足の形は人それぞれ異なります。しかし、市場に出回っている靴のほとんどはより多くの人の足に合うように設計されています。履きやすい靴、歩きやすい靴を選ぶためにはどんなことを知ればいいのでしょうか。
この連載では、義肢装具士として働く傍ら、靴ブランド「LIGHTBULB.」を主宰する野口達也さんと一緒に「足に適合する靴」を考えていきます。第三回はいよいよ「適合とは?」を掘り下げます。
履き心地の良い靴とはどんな靴?
こんにちは、野口達也です。前回は靴選びと足のアーチの関係について紹介しました。
今回のテーマは、足と靴の適合です。適合と聞くと「難しそうだ……!!」と身構えてしまう方もいるかもしれません。今回は専門的な話をなるべく噛み砕いて解説していきます。
足に適合しているか否かは、簡単に説明すると履き心地が良いか悪いかに言い換えられます。足に適合している靴を履いていると、下記のように感じられるでしょう。
・痛くない
・疲れにくい
・歩きやすい
・かかとの収まりがいい
・圧迫感や不快感が少ない
逆に痛くなる、疲れやすい、歩きにくく、すぐに脱いでしまいたくなるような靴は足に適合していません。快適な状態と不快な状態をわけている要因とはいったいなんでしょうか?一緒に分析していきましょう。
ポイント1.足と靴の形状の適合
靴が足に適合している状態を考える時には、少なくとも二つの視点を持たないといけません。一つめは、足と靴の「形状」が適合しているかどうかです。適合しているとは、足の形や動きに靴の形が合っている状態を指します。
足と靴の形状が合っていないと、強い当たりができたり、ゆるすぎて靴内で足が泳いでしまい足に過剰な負担を強いることになります。時には胼胝(たこ)や魚の目ができることもあります。
靴の形状を決めるのは、主に木型の設計です。少し木型についても触れておきましょう。
靴の形状は木型によって大体決まってきます。木型を用いることで釣り込みという独特な作業を行うことが可能となります。革の可塑性(かそせい)を利用し、より複雑な形状に仕上げることができるのです。また、ヒールカウンターや先芯などの芯材を立体的に成型できます。量産する場合に工業製品としての製品精度もあがり品質の維持もしやすくなります。
足の形状は歩行中でも1日の中でも変化していくので、靴の形状を設計する時には足の動きや変化も考えなければいけません。足の動きや変化については、前回の記事で少し紹介しています。よろしければご覧になってください。
ポイント2.足と靴の機能の適合
二つめは、足と靴の「機能」が適合しているかどうかです。適合しているとは、歩行している時などに、足に不足している機能を靴が補えている状態を指します。
歩行や立位など日常生活動作において必要とされる、主な靴の機能を挙げてみましょう。
・衝撃吸収性
・安定性
・剛性
・屈曲性
・通気性
・軽量性
・耐久性
・グリップ性
機能というと、スポーツにおける性能を考える方も多いかも知れません。靴は日常生活における動作を補う道具でもあります。そのため日々履く靴にも機能にも注目する必要があります。
例えば関節が緩くアーチが崩れやすい方は、足の機能としては不安定性が高いと言えます。そのような方が安定性や剛性の低い靴を履いて長時間歩き回ると、足に掛かる負担を靴が十分に補えず、サポートが不十分な状態が長時間続くことになります。機能が合っている靴を履いている時よりも疲れやすかったり、負担に応じて痛みを引き起こす可能性が高くなり、適切な靴選びではないと言えます。
安定性が低い靴:底面がカタカタコロコロしていたり、素材を指で押して簡単に凹むくらい柔らかい靴
剛性の低い靴:上履きのように力を加えた時、ぐにゃぐにゃと簡単に変形してしまう靴
靴の機能は、設計に加え素材選びも関わります。天然皮革と比べ人工皮革はコストパフォーマンスが優れる一方、吸放湿性は劣ります。また、天然皮革の方が可塑性が高く木型の形状をよく記憶します。
ソールを機能の観点から考えてみます。ソールに用いられる素材は、天然皮革と合成素材があります。天然皮革の底は合成底に比べると足馴染みが良くムレを軽減します。(堅牢に鞣されているため、中底や甲革に比べると吸湿性は劣ります)。一方、天然皮革に比べ合成底は衝撃吸収性に優れます。グリップ性や耐摩耗性も優れています。ちなみに、ほとんどの合成底は天然皮革に比べると安価です。
天然皮革のソール
合成素材のソール
合成素材の中にはEVA(ethylene-vinylacetate copolymer)という、支持性や衝撃吸収性を踏まえ硬度を選択できる素材もあります。しかし、耐久性に劣るためアウトソールよりはクッション材としてミッドソールによく使用されます。
EVAのソール
形状と機能は互いに関係性を持つ
適合に関係している因子は多くあります。なにがどのくらい履き心地に大きく貢献しているか、また悪影響を与えているかを判断することは、時として難しく一概に言えない場合もあります。
今回紹介した二つの因子、形状と機能は互いに関係性を持ちます。
靴の形状が足に適合していたとしても、機能が適切でなければ履き心地が悪くなってしまう場合がありますし、設計や素材がどれだけ優れていても、靴形状が足に合ってなければ性能を発揮できません。そのため両方の因子が足に合うことで快適な適合を作り出すと考えていいでしょう。
ーおわりー
終わりに
少し複雑に感じるかも知れませんが、適合を考える時、色々な視点を持つ必要性があることをお分かりいただけましたでしょうか?靴の履き心地に正解はありません。デザインや素材など設計による履き心地の違いを楽しんでいただけたらと思います。