Specialized Furniture Vol.1 カクテルキャビネット

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文/竹治昭宏
取材協力/ジェオグラフィカ

設計者と職人の協業により造作される家具。その時代ならではの材や手技、意匠があり、中には希少性の高いものや驚きのギミックが隠されたものなどが存在する。そこにはクラフトの真の美しさが漂い、時をともに刻んでいきたくなるものも。それは日本はもちろん、世界中にあり、私たちの生活に寄り添ってくれる。

この連載ではそういったこだわりの家具をピックアップ。第一回は英国アンティーク家具から「カクテルキャビネット」を取り上げる。

お酒好きにはたまらない「カクテルキャビネット」

MuuseoSquareイメージ

今回紹介するSpecialized Furnitureは、マホガニー材の深みのある赤が艶やかなカクテルキャビネットだ。サイドテーブルとして置くだけで、絵になる佇まいである。きれいな木目と深みのある色合いが日常を少し贅沢に演出してくれる。限られた空間の表情を豊かにしてくれるだろう。

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1930年代につくられたというこの「カクテルキャビネット」。

一見、品の良いサイドテーブルにしか見えないが、実はお酒の場を楽しむために施したこだわりの仕掛けが隠されている。なんと観音扉型の天板を開くと、連動してガラス製のトレイがリフトアップしてくるのだ。内部の収納部スペースは高さに余裕があり、天板を開くと中にお酒やグラスなどを入れられるようになっている。当時の上流階級の人たちはここにウィスキーやスコッチ、グラスなどを閉まっておき、書斎のサブテーブルや寝室のナイトテーブルとして日頃からお酒を楽しんでいたのだろう。

そしてひとしきりお酒を楽しんだあと……。

「いざ、片付けよう」と開いた扉を少し持ち上げると、今度はトレイが自動的に沈んでいき、扉が閉じるのだ。このつくりこみが実に小洒落ている。なんとなくだが、日本の組み木の技術を用いてつくられた、からくり箱に近いものを感じる。時代も国も違うが、海を隔てて、同じ技術を持つもの同士に通ずる「何か」があるのだろうか。

閉じる際、途中で手を離しても音を立てることなく沈んでいく。

キャビネットの足元に目をやると、美しい猫脚のデザイン。家具本来のデザインを決して邪魔しない、脚の先よりも小さなキャスターがあることで移動も楽々。そんなところに、今も昔も変わらない人々の生活スタイルを垣間みるかのようである。

また、日本の住宅事情にも合うコンパクトな仕様なのも嬉しい点。とはいえ、その圧倒的な存在感は、部屋全体の雰囲気をアンティークな趣に変えてくれるほど。マホガニーの上質な木肌は、現代インテリアに置いても、高級感あふれるイメージで住まいを彩ってくれるに違いない。

時代に淘汰されずに残ってきたアンティーク家具の魅力は、いつまでも古びることはない。そればかりか、長く愛せる家具であることは言わずもがなだ。そして、その稀少性はますます高まっていくと予想される。それを指針に、アンティークならではの文化が薫るアイテムを手に取ってみるのも良さそうだ。

ーおわりー

※本記事に掲載されている製品は参考商品です。

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ジェオグラフィカ

東京・目黒通り沿いに店舗を構える、アンティークショップ。地下1階から3階までの広い店内には、目利きのバイヤーが現地から買い付けてきた家具、照明、アンティーク小物が幅広く豊富に取り揃えられている。購入したアイテムは店舗スタッフが丁寧にアフターサービスの対応をしてくれる。アンティーク家具に囲まれた店内の雰囲気を楽しみながら食事をすることができるカフェも併設。不定期でアンティークにまつわるイベントも開催される。

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公開日:2019年10月25日

更新日:2021年10月8日

Contributor Profile

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竹治昭宏

出版社にてファッション誌などの編集・執筆に携わり、現在はさまざまな媒体を通して編集・執筆。さらにはインタビュー、ブランディングからプロモーション、キャスティングまで幅広くお仕事をしております。

終わりに

竹治昭宏_image

いいモノを見てしまうとついつい欲しくなってしまうのは何故なのか。アンティークならではの味はもちろん、酒瓶やグラスが「スッ」と沈み、天板が閉まっていくさまに優雅さを感じてしまいました。当時の上流階級の方たちがお気に入りのグラスや、お酒などを並べて使われていたのでしょう…。色々と妄想が膨らみます(笑)。90年の歳月を超えて日本に来たキャビネット、ここから先は誰に大事にされるのでしょうか。

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