダッフルコート、塹壕戦で効力を発揮したトレンチコート。生きるための必然性から、意匠に工夫をこらし素材に改良を重ねてきました。
コートが素材の多様性に富んでいる衣類であることは重量にもあらわれています。この記事では、鼎談で登場した12着のコートをその重量とともに一挙紹介。重さからコートの奥深さを探ります。
計測前、編集部で予想をしてみました。もっとも軽いコートは「ラファエル カルーゾのカシミヤチェスターフィールドコート」もっとも重いコートは「ヴォルテラーノの馬革ダブルブレステッドチェスターフィールドコート」という意見で一致。それでは比べてみましょう。
※コートのサイズが異なるため、この比較はあくまで参考となります。また、コートは参加者のみなさまにお持ちいただいた状態(ブートニエールなどは付いた状態)で計測しています。ハンガーなどの重量は除いています。
1. ハバーサック(ラベンハム別注) キルティングダッフルコート
ブランド:ハバーサック(ラベンハム別注)
形:キルティングダッフルコート
表生地:ウール100%
まずは、中綿が入っているいかにも軽そうなダッフルコートを計測します。クラシカルな雰囲気を纏いつつもモダンなシルエット。折り畳んでもへたらないので出張に適した機能的なコートです。ハバーサックのコートの重さは1180g。このコートよりも軽いコートは存在するのでしょうか。
2. ラファエル カルーゾ チェスターフィールドコート
ブランド:ラファエル カルーゾ
形:チェスターフィールドコート
表生地:カシミヤ100%
1950年代後半に南イタリアのナポリでテーラーを営んでいたラファエル カルーゾ氏が立ち上げた、主にメンズスーツの製作・販売を行っているブランド。 柔らかく上質な生地を使っていてエレガントな仕立てです。
こちらのコートの重さは1060g。早速、最軽量コートの本命であるハバーサックのダッフルコートの記録を塗り替えてきました。やはりカシミヤは軽くて暖かいのですね。
3. アルデックス チェスターフィールドコート
ブランド:アルデックス
形:チェスターフィールドコート
表生地:ウール100%
ファクトリーブランド「アルデックス」のコート。愛知県豊橋市に自社工場を持ち、日本の職人ならではの高い技術力に裏打ちされた良質な注文紳士服を提供しています。生地はイタリアの名門生地メーカー「ドラッパーズ」。ラファエル カルーゾのコートと同様にふんわりとした仕立て。
aldexのコートの重さは1090g。惜しくもラファエル・カルーゾのコートには届かなかったものの、ウール100%ながら軽いコートの2位にランクインしました。
4. 羊屋 チェスターフィールドコート
ブランド:羊屋
形:チェスターフィールドコート
表生地:ウール100%
ミューゼオ・スクエアで取材したこともある、テーラー羊屋で倉野路凡さんが仕立てたビスポークのチェスターフィールドコート。使用している生地は英国の名マーチャント「ハリソンズ・オブ・エジンバラ」のヘリンボーン・ウール。上質な羊屋のコートの重さは1235g。シルエットと同様に、重さも奇をてらっていません。
5. 秘密 チェスターフィールドコート
ブランド:秘密
形:チェスターフィールドコート
表生地:カシミヤ100%
飯野高広さんがとあるテーラーにオーダーしたチェスターフィールドコート。胸ポケットが付かないオーソドックスなデザインです。こちらのコートの重さは1560g。生地は厚みと重さがしっかりあると共に、しなやかさやキメ細やかさも兼ね備えたあたたかく美しいもの。
6. ラウドガーデン トレンチコート
ブランド:ラウドガーデン
形:トレンチコート
表生地:カシミヤ100%
外苑前のテーラー「ラウドガーデン」で仕立てられたトレンチコート。ガンパッチやレインケープはないものの、エポーレットが付き、襟は台襟が首を全周する「スタンドフォールカラー」という仕様。素材はカシミヤです。こちらのコートの重さは2070g。
半分の6着が終わりました。いまところもっとも軽いコートはラファエル・カルーゾ、もっとも重いコートはラウドガーデンのトレンチコートです。ここからは見た目も実際の重さもハードなコートが登場します。
7. サイ モーターサイクルコート
ブランド:サイ
形:モーターサイクルコート
表生地:毛90%カシミヤ10%
モーターサイクルコートらしい胸元の斜めポケットが特徴的なサイ(SCYE)のコート。こちらのコートの重さは1785g。「ミリタリーな印象のコートを優美なカシミア混のウール地で作るところに探求心が表れていると思います」というのは飯野さんの言葉。ハードな見た目と優美な見た目が見事に調和しています。
8. 三陽商会 トレンチコート
ブランド:三陽商会
形:トレンチコート
表生地:コットン100%
トレンチコートのつながりで、続いてはコットン系のトレンチコートを計測していきます。
飯野高広さんがお父さんから譲り受けたという三陽商会のコート。こちらのコートの重さは3770g。これまで計測してきたどのコートよりも1000g以上重い、重量級コートです。
9. バーバリー トレンチコート(Trench21)
ブランド:バーバリー
形:トレンチコート(Trench21)
表生地:コットン100%
バーバリーの「Trench21」モデル、カラー番号DK46のトレンチコート。持ってみるとこれまでのコートとの差を感じさせるずっしりとした重みが手にかかります。Trench21の重さは4540g。間違いなく重量級の3本には入るであろう記録です。三陽商会のコートよりも約800g重いのは、バーバリーの方が着丈が長く、ウールライナーが身頃裏だけでなく襟と袖裏にも付いているためでしょう。
10. バーバリー トレンチコート(Trench17)
ブランド:バーバリー
形:トレンチコート(Trench17)
表生地:コットン100%
バーバリー定番のTrench17に襟のフェルトとライナーを組み合わせたオーダーもの。カラー番号はDK45。腰ポケットにフラップは付いていないものの、その他のディテールはBurberryらしい最後のモデル。こちらのコートの重さは4840g、現時点ではもっとも重いコートとなりました。Trench21よりもTrench17の方が着丈が約10cm長いので、その分の表生地・裏地・着脱式ウールライナーで差が300g程度になったものと思われます。
11. アジャスタブルコスチューム ダブルブレステッド チェスターフィールドコート
ブランド:アジャスタブルコスチューム
形:ダブルブレステッド チェスターフィールドコート
表生地:ウール100%
着丈はしっかり長め。アストラカン付きダブルブレステッド チェスターフィールドコートのコートの重さは4230g。分厚い素材を用いていますが、美しくシェイプされたウェストラインがエレガントな印象です。
12. ヴォルテラーノ チェスターフィールドコート
ブランド:ヴォルテラーノ
形:チェスターフィールドコート
表生地:馬革(襟の裏は蛇革)
最後に計測するのは重いコートの大本命。映画「マトリックス」をイメージしてオーダーしたというチェスターフィールドコート。素材は馬革。一枚の革から仕立てられているとても贅沢な仕様です。今回計測したなかで唯一のレザーコートの重さは4320gでした。
まとめ:もっとも重いコート、もっとも軽いコート
すべてのコートの計測が終わりました。結果はこちらです。
もっとも軽いコートはラファエル カルーゾのチェスターフィールドコート。もっとも重いコートはバーバリーのトレンチコート(Trench17)となりました。「レザーコートが一番重いのでは」という編集部の予想は外れることに。あらためて考えてみるとその結果にも頷けます。トレンチコートは戦場で将校が来ていたもの。足捌きよりも防寒を重視した長い丈、雨を防ぐために開発されたコットンギャバシンなど、より厳しい環境から身を守るために編み出された工夫が重さにもあらわれたのでしょう。
二つのコートの重量の差は3780g。この数値の差の中にコートの歴史、コートの文化がつまっています。
ーおわりー
クラシッククロージングを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
読むだけでもコートに関する知識が付く
男のコートの本
<対象>
服飾関係者向け
<学べる内容>
コートの歴史。コートの作り方
メンズコートが自作できるようになる一冊。コートの中でもベーシックなPコート、トレンチコート、ダッフルコート、ステンカラーコートのデザインを紹介している。著者は東京コレクションにも出場した経験を持つ嶋崎 隆一郎。掲載されているコートは嶋崎氏が製作したもので、パターンが掲載されている。トレンチコートとダッフルコートは実物大サイズのパターンが付属。パターンだけではなく手順も詳細に綴られており、ある程度の採寸、縫製の知識があればコートが作れてしまうのではないだろうか。細かいパーツの話も豊富に収録しているので、読むだけでもコートに関する知識が付く。
日本がアメリカンスタイルを救った物語
AMETORA(アメトラ) 日本がアメリカンスタイルを救った物語 日本人はどのようにメンズファッション文化を創造したのか?
<対象>
日本のファッションを理解したい服飾関係者向け
<学べる内容>
日本のファッション文化史
アメリカで話題を呼んだ書籍『Ametora: How Japan Saved American Style』の翻訳版。アイビーがなぜ日本に根付いたのか、なぜジーンズが日本で流行ったのかなど日本が経てきたファッションの歴史を紐解く一冊。流行ったという歴史をたどるだけではなく、その背景、例えば洋服を売る企業側の戦略も取り上げられており、具体的で考察も深い。参考文献の多さからも察することができるように、著者が数々の文献を読み解き、しっかりとインタビューを行ってきたことが推察できる内容。日本のファッション文化史を理解するならこの本をまず進めるであろう、歴史に残る名著。
【目次】
イントロダクション 東京オリンピック前夜の銀座で起こった奇妙な事件
第1章 スタイルなき国、ニッポン
第2章 アイビー教――石津謙介の教え
第3章 アイビーを人民に――VANの戦略
第4章 ジーンズ革命――日本人にデニムを売るには?
第5章 アメリカのカタログ化――ファッション・メディアの確立
第6章 くたばれ! ヤンキース――山崎眞行とフィフティーズ
第7章 新興成金――プレッピー、DC、シブカジ
第8章 原宿からいたるところへ――ヒロシとNIGOの世界進出
第9章 ビンテージとレプリカ――古着店と日本産ジーンズの台頭
第10章 アメトラを輸出する――独自のアメリカーナをつくった国