多種多様なブロックを組み合わせることで、立体的な造形表現ができるLEGOブロック。子どもの頃に一度は触れたことがある、という方も多いはずだ。今回はLEGOブロック関連の著作も多いさいとうよしかずさんに、その魅力について語っていただいた。
自分の発想を生かせる、自由度の高さに惹かれて。
さいとうさんは元々プラモデルの愛好家だったという。しかしながら、第一子の誕生を機にこちらの世界から退くことに。
「それまで熱中していたプラモデルは、塗料に使われるシンナーや刃物などの工具が、子どもによくないかなという考えと、同時期に転職が重なったことから辞めることに。ただ、そんな状況でも何か立体的なモノづくりができないかという欲求は持ち続けていました」
さいとうさんのLEGO熱が高まったのは、2003~2004年ごろのこと。
「新しい会社にLEGOブロック好きの同僚が身近にいたことが、この世界にハマるきっかけになりました。もちろん、LEGOブロックの存在自体は知っていたのですが、それまではあまり魅力的な商品に感じていなかったのです」
「しかし、同僚からリリースされていないスターウォーズのシーンを再現した作品を紹介され、改めて興味を持ちました。既存のセットを組み替えて、別の何かを創るという面白さに気づきましたし、よくよく考えてみれば、プラモデルはできた段階で完成ですが、LEGOブロックはまた新しい何かに作り変えることができる。地震などで壊れてしまっても容易に修復ができますし、これは面白いじゃないかと」
解説:LEGO(レゴ)ブロックとは?
デンマークに本社を置く、LEGO社のプラスチック製組み立てブロック玩具。「LEGOブロック」の名が製品名として冠されたのは1953年のこと。1958年より現在の製品とほぼ同様のブロックが販売されており、日本では1962年に販売が開始。翌1963年にはABS樹脂を採用したブロックの生産が開始され、以後細かい改良を重ねながら現在に至っている。近年はブロックのサイズが大きい幼児向け製品のほか、映画やアニメ作品をテーマとしたいわゆる「版権モノ」など、多彩なラインナップがリリースされている。
イメージを形にするため、パーツを収集する日々。
さいとうさんのLEGOブロック作品制作室。壁際に並んだボックスには、1000種類以上のパーツが細かく分類され、収納されている。
「いざやる気になってみると、アイデアがいろいろと浮かんでくるもの。オリジナルの二足歩行ロボットをつくりたい、海外ドラマに出てくるキャラクターの人形をつくりたい……。そんなイメージを形にするために、パーツを収集する日々がはじまりました。LEGOブロックはセットを1つ買ったとしても、それでつくれるものには限度があります。基本がセット売りですので、1つのパーツを欲しいがためにセットを複数個購入することも」
「スーパーマーケットの処分品や、大型玩具店の福袋などはよく購入しましたね。定価の半額以下で売られていればまとめ買いして、徐々に手持ちのパーツが増えていきました」
コンテストでの入賞をきっかけに、広がったLEGOブロックの世界。
数多のパーツを駆使しながら、作品づくりに没入していくさいとうさん。そんな中、あるコンテストに応募した1つの作品が、さいとうさんの転機となる。
「レゴの専門店「クリックブリック」が主宰するコンテストに応募したのですが、思わぬ反響をいただき、入賞することができました。作品名は「お寿司」。限られたサイズの中で、分かりやすく、共感が得られやすい点を意図して制作したものになります」
さいとうさんの代表作のひとつである「お寿司」。海老の尻尾にはダイバー用の足ヒレパーツを使用するなど、独創的な発想でリアルさを追求している。
「当時は特殊な形状のブロックを作品に取り入れるビルダーが少なかったのですが、私は積極的に使用していた点が評価されたのだと思います。プラモデルの頃からジャンクパーツを利用して、作品をよりよく見せるという作業を行っていたため、その感覚にしたがってつくりました」
この入賞をきっかけに、TV番組への出演や書籍の執筆など、LEGOブロック界での活動が増加。2010年にはレゴ本社が認める「レゴアンバサダー」に就任する。
「日々の活動から、アジア圏で唯一のレゴモデルビルダーとして活躍されていた直江和由さんに推薦いただく形で「レゴアンバサダー」に就任。ユーザーの意見を吸い上げ、各国のアンバサダーと意見交換をしながら本社へ情報を伝達するのが主な役割でした。「商品の値段が高いかも!」とコメントしたところ、本社から厳しいお言葉をいただいたり、印象的なエピソードは尽きません。貴重な経験をさせていただきました」
さいとうさん所有のLEGO製品をご紹介
LEGO製品を購入後、ほとんどはバラして作品づくりに使用するというさいとうさん。今回は未開封のものから、近年リリースされた代表的な商品をご紹介いただいた。
ブリックヘッズ バットマン(左) アイアンマン(右)
著名なキャラクターを模したLEGO製品。一昔前は2000円~3000円程度のセットが最もリーズナブルな価格ラインであったLEGO製品だが、BRICK HEADZシリーズは1500円程度の価格で販売されている。近年はこのような低価格帯の商品が充実を見せているという。10歳以上を対象年齢とした、エントリーモデルにあたる。
ネックスナイツ バトルスーツ ランス
2016年から展開しているLEGOオリジナルアニメシリーズのブロック製品。同梱されているシールドをスマートフォンでスキャンすることにより、ゲームアプリ『レゴネックスナイツ』内でバトルを優位に進められるアイテム、「ネックスパワー」を獲得できるスマホ連動商品。
アーキテクチャー バッキンガム宮殿
長期間にわたり、世界の名建築をモデルにリリースされているアーキテクチャーシリーズ。オトナのLEGOファンからも人気が高い。同じ部品がたくさん入っていることから、部品取りに最適という声もある。
クリエイター 探偵事務所
細部までこだわった設計がなされているクリエイターシリーズ。かつて、公式が推奨する組み方は一般的な例が多かったが、近年の商品ではトリッキーな組み方を前提につくられているものも多く、より緻密さを増しているのだそうだ。
ブロックだから、いくらでも再現が可能。LEGOブロックの魅力を、次の世代へ。
現在もLEGOブロックの啓蒙活動に力を入れているさいとうさんだが、どのような想いを胸に日々取り組まれているのだろうか。
「最初に出版した書籍には、子どもから大人へと移行していく世代に向けて、「LEGOブロックにはもっとこんな魅力がある。辞めないで楽しんでほしい」という想いを込めました。やはり基本的には子供向けの玩具ですので、ある時期が来ると、辞めてしまうケースが多くあるのが宿命です。今でこそブログで制作フローを公開しているビルダーが数多く存在しますが、そういったテクニカルな部分を本の中で公開することで、もっと自由な楽しみ方ができるんだという魅力を伝える意図がありました」
創作アイデアの玉手箱ブロック玩具で遊ぼう!!
「見て楽しめ」「読んで学べる」ブロック玩具の教科書です。初心者から上級者までが「知りたいテクニック」を掲載しているので、これを読めばオリジナルの作品にチャレンジできる「力」が育ちます。また、国内でも有数のアマチュアビルダーたちの作品画像を多数収録しているので、ブロック玩具を作らない方でも見て楽しい本になっております。付録も「お寿司の作り方ポスター」や「特製方眼紙」など充実していますよ。
登場アマチュアビルダー(藤田慎也、けん・たっきぃ、秋長さちこ、かわさきあずむ、MisaQa、ayucow、ふじさわくにまさ、etc)
【本書には多くのレゴブロックが登場しますが、ブロック玩具のファンの手で制作したものであり、レゴ社とは無関係です。】
「約10年が経ち、現在の状況を見回してみると、中高生でも精力的に作品を制作している方がたくさんいます。その中にもし「本を読んで自分なりに再現しました」という方がいれば、これほどうれしいことはありません。LEGOブロックは玩具の域を越え、つくり手の作家性を発揮できるアイテム。見た人を感動させる、素晴らしい作品の誕生を待ち望んでいます」
ここで、改めてLEGOブロックの魅力について語っていただいた。
「アートの世界では作品づくりにおいて、技術や経験値の豊富さが大きなウエートを占めてきます。しかしLEGO製品はブロックですから、同じブロックで同じようにつくれば、同じものができるはずなんですね。ここがLEGOブロックの素晴らしいところではないでしょうか。子どもから高齢の方まで、誰にでもできる芸術。それがLEGOブロックだと思います」
シューティングゲームに登場するような戦闘機をイメージして制作した「スターファイター」は、クラシックな雰囲気が漂うさいとうさんのオリジナル作品。
「裏磐梯高原ホテル」。同ホテルからの依頼を受けて制作、約90cm×40cmの大型作品だ。
さいとうさんは2017年秋より、名古屋の地で小学2年生から大人までを対象にLEGOブロックを通じた教育活動を始められるのだそうだ。
「これまでの活動の一環として、低年齢の子どもにもLEGOブロックの魅力を伝えていきたい。私はつくり手としては飛びぬけていませんでしたが、次の世代へLEGOブロックの素晴らしさを伝える役割を、これからも担っていければと思います。とはいえ、自分自身がつくりたいモチーフもたくさんあります。1つのパーツを見た瞬間に「アニメロボットの足にしか見えない!今すぐつくろう!」といった感じです。これからもLEGOブロックに触れながら、モノをつくることの楽しさを感じていきたいですね」
LEGOという名称は、『よく遊べ』という意味のデンマークの単語『leg godt』が由来となっている。
人々の創造性を掻き立てるLEGOブロックは、これからも身近なホビーとして老若男女に愛され続けるはずだ。
―おわり―
アイデアをカタチにする! ブロック玩具ビルダーバイブル
ブロック玩具でオリジナル作品を作るために必要な知識はもちろん、接続方法や組み方、曲線やディテールなどの表現方法まであますところなく解説。また、さいとう氏が注目する、今が旬のアマチュアビルダーの新作を多数掲載。さらに巻末には最新パーツ1000点以上を掲載しています。読んでナットク!作って楽しい!ブロック玩具を利用したオリジナル作品のアイデアが満載の書籍です!なお、本書ではレゴブロックを利用していますが、レゴ社とは無関係です。
トイ・フィギュアを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
レゴブロック60年(1958年~2018年)の歴史が、この1冊に!
レゴブロックの世界 60周年版
958年の誕生から60年、世界中で愛されつづけるレゴブロック。
驚きのプレイテーマやセット、ミニフィギュア、ムービー、新時代のゲームやイノベーションなどを時代ごとに紹介。
『レゴブロックの世界』60周年記念スペシャルの増補改訂版。
レゴの知られざる裏側を初めて明かす
レゴはなぜ世界で愛され続けているのか 最高のブランドを支えるイノベーション7つの真理 (日本経済新聞出版)
「20世紀を代表するおもちゃ」を生み出した巨大イノベーション工房
ブロック型のおもちゃの草分けとして知られ、知育玩具としても世界中で人気のレゴブロック。フォーチュン誌はレゴを「20世紀を代表するおもちゃ」と評している。しかし企業としてのレゴが、2004年に約3億ドルの大赤字を記録して倒産の危機に瀕していたこと、その後、驚異的なV字回復を果たしていたことは、あまり知られていない。
本書では、レゴが歩んできた軌跡、80年間ブランドを支えてきた基本理念、そして経営再建に向けて定めた「イノベーション7つの真理」を、スイスの名門ビジネススクールIMDで「レゴ・プロフェッサー」の称号を与えられた著者が、企業幹部をはじめ多くの関係者への取材をもとに説き明かす。
3億ドルの大赤字――失敗と復活から学んだ教訓
右肩上がりの成長を続けてきたレゴに危機が訪れる。テレビゲームなど、デジタル化の波が子どもたちの遊びにも押し寄せてきたのだ。レゴは遅れを取り戻そうと、ブルー・オーシャンへの進出、破壊的イノベーション、クラウド・ソーシングなどを取り入れ、「7つの真理」を中核に据えた成長戦略を立てた。しかし、21世紀のイノベーションの処方箋はレゴに壊滅的な結果を招いたのだった。 そんな中、CEOに抜擢された若きヨアン・ヴィー・クヌッドストープは、失敗を経験知として活かし、劇的な復活を遂げた。レゴが辿った軌跡はすべてが教訓に満ちており、劇的な環境変化のなかで苦戦を強いられている企業にとって、すばらしいイノベーションの教科書となるはずだ。
終わりに
取材前は子どものおもちゃとしての認識しかなかったLEGO。さいとうさんのお話を通して、表現活動のツールとしての魅力を知ることができました。誰にも邪魔されずに、頭の中のイメージをLEGOブロックを使って表現する……そんな贅沢な時間が恋しくなった取材でした。