コート解体新書:第二回「ホースライディングコート」雨を攻略せよ

取材日: 2018年9月13日

文/飯野高広
写真/佐々木孝憲

コート解体新書:第二回「ホースライディングコート」雨を攻略せよ_image

ヴィンテージコートの定番品を例に、コートの源流をたどる連載。第二回は乗馬用に特化したディテールを備えるホースライディングコートを取り上げる。

オイルドクロスやマッキントッシュのゴム引き素材で作られたコートは雰囲気がある一方、短所も抱えているようで…。

コットンギャバジン以前の素材が、現存する!

前回でお話ししたいわゆる「ステンカラー」のコートで一番お馴染みのコットン系の生地は、間違いなくギャバジンだろう。

「雨は通さず汗は出す」今日の最先端系防水透湿性素材に比べ、レインコート用素材としては耐水性のような基本性能こそ若干劣るものの、耐用年数やメンテナンス性、それに着心地まで含めた性能の「バランス」には今日でも最も優れているので、これは当然といえば当然だ。

しかしこのコットンギャバジン、登場、いや発明は19世紀末期であり、実は生地としてはそれほど古い歴史は有していない。ではその登場以前には、どのようなものがレインコート用に使われていたのだろうか? 今回はその辺りも含めてコートをご紹介したい。

乗馬に特化したホースライディングコート(Horse Riding Coat)とは

19世紀末頃に今日の原型が完成したと思われる、文字通り乗馬の際に用いられたのが起源のロングコート。

前述のステンカラーコートと見間違うこともあるが、より乗馬向けに特化したものと言え、両者は用途別に枝分かれしていったと考えるのが自然かもしれない。

Barbour(バブアー)

Barbour(バブアー

たとえ雨天であっても安定して乗馬できることを最重視した意匠を多数有する。

傘を差したくても差せない状況を考慮し、ほぼ全身を覆うべく丈は膝下より大分長く、背部には深めのセンターヴェントかインバーテッドプリーツが付く結果、シルエットは大胆な末広がりとなる。

また前裾が跳ねるのを防ぎコートに足を固定させるため、前身の裏側に足アオリ=レッグストラップが設けられるのも大きな特徴。着用時の安定性を増すため腰にベルトが配置されたり、防水・防風性を増すためチンフラップを備える場合も多い。

色柄は様々だが、素材にはコットンギャバジンだけでなく、その前の世代の防水生地であるラバライズドコットン(通称マッキントッシュ)やオイルドクロスが未だに用いられることも多い。

織り上がった2枚のコットン生地の間にゴムを塗布することで防水性を完全にしたラバライズドコットンは、独特の張りがあるものの縫目から水が入り込むだけでなく、生地がゴムと共に数年で劣化する致命的な欠点がある。

またその名の通り生地の外面に油を塗布したオイルドクロスは、耐摩耗性に優れオイルを塗り直せば防水性が回復できるのが特徴だが、油特有の臭いを発するのが難点。

後処理で防水機能を持たせたそれらに対し、バーバリーの創業者であるトーマス・バーバリーが発明したコットンギャバジンは、糸を紡ぐ前の「わた」の段階で防水液に漬け込むことで防水と言うよりは撥水性を高めている。それらの欠点を克服したのみならず通気性までも獲得できた点が大きな進歩だった訳だ。

ポロ バイラルフローレン別注の英・マッキントッシュとオイルドクロスを用いたバブアーを比較する

ホースライディングコートについては、ポロ バイラルフローレン別注の英・マッキントッシュとオイルドクロスを用いたバブアーのヴィンテージものをチェックしたい。どちらも着丈が非常に長いのがお判りいただけよう。

Polo by Ralph Lauren(ポロ バイラルフローレン)

Polo by Ralph Lauren(ポロ バイラルフローレン)

Barbour(バブアー)

Barbour(バブアー)

Polo by Ralph Lauren(ポロ バイラルフローレン)

Polo by Ralph Lauren(ポロ バイラルフローレン)

Barbour(バブアー)

Barbour(バブアー)

ポロのものは腰ポケットが斜めに付けられているのは、もちろん乗馬時の姿勢を考慮しているから。

ただしゴム引きのマッキントッシュの生地特性を生かすためその袋部は縫われておらず生地を貼っているだけなので、やがて劣化しポケットではなくハンドウォーマーになってしまう(笑)。

脇下に通気口が付くのも、ゴムで密閉しているが故の蒸れを少しでも防ぐための工夫だ

脇下に通気口が付くのも、ゴムで密閉しているが故の蒸れを少しでも防ぐための工夫だ

強風にさらされる為、裾がバタつかないように固定するレッグストラップが付いている

強風にさらされる為、裾がバタつかないように固定するレッグストラップが付いている

バブアーのものは前身頃の開閉がファスナーとスナップボタンの2重構造であるのが興味深い。なお、レッグストラップはポロ・バブアー双方に付いている。

ゴム引きもオイルドクロスも、素材感には確かに雰囲気があるのだが……

ラバライズドコットンのものであれオイルドクロスのものであれ、「防水」力そのものにはかなりの効果を期待できるコートではあるものの、上述したような厄介な短所を抱えている。

更には双方に共通する大きな欠点もある。後処理された生地の特性上、ドライクリーニングも含め洗濯が事実上不可能なことだ。

欧米に比べ湿度が高い日本ではこれは正に致命傷で、保管場所を誤ると表面にカビが生えて使い物にならなくなる場合もある。日本では最近、双方ともにドライクリーニングをしてくれる業者も登場してはいるが、まだ完璧とは言い難い。

例えばオイルドクロスのコートはあくまで外側だけの洗浄しかできず、汗などライニングに付いた汚れは落とせない。独特の素材感を気に入って購入された方は、その辺りも十分に気を付けてご活用いただきたい。

ーおわりー

取材ライターが感じたひと言

別にラバライズドコットンやオイルドクロスの生地でなくても構わないのだが、雰囲気を重視するなら一度はこれらの素材のコートに袖を通したい。どちらも今から十数年前に大ブームになったものだが、ここ数年はあまり見かけないなぁ……当時買われた方はどうしている?

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