共通項は実用性。Instagramで話題のヴィンテージコレクター「Lee Morrison」インタビュー

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文・写真/渡邉 耕希

英国には数多くのヴィンテージコレクターがいます。その中でも一際異彩を放つのがLee Morrison(リー・モリソン)さんです。

リーさんはノッティンガムで理髪店を営む傍ら、ヴィンテージのスーツやジャケット、靴の収集を行なっています。彼の理髪店はヴィンテージシューズが飾られてあり、レコードから流れる音楽を聴きながらゆったりとヘアカットが楽しめるようになっています。

100足以上のヴィンテージシューズを所有する彼は、自分で靴の修理もしてしまう稀有な存在。そんなリーさんに、「なぜヴィンテージシューズを収集するのか」お話を伺いました。

膨大なコレクションとヴィンテージシューズとの出会い

ーー リーさんは100足以上のヴィンテージシューズをお持ちですが、保管はどのようにされているのですか?

私はコレクションを3箇所に分けて保管しています。ほとんどはノッティンガムにある私の自宅に置いてありますが、職場の空きスペースに30から40足、ブライトンにある家にも10足程あります。コレクションは常に増えていて、月に1足、まれに数足まとめて購入します。

MuuseoSquareイメージ

ーー 増え続けるとなるとそれくらいのスペースが必要になりますね。ヴィンテージシューズはいつ頃から集め始めたのですか?

私が18歳の時だったと記憶しています。もう50が近いですから、それから30年以上が経とうとしていますね。若い頃はクラシックなスタイルに傾倒していたのですが、当時の収入では新しい高級な靴を買うことは出来ませんでした。そこでアンティークショップ等でセカンドハンドの靴を探し始めたのです。80年代のことですから、もちろんインターネットやeBayはありませんでした。

ーー やはり当時はショップがメインだったのですね。

ちなみに初めて購入したヴィンテージシューズは32年前に買ったグレンソンのチェルシーブーツ、色はタンだったと思います。この頃にクロケット&ジョーンズ、ローク、グレンソンといった高級過ぎないノーサンプトン(Northampton)製の靴を沢山購入しました。

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ーー なるほど、どちらかというと実用性重視のチョイスだったということですね。

そうです、この頃はいわゆるコレクターピースというものにまだ興味を持つ前で、靴は天候も関係なく履き倒すものと思っていました。実際に何足も履けなくなり、捨ててしまったことがあります。今ではちゃんと手入れをしながら大事に履けばよかったと後悔しています。

ーー 現在のコレクションは30年に渡って作り上げられたのでしょうか?

いえ、実を言うとここまでの量になったのはここ4、5年です。

ーー eBayの影響でしょうか。

そうです。eBayはヴィンテージ業界の状況をすっかり変えてしまいましたね。

ーー 確かにスマートフォンの画面をタッチするだけで欲しい物が買えてしまいますからね。価格もショップよりかなりリーズナブルです。

リー・モリソン流ヴィンテージシューズの選び方

ーー ヴィンテージシューズを購入する際の基準を教えてください。

私にはとても厳しいルールがあります。まず始めにメーカーなども関係なく、実際に履くものしか買いません。戸棚に飾っておくようなミュージアムピースは避けます。また、何かしら修理が必要な靴を選ぶことが多いです。価格が抑えられ、また自分でそれを修理することが好きだからです。

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ーー リーさんの修理はInstagramでも話題ですね。靴のサイズを大きくしたり、逆に小さくしたり、とても興味深いです。それではデッドストックの靴は持っていらっしゃらないのですか?

実は、2、3足持っているのですが購入したのをすごく後悔しています。それというのもかなり値も張りましたし、一度履いてしまうと、価値が瞬く間に下がってしまうからです。

ーー 確かにデッドストックを履くか履かないはとても難しい問題です。ただ、将来手放すことを考えていないのであれば思い切っても良いかもしれませんね。

その通りです。しかし、私には勇気がありません。

コレクションの内容とは?

ーー コレクションの中で1番気に入っている1足はどれですか?

すごく難しい質問ですね。私にとって特別な靴はたくさんあるので1つに絞るのは至難の業です。強いて言うならば、今日履いているこの靴でしょう。1975年製のフォスター&サンのビスポークです。この靴を履く度に気分が高揚します。コンディションも素晴らしく、良い具合に色落ちしたトウが気に入っています。

この靴はアメリカ人のレーシングドライバーのために作られました。彼は同じスタイルでたくさん作らせていて、私がそれをまとめて購入しました。黒のアンティークフィニッシュというのは非常に使い勝手の良い色で、合わせる服を選びません。そういう面も気に入っています。

ーー 確かに黒靴ですが色の抜けたトウは茶靴のような印象を与えます。また靴の持つ歴史に想いを馳せるのもコレクターとしての楽しみの1つですね。

アメリカのレーサーがフォスター&サンでオーダーした靴

アメリカのレーサーがフォスター&サンでオーダーした靴

ーー お若い時は集められていなかったコレクターピースですが、今はこのフォスターのように希少性の高い物をたくさんお持ちですね。リーさんのコレクションで最も貴重な1足はどちらでしょうか?

19世紀後半に作られたヘンリーマクスウェルのバックルシューズです。最高裁判所の判事達が履く物のようです。その次に古く、同じくらい貴重なのが20世紀初頭に作られたバルモラルブーツです。2足とも私がクラック補修を施してあります。

ヘンリーマクスウェルのバックルシューズ

ヘンリーマクスウェルのバックルシューズ

約100年前に作られたバルモラルブーツ

約100年前に作られたバルモラルブーツ

ーー 素晴らしいの一言です。バックルシューズのメダリオンは興味深いですね。本当にたくさん貴重な靴をお持ちですが、今後手に入れたいメーカーの靴はなどはありますか?

既にフォスター&サンの靴は多数所有しているので他のメーカーの物を探しています。例えば、ピール&コー、ポールセンスコーン、ヘンリーマクスウェル、ジョンロブ、トゥーシェクです。

1年程前に14足のヘンリーマクスウェルが市場に出たことがありました。アメリカに住んでいたフランス貴族のために1945年と69年に作られたもので、それはそれは素晴らしいコレクションでした。サイズが小さ過ぎなければ、購入していたでしょう。

ーー 僕もあのコレクションをインターネットで見た時のことは鮮明に記憶しています。素晴らしいの一言でした。

クラック補修のビフォー&アフター

クラック補修のビフォー&アフター

ーー ヴィンテージシューズのどのような点がリーさんを惹きつけるのでしょうか?

いくつか理由があります。まずは希少性です。珍しいものを所有し、着用するということはとてもエキサイティングなことだと思います。メーカーがなくなっている場合は尚更です。トゥーシェク、ピール&コーやポールセンは幾らお金を払っても新しく作ることは出来ません。

次に歴史です。靴や服の辿って来た道、例えばオリジナルのオーナーについて調べるというのはとても楽しいことです。それには君も賛成してくれると思います。また彼らがその靴や服を愛したように、またはそれ以上の愛情を私は注いでやりたいと思います。そしていつか私のコレクションが新しいオーナーの元に渡った時もそうなって欲しいですね。

3つ目は質です。名もないようなメーカーから忘れ去られたメーカーまで色々見てきましたが、それらの多くがとてもレベルの高い仕事をしています。

4つ目はスタイルです。私は毎日ヴィンテージの靴や服を身につけますが、全くオールドファッションだとは思いません。シックでスタイリッシュでタイムレスなのです。

最後にパティーナ(風格)です。ヴィンテージシューズは私たちの手元にやってくるまでに最低でも1人か2人の紳士の足元を支えています。その間に自然と革が美しく退色し、それが素晴らしい個性となっています。アンティークフィニッシュとは比べ物になりません。靴も手入れを怠らなければワインのようにエイジングするのです。

ーー 服や靴を着ることは消費することだと思いがちですが、確かな技術を持って作られた物は正しく手入れされていれば、人1人の人生をゆうに越えて残って行くものだと思います。その過程で生じた生地の破れの補修や革の退色、皺など、これらは決して欠点などではなく、愛すべき歴史の一部だと思います。

その通りです。

ーー 毎日ヴィンテージの服や靴を身につけるとおっしゃいましたが、コレクションは靴以外にもあるのですか?

靴以外にも色々な物を集めています。1960、70年代のジャガーとダイムラーの車、サヴィル・ロウ・ビスポークのスーツ、タイ、クロコダイルやアリゲーターのカバンや財布、革製の手袋が50ペア、フォックスアンブレラの傘が15本、ジョンスメドレーのニットが100着以上、などです。

スーツをサヴィル・ロウにこだわっているのは品質が保証されているからです。サヴィル・ロウテーラーのスーツなら間違いないというわけです。

ーー 紳士にまつわる品は網羅されていますね。確かに70年代くらいまでのサヴィル・ロウのビスポークスーツはスタイルと質ともに他を圧倒している印象があります。ここまで幅広く、また奥深いコレクションをお持ちの方はなかなかいらっしゃらないと思います。貴重なお話を聞かせて頂き、本当にありがとうございました。

ーおわりー

リーさんのコレクションはInstagramで数多く紹介されています。ぜひ一緒にご覧ください。

公開日:2018年3月24日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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渡邉耕希

1992年生まれ。ロンドンへの留学中に身に着けた紳士服やヴィンテージアイテムの知識をもとにライターとして活動する傍ら、自身のYouTubeチャンネル「The Vintage Salon」にてヴィンテージを交えた英国的暮らしを発信している。

終わりに

渡邉耕希_image

インスタグラムで話題の男、リー・モリソンさんを取材させてもらいましたが、彼の膨大なコレクションには本当に驚かされると共にそれらをちゃんと手入れを欠かさず保管していることにもとても感心させられます。普段はバーバーとして働いているため表舞台に出ない彼ですが、誰もが認めるイギリスでも一二を争うコレクターです。そんな彼へのインタビューをお楽しみ頂ければ幸いです。

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