歴史家であり、技術者でもある専門家集団。ソラックザーデの取り組みに迫る。

取材日: 2018年8月13日

取材・文 / ゴトーアツシ
写真 / 佐々木 健人

歴史家であり、技術者でもある専門家集団。ソラックザーデの取り組みに迫る。_image

革靴や機械式時計、万年筆にフィルムカメラ。古いモノ好きな読者なら、それらのヴィンテージ・アイテムに一度は興味を持った事があるはずです。

それら古いモノ好きは今も昔も、なぜか男性に多い傾向にある様です。(当WEBマガジン「ミューゼオ・スクエア編集部」の面々も御多分に洩れず。)

男の趣味と思われがちなヴィンテージ・アイテムを求めて、老若男女隔たりなく、多くの人々が訪れる店舗が表参道にあります。

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店の名前は、ソラックザーデ。扱うアイテムは、過去200年分を網羅したヴィンテージ・アイウェア。

ソラックザーデの代表・岡本龍允(たつや)氏に案内して頂く、目眩くヴィンテージ・アイウェアの世界。

後半である本記事では、ソラックザーデのアイウェアに対する独自の取り組みと、老若男女からヴィンテージ・アイウェアが愛される秘密を語って頂きます。

File

ソラックザーデ(SOLAKZADE)

世界的にも類稀なるヴィンテージ・アイウェアの専門店。
扱っている商品は古くは1800年代から1990年代までの、未使用のデッドストック品のみにこだわる。商品の生産地はアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアそして日本と多岐に渡り、10,000本を超える規模とバリエーションで常時保有。膨大なコレクションの中から、1人1人に合わせたベストなフレームを提案してくれる。各時代の素材や製法を熟知した職人としての経験も豊富なスタッフによるレンズの作成、視力測定、レストアやリペアも自社アトリエ内で行なっている。また、近年は国内外の映画のアイウェアやジュエリーの総合監修も請け負っている。

歴史家として、科学者として。アイウェアの専門家集団を目指して。

——前半ではヴィンテージ・アイウェアの基礎的なところを教えて頂きました。同時に沢山のアイウェアを見せて頂きましたが、ここまでヴィンテージ・アイウェアを所有しているお店は他にあるのでしょうか。

ソラックザーデほどヴィンテージ・アイウェアのジャンルを開拓し深めてきた店は、世界でも他にありません。アイテムのセレクトの幅広さもそうですし、技術的にここまでサポート出来る店もないですね。

ソラックザーデでは常時10,000本を越えるアイテムを在庫している。

ソラックザーデでは常時10,000本を越えるアイテムを在庫している。

——ヴィンテージ・アイウェアを販売している店自体は他にもありますよね。古着屋さんに少しだけ置かれている、みたいな光景は見たことがあります。

僕らが事業を始めた15年前は、グーグルでヴィンテージ・アイウェアについて検索しても、本当に何の情報もありませんでした。それがこの5年で、ネットで販売する人がたくさん出てきています。それに、ヨーロッパ、アメリカ、日本、韓国、タイにもヴィンテージメガネの店舗がいくつか出てきました。

その多くは、もともと僕らのお客さん達です。みんなコレクターの延長でスタートします。自分のために買ったら楽しすぎて夢中になって、ネットで売り始めるまでになってしまったんですね。ヴィンテージ・アイウェアがカテゴリーとして成立して、定着してきたってことなのかもしれません。

ただ、メガネの年代を間違って判別していたり、本当はUSEDだけど見た目が綺麗なので未使用品として売ってしまったり、状態が悪いものもたくさん出回るようになってきています。

提供:ソラックザーデ

提供:ソラックザーデ

——サポート面ではどうでしょう。

古いアイウェアのフレーム、レンズは、各時代ごとに素材が違うんです。例えば1970年代にはオプチルという新素材が出てきます。すごく美しいのですが、修理ができない特殊な素材です。1950年代と1940年代と1930年代では同じ素材でも硬さが違ったり、含まれる水分量が微妙に違ったりして、修理する時に融合剤が使えたり使えなかったり、様々です。

時代ごと国ごとに素材と修理方法を熟知してないと、せっかく買ってもらっても、1年後2年後に修理に持って来てもらっても、断るばかりになってしまうんです。

提供:ソラックザーデ

提供:ソラックザーデ

でも僕らはほぼ永久にサポートしたいと思っています。現代のメガネは3年5年で買い換えられる事が多いですけど、昔のモノは正しい知識を持って手入れ・修理をすれば、30年50年使える前提で作られてるので。

僕らは現代でも、昔のように販売したいなと思って。

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——ただの販売店ではなく、技術者としてお客様と対峙されているんですね。

そうですね。僕らは全員が技術を学んでますので。そして技術者であるだけじゃなく、歴史家でもあるんです。商品の知識、各時代背景の知識、音楽や映画の知識、他のジャンルのヴィンテージとの繋がり。いろんな知識が結びつくことで、メガネのヴィンテージの魅力を、よりリアリティを持ってお客様にお話しすることができるんです。

——もう販売店と言うよりも専門家集団に見えて来ました。

そうですね(笑) 2年5年10年ってやっていく中で知識は深まって行きますし、古いモノを相手にすると、技術的な部分でも100点満点はありません。

だから僕らが研究開発してる様な側面もありますね。ありがたいことに、世界的なファッションブランドやアイウェアデザイナー、福井県鯖江市のアイウェアメーカーの人たちにも知識の面、技術的な部分で頼りにしてもらっています。

提供:ソラックザーデ

提供:ソラックザーデ

色々なライフスタイルや人種ごとの骨格を理解する事も大事だと思ってます。

最近、中東から来てくれるお客さんが多いなあってなったら、中東の人のライフスタイルや価値観について分かってくる事があったりとか。

白人の人に初めて対応したスタッフは、日本人と顔面の骨格全然違うなとか。提案の段階でテンプルこのくらいの長さのメガネを提案しとこうとか。そういう知識ってどんどん蓄積されていきます。

——歴史家でもあり、技術の最先端を行く研究者でもありって事ですね。

そうですね。それを目指してますね。

ヴィンテージ・アイテムが広い世代に受け入れられる時代、来たる。

——実際に、お店にはどんなお客様が来られているんでしょうか。

男女問わず、10代から80代、100歳のお客様までいらっしゃいますね。年齢も全部刻んでますし。それに、海外からもよく来てますね。アメリカ、オーストラリアの人は多いです。ヨーロッパはイギリス、フランス、ドイツ、スイス、スペイン、イタリア、ギリシャ。そして北欧。ノルウェーから来られたりとか。中東からもよく来て頂いています。サウジアラビアやアブダビ、イラン。アジアだと香港、マニラ、バンコク。

いちど来てくれたお客様からの紹介で、世界中から新しい方が来てくれています。

でもね、最初と今とで違うんですよ。最初はね、国内の20代から50代までの男性ばっかりだったんですよ。男性のクラシックな物好きな人がほとんどでした。

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——ヴィンテージ・アイテムを好む率が高そうな世代ですね。

そうですね。今は、すごい最先端のファッション狙っている人たちから、アンチファッションと言うか、クラシックな中でも本物を求めてくる人たち、時計やデニムやカメラや車などでヴィンテージが好きな人たちまで、幅広く来てくれているという感じですね。

——若い人たちや、最先端のファッションを追っている人たちにもヴィンテージ・アイウェアに興味を持ってもらえているのはなぜなのでしょうか。

「お婆ちゃんの付けていたジュエリーを私も1つ着けてるんです」そういう事を言える女の子が可愛いって雑誌でも紹介されるような事が、10年前よりもすごく多くなってきてます。

「私にとっての理由があって身につけてる」みたいな、パーソナルなものがクールっていう価値観が、広く受け入れられる時代なのかなと思います。

皆と違う物をファッションとして探しているというか。

提供:ソラックザーデ

提供:ソラックザーデ

自分だけのファッション、自分だけのスタイルを作るためには、雑誌で毎シーズン紹介されている様な現代のブランド品よりも、ヴィンテージでぽろっと転がってるモノを「俺だけがたまたま見つけた」みたいな、そういうもので作る方が心地良く感じるんだと思います。

それはファッションだけじゃなくライフスタイル全体的なもので。例えば旅先一つとっても、ハワイはもちろん素敵ですけど、みんなが行ってないような国、モロッコやイラン、スリランカあたりに行ってみたり。5つ星のホテルよりも、その街にしかない、フレンドリーでパーソナルな対応をしてくれるホテルに泊まってみたり。

すごくファッションなモノも、ファッションじゃないクラシカルなモノもあって、全部フラットに楽しまれ始めてる時代なのかなと思います。

提供:ソラックザーデ

提供:ソラックザーデ

200年分の提案資料。全ての人の価値観に合わせた提案ができる秘密。

——あらゆる性別、年代、国籍の人が来店されるとお話しされていました。全く価値観の異なる人々に対し、どんな基準でヴィンテージ・アイウェアを提案されているのでしょうか。

過去の歴史200年分のアイテムを扱っていると、どんな人にも対応できます。

ただそのためには、僕らはかなりフレキシブルな状態である必要があると思っています。200年分のアイテムを全部扱うってことは、各時代ごと国ごとの価値観に、全部共感できてないといけない。

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例えば1980年代って「ダサいってことが可愛い」ってなった時代なんですけど、1950年代なんて「ダサいってことはダサい」で終わりです。

1950年代のガチっとした感じを格好良いって思う人たちはいるし、でも1980年代のちょっと抜いた感じで、ダサくゆるく頑張らず生きたいって人たちもいるし。

どっちの価値観にも共感できて、初めてどっちのお客さんにも提案できるんです。

提供:ソラックザーデ

提供:ソラックザーデ

すごい緩い感じの雰囲気の子が来て、1980’s風のファッション良いねって話して1980’sのアイウェアを提案したり。

次はマッチョに筋肉鍛えて、革ジャン着てハーレー乗って「僕自衛隊なんです」みたいな子が来て、1950’sってこんな時代だったんだよって話して、1950’sのアイウェアを提案したり。

そういう風に1時間後に全然違う事をやる、みたいなのが僕らなので。多分それは他の店ではありえない。

古着屋でこの店はアメカジとか。テーラーでこの店は1950’sのアメリカンスタイル、この店は1940’sのイギリススタイルとか。店ごとのスタイルが決まってるのが普通ですよね。

僕らは200年分のアイテムの歴史や価値観を全て参照した上で、受け入れています。そういうフレキシブルな状態だから、どんなお客さんの価値観にも合わせた提案が出来るんです。

ヴィンテージ・アイテムを超える存在を作り出す試み。

——ヴィンテージ・アイテム以外にも、オリジナルアイテムの制作もされていると伺いました。

そうですね。オリジナルというか、コンセプトとか固めずにかなり実験的なことをやってみたりしています。

ヴィンテージよりも面白いものにしようと思って。

ヴィンテージってやっぱり面白いので。本当はデザインのバリエーションも歴史全部辿れば、僕らにとってはどんなデザインもあるし、どんなモノもほとんどヴィンテージの中で仕入れてたら出てくるんです。

ソラックザーデのオリジナル商品。金無垢素材に手彫り加工を施している。

ソラックザーデのオリジナル商品。金無垢素材に手彫り加工を施している。

ただ僕らがやろうとしているのは、ヴィンテージを超えるレベルで面白いもんを作ろうという事で。

あんまりビジネス的じゃなく、もっとヤバいものを作ろうみたいな、歴史になかったものを作ろうっていうことです。

例えば金や銀の無垢素材で手彫りをやってみたりとか。鼻パッドのところにネジが付いてたりする様な特殊な構造、時代の中で消えちゃった当時の特許みたいなのがあったりして、そういうのを拾い上げてまた続きをやってみたりとか、そういった実験的なことをやってみたりしていますね。

本鼈甲の中でも特に希少な白甲のみを使用したオリジナル商品。

本鼈甲の中でも特に希少な白甲のみを使用したオリジナル商品。

素材となるウミガメの一種・タイマイ。

素材となるウミガメの一種・タイマイ。

変わり続けるために、外の世界に触れ続ける。

——この写真は何処かの企画展か何かの写真ですか?

MuuseoSquareイメージ

これはトランクショーに行っている時の写真ですね。

——トランクショー?

行商というか、キャラバンというか。

メガネやジュエリーなんかをトランクに詰めて、百貨店や洋服店、ホテルのスイートルームなんかで、その場でコレクションを披露して販売する手法です。

これはソラックザーデのアイデンティティの1つでもあって、このスタイルで国内外の名店を渡り歩いてきました。

六本木伊勢丹サローネで行われたトランクショーの様子

六本木伊勢丹サローネで行われたトランクショーの様子

(提供:ソラックザーデ)

(提供:ソラックザーデ)

——どうしてそのような特殊な販売スタイルを続けているのでしょう?

もっとフレキシブルになって、変化していくためですね。僕ら自体も半年後と半年前で、商品のセレクションや提案方法なんかもガラッと変えています。

そのためにずっと自分たちの店の中でやってるんじゃなくて、別の場所に出ることで、外の世界に触れるというか。

進化論ってあるじゃないですか。環境変化でそれに対応できなかったら絶滅するみたいな。氷河期で恐竜全滅したみたいな。やっぱり変化していかないと面白くなくて、お客さんも飽きちゃいますしね。

ソラックザーデオーナーの岡本龍允氏(左)と岡本竜氏(右)

ソラックザーデオーナーの岡本龍允氏(左)と岡本竜氏(右)

ヴィンテージの中でも知らなかったカテゴリーや、スポットライトが当たってなかったけど面白そうなアイテムが見つけて来たり。今はまだやってないですけど、スペインの1970年代とか、ヨーロッパでもマイナーな国のメガネ文化に手を出してみたり。

世界中、どこの国にも絶対にメガネの文化はありますからね。

とにかく新しいモノや価値観を引っ張ってくるっていうか。そういうことは続けていきます。

トランクショーはその一環です。商品の仕入れも、どんどん新しい国に行きまくってます。

ーおわりー

取材ライターが感じたひと言

いかがでしたでしょうか。前後半に渡り紹介した、目眩くヴィンテージ・アイウェアの世界。筆者にとってもメガネは日々の生活に欠かせないモノですが、ヴィンテージの世界がここまで奥深いモノだとは思わず、衝撃的でした。これからしばらくはソラックザーデさんに足を運び、自分のスタイルにピッタリな1本(と言わず何本も?)を紹介してもらおうと思います。

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