放浪のバー「TWILLO」オーナーに伺う、オールド・バカラグラスの魔力。

取材日: 2018年11月20日

取材・文 / 藤田芽生
写真 / 新澤遥

放浪のバー「TWILLO」オーナーに伺う、オールド・バカラグラスの魔力。_image

1764年の設立から今日まで「一流」として各時代の王侯貴族を魅了してきた高級クリスタルブランド、バカラ

そんな王者の風格漂う最高級グラスで上物の一杯を楽しめるバーが夜な夜な東京の路上に現れるという。

酒の取り扱いは常時1種類のみ。価格は客が決めるというなんとも規格外の流浪のバー「TWILLO」。

ただでさえ非日常感たっぷりなのに、さらにその世界観構築に拍車をかける要素の1つがバーカウンターにずらりと並んだバカラグラスだろう。

いつもの路上を一流の大人の社交場へと変えてしまう魔性のグラス、バカラの魅力をオーナーである神条さんに聞いてみた。

路上を大人の社交場へ。空間を特別にするバカラグラスへの気づき

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一風変わったバー「TWILLO」のマスターである神条さんがバカラの収集を始めた最初のきっかけはバーのオープンに伴ってだったという。お店のオープン前からバー業界に携わり、多くの酒を愛し様々なグラスに出会ってきたであろう彼を魅了したバカラグラスの魅力とはなんなのだろう。

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「僕がバカラを集め始めたのは今から12、3年前ですね。バーでお酒を提供するときにどのグラスで提供しようか考えていて。見ての通り路上に出す屋台スタイルなので、正直プラスチックのカップが出てきてもがっかりしちゃう人ってあんまりいないと思うんですよ。こんなもんだよな、みたいな。でも僕は、そういった当たり前のことを良い意味で裏切りたかった。

で、裏切るなら徹底的にっていうのが信条なので、歴史もあるし名前も通ってるバカラグラスに手を出した。それで収集しているうちにバカラの持つ美しさというか、奥深い魅力に取り憑かれてしまったんです。今店で用意してるのは17、18のグラスだけですが、家に帰れば数えられないほどありますね。

バカラって不思議なものでグラスを持ったときのズシッとくる重みが、中に入っている酒の味に重厚感を与えるんです。酒も美味くなる上に流れる時間がスロウになる。ただの路上がスペシャルな空間になるってことに気づきました」。

【バカラについての解説】

1764年にルイ15世の命を受け最高品質のクリスタルを製造するためフランス、ロレーヌ地方で発足した唯一無二のクリスタルラグジュアリーブランド。

フランスのM.O.F(フランス最優秀職人)を50人以上輩出した技術力を誇る老舗ブランドであり、ルイ18世を皮切りにフランス王室はもちろん、イギリス、ロシアなどのヨーロッパ諸国の王室、日本の皇室も御用達の所謂「一流」の高級グラスを製造する。

品質基準が厳しく製造された商品のうち消費者の手に渡るのは6~7割程度。残りは破棄されるという。ガラス全体のうち酸化鉛24%以上というクリスタルの定義に対し、バカラのクリスタルは30%保有と通常の基準を大きく上回る上質さを誇る。

真の価値は長い歴史に紐付いた職人の情熱

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バカラについて語るときに無視できないのがオールドバカラ(アンティークのバカラグラスの総称)という存在だ。そんなオールドバカラも多くコレクションする神条さんは、長い歴史があるものにはそれだけ多くのストーリーと、それを支える職人の技があると語る。

「僕はオールドバカラがすごく好きで、よくヴィンテージショップを訪れては良いものがないか探しています。バカラはM.O.Fという日本でいう人間国宝のような優れた技術者を50人も輩出しているブランドなので、アイテムによっては現役の職人によるカットやエッチングなどの高度な技術を持ってしても当時の輝きを作り出すことができないんです。オールドバカラは、いわばこだわり抜いて作られたクリスタルのアート作品です」。

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「『TWILLO』はお酒を飲む場所なので、不幸な事故が起こって、グラスが割れてしまったりすることもあります。でも見てわかる通り、その割れたグラスも使用してます(笑)。割れてしまっても、勿体無くて捨てられないんです。

それをキャンドルホルダーなどとして使ってみると、不思議なことに既存の製品かのように格好がついてしまう。それって250年以上もの歴史を持つ老舗ブランドの職人たちが汗水垂らしながら練りに練り、こだわり抜いたプロダクトだからこそなんだなって思うんです。不完全系になっても美しい。それって造形だけの話じゃないと僕は思っています。

職人によって考え抜かれた持ち手部分のカッティングだったり、グラスの滑らかな曲線があるからこそ、変な話ですがどこを割ったとしてもそれが美しくなってしまう。

加えて長い間大切に持ち続けられてきたグラスだからこそ出せる迫力というものが、やはりあります。もしかしたらそれは僕たちの頭で作り出している幻想かもしれないけれど、それでも堂々と格好良く見えてしまう。それってバックグラウンドあればこそ、歴史あるブランドバカラにしか出せない魅力なのかなって思います」。

神条さんのバカラコレクションベスト3を紹介

アルクール ワイングラス

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バカラの中でも最も古いアルクールシリーズのワイングラス。1825年にアルクール男爵のために作られたデザインを原型とし1841年に発売されたバカラの代名詞的グラス。聖杯のような形と深いカット、グラスを持った時の重厚感が特徴的でファンの多いアイテム。

エンパイア ワイングラス

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上記に挙げたバカラの中で最も古いアルクールのフォルムをベースに、エレガント且つ荘厳なアンピール様式の金彩をあしらったゴージャスな逸品。

パルメ ワイングラス

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1939年にパリ郊外にある大統領のハンティングロッジで使用するために作られたシリーズ。クラシックなワイングラスのシェイプにフランスの代表的な紋様である楽園に生息する想像上の鳥を、バカラが得意とする繊細なエッチングで描くこだわりのワイングラス。

美しいものの象徴、それが「バカラグラス」

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キャンドルホルダーとして利用される割れてしまったバカラのグラス。
本来の姿ではなくなってもその威厳は失われることはない。

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いつもの路地に突如として現れる流浪のバー、TWILLO。今日もどこかで営業中。

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常時1種類しか用意しないお酒はこれまたバカラのデキャンタに。
ちなみに取材時はリンゴのブランデーのカルバドスでした。

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用意された灰皿もバカラという徹底ぶり。街の光に照らされて映るクリスタルの影が幻想的。

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数種類のシガーも準備されているので試して見るのもおすすめ。渋い煙を燻らせれば非日常感は一層深まる。

「TWILLO」は自身の人生そのものだと語る神条さん。置いてあるものは常時1種類のアルコールと嗜む程度の(しかし上質な)シガー、そしてバカラグラス。いつものストリートを非日常へと変えてしまうこの店にとって、バカラグラスは「美しさの象徴」であり必要不可欠なアイテムだ。

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「バカラといえどもちろん飲み物を飲むためのグラスにすぎません。でもこうやって並べて眺めているだけで楽しめる芸術品でもある。ズバリ、僕にとってバカラとは美しいものの象徴なんですよね。それは繊細で高価、そして壊れやすいことも含めて。だからこそ壊れても愛でていたい。この店を非日常へと誘うために必要なプロップスでもありますね。

少し前まで『TWILLO』にはもっとお酒もあったしクーラーボックスの中には氷もスパークリングも置いてあったんです。でも今となっては氷すらないし、お酒は常時1種類。価格だって、もはやつけてなくてお客さんの言い値にしちゃっている。今は僕の気分でカルバドスっていうリンゴのブランデーをバカラのデキャンタに移して置いてあるだけ。それだけしかないのにお客さんは意外と楽しんで帰ってくれる。

この驚くくらい単純なスタイルでやっていけるのは、非日常感っていうのをお客さんたちが求めているからだと思うんです。それにはやっぱりバカラグラスが必要不可欠。上質なグラスは多々あれど長い歴史と芸術的な美しさ、そしてそれを支えてきた職人たちのクラフツマンシップが伴ったバカラのグラスじゃないと成り立たないやり方だと思っています」。

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比類無き高級グラス、バカラが人々の心を離さないのは単にブランドネームや美しさという単純なものではなく、それに裏付けられた技術と長い歴史があればこそ。

かっこいいものや高機能的なものに溢れた現代において本当に輝き支持されるものは、憧れとそれに伴うストーリーのあるものだと知った。

今日も東京のどこかでふらっと店を開けているであろう「TWILLO」。クールな時代に似つかないどこか懐かしく暖かい非日常世界へは、オーナーである神条さんこだわりのバカラグラスが誘ってくれるだろう。

―おわり―

Writer Profile

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藤田芽生

エディター・ライター。現在はベルリンにてフリーランスで活動中。ファッション、ストリートカルチャー、音楽、アートあたりが得意分野。中世ヨーロッパの歴史オタク。虎が好き。

終わりに

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目まぐるしく時間が流れる東京の中で、独自のスピードで生きている神条さん。流行り廃りに流されず、自分の“これだ”と思ったものを選びぬき他を削ぎ落とすスタイルにインディペンデントさを感じました。バカラグラスに関しては全ての型にストーリーがあるので歴史を知った上で自分にハマるお気に入りの一品を見つけたいと思いました。

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