フィルメランジェは「あの時代」を蘇らせるか。スウェットに僕の心が惹かれた理由

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文/ミューゼオ・スクエア編集部
写真/木村武司(木村写真事務所)

「コットンには思い入れがある」。FilMelange(フィルメランジェ)の3着のスウェットとパーカを並べながらそう切り出したのはミューゼオ・スクエア編集長・成松。フィルメランジェといえば天然素材と日本製にこだわるブランド。成松はフィルメランジェにある可能性を感じているよう。その理由は昔の有名なスウェットにありました。

「あの時のスウェット」を彷彿させた懐かしさの正体

もともとはフィルメランジェのスウェットではなくカットソーを愛用していた。学生時代はラッセルアスレティックなどのアメリカ製カットソーを重宝していたが、年齢を重ねていくうちに上質で長持ちするカットソーはないかと探して出会ったのがフィルメランジェだった。フィルメランジェのカットソーはやや高めの価格設定だが、それに見合った肌触りの良さや、型崩れがしにくいところが大変良い。気付けば所有しているのは20着を上回る。
素材感を活かしつつ柔らかな生地感が気に入り、彼らが出している他の製品も気になりはじめた。そうしてようやくフィルメランジェのスウェットを手にとったのだが、そのとき感じたのは上品さと、ある種の「懐かしさ」だった。

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その懐かしさの起源はというと、これも学生時代に愛用していたスウェットにあった。
それは昔のチャンピオンのリヴァースウィーブというスウェット。着心地がゴワゴワした12.5ozのとてつもなく分厚いコットンなのだが、自分の中の「コットンはこうあるべき」というひとつの指標にもなっている。フィルメランジェのスウェットを手に取った時、そのヘビーウェイトな感じが、同じものではないのだが、どこか昔のチャンピオンを想起させたのだっだ。
そこからますますブランドに興味を持ち、彼らのことを知っていくうちにフィルメランジェ自体の取り組みが面白いと気づいた。彼らは素材へのこだわりはもちろん、日本職人の手仕事を活かしたアイテムの生産であったり、環境問題への取り組みなどを積極的に行なっている。そういった彼らのソーシャルグッドなところがミューゼオや僕自身の考えと近いと感じ、今ではフィルメランジェにはただの懐かしさだけではない、ある想いを抱いている。それは後述するとして、今回は3着のスウェットを紹介したい。それぞれテーマがあったり、限定品もあり所有欲をくすぐるものばかりだ。

チャンピオン「リバースウィーブ」

1934年に誕生したチャンピオン不朽の名作。スウェットが縦方向に縮むのを軽減するために、本来縦に使われている生地を横方向に使用している。この編み生地の縦と横を逆にするという意味から「リバースウィーブ」と名付けられた。

●奄美大島の泥で染めた、着る伝統工芸

最初に購入したのが鹿児島県、奄美大島の伝統工芸「泥染め」のシリーズ。実はこのパーカは2着目で、以前はスウェットタイプの泥染めを持っていた。色が渋く、秋冬にも使えるためジップアップパーカを見つけて購入した。ホワイトのボトムスと革靴で合わせるのが気に入っている。フーディーをどう上品に着るかというのが僕のテーマのひとつ。

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商品名:DR-ASTOLEY/アストレー
価格:36300円(税抜)
奄美大島の染め屋「肥後染色」による泥染めのパーカ。泥染めの工程はその時々の気候、時間、糸の状態をみながらテーチ木の煮汁で染め、自然界に存在する鉄分豊富な泥田で染め上げる。この一連の工程を3~4回繰り返すことで、やっと奄美の泥染め独特の深みのある黒褐色が生まれます。泥染めの色合いは、やさしく、奥深く、力強い色。まるで奄美の深い杜のように海のようにも思えます。決して化学染料で合成し得ない独特の渋みの黒。島に自生するテーチ木と鉄分を多く含む田の泥を染料として染める方法はまさに島の大自然と人の歴史によって生み出された技術です。

●気分を晴れやかにする海島綿パーカ

紺色のフーディーを探している時に見つけたのがこの茄子紺色のパーカ。あまりない色で気に入っている。もともと紺色が好きでクローゼットには紺色のアイテムがグラデーションのように並んでおり、「今日の空の色にはこの色が合う」という具合にその日のスタイリングを決めている。このパーカは発色がとても綺麗なので気分を良くしたいときに選ぶことが多い。海島綿という綿のブランドを使用していて、着心地もとても良い。夏になる前の少し肌寒い時に便利だ。

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商品名:RICKY / リッキー
価格:37400円(税抜)
フィルメランジェが現在考える最高のレシピでコットン100%の裏毛を開発しました。表糸には海島綿のオーガニック種を使用し、美しい艶とカシミアのような柔らかさを、裏糸には世界各国から厳選・ブレンドされたオーガニックコットンを用いています。
これら最高級の原料を活かす為に、敢えて生産効率の下がる「吊り編み機」でゆっくりと時間をかけて編み立てた。開反せずに起毛をかける「丸起毛」の工程を経て、出来上がった丸胴使いのスウェットたちは10年先の風合いを考えた極上の仕上がり。

海島綿

超長綿のひとつで、別名シーアイランドコットン。一般的な長繊維綿(平均28mm)の中でも繊維長が平均35mm以上の特別に長い綿のこと。しなやかで光沢があり、肌触りが良い高級綿。

●職人の手仕事にうれしさがこみあげる、藍染のスウェット

前述のふたつのパーカがとても気に入り、特に奄美の泥染めパーカは長く着ているので、もう一着スウェットを探していた。そんな時に発見したのが藍染のスウェット。フィルメランジェは夏になるとよくLITMUSという藍染めづくりの職人とアイテムを出していてそのひとつだ。手仕事とのリンケージという点でも興味を惹かれたし、何より色がとても美しい。春から夏にかけて重宝している。

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商品名:LT-COPPASS ASAGI
価格:42000(税抜)
フィルメランジェが毎年LITMUSと協業し販売する限定品。
LITMUSとは湘南の鵠沼で活動する藍染めづくりの職人集団。江戸時代を中心におこなわれていた天然の素材のみを使用した染色技法、「灰汁醗酵建て」により藍液を作り、染付をおこなっています。化学薬品を一切使わず、自然界からとれる原料のみを用いるため、布やそれを身につける私たちだけでなく、環境にとっても非常に優しい染色方法。
このスウェットの浅葱(あさぎ)色は、薄い葱の葉にちなんだ色で、明るい青緑色のことです。平安時代からある伝統色で、かの有名な新選組が羽織として用いたことでも有名な色です。

「あの時のスウェット」を受け継ぐ大人のコットン

フィルメランジェのスウェットは昔のチャンピオンを想起させると言ったが、昔ながらの素材に包まれるしっかりした着用感を有しながら、内側はやわらかな綿を採用していて肌触りがとても良い。身頃もすっきりとしており昔よりもずっと上品。奇をてらわず色も落ち着いていて長持ちする点も愛用品たる所以。
なので最終的にフィルメランジェに感じるのは「あの時のチャンピオンを引き継ぐもの」ということだ。良いところは残しつつ、今の雰囲気もしっかり取り入れ進化している。その違いを感じることも楽しみのひとつではないだろうか。フィルメランジェのスウェットは、かつてチャンピオンのスウェットを愛した者が大人になり「懐かしさと違いを楽しむコットン」というのが僕の了見だ。そうやって時代は受け継がれていくのだろう。


ーおわりー

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フィルメランジェ

2007年の春にうまれたカットソーのブランド。
FilMelange(フィルメランジェ)は「混ざった色の(Melange)糸(Fil)」という意味。
日本の匠と呼ぶに相応しい職人たちが、「日々の暮らし」の色を厳選した天然素材を使い、柔らかく、軽く、うつくしい生地へと編み立てた製品が揃う。
FilMelangeは日本製にこだわり、原料である「わた」の選定から、「糸」「生地」「縫製」に至るまで徹底した自社開発を行っている。
フィルメランジェブランドサイト

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精緻な写実性に加えて、豊富な知識に裏打ちされたファッションやグッズのディテール、そして類い稀なるセンスと明るい色使い。ページをめくるたびに、画伯の素敵な世界が拡がります。

公開日:2021年6月23日

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ミューゼオ・スクエア編集部

モノが大好きなミューゼオ・スクエア編集部。革靴を300足所有する編集長を筆頭に、それぞれがモノへのこだわりを強く持っています。趣味の扉を開ける足がかりとなる初級者向けの記事から、「誰が読むの?」というようなマニアックな記事まで。好奇心をもとに、モノが持つ魅力を余すところなく伝えられるような記事を作成していきます。

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